軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

七百二話 銘木

ハンマー商会にお城から強制捜査が入り、マリーさんからハンマー商会の縄張りを奪うために協力を依頼された。その協力は木材の仕入れで、俺にとってはそれほど手間ではなさそうなので協力することにする。その翌日、王都の観光に出かけ、興味があったガッリ侯爵邸跡地は幻想的な美しさだったのだが、貴族の間では呪いの地扱いになっていた。

「うん、そういうことだから五十五層以降の山岳地帯で木材を伐採させてもらうね」

迷宮のコアがチカッと一回点滅する。

迷宮都市に戻りソニアさんがたっぷりと手配してくれていた廃棄予定物資を提供したからか、機嫌よく返事をしてくれたように思う。

もしかしたらお土産をベル達が食べさせてあげていたから、それがコアも楽しかったのかもしれない。

あれ? ここで迷宮のコアに木材を出してもらえば簡単な気が……いや、コアに適切な木材を説明する方が難しいな。

「ありがとう。あと、悪いんだけど、五十五層に転移ポイントを頼めないかな?」

今までは一階層とコアの部屋の直通で十分だったのだが、中間地点にもう一つ転移ポイントがあったら便利なのでお願いしてみる。

またチカッと点滅が一回。同時に一階直通の魔法陣が輝いた。あれで五十五層に魔法陣が繋がったのかな?

「五十五層の魔法陣も秘密部屋に隠してくれた?」

これもまたチカッと点滅が一回。コアは言わなくても気を利かせてくれる優秀なコアだな。

「ありがとう。じゃあまたお土産を持って来るね」

コアに別れを告げて魔法陣に乗る。あ、今までは一階に向かうっていうのが分かるだけだったのだが、今回は脳裏に選択肢が生まれる。一と五十五、この五十五を選択すれば目的地に行けるのだろう。

「みんなー、転移するよー」

コアの周囲で戯れるように飛び回っていたベル達に声をかけると、俺の方に飛んできてピトピトと装備されていく。

別に装備品にならなくてもシルフィやドリーみたいに隣に居れば転移できるんだけどね。まあ、可愛いから良いのだけど。

今回はドリーにも同行してもらっている。伐採という森の精霊には申し訳ないイベントなのだが、木を見分けることになるので同行してもらった。

ドリーとタマモの強力コンビが一緒なので、木の扱いは完璧に行えるだろう。

それなので、ジーナ達にはディーネについて行ってもらっている。ディーネの性格は少し心配だけど、ジーナ達もしっかりしているし安全は大丈夫だろう。

五十五層を選択すると魔法陣が輝き、次の瞬間には魔法陣の光しかない真っ暗な空間に移動していた。

魔法陣の光が消え始めたので、光球を浮かせる。暗視のスキルがあるので必要ないと言えば必要ないのだが、初めての場所なので念のためにだ。

ベル達は『くらーい』と楽しそうだったから、少し申し訳なかったのだけどね。

どうやら一層と同じシステムのようで、普通に外に出ることができた。外に出るとスーっと扉が閉まり周囲と一体化する。

なるほど、場所はまだ分からないが、木が密集した山岳地帯の大岩を転移ポイントにしてくれたらしい。目印になる場所なのはありがたい。

「シルフィ、場所を覚えられる?」

「ちょっと待ってね。……ああ、階段の近くに転移ポイントを作ってくれたみたいね。分かりやすいから大丈夫よ」

コア、本当に気が利くな。俺達との交流で人の機微を学習してくれたのかもしれない。

「そうなんだ、今度コアにお礼を言っておかないとね。あ、シルフィ、冒険者の姿はある?」

迷宮の翼やマッスルスターの人達は精力的に活動していると聞いている。迷宮の中とはいえ、木を切り倒しまくっている姿を見られるのは気まずい。

「この層には居ないようね。階段に注意して来たら分かるようにしておくわね」

「ありがとう。じゃあドリー、木材に適した木のところに案内をお願い」

ソニアさんの説明の場にもドリーに同席してもらい、必要な木の種類は把握してもらっている。あとは、ドリーが適切な木に案内してくれるだろう。

最初はマリーさんのお願いが、トレント系の魔物の素材だと思っていたのだが、必要なのは普通……といっていいのか分からないが、魔物ではない木材の方だった。

疑問に思って何故かと聞いたが、答えに凄く納得した。

最高級を通り越した高レベル帯のトレント系魔物素材で家を建てる? 王城並みの警備が必要になるのですが?

普通の木材も確かに価値があるが、利用手段が限定される。でも、トレント系の素材は家や家具以外にも触媒や杖、防具、他にも様々な面で利用価値があり、金を素材に家を建てるようなものなのだそうだ。

うん、泥棒どころか盗賊団が大挙して押し寄せてくるよね。納得した。

「ん? どうしたの? あ、退屈なら遊びに行っておいで。俺はしばらく作業をするからね」

心の中で納得している間にベル達が俺の周りに集まり、ソワソワした様子だったので遊びに行かせることにする。

「ちがーう、おてつだいー」

ベルが不満気に頬を膨らませ抗議をする。遊びに行きたいのかと思ったのだが、今日はお手伝いの気分だったらしい。

お手伝いと言われても、やることは伐採だし、何をしてもらえばいいのかが難しい。

「えーっと……ドリー、タマモは建築に向いた木を把握している?」

俺の質問にドリーがタマモに向き合い会話を始める。ドリーは優しく言葉をかけ、タマモはクゥクゥと戯れるように答える。凄く目に優しい光景だ。

「大丈夫なようです」

「じゃあ、ベル達はタマモを中心に木材に向いた大きな木の探索を命じる。あと、宝箱があったら報告してね」

「いえっさー」「キュー」「いえっさー」「クゥ!」「いえっさーだぜ!」「……」

久しぶりのベル達の敬礼。俺が命じてしまったから、任務と受け取ったようだ。これは……ハリキルぞ。

俺がコクリと頷くと、弾丸のように飛び去って行った。しまった、近場で探すようにお願いしておくべきだった。今日は五十五層を駆けずり回ることになりそうだ。まあ、大変なのはシルフィだけどね。

「じゃあ、ドリー、お願い」

今回はケヤキ、ヒノキ、スギ、ナラ、マホガニー、チーク、ウォールナット、それの形がしっかりしていて大きい、高級木材として使用できるものを探す予定だ。

最初の方は身近な木が建材として提示され納得していたのだが、後半に出てきた名前に耳を疑う。

異世界の言葉が翻訳されたものだから確定ではないが、世界三銘木と呼ばれるものをリクエストするなよ、と思った俺は間違っているのだろうか?

そもそも、針葉樹だったり広葉樹だったり、地域どころか国が違ったりする種類をリクエストしないでほしい。

まあ、ソニアさんも全部が手に入るとは思っておらず、あれば儲けものという感覚で提示したようだけど……。

でも、マリーさん達が高級木材に拘る理由は教えてもらえた。

ハンマー商会は大商会だけあって手広く商売をしていた。さすがのマリーさんでもそのすべてを奪いつくすのは人材も時間も足りない。

そこで狙いを絞ったのが高級路線。資金と技術が必要だが、当たれば大きいところに狙いを絞り、人材不足を補うつもりだそうだ。

ただ、自分達で手が回らない部分も、迷宮都市で伝手がある建築商会を派遣して、王都の縄張りを食い荒らすつもりのようで、質が良ければ安い木材もいくらでも欲しいと言われている。

ついでに高級木材は、ハンマー商会の名工を釣る餌にもなるので、できれば見つけてきてほしいとも言われている

建材とか言っているけど、たぶん高級家具にも手を広げるつもりな気がする。マホガニーなんて、高級品に縁のない生活を送っていた俺でも知っている高級家具の素材だ。

まあ、ポルリウス商会というかマリーさんにはお世話になっているし、彼女が力を持てばリターンは有るから問題ないということにしておくつもりだ。

まあ、それならトレント系でもOKなんじゃ? と思わなくもないが、おそらくやりすぎはダメということなのだろう。お土産にしたら喜んで受け取る気がするけどね。

「では、こちらから行きましょうか」

ドリーが迷いなく山に分け入っていく。周囲の木を見ると、意外と立派な木がそこら中に生えている。

前に探索した時は宝箱に夢中だったから気がつかなかったが、木の種類はなかなか豊富だ。

「この木が良いですね」

山岳地帯を分け入り、ドリーが連れてきてくれた場所にはデンッと大木がそびえたっていた。

なんか御神木レベルなのですが?

建築資材として活用するにしても、日本のお城とか寺社仏閣の大黒柱だっけ、なんか心柱って言葉も聞いたことがあるけど、そんなのに活用されそうな……本当に切っていいの?

「ね、ねえ、ドリー、凄く立派な木なんだけど、これを切って良いものなの?」

「ん? ……ああ、それは問題ありませんよ。外でこのクラスの木を切れば問題になることもあります。これだけ大きいと精霊のお気に入りである場合も多いですからね。ですが、ここは迷宮です。この子も木として成立はしていますが、本来の木とは別物で迷宮に作られた物と考えて大丈夫ですよ」

首を傾げたドリーが詳しく説明してくれた。なるほど、木ではあるのだが、外の木とは扱いが違うようだ。

それにしても外で木を迂闊に切るのは地味に危ないんだな。まあ、俺はドリーやタマモの指示を聞いているから大丈夫か。

「じゃあ、この木を伐らせてもらおうかな。で、この木って何て名前の木なの?」

「この子はケヤキですね」

ケヤキ? ケヤキは見たことがあるんだけど……ああ、ちゃんと見るとケヤキだな。俺が知っているケヤキとあまりにも大きさが違っていて、ケヤキだと認識できていなかった。

しかし凄いな、このレベルの木材を集めたら、マリーさんのところはとんでもないことになるんじゃないか?

まあ、高級路線を突っ走る予定らしいから、たぶん大丈夫だろう。

開拓ツールから魔法の斧を取り出し、木の前に構える。恐れ多いことをしているような気もちになるが、手にした魔法の斧が俺を使えと猛っているようにも感じる。

最近、色々と便利になり過ぎて、御無沙汰だったもんね。

「シルフィ、木の固定はお願いね」

自分の方に倒れてくると危ないので、それだけお願いして魔法の斧を一発で伐り倒せる大きさにする。

今日何回も木を伐採することになると思うが、最初は一発で綺麗に決めたい。

「おりゃ!」

斧をフルスイングすると、スパンと斧が巨大なケヤキの幹を通過する。何度も思ったが、木こりの人に喧嘩を売る性能だよね。

少し時間が経ってずるりと木が揺れて倒れ始める。その木が風に巻かれピタリと止まったところで魔法の鞄に収納する。

そういえばどれくらい木を確保しておけばいいのかな? まあ、集められるだけ集めておくか。マリーさんのところで消費できなくても、楽園で利用できることもあるはずだ。

あ、オーガが現れた。そういえば迷宮内だったな。さすがに騒ぎ過ぎたか。

魔法の斧でオーガを惨殺してしまった。開拓ツールはやはりチートだ。

「ゆーたー」

あ、ベル達が戻ってきた。

「たくさんみつけてきたー」

沢山見つけてきたのか。消費できないことが確定したな。