軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百六十話 祝福の地

シトリンの提案で造りなおす精霊の村の参考になる場所に見学に行くことになった。新たな目的地に少しワクワクしながら移動するが、シトリンお勧めの村は普通の村ではなく富裕層専用の保養地だった。とりあえず、村の中に入る手段から考えなければならない。

「シルフィ、近くに人里はある? 俺の予想では大きめの町があると思うんだけど」

保養地から離れシルフィに町の情報を聞く。富裕層の保養地があるなら、近くにそれを支える町くらいあるはずだ。

「そうね、この道の先に村があって、その先に町があるわね。飛んでいく?」

「歩くとどれくらい掛かるの?」

せっかくの新しい場所なのだから、近くなら散歩気分で観光も有りだ。

「そうね、町まで歩いてなら半日かからないくらいかしら」

結構体力がある俺達が歩いて半日。でもそれが近くの範囲内なんだよな。車や電車が懐かしい。

「シルフィ、お願いします」

便利な移動手段があるのに、さすがに半日も歩きたくない。ベル達も新たな屋台に期待しまくっているしね。

「了解。人目もないし、すぐに行っちゃいましょうか」

シルフィが頷くと俺達を風が包み空に浮かび上がる。車や電車は懐かしいけど、シルフィの力ってそれよりも圧倒的に便利だったりするんだよな。

飛行機やヘリコプターよりも便利って、洒落にならないくらい凄いよね。

くだらないことを考えていると、あっという間に町に到着した。やっぱり飛べるって便利。

人目のつかないところに降りて、のんびりと歩きながら町に向かう。

門が見えてきた。こちらも町なだけあってちゃんと門があり門番が立っている。でも、保養地の方が門が立派で門番の装備も良さそうだった。この国は保養地にどれだけお金をツッコんでいるんだろう?

「身分証を」

門番に促されてギルドカードを渡すと、二度見どころか三度見、四度見された。おそらく、え? Aランク? こいつが? マジで? という流れだろう。

俺としても気持ちは分からなくないので怒りはしない。威厳ってどうやったら生まれるんだろうね。宝箱から出てこないのだろうか? こんどコアに聞いてみよう。

俺に続いてジーナ達もギルドカードを見せる。ジーナはともかく、サラ達のところでも二度見していたが、まあ、こちらも気持ちは分からなくないから怒りはしない。俺の時は四度見だったけど、全然気分を害したりはしていない。本当だ。

だって、迷宮都市周辺の村みたいに詐欺を疑われなかっただけ上等だもん。

「……ネルの町にようこそ」

門番は納得がいかない様子で歓迎の言葉をくれた。俺だって納得した訳じゃないんだからね。

あと、ここはネルの町っていうのか。たしか国名はスピネルって聞いていたんだけど……ネルという言葉に良い意味でもあるのだろうか?

ちょっと納得していない感じの門番に納得していない俺が、冒険者ギルドの場所を聞き町の中に入る。

そういえばフェイバルの町では、ギルドカード確認の後に水晶の確認もされたな。それに比べたらまだマシな対応だったかも。まあフェイバルの方はエルフ関連で色々と特殊だったもんな。

町の様子は……迷宮都市ほど大きくはないが、活気があって悪くない雰囲気だ。

ベル達もそれを感じたのか、楽しそうに周囲を飛び回っている。たぶん、屋台を発見したら一目散だろう。

予想通り屋台を発見して一目散なベル達。可愛らしいし、精霊の場合は迷子の心配をしなくていいのがありがたい。

「ゆーた! おさかな! おさかな!」

大興奮でベルが報告に戻ってきた。どうやら屋台でお魚が売っていることに衝撃を受けたようだ。

そういえば迷宮都市の屋台は基本的に肉だな。魚も食べないこともないが、迷宮の奥だから割高で屋台では売っていない。

でもベリル王国では魚の屋台も……そうだった、ベリル王国にはベル達を連れて行ったことがなかったな。

次の機会に連れて行ってあげ……いや、ダメだ。あそこではちょっとヤンチャしちゃっているから、純真な子供達を連れて行くのは危険だ。俺の威厳的に。

それにしても、凄く食べたそうだな。町に到着したばかりだけど、まあいいか。

(とりあえず全員分買うから、後で食べようね)

やったー! とはしゃぐベル達。

屋台に近づくとベルの言った通り魚の串焼きが売られている。見た感じ川魚だな。ちょっと離れた場所に川が流れていたから、おそらくそこの魚なのだろう。

種類は一種類のようだな。

「すみません、十七本ください」

「お、景気が良いねえ。あいよ十七本、八千五百エルトだ。焼きあがるまで少し待ってくれ」

見かけ上は五人だけど、背後に更に十二の精霊が控えているんだよね。

一本五百エルトか。魚丸々一匹だけど、この世界だと少し高い気がする。

「分かりました、八千五百エルトですね。この町は初めてなのですが、ここは魚が名産だったりするんですか?」

「ん? ああ、そうだぜ。この近くに川があってな、その川の上流には庶民が入れねえ神秘的な湖があるんだよ。んで、その湖と繋がってるからか、川の魚もめちゃくちゃ美味いんだ。期待してくれていいぜ」

「なるほど、楽しみです」

予想外のところから情報が手に入った気がする。

庶民が入れない神秘的な湖ってあれだよな、保養地のことだよな。シルフィも湖があるって言っていたし。そうか、あそこが富裕層の保養地になったのは神秘的な湖とやらの影響なんだな。

どんなふうに神秘的かは分からないが、ますます興味が湧いてきた。

「はい、お待ち!」

保養地について考えていると、魚が焼きあがった。歩きながら食べようかとも思ったが、そうしたらたぶんベル達の我慢が利かないから後で食べよう。まずは冒険者ギルドだ。

興味津々なベル達と、控えめだが興味津々なジーナ達を宥めて冒険者ギルドに向かう。

到着した冒険者ギルドは、なんというか若干ショボい。

そういえば俺、大都市か村の冒険者ギルドにしか行ったことがないな。平均的な町の冒険者ギルドはこんな感じなのか?

中に入ると数人の視線が集まる。迷宮都市に比べるとのたくっている冒険者の数が少ないな。あと、小さいけど酒場もある。

やっぱり冒険者ギルドには酒場が付きものなんだな。

ラノベとかでなんで冒険者ギルドに酒場を設置するのか疑問だったんだけど、他で飲んで暴れられるよりも一般庶民に迷惑が掛からないからって聞いてからはその疑問も消えた。

「先に掲示板の確認をしようか」

ジーナ達と一緒に依頼が張られている掲示板に向かう。さて、どんな依頼が……あれ? そういえば俺、真っ当に依頼を確認して冒険者するのって久しぶり、いや、初めてな気がする。もしかして俺、冒険初心者?

まあ、しょうがないか。迷宮都市では一発目からモメたもんな。それから冒険者ギルドとは距離を置いていたし、あ、でもエルフの国の依頼を受けたことがあった。それに精霊術師講習もしたし、サラとヴィクトーさんの再会も、一応依頼なはずだ。

うん、俺、一応ちゃんとした冒険者。ジーナ達よりも依頼達成数が少なそうだけど、そこは気にしない方向でいこう。

さて、どんな依頼があるのかな。

うーん、魔物討伐と薬草採取、護衛、町の中の雑用、色々とあるがオーソドックスな依頼ばかりだな。

わざわざ他国に来てまでやる依頼じゃない。

「師匠、こっちが目的の依頼じゃないのか?」

ジーナに呼ばれていくと、別枠の掲示板があった。マジか、掲示板まで特別扱いなのか。

えーっと、何々、祝福の地? もしかしてあの保養地の名前? ヤバいな、俺も自分が開拓した場所に楽園とか名付けちゃっているけど、祝福の地とかかなり香ばしい臭いがする。

依頼の数も少ないな。掲示板には数枚依頼が張りつけられているだけだ。

「よお兄ちゃん、そっちを見ても子連れでどうにかできる依頼は張ってないぜ」

依頼内容を確認しようとしていると、のたくっていたゴツイおっさん冒険者が話しかけてきた。

イベント発生かと警戒したが、喧嘩を売るような雰囲気ではなく、どちらかというとサラ達を心配している様子だ。

これはアレか、見た目ゴツイけど実は優しいという、意外と好感度が高くなるタイプのやつか。

「あー、この町に来る途中で偶然この場所に立ち寄ったんだ。中に入れなくてちょっと興味が湧いたんだけど、あの場所の依頼を受けるのは難しいのか?」

「あはは、追い返されただろう。あそこは権力者が独占している場所だ。冒険者の仕事もない訳ではないが、専属の冒険者が熟しちまうからぽっと出に仕事は回ってこねえよ。そこに残っているのは、まあ、権力者特有の無理難題ってやつだな」

最低でもCランクって門番が言っていたが、本当に最低限で他にもハードルが山ほどある感じか。

「権力者が独占って、そんなに凄い場所なのか?」

「ああ、言葉通り神に祝福されたとしか思えねえ場所らしい。俺は入ったことがないがな」

おっさんは中に入ったことがないらしい。

「アドバイスありがとう。とはいえちょっと興味があるから色々と考えてみるよ」

そこまで期待値を上げられたら、簡単に諦めるのも難しい。最悪コッソリ侵入してでも祝福の地を堪能させてもらおう。

「物好きな兄ちゃんだな。だが、バカなことして子供に迷惑を掛けるなよ」

「ああ、肝に銘じておくよ」

俺の心配というよりも、サラ達の心配をして話しかけてきたらしい。なかなか良いおっさんだったな。

で、おっさん曰く権力者の無理難題とやらは……なるほど、たしかに無理難題だな。

だが、その無理難題の中に解決できそうな物が二つほどある。

でも、これを解決しちゃうと、それはそれで面倒な事になりそう。まあ、本拠地から遠いし、多少やらかしても問題ない気がしないでもない。

一つは探索、一つは治療。

探索は神の涙の水中洞窟の探索。なぜかは分からないが水中洞窟は入ることすら難しいらしい。

あと、文章的に神の涙というのが保養地の湖のことだと思われるが、なんで祝福の地なのに神様が泣いているのかなど疑問も多々ある。

治療の方は万能薬でも治らず、祝福の地の効果でなんとか病の進行を抑えているらしい。

水系ならディーネ、治療ならヴィータの出番。大精霊の力なら大抵なんとかなると思うのだが、神様関係っぽいのが不安要素だ。

なんか凄い土地だし神様が祝福したかも? といったふんわりした理由だったら問題ないが、ガチで神様関係だったら大精霊でも無理かもしれない。

(ねえシルフィ、保養地って神様が関係しているのかな?)

「さあ? でも、確認した時は特別な気配は感じなかったわね」

シルフィの感覚を信じるのなら、神様うんぬんはガセっぽいな。ふむ、それならこの二つの依頼を受ける方向で考えるか?

とりあえず宿を紹介してもらって、ディーネとヴィータに相談してからにするか。

特別な保養地、どんなところなんだろう?