軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百八十二話 結果的に丸く収まった?

地獄のようなコンニャク試作祭りをなんとか乗り越え、コンニャクだけではなく豆腐や寒天などのヘルシー食材の存在にも言及し、そのすべてをトルクさんとリシュリーさんに丸投げし、無事に楽園への帰還を果たした。別に命の危機がある訳ではなかったが、地味に辛い毎日だった。

「ふぁー……あー、なんか一気に体の力が抜けたー」

楽園に戻り大精霊達やサクラにお土産を渡し、迷宮都市や祝福の地で仕入れてきた物を直接納品したり氷室に収納したりと一仕事を終え、久しぶりに爆睡をした。

翌日、しっかり睡眠を摂り気力が回復した……はずなのだが、妙にやる気が起こらず、ベル達や弟子達を送り出した後はリビングのソファーでダラダラしている。

たぶん忙しかった反動でやる気が根こそぎ奪われているのだろう。これはこれで幸せだし、後々に精霊の村の全改装という大仕事が控えているのだから、しばらくのんべんだらりと怠けるのもいいかもしれない。

俺、頑張ったもん。

「裕太、少しいいかな?」

「あ、ヴィータ、大丈夫だよ。そういえば村長の話を聞いていなかったね」

ヴィータにお願いしていた子爵領の村長の体調管理。あとで話を聞くと言ってすっかり忘れていた。

「うん、色々あったから念のために説明しておこうと思ってね。精霊の僕では判断が難しいところも色々とあったんだ」

「色々? 分かった。えーっと……うん、聞かせて……」

命の大精霊であるヴィータが言う色々って何? 判断が難しい? どういうこと? 話を聞くのが少し……いや、かなり怖い。

でも、覚悟を決めないと。

「俺、頑張ったもん、とか生ぬるいことを言って申し訳ありませんでした」

「裕太?」

「いや、なんでもない。どうしたらいいか少し考えてみるね」

「うん」

ヴィータが頷いてくれたので思考をまとめることに集中する。村長さんの状態の変化を中心にすると分かりやすいだろう。

最初に小さな寒村の近くの深い谷に俺達が他領に繋がる立派な石橋を架けた。これをきっかけに村長さんが動き出し、子爵やその叔父にボケを疑われる。

なんやかんやありながらもなんとか石橋の存在を証明し村に帰還。ボケを疑われ、慣れない貴族相手に尋問に近い取り調べを受け疲労困憊な村長。

石橋の存在が証明され、それが子爵領にとって重要であったことで子爵が石橋を利用して隣に橋を架けることを決断。その為に村長の小さな寒村に人が訪れるようになる。

偉い人達の来訪に加え職人や兵士も集まり簡単に小さな村のキャパがオーバーし、村長が板挟みになる。

馬車馬のごとく働かされ村長が疲労困憊なことをシルフィに聞き、ヴィータを派遣。

これで大丈夫だと一安心したのだが、その後、精神的に追い詰められながらも体だけは健康で馬車馬のごとく働かされ続ける村長さんが誕生することになる。

そのことをヴィータに聞き、村長さんに休息を与えることに決定。

そこまでは事態を把握していたし、精神は闇の精霊の領分だということを忘れていたことを反省したのを覚えている。

でも、これでほとんど終わった話じゃなかったの? あとは迷惑を掛けたから、落ち着いた頃に何かしらのお詫びをしようという流れだったはずだ。

それなのに続けてヴィータが判断に困るような事態が村長さんに襲い掛かるなんて、村長さんが可哀想過ぎるだろう。九割俺が原因な気がしないでもないが……なんて思いながらヴィータの話を聞いた。

ヴィータがフォローを弱め、燃え尽きた村長さん。

その姿を見て周囲の人もさすがに気がつく。働かせすぎたと……。

ここで問題になったのが村長に代わり指揮をする人間。

農業主体で店すら無い寒村ゆえに、老いた村長さん一人でも仕事が熟せることで指揮ができる人が存在しなかった上に、自分が村長さんの代わりに働かされることを村人達は恐れた。

村長の息子もまだ帰ってきておらず混乱する村。村人達は思った、自分達では無理だと。

だから石橋関連で村に滞在している偉い人達の指示を仰ぐことにした。

子爵側は臨時とはいえ重要な地となった寒村の指揮権を得ることは良いことなのでそれを受け入れる。

なんとなく村が回り始めた頃に村長さんも少しは回復し、ベッドから起き上がれるようになる。

村長さんは思っていた。このまま穏やかな老後を過ごしたい。働きたくないと……そんなタイミングで息子が帰ってくる。

ある程度都会で働いていた息子は思った。ビッグチャンスだ。この村は発展する! このビッグウエーブに乗らないのはバカだ。少しでも利権に食い込もうと。

村長さんは反対した。どうせ子爵様には逆らえないんだし、このまま身を引き村の隅っこで穏やかに暮らそう。権限を自発的に譲れば、子爵様もそれなりの褒美をくれるはずだと。

ここに盛大な親子喧嘩が幕を開けた。

ということらしい。

村長曰く、地位も名誉もない寒村の村長が、欲張っても碌なことにならない。あと、もう働きたくない。お前が頑張るだけならいいけど、絶対巻き込むじゃろ。儂は嫌だ。

息子曰く、上は絶対だが、それでも代々村を統治してきた家系、今なら子爵様に全力で協力すれば得られるものも大きくなる。

どちらも間違ってはいない。

間違ってはいないから解決するのも難しい。

もうアレだ、申し訳ないとしか言いようがないよ。散々苦労を掛けた上に、家庭内不和まで持ち込んでしまった。

そりゃあヴィータも困るよね。でも、こんなん俺にどうしろと?

土下座して詫びるくらいしか思いつかないよ。まあ、色々とやらかしているから、素直に謝る訳にもいかないんだけど。

「……うーん……シルフィはどうしたらいいと思う?」

俺では解決不可能だ。シルフィに聞こう。

「どうしたらも何も、本気で介入するなら別だけど、現状を維持するなら裕太にできることはないんじゃない?」

凄くシビアなご意見が返ってきた。

でもたしかにそうなんだよね。全力で支援すれば村長さん一家を王様にだって出来なくはないが、そういうことに関わりたくないからコッソリ介入したんだ。

とはいえ、何もしないのは心苦しい。

「ヴィータ。村長さん一家が邪魔ものとして子爵様に処分されそうな気配はある?」

それは流石に寝覚めが悪いから介入したい。

「さあ? 僕は基本的に村長の傍に居たから子爵側についてはあまり詳しくないよ」

「そりゃあそうだよね」

闇の精霊と契約して子爵が村長さんに手を出さないようにして、ついでに家庭内不和を終わらせるとか? ……可能ではあるが洗脳だよね。

もう、なんでこんなに面倒な事になるんだよ。

時間が解決するだろうと放置することも可能だけど、利権が絡むと時間が解決どころか憎しみを増やす結果になりかねない。

もういっそのこと石橋を消してしまうか? ああ、子爵様が横に橋を作っているんだったな。それを一緒に壊すのは流石に申し訳ない。

「ふー。シルフィ、悪いけど様子を見に行きたい。連れて行ってくれる?」

ここで考えていてもいいアイデアは浮かばない。現場を見て何か思いつくことを願おう。

「構わないわ。すぐに出発する?」

「うーん、暗くなるタイミングで到着するようにしたい」

人が多くなっているとはいえ小さな村だし、余所者は目立つだろう。変に疑われるのはごめんなので闇に紛れて様子を見たい。

「そう? ジーナ達やベル達は連れて行くの?」

「いや、今回はコッソリ確認に行くだけだから俺だけでいくよ」

退屈させるだけなのに、何時間も拘束するのは可哀想だ。

「ならお昼過ぎに出発しましょうか」

「うん、それでよろしく」

さて、本当に何かいいアイデアが思いついたらいいな。

***

「本当に石橋の横に橋ができてる」

石橋と比べたらかなり簡素だけど凄いな。このチャンス、逃すものかという子爵家側の執念を感じる。

あと警戒が凄く厳重だ。何人もの兵士が光球や火を焚いて見張りをしている。伯爵を警戒しているのだろう。

村の方も前に来た時と随分変わっている。前に見た時は本当に寒村という言葉がピッタリだったのに、なんか建物が増えた上に夏フェスのテント地帯みたいになっている。

息子さんも夢を見るはずだ。領主がここまで力を入れていたら発展を確信するよね。

そんなことを思いながらゆっくりと村長の家の傍に降りていく。

「あら、ちょうど今後のことを相談しているみたいよ」

(ほんと? 俺にも聞こえるようにできる?)

ナイスタイミングだと思ったけど、夕食が終わってのんびりできる時間帯だし、毎日相談しているような気もする。

「ええ」

「だから嫌じゃと言うておる」

シルフィが頷いてからすぐに老人の声が聞こえた。村長の声なのだろうが、駄々をこねているように聞こえる。追い込まれているのか?

「親父、何度も言うが今がチャンスなんだ。無論子爵様にたてつくようなことは絶対にしない。代官なんて高望みもしない。でも今頑張れば世襲の文官くらいなら入り込める。それも中級以上でだ。親父、力を貸してくれよ。孫の為でもあるんだぞ」

おっと、想像していたのと違って、息子さん、結構堅実に考えているようだ。

中級の文官がどの程度なのか分からないが、世襲で貴族の家臣団に組み込んでもらえれば、その貴族がやらかさない限り将来が保証されるよね。

「孫は可愛い。じゃが儂はもう働きたくないんじゃ!」

村長さんの魂の叫びだな。若者が言うならアレだけど、燃え尽きるほど働いた村長さんなら言う資格がある気がする。

これまでの労働が本当に辛かったのだろう。孫というジジババ最終兵器すら通用していない。

「親父、いくらなんでももう少し本音を隠せよ。息子として情けなくなる」

「ふん、自分で自分がどうなっておるか分からなくなるくらい働いてから文句を言え! 儂なんか疲労が分からんくらい働いたんじゃぞ。いきなり来たんじゃ、怖いぞ、突然体中の力が抜けるんじゃ」

それは疲労が分からなかったのではなく、ヴィータが完璧に治療していたから疲労を感じなかっただけだね。

「親父……」

「むぅ。じゃがお前がそれほど言うなら考えんでもない」

「本当か? 力を貸してくれるのか?」

「力は貸さん。儂はもう絶対に働かんのじゃ。本来であれば代理としてしばらく様子を見るつもりであったが、正式に村長の座をお前に譲る。であれば、お前のやりたいこともできるじゃろう。ただし、村の者達に迷惑を掛けぬことと、無謀な欲をかくことは許さん。約束できるか?」

「……権限が増えるのは助かるし村のみんなに迷惑を掛けるつもりはないが……俺としては貫禄が足りないから親父に表に立ってほしいんだが?」

「嫌じゃ。諦めるか村長の座を受け入れ頑張るかのどちらかじゃ。あと、お主が村長になったら儂は家を出るからな」

「なんでだよ。一緒に暮らせばいいだろ。孫も一緒なんだぞ」

「一緒に暮らしたら絶対に儂を手伝わせるじゃろ。儂は働かん! そう決めたんじゃ。孫は小遣いをやって遊びに来させる」

「…………分かった……村長の座を譲ってくれ」

額に手を当てながら受け入れる息子さん。

……問題なくかどうかは分からないが、丸く収まった感じなのか?

とりあえず村長さんと息子さん、そしてその家族の体のケアをヴィータにしてもらって様子をみることにするか。

それで問題がなさそうだったら、迷惑を掛けた何かしらのお詫びをすることにしよう。忘れなければ……。

あ、念のために子爵家の方も確認しておこう。向こうが怖いこと考えていたら洒落にならないもんね。