軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百五十三 英才教育

土を採取してきての開拓作業の再開。腰痛やタマモが偶に劇画風に見えることを心配し、サクラの為とはいえ洒落にならないくらい広く森スペースを用意してしまった自分を呪いつつひたすらに種を植え続けた。なにごとも程々に、一気にことを進めるのではなく順序だてて計画的に物事を進める大切さを学んだ。

「あー、ようやく終わった。あとはタマモとドリーに任せれば大丈夫だよね」

もう疲れたよ。同じ作業をやり過ぎて何日経過したかも途中からあやふやになった。

代わり映えしない日常こそが大切なのだと何かに書いてあったが、代わり映えしなさ過ぎるのもそれはそれで問題だと思う。適度な刺激も人生には必要だ。

精霊達や弟子達の癒しがなければ乗り越えられなかった気がする。

「裕太、終わった気になっているようだけれど、精霊王様達との約束はどうするの? あと、醸造所」

「へ?」

シルフィの言葉が上手に理解できない。というかしたくない。

「だから精霊王様達と約束したでしょ? あと醸造所」

……うん、したね。したというか、断われない状況だったというのが正しい気がするけど約束した覚えはある。

「ライト様、絶対に楽しみにしているわよ? あと醸造所は私達が楽しみにしているわ」

確かにライト様は楽しみにしているだろうな。あと、醸造所の推しが強いけど、そっちは確約はしていないはずだ。

終わったと思ったところに仕事を追加されて残業が確定した気分だけど、精霊王様達との約束は大切だ。醸造所については今は触れないでおこう。

お酒についてはこだわりと欲望を抑えることをしない大精霊達と激論を交わす気力が、今の俺にはない。

そっか、まだ仕事が残っていたか。

えーっと、最低限必要なのは火に関係する場所と光が入らない地下施設、そして光茸の畑だ。

ただ、無造作にそれを造る訳にもいかない。楽園全体をリフォームするから配置も考えないと駄目だった。前の会議である程度は要望を確認しているから、それをしっかり形にしないとな。

「分かったよ。じゃあちょっと考えてみる」

「ええ、醸造所を造る場所は広めに確保してくれたら嬉しいわ」

「……考えてみるよ。俺はしばらく部屋に籠るから、シルフィはのんびりしてて」

「付き合うわ」

「いや、考えるだけだし……」

「付き合うわ」

「……はい」

俺が醸造所の拡張に乗り気でないと気づいて、意地でも場所を確保させるつもりだな。

だが、俺は負けん。今、ちょっとシルフィに押し切られた気がしないでもないが、それでも俺は負けない。

最近大精霊、特にノモスとイフは、大精霊って何? 酒職人のこと? という状態だから、契約主として俺がしっかりする義務がある。

部屋に戻り紙を取り出し、書きながら施設の配置を考える。

えーっと、北側は広大な森で、中心は自分達の生活スペース。その南側は畑で、その先の南側は広く最低限の開拓だけして精霊達の遊び場とする予定だったな。

精霊王様達からのリクエスト施設も、ここにまとめるつもりだ。俺の家から一番距離が離れていて、精霊達も遊びやすいだろうし、頑張れば海までは拡張可能という立地は悪くない。海で遊びたい精霊も居るかもしれないしね。うん、ここまでは問題ない。

次は西側だけど、こっちはルビー達のリクエスト通りに人の町に近い形態にするつもりだ。

店や必要な施設等も全部集めて精霊達も町……というよりも村……いや、商店街……まあ、村だな、村にする。

これは細かい配置決めや道の作成など手間がかかりそうなので、大まかにスペースを確保して時間をかけて村にしていくというのが良いだろう。

できればこの村に醤油蔵や味噌蔵、醸造所も配置して、職業体験施設と同じ役割を果たしてもらって、チビッ子精霊達の学習に一役買ってもらいたいのだが……シルフィ達は嫌がるだろうな。

あと、ちびっ子達の教育にも悪い影響が出そうな気がしないでもない。醤油蔵と味噌蔵なら配置は可能かな? この辺りは後で相談しよう。

で、空いているのは東側なんだけど、そこにペン先を置いた瞬間、シルフィの視線が俺の顔に突き刺さった。

質量を兼ね備えていると勘違いしそうになるくらいに強い視線に、俺の心が若干怯むが勇気を出して書き込む。保留と。

「ねえ裕太。そこは保留じゃなくて醸造所の間違いじゃないかしら?」

やはり介入してきたか。だが負けん。今のところ空いている東側に醸造所なんて作ったら、間違いなくすべてが酒造りの為に活用されてしまう。

さすがにそれは許容できない。

「いや、醸造所は精霊の村に造れないかと考えてるよ。職業体験施設の一角にできないかなと思ってね」

実際には醤油蔵と味噌蔵だけの予定だが、これは嘘じゃなくて方便。大量にスペースが貰える可能性があると知られたら、増産の準備が始まってしまう。

「……シルフィ?」

すぐに反論が飛んでくると思って身構えていたが、なぜかシルフィが黙って考え込んでしまった。なにかブツブツ言っているけど。

「……浮遊精霊、下級精霊の頃からお酒造りの英才教育……悪くないわね」

あ、予想と違うけど凄く悪い方向にシルフィの思考が傾いていた。

駄目だ。俺が余計なことを考えたせいで、純真無垢な幼い精霊達の未来が汚されようとしている。

いや、別に酒造りが悪いことではないんだけれど……幼いころからは駄目だろう。

というか、基本的に俺が知っている大人の精霊は全員酒好きだ。甘味が好きなライト様も料理が好きなルビー達もお酒は大好きだ。

そんなお酒好きに育つ可能性が高い精霊の幼子達に対して、幼いころからお酒造りを仕込む? 将来とんでもないバケモノが生まれるかもしれない。

「あー、でもさすがに狭いか。うん、狭いね。やっぱり醸造所が東側に造った方が収まりが良いかも?」

前言撤回。醸造所関連は東側で隔離しよう。無論暴走を抑えるのを諦めるつもりはない。

開拓の順番を最後に回すのは当然として、範囲も狭く、ついでに何かしらの施設も東側に建設してお酒造りスペースを浸食できないか考えることにしよう。

「あら、そう? まあ、裕太がそうしたいんならしょうがないわね」

あれ? シルフィがすんなり納得した?

…………あっ、もしかして下級精霊達にお酒造りをしこもうとか言いだしたのって全部演技?

俺が醸造所の拡張に反対しているからあえて……。

「ね、ねえシルフィ。もしかしなくても俺を騙した?」

ちょっとスケベで復讐に酔うところはあるけど、純真で無垢な俺を?

「あら? 騙すなんて酷いわね。幼いころからお酒造りを勉強させたら、将来どれほど素晴らしいお酒を造ってくれるのかと考えたのは本当よ? でも、子供達にお酒造りを教えるのは大変だし、将来よりも現在のお酒の方が大切よね」

騙されたというよりも掌の上で転がされたと言うべきか。でも、精霊の村に醸造所を押し込めていたら、割とガチで英才教育が始まった気がする。素直に転がされているのが正解だな。

負け惜しみじゃないよ?

「えーっと、とりあえずこんなところかな。シルフィ、どう思う?」

考えながら書いたリフォーム改革をシルフィに見せる。

「うん、いいんじゃない?」

「……シルフィ、醸造所のところしか確認していないよね?」

ある意味潔いけど、できればもう少し興味を持ってほしい。

「裕太が考えている時に私もそれを見ているんだから、意見があったらその時に言うわよ」

「なるほど」

たしかにそうだな。

「じゃあとりあえずこれを基本にして開拓を進めるよ。まずは南からね」

「うーん、私としては東側を優先してほしいところだけど、まあ、しょうがないわよね」

東側は最後です。大精霊達も文句を言うだろうが、優しいので最終的にはチビッ子優先を納得してくれるから問題はないだろう。

広大な森の予定

果樹園(独立)

ローズガーデン(独立) 天樹 モフモフキングダム(独立)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

| 精霊樹 |

| |

| |

| |

| 裕太やシルフィ達の家 |

| 修行場兼公園等も含む |

| |

| |

精霊の村 | 楽園の中心の泉 | 醸造所

| |

| |

| |

| 畑や田んぼ等の食料生産場所 |

| コーヒー畑等の嗜好品 |

| |

| |

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

精霊達の遊び場。火、光、闇の施設もここに建設予定。

「ゆーたー!」

施設の配置に問題がないか図を見ながら再確認していると、元気いっぱいのベルが部屋に飛び込んできた。

「ベル、どうしたの?」

「あのねー、かんせーしたー」

俺の質問にベルが自慢げに胸を張る。ベル達は開拓で一時中断していたグルメマップを完成させるって子供部屋に籠っていたはずだから、グルメマップが完成したんだな。

「そっか。じゃあ見にいかないとね」

「うん!」

ベルに早く早くと背中を押されながら子供部屋に向かう。

「ゆーた、つれてきたー」

ベルが先に子供部屋に入ってしまったので、一応ノックして子供部屋のドアを開ける。

「みてー」「キュー」「がんばった」「クゥ!」「むてきだぜ」「……」

中に入ると可愛らしい俺の契約精霊達が、グルメマップを広げながら俺を歓迎してくれた。

さて、俺はどうすればいい?

ベル達が自慢げに見せてくれているグルメマップとおぼしき紙だが、俺にはサッパリ理解できない。

なんと表現すればいいのか、色が塗り重ねられていて油絵でピカソ風の絵を描こうとして失敗したらこうなる的な、混沌とした物体に見える。

正直、白黒で描いていた時の方がまだマップに見えていたな。

「……凄いね。沢山色が使われていて綺麗な気がするよ!」

でも、褒める。なんだか分からないけどとりあえず褒める。俺は褒めて伸ばすが教育方針だから褒めてもなんの問題もない。

そもそも俺の芸術的センスは皆無なのだから、目の前にある混沌とした物体が芸術として間違っていると判断できないよね。

見る人が見れば凄い芸術な可能性はゼロではない。まあ、グルメマップとしては間違っているのは確定だけど、俺はあの物体を芸術として判別しているからなんの問題もない。

だから褒める。全力で褒める。

でも、ベル達、楽園の地図も作る気満々だから、未来で少し困りそうな気がしないでもない。