軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百七十五話 一通りもらおうか

シルフィの作戦が上手くいき、侯爵家に仕えていた子爵家の侍女に手を伸ばしていた伯爵家の行動を制限することができた。そのことに一安心していたが、ヴィータから石橋を造った子爵領の村の村長が限界が近いことを聞き、反省と共に手を打つことにした。

ガラガラと音を立てて走る馬車がゆっくりと速度を落とし始めた。そろそろ到着するようだ。

馬車が完全に止まりジーナ達と馬車を降りる。

祝福の地の景色はやはり素晴らしい。素晴らしい自然とそれに調和するように整えられ、それでいて豪華な景観。

ここが普通の観光地なら、みんなと一緒にのんびり食べ歩きでもしながら散歩したいところだ。

まあ、がっつり監視……護衛が付いているから無理なんだけどね。

ふむ、ベル達が湖を見ながらソワソワしている。遊びに行きたいようだ。

今日は本を買うだけだし、護衛にドリーが一緒だから遊びに行っても問題ないだろう。もう少ししたらこの地を離れるし、自由行動にしよう。

護衛兼監視の隙を見て、ベル達に自由行動を許可すると、キャイキャイと楽しそうに湖に飛んでいく。

そういえばこの湖の奥には神器レベルのアイテムが眠っているんだったな。

冒険者ならお宝を目指して冒険が始まるのだろうが、なんちゃって冒険者な俺はどうするべきだろう?

…………そっとしておくか。

ぶっちゃけ、そのアイテムの詳細も分かっているし、ディーネの方が凄い気がする。それに精霊王様が利用していると聞いているから手を出すのも悪い。

なにより……ちょっと侯爵家の御子息様の治療をするだけだったはずなのに、事態が訳の分からん広がりを見せて精神的に苦労したんだ。

この地を祝福の地なんてたいそうな名にしている根幹をパクったら、今度は戦争クラスの混乱を招く気がする。そんなことに関わるのはごめんだ。

シルフィとディーネとヴィータは大丈夫だろうか?

シルフィは念のために伯爵領の監視をお願いしただけだから大丈夫だと思うが、ヴィータから聞いた村長の様子も気になるし、張り切って出発したディーネもちょっと気になる。

ディーネは張り切るとやり過ぎちゃうタイプだから、結果的に川とか湖が誕生してしまう恐れがないこともない。

そんなことになったら村長のストレスが爆発しかねないんだよな。

「裕太殿?」

若干現実逃避している俺に護衛兼監視が声をかけてきた。少しボーっとしていたようだ。

護衛兼監視の案内で本屋に向かう。

「こちらです」

案内された本屋は景観に合わせた立派なつくりで、やはり高級な本屋なのだと納得しながら中に入ると、出迎えたのは想像とまったく違う光景だった。

さすがに日本の本屋と比べるつもりもなく、この世界の文化を認識した上での想像だったのだが、それがカスリもしていない。

店内は明るく、そこにいくつもの高級そうなソファーとテーブル、豪奢なインテリア。

本屋というよりも貴族のシガールームのような落ち着いた大人の空間。そもそも本がない。

「えーっと、ここって本当に本屋ですか?」

「? ああ、はい。奥の店員にお願いすれば本を出してくれますよ」

護衛兼監視が途中で何かを理解したように頷き、システムを教えてくれた。なるほど、本屋だから本が並んでいるのが当然だと思っていたが、本は高級品だからか表には出ていないらしい。

それに、こういう場所だし特に貴重な本も集まっているのかもしれない。

少し場違いに思いつつも弟子達を連れて奥に向かう。

「いらっしゃいませ。どのような本をお求めですか?」

こちらから挨拶する前に向こうから声をかけられた。本屋の店員というよりもバーテンダーのようなたたずまいのカッコいいおじさん。本屋らしく知的な雰囲気も感じる。

でもその視線は鋭く、笑顔の奥で俺達を値踏みしているように思える。なんというか、あなた達は当店に相応しい品格をお持ちですか? と問いかけられている気分だ。

結構良い服を着てきたんだが、俺達が庶民だということは見抜かれていそうだ。というよりも見抜かれているな。相手が貴族だったらたぶん、あいさつの後にすぐに本題に入ったりしないだろう。

まあ、別に見抜かれても構わないけどね。丁寧に扱われるよりも話が早い方が助かる。

「実は自分の村に図書館を造ろうかと考えていまして、こちらで購入できる本を一通りいただけますか?」

そして喜べ、大人買いだ。

ここからここまで買いを越えた、店の商品全種類寄こせという傲慢この上ない要望。

俺も本当は弟子達と楽しく本を選んだり、店員さんに相談しながら知的に本を購入したりしたかったのだが、紳士っぽい立ち振る舞いの中でこちらを値踏みしているおじさんを驚かせたいと思ってしまった。

いやーアレだよね。人間ってレッテルを張られると、覆したくなっちゃうよね。

あえて言おう、俺、お金持ち。

「へ?」

おおう、知的な雰囲気が崩れて間抜け面が顔を出していますぞ?

「聞こえませんでしたか? とりあえずこのお店にある本を一通りいただけますか? と言いました」

「失礼いたしました。ですがお客様、我がグーデン書店は長い伝統を誇り、貴重な古書や迷宮から出土した貴重な魔導書なども取り扱っております。中には一冊で白金貨を越える物も多数存在します。それも含めてお買い上げいただけるということでございますか?」

反撃をくらった。

我がとか言っているし、目の前の男性は店員ではなくこの本屋のオーナーなのだろう。

それにしても貴重な古書や魔導書か……お金足りるかな?

資産としては白金貨何千枚だろうがなんとかなるのだが、途中からお金はマリーナさんに投資していて現金はそれほど増えていない。

まあそれでも洒落にならないくらいの現金を持ってはいるのだが……どうするべきだ?

そんな貴重な書籍を、俺は適切に管理できるのか?

魔法の鞄に収納しておけば問題はないが、図書館で管理となると……えーっと、たしか日の光と湿度と乾燥と気温の管理が必要……あれ? シルフィ達にお任せすれば意外と簡単な気がする?

いや、シルフィ達に頼まなくても、ルビー達みたいに図書館を管理してくれる精霊が探せれば聖域ならなんとでもなるな。

最後の問題はその貴重な書籍を、他人の目に触れることがない死の大地に持っていくことなんだけど……目の前のオーナーの言動からビブリオマニアの匂いを感じる。

つまり……俺が生意気なことを言ったからコレクションの存在を明かした可能性が高い。

ならそのコレクション、我が精霊図書館の為に買い取らせていただこう。

えーっと、魔法の鞄の中にお金は……お、予想以上にあるな。そういえばネルの町の腕試し治療でも二億エルト稼いだし、意外とお金を稼いでいたようだ。

「それほど素晴らしい書籍があるのですか。助かります。現金は三十億エルトほどしかありませんが足りますかね? ああ、現金でなく貴金属での支払いが可能であれば、更に本が購入できて助かるのですが可能ですか?」

白金貨になおすと三千枚。文句はないだろう。

あと、俺の鞄の中には貴金属が溢れているから、いくらでも出すぜ。特にアダマンタイトのゴーレムが大量に眠っているので、少しは放出したくもある。

「あはは、御冗談を……」

笑うオーナーの目の前のカウンターに、魔法の鞄から白金貨が詰まった袋を取り出して並べる。

「どうぞ、中を確認してください」

「し、失礼します」

オーナーが袋に詰まった白金貨を見て言葉を失う。

凄く、凄く良い気分だ。成金プレイがこんなに気持ちが良いことだとは思いもしなかった。

日本でもブラックカードを持っていたら、これに近い気持ちが毎回味わえたのだろうか?

俺、ブラックカード持っていますけど、なにか? みたいな……。

まあ、無理か。日本どころかこの世界でも、地元だとこういう成金ロールは恥ずかしくてできない。旅行先だから気が大きくなっているのは間違いないな。

ぶっちゃけ、既に恥ずかしくなってドリーや弟子達の顔を見られない。

「十分なようですね。では、一通りいただけますか? ああ、無論、あなたの言う貴重な古書や魔導書もお願いしますね。いやー、貴重な書籍まで手に入るなんて、私は果報者ですね」

魔法使えないけど。

さあ寄こせ、おまえのコレクションを全部。

……ふむ、お金の力で好事家からコレクションの強奪……考えてみると、とても最低なことをしているな。まあ、やめるつもりはないが。

あ、でも事前に金額を知らせたのは不味かったかな? 貴重な書籍だと言って、俺が買えない金額を吹っ掛けてくるか、ボッタクリを仕掛けてくるかもしれない。

お金持ちロールが楽しくて油断してしまった。

あとでボッタクリじゃないか別のところで鑑定すると伝えれば牽制くらいにはなるかな?

「ええ、十分です。素晴らしい資産をお持ちのようで感服いたしました。ですが当店では貴重な書籍に関しては、書籍を大切に扱いいただけると確信できるお方のみの販売とさせていただいておりますので、お客様と信頼関係が築けてからの販売になります」

……こいつ前言を翻しやがった。

「いや、先程までお金があれば売るという話ではありませんでしたか?」

俺、ちゃんと覚えているよ? あなた程度がうちの書籍を一通り買えるとでも? 的な空気を出していたよね? 忘れたとは言わせない。

「商品に対して代金が必要なのは当然でございます。今はその次に対しての条件でございます。何分後世に残すべき貴重な書籍ですので、それを託すに能う信用と信頼が必要なのでございます」

ございます、ございます、煩い。なんか嫌味を言われている気分になるんだけど、そのございますの使い方間違ってない?

結局、コレクションを売りたくないだけだよね?

うーん、なんか負けそうなのが酷く悔しい。

信用と信頼ってAランクの冒険者カードでなんとかなるか?

……無理っぽいな。逆に信頼度が下がりそうだ。

なら王様からもらった短剣……は駄目だな。前に夜遊びに使った時に他国だったのに王様まで伝わってしまった。

本を買うためという恥ずかしくない理由だけど、知られるのは避けたい。お家騒動に首をツッコんだりと、地味に色々やっちゃっているもんね。

***

結構頑張って交渉したが、希少本は買い取れなかった。でも、一般的に出回っている本や、希少とは言えないまでもそれなりに価値がある書籍はなんとか買い取ることができた。

あと、何度も本を運ぶことでオーナーが疲労困憊になっていたので、少しだけスカッとした。

とりあえず購入した本の目録を作って、マリーさんにそれ以外の本を探してもらおうかな?

ノリと勢いだったけど、精霊図書館、結構凄いことになりそうだ。