作品タイトル不明
六百八十九話 順調な開発
精霊の村のリニューアル計画が動き出し、建物は外注したがその他は自力で改装することにした。ノモス達に用意してもらった色とりどりのパステル系レンガを敷き詰める作業は思った以上に時間がかかり、さすがに不味いかと思ったら思わぬところから作業員が大量確保できて問題解決する。
「それで、どうしようか?」
予定していた作業が一日で終わり、今後の方針をまとめるために会議を開くことにした。
別に慌てて仕事をする必要もないのだから、いつものようにのんびりとした日常をおくれば良いだけなのだが……ベル達を筆頭に遊びに来ている精霊達も村造りにハマってしまった。
明日は何をするんだろうと、みんなワクワクしまくっている。俺はその期待を裏切るのが怖い。
精霊、特に浮遊精霊や下級精霊は天真爛漫、純粋無垢、そういった綺麗な言葉がピッタリな存在であり、その外見も動物や人の赤ん坊や子供が主体となっている。
つまり、大量の仔犬や子猫に囲まれてウルウルした瞳でおやつをねだられているのに、そのおやつを用意する手段を持ち合わせていない、そんな絶望的な状況と似た立場に追い込まれてしまったということだ。
自分のことを、人や動物の赤ちゃんをテレビで見ても、ああ、可愛いなと思う低レベルの可愛いもの好きだと認識していた。
だが、大量の可愛いという数の暴力に晒されてしまうと、低レベルだろうがなんだろうが強制的にレベルアップされてしまう。
そんな子達の期待の視線を裏切るなんて……その可愛い精霊の大半が自分よりも年上という現実が脳裏をよぎっても……無理だ。
「レンガ道を作ればいいんじゃない?」
そんな必死な俺をしり目に、シルフィがパンがなければケーキを食べろ的な発言をする。
「いや、村の設計図は大まかにしか決まっていないから、道とか作ると後で修正が必要になるでしょ?」
俺の話をちゃんと聞いてた?
「修正すれば良いじゃない。あの子達なら面白がって修正するわよ」
え? それでいいの?
……なるほど、俺はゲーム的な視点で無駄な資材や人員の浪費は避けるべきだと考えていた。
でも、現実では資材はほぼ無料の土で、費用は協力してくれた精霊達への酒代くらいのもの。つまり、無駄遣いをしても問題はない。
それどころかその無駄をイベントとして活用することもできる。
俺の説明だけでこれだけの解答を導き出すとは、さすが風の大精霊だ。
「あ、お姉ちゃんからもお願いがあるわー」
「お願い?」
ディーネのお願いは極端だから少し怖い。偶に真っ当なアイデアを提供してくれるが、頭を抱える問題を持ち込んできたりする。巨大クラゲとか……。
「そうなのよー。レンガの広場が素敵だったから、泉や水路もそうしたらもっと素敵だと思うのー」
これは……どっちだ?
水を彩るカラフルなレンガ。今の泉や水路は切り出した岩を並べただけだから確かに少し武骨ではあるが、パステルカラーでまとめるとしても派手すぎる気がしないでもない。
あ、でも、泉も水路も精霊の村の範囲以外は芝生等の植物が中心の場所を通っているし、派手というよりもアクセントになるか?
自然豊かな村に流れる綺麗な水と色鮮やかな水路……悪くない。
そう考えると色レンガで溢れている広場周辺は、逆にシックな色合いのレンガでまとめると面白いかもしれない。
「……いきなり泉から始めると不安だし、一部の水路から実験的に始めるなら構わないかな?」
想像したイメージが思ったよりも綺麗だったので、ディーネのアイデアを実験的に受け入れることにする。
「裕太ちゃん、ありがとー」
喜んだディーネが俺を抱きしめてくれる。正直、役得だと思う。
そうなると水路だけでは片手落ちだな。今の楽園の道は土がむき出しだけど、それをレンガ道に変えるだけで随分と印象が変わる気がする。
レンガを使うのは精霊の村だけのつもりだったけど、楽園全体に手を入れるか。随分と大事になっている気がするが、人手というか精霊の手は余っている。ちょっとくらい予定を変更しても問題ないだろう。
あれ?
「ねえ、精霊にとって道って必要なの?」
楽園に張り巡らされたレンガ道を想像して楽しくなったところで、根本的な部分に疑問を感じた。精霊って基本的に飛んでいるよね?
「いきなりどうしたんじゃ?」
突然の質問にノモスが少し心配そうに答える。いや、アレは正気を疑っている顔だな。ディーネに豊かな部分に包まれて少し顔が崩れている自覚があるから否定できない。あと、シルフィがとても怖い。
「いや、楽園の道もレンガ道に変えようかと思ったんだけど、精霊にその必要があるのか疑問に思ったんだ」
大規模な工事をして、使用するのは俺とジーナ達だけ。無駄にもほどがある。
「ああ、なんじゃそんなことか。そもそも、この楽園の大部分は精霊にとって必要としない物じゃ。具体的に言うと自然と酒以外は必要ない。じゃが、必要ないからといって無駄だとは限らん。特にチビ共は喜ぶじゃろうから、お主は好きなようにすればいい」
家とか色々あるのに大部分が無駄って……でもお酒は必要な物に分類されるんだね。
「そうですね。自然を破壊されるのは困りますが、裕太さんが作るこの聖域は自然と人の営みが融合していてとても素敵ですよ」
ドリー、褒めてくれて嬉しいけど、自然を破壊の部分で闇が見えたのがとても怖いよ。まあ、死の大地なんて物を生み出したのが人類だし、広い死の大地には当然森もあったはずだから怒るのは理解できる。
「裕太はここの主なんだから好きにすればいい。バカなことをやったら止めてやるよ」
イフがとてもカッコいい。乙女だったら絶対に惚れているレベルだ。まあ、乙女でなくてもイフは魅力的だから普通に惚れそうだけどね。
「そうだね。ああ、でもレンガで水路を作るのであれば、穴とか生き物が生活しやすい場所を用意してくれると嬉しいな」
生き物か。たしかに水草以外にも影になる場所がある方が、生物が生活しやすそうだな。ヴィータの話を聞きながら水路に手を加えることも考えよう。
あとはルビー達の意見も聞きたいところなのだが……精霊の村や自分達が使う予定の店の設計図に夢中で今は話を聞けそうにないな。
まあ、方針として、とりあえず作って駄目だったら修正ということに決まったし、後は臨機応変に対応しながら作業を進めていくことにしよう。
***
凄い勢いで楽園にレンガの道が敷き詰められていく。
楽園の中心である泉を起点として、四方に大きめのレンガ道を作り、大きな区画である精霊の村や森、醸造所、精霊スペースと東西南北を結ぶ。
そこから支道として俺達の家や精霊樹、ローズガーデンやモフモフキングダム等、色々な施設もレンガの道で繋げていく。
システマチックにしてしまうと牧歌的な楽園の良さが消えてしまう気がしたので、ある程度緩くのびやかにレンガ道を繋いだ。
最初は碁盤の目的なレンガ道を作ろうかとも思ったが、さすがに今の楽園に京都スタイルは似合わないということくらいは理解できた。
そんな修正ありきの適当な計画で始まったレンガ道計画だが……思いの外上手くいっている。
建築家の目からすると不備が目につくかもしれないが、素人の目からすると牧歌的でありながらもしっかりとした拘りが表現されているお洒落な村に見える。
まあ、ベル達やサクラ、ジーナ達や沢山のチビッ子精霊が頑張ってくれたから、それに対する欲目もあるだろうが、それを踏まえても楽園は進化したと言える。
十日も掛からずにレンガの道を敷き終え、今は水路に取り掛かっている。
水路には魚等の水生生物や水草が生息しているので、道を敷くように簡単にはいかない。
計画的に生物を避難させ、計画的に水を止めなければならない。まあ、その辺りは大精霊にお任せでなんとでもなるのだが、工事責任者としてしっかりと責任を果たす所存……だったんだけどなー……。
予想外のところに大きな落とし穴があった。
今までが順調だったから、あれ? あと十日もすれば楽園が生まれ変わるんじゃね? いやー、王都で造っている店舗、完成を急がせちゃう? なんて内心で調子に乗っていた。
それがこんなところで躓くことになろうとは。
「きゃはは、くずれたー」「キュキュキュー」「ぼくはとくい。あ、たまも、ゆっくり……」「クゥククククー」「おら、いくぜ」「…………」「あう!」
楽しそうにはしゃぐ声の向こう側で、ガラガラと何かが崩れる音がする。
そう、精霊はレンガの縦積みが苦手だったのだ。
みんな上手にレンガを並べていたから油断していたのだけど、水路は床以外にも両サイドの壁にレンガを積まなければならない。
それが小さな精霊達にとって意外と難しい作業だった。
それだけなら良かったのだけど、積み上げたレンガが崩れるのも楽しいというお年頃な子も多く、崩れることを期待している子すらもいる状況。
幸い、ノモスを筆頭に優秀な土の精霊達が作ったレンガは丈夫で、崩れたぐらいでは傷一つ入らないが、壊れないからと言って作業が早くなるわけでもない。
最初は慣れればどうにでもなると思ったのだが、遊びに来る精霊達は遊びに来ているから二日もすれば入れ替わってしまう。
そうしたらまた一から……終わりが見えない。
ん? なんとなく始めてしまったが、地面に並べるのであればともかく、縦に積み上げるのであれば、漆喰のような接着剤が必要なのではないだろうか?
「ノモス、あの縦に積んでいるレンガには接着剤が必要なんじゃないの?」
「接着剤など要らん。儂ら土の精霊にとって石を結合させるなんぞ簡単なことじゃ」
そういえば簡単にレンガが作れるんだから、そのレンガを引っ付けるくらい精霊ならできるよね。普通の人間には無理だけど。
「とはいえ、あれではいつまで経っても終わらんな。裕太、土の精霊を集めて、一段積む毎に壁と下のレンガと結合させるように指示を出せ」
ノモスが自分で指示を出さないのはチビッ子が苦手だからだな。
「分かった」
最初はどうなることかと思ったが、簡単な解決策が出てきて良かった。まあ、作業の手間と難易度が高まったから完成までの時間がかなり伸びそうだけど……。