軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六十七話 シルフィの力

三階建てのビル程の大きさのアサルトドラゴンが、突撃体勢で足をガシガシと掻いている。ノコギリを最大サイズにして俺も構える。弾き飛ばされるのはゴメンだから、慎重に 躱(かわ) さないとな。

「ゴアァァァァー」

巨大な咆哮をあげながら、猛烈なスピードでアサルトドラゴンが突っ込んで来る。巨体の突進は想像以上に迫力があり、大丈夫だと分かっていても足がすくむ。何とか体を無理やり動かしアサルトドラゴンを避ける。

ヤバい。普通に 避(よ) けるだけでも辛いのに、巨体の振動で足を取られる。ワタワタと不格好な体勢ながらもなんとか避けると、アサルトドラゴンが地響きを立てながら走り抜けていく。しかも横幅もあるから、レベルが上がってなかったら間に合わずに潰されてただろうな。

急激な方向転換は無理っぽいのが救いだな。僅かに俺が避ける方向に軌道修正をして来たが、落ち着いていれば攻撃を当てる事は何とかなりそうだ。

あっ、魔法のシャベルで穴を掘っておけば良かった。深い穴を掘っておけば、避けきれずに穴に落ちる気がする。うーん、でも斜面になっているから難しいか。

……あれ? あいつ止まれないのか? 足で急ブレーキをかけているみたいだが、火山の斜面を下り方向に突進したので、砂煙を上げながら 麓(ふもと) に向かってズルズルと滑っている。

あー、どうしたものか。こんな展開は考えていなかった。放置して先に進むべきか? 様子を見ていると数百メートル先でようやく止まった。あっ、戻って来る。土煙を上げながら火山を駆け上って来るアサルトドラゴン。

「ねえ、シルフィ。アサルトドラゴンってAランクのドラゴンなんだよね。あんまり知能は高くなさそうなんだけど、どうして?」

「亜竜だもの。巨体と 強靭(きょうじん) な肉体でAランクに分類されてはいるけど、そこまでの知能は無いわ。ちゃんとした知能があればSランクでもおかしく無いわね」

本能だけで行動しているのか。ジェネラルゾンビの時も知能があると面倒な事になったし、こっちの方が楽かもな。あの巨体でゆっくり慎重に近づいて来て、ストンピングに噛みつきとかやられる方が厄介だ。

本能だけの猪突猛進なドラゴンか……大抵の敵は突進で潰せるから考える必要が無いんだろうな。斜面の下から駆け上がって来るアサルトドラゴンにノコギリを構え、慎重に観察する。

最初と同じように突っ込んで来るアサルトドラゴンを避けつつ、ノコギリを前足の前に置く。手応えも無くアサルトドラゴンが通り抜ける……切れたよね?

駆け抜けて行ったアサルトドラゴンが、バランスを 崩(くず) し転倒する。前足から血が噴き出しているからちゃんとノコギリが当たっていたらしい。

手応えがないと、当たったのかすら不安になるな。意外と深くノコギリが入ったらしく、アサルトドラゴンは転倒したままもがいている……。

「ねえ、シルフィ。物凄く暴れていて近づけないんだけどどうしよう?」

三階建てのビルのような巨体が、欲しいおもちゃが買って貰えない子供のようにジタバタと暴れている。

「多分だけど、戦闘経験が少ない個体みたいね。自分が傷つけられた事に驚いてパニック状態よ。近づいたら巻き込まれるわね」

鉄のように堅い皮膚らしいから、簡単に傷つけられる事も無いわけか。そこにチートな魔法のノコギリでスッパリいかれたら驚くよね。でも……今の状況のほうが、突撃よりも厄介だ。

さんざん暴れた後、ようやく落ち着いたのかゆっくりと起き上がろうとする、アサルトドラゴン。今だよな、背後に回り込んで後ろ足を切り落とし再び転倒させる。

再度の痛みでもがくが、完全に切り落とした足から、更に大量の血が流れ、動作が次第に 緩慢(かんまん) になっていく。

「出血死するまで待つべきかな?」

今なら止めを刺せそうな感じなんだけど、こっちに向かって転がって来るだけで危険だ。

「待っていれば倒せるでしょうけど、 麓(ふもと) の冒険者達も偵察に登って来ているし、ワイバーンも騒いでいるわ。倒して場所を移動するのが無難ね」

「そうなんだ。分かった止めを刺してくるよ」

アサルトドラゴン以外の事がすっかり頭から抜け落ちてたな。これだけ騒げば様子を見に来るか。あの巨体で全力でもがいてたからな。軽い地震が断続的に起こっているような状況だ。

いつでも逃げられるように体勢を整えながら、背後から慎重に近づき、首を切りつけ止めを刺す。素早く収納してこの場から離れる。

「結構大変だったよ。冒険者達には見られて無いよね?」

チートなノコギリが無かったら大変では済まなかっただろうけど、大変だったのは確かだ。結構時間も掛かったし、冒険者の接近が心配だ。

「遠目に人影ぐらいなら確認されたかもしれないけど、 起伏(きふく) も多いからおそらく大丈夫ね。お疲れ様」

「ゆーた。かっこいー」「キュー」「がんばった」「ククー」

「ありがとう、みんな」

褒められると結構嬉しい。でも時間が掛かるから次からはベル達の力も借りながら、素早く倒そう。

***

チートな開拓ツール達が 霞(かす) んでしまう。何度かアサルトドラゴンやワイバーンに襲われたが、ベル達の力を借りると、とても簡単に倒せる。

アサルトドラゴンは簡単に転倒させられて、押さえつけられる。ワイバーンも飛んでいる利点を奪われて地面に叩き落とされる。俺はまるで流れ作業のように目の前に転がされる魔物の首を落とすだけだ。

胡椒やシルフィが価値があると教えてくれた物を採取しながら、山頂に到達して階段を降りる。いよいよ本物のドラゴンに会う事になるんだな。

「シルフィ。ファイアードラゴンは任せて良いんだよね?」

「ええ、問題無いわ。裕太はのんびりしてて」

相手はSランクなのに、気負いの欠片も無くシルフィが言う。シルフィってどれだけ強いんだろう?

「分かった。このまま中に入る?」

「ええ、いいわよ」

なんか軽いんだよなー。若干不安になりながらもシルフィを信じて五十層のボスの扉を開ける。ゴブリンの時には扉が立派過ぎるだろうと思ったが、相手がドラゴンなら相応しい立派さだな。恐る恐る中を 覗(のぞ) くとファイアードラゴンと目が合った。

輝くような金色の瞳に 射(い) すくめられる。ファイアードラゴンの迫力にあてられ硬直していると、シルフィにポンっと肩を叩かれ、中に入るように 促(うなが) された。

足を震わせながら部屋の中に入ると、ファイアードラゴンが口を開き、炎が吐き出される。いきなりかよ。焦って身を 躱(かわ) そうとするが体が上手く動かない。完全にビビっていると、シルフィが俺の一歩前にでた。

「せっかちね」

シルフィがそう言うと、迫ってくる炎が風に巻き上げられあっさりと散る。

「これで終わりよ」

シルフィの言葉と同時にファイアードラゴンの首がコロリと落ちる。実際には地響きが立って巨大な頭が落ちたんだけど、印象ではコロリって感じだった。何をしたのかすら分からない。

噴水のように吹き出す血を見ながら思う。俺がシルフィに頼り過ぎないようにしようって思ったのは正解だったな。

大精霊がバランスブレイカー過ぎて、頼り切っていたらヌルゲー過ぎて詰まらなかったか、増長して見捨てられていただろう。おうふ。背筋がゾッとした。昔の自分偉い。

俺は何が起きたか分からなかったが、ベル達には何をしたか分かったのか、シルフィにじゃれつきながら褒め称えている。少し羨ましい。

「終わったんだよね?」

「ええ、終わったわよ」

「シルフィって強すぎない?」

「大精霊だもの」

「あはは、そうなんだ。まあ、あれだね。シルフィが圧倒的すぎるから、あんまり頼らないようにするよ。ダメ人間になりそうだ」

「ふふ。それが良いわ。危ない時は助けてあげるけど、出来るだけベル達と頑張ってみなさい。その方が私も面白いわ」

俺の言葉がお気に召したのか優しく笑うシルフィ。これはあれだな、絶対にシルフィの力を自分の力と勘違いしたらいけないパターンだ。見捨てられる時は一瞬だろう。気を付けないと。

ディーネを適当に扱ってたけど、シルフィと同じ大精霊なんだよな。……あれ? 結構身近に命の危機が転がってた気がする。……怖いことは考えないようにしよう。ディーネはディーネだ。

ファイアードラゴンの死体に近づき観察する。キラキラと輝く赤い鱗。アサルトドラゴンよりは少し小柄のようだが、翼もあるし空を飛ぶんだろうな。目を見ただけで 射(い) すくめられたし、強さも段違いだったに違いない。

まあ、シルフィの力が更に段違いだったから、何も分からないままで終わっちゃったけど……そう言えば迷宮ってボスを倒したら財宝とか出て来ないのか?

今までのボスなら兎も角、Sランクのボスを倒したなら何か出て来てもおかしくなさそうなんだけど。そう言えばここまで来る間にも、宝箱とか見つからなかったよな。

「シルフィ。宝箱とか無いのかな?」

「あるって聞いた事はあるわ。そう言えば見なかったから全部他の人に取られているのかもね。確か英雄が相当な財宝を発見したって記録もあったはずよ」

……俺、英雄の本を買ったよな。そのまま迷宮に入ったから読んでなかったけど、もしかして、迷宮の情報とかも書かれているんじゃ……。この後はもう休む事にして、本を確認しておくか。

その前に一応部屋の中を隅々まで確認しよう。お宝発見とか迷宮での基本なのに、ギルマスにどう嫌がらせをするかで頭がいっぱいで忘れてた。

RPGでは全部の宝箱を開けてからボス戦を挑むタイプなんだけどな。……でも湿地や廃墟で苦労して宝箱を探して、薬草とか出て来たらキレる自信がある。宝箱に出会えたら喜ぶ感じで、先に進んだ方が利口な気もするな。

「シルフィ。ボス部屋で休むのって平気なのかな?」

「うーん、どうなのかしら? 私は知らないわ。何が起こるのか分からないし、先に進んで洞窟の広い場所で休んだ方が安全かも」

ボス部屋って小説とかなら、部屋を出るまで安全地帯になったりするんだけど……この迷宮もそうだとは限らないか。シルフィ達が見張りをしてくれるから、洞窟でも安全なんだし洞窟で休める場所を探した方が無難だろうな。さっさと休める場所を見つけて読書をしよう。