軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百四十九話 なんでだ?

土の採取とサラとヴィクトーさんを会わせるために遺跡の発掘現場に向かった。ヴィクトーさん達が更にガテン系になっていたり、新たに大きな遺跡を発見したりしていたが、おおむね順調そうで一安心だ。そこでちょっとだけお手伝いをしようと思い、トゥルとタマモの協力を得て広場を造ることにした。

「あれ? タマモ、そこまで広く造るつもりはないから、そんなに向こうまで木を動かさなくても大丈夫だよ」

楽園で開拓し過ぎてタマモの感覚も麻痺しちゃったかな? 常識を疑うくらい開拓したもんなー。それでもサクラの力の範囲からすると狭いくらいらしいけど。

「クゥ! クゥクゥククー」

ん? タマモが一生懸命にジェスチャーを始めた。

……可愛いことくらいしか分からない。

「えーっと、木、ああ、あってる? 移動、うん、もっと広く、あ、違うんだ。えー、それは置いといて……ほう、分かった! 木の選別でしょ! あ、違う? いや、違うことはないけどちょっと違う?」

くっ、自信があったのに微妙に違ったらしい。タマモなら役に立ちそうな木を広場の近くに配置するような優しさを兼ね備えていると予想したが、その優しさに何かがプラスされるらしい。

うーん、一生懸命に説明してくれているのだからなんとか理解したいのだが難しい。

タマモのジェスチャーが可愛いから、思考の七割くらいがそれを愛でる方向に働いてしまうのも問題だ。

「どうしたの?」

困っていると土の採取をしていたトゥルがやってきてくれた。状況を説明するとタマモと顔を合わせながら、クゥクゥふむふむと会話を始める。

幼児と子キツネの戯れも良い。とても癒される。

ホッコリしていると会話が終わったらしくトゥルが説明してくれた。

なるほど、木々を移動させる場合、それぞれに適したスペースが必要だからパズルのように配置を考えなければいけない。

その時に狭い範囲で配置を考えるとキツキツになるうえに組み合わせの難易度も上がる。だから広い範囲で木を動かしているんだよ、ということらしい。

パソコンのメモリみたいな感じだな。狭い机で作業するか広い机で作業するかって表現を聞いたことがある。あれ? 微妙に違うか?

まあいいや、とりあえずタマモの言いたいことは分かった。

「了解。じゃあタマモのやりたいようにやっちゃって」

「クゥ!」

元気いっぱいにお返事してくれたし、任せてしまって大丈夫だろう。

「じゃあトゥル、俺達は土の回収に戻ろうか」

「うん」

そうだ、広場で農業もするだろうし、土の回収と同時にトゥルに土の質を整えてもらおうかな?

あ、水場も近くにあった方が便利だよな。レインに聞いてみるか。

***

うーん、狭い気がしないでもないが、これくらいで十分……だよな?

一泊して翌日も作業を続け十分な広さを確保したはずなんだけど、死の大地を開拓しまくった影響で自分の感覚に自信が持てない。

たぶん某有名ドーム一個分くらいの広さはあるから、ヴィクトーさん達の規模を考えると十分というかやりすぎと言えなくもないはずなんだけど妙に狭く見えてしまう。

「クゥ!」

「ん? タマモ、どうしたの?」

完成した広場というか何もないスペースを見ていると、タマモが俺をどこかに連れていこうとする。

大人しく従うと、スペースの端の木が密集したエリアに到着する。

ずいぶんと木が密集しているな。植物の環境を大切にするタマモが無意味にそんなことをするとは考えられないが……あ、タマモのジェスチャーが始まった。

今度こそ自力で正解にたどり着きたい。

お、今度は分かりやすいかも。野球のスイングに見える動き、キツネの骨格なはずなのに妙に動作が様になっている。

一瞬、この広場に球場を造ろうというアピールかとも思ったが、密集した木の前に連れてこられたことを考えると違うと判断できる。そうなると、なるほど斧か。

「もしかして間伐するべき木ってこと?」

そう思って密集した木を見ると、なんとなくだが元気がないように見える。タマモの力があれば回復させられそうな気もするが、森の精霊として間伐するべきだと判断したのかな?

「クゥ!」

タマモが大喜びで頷く。あっさり意思が伝わったことがとても嬉しかったようだ。

俺としてもタマモの意思を理解できてとても嬉しい。できれば次もこのくらいの難易度でお願いしたい。

「三十本くらいあるけど、全部切っちゃっていいの?」

「クゥ」

タマモが頷く。ドームクラスのスペースを空けるために三十本程度の木を間伐する。

地球ならそこに生えている植物のほとんどは処分か伐採して再利用だけど、精霊が手を加えるととてもエコな結果になるんだな。

そして久々登場の魔法の斧。死の大地には基本的に植物が生えていないから、もっぱら魔物相手に使っていたが、久々に、本当に久々に本来の用途で使用することになる。

気のせいかもしれないが、魔法の斧も喜んでいるように思える。

斧の大きさを通常の倍ほどにして、タマモがしていたようにスイングの形をとる。

ここで注意するのは木が倒れる方向を計算しながら力を込めずに軽く振ること。開拓ツールは高性能なので、生木でも豆腐のようにスパッと切り裂いてしまう。

勢いをつけると色々な意味で怪我の心配が増える。

とはいえ怪我を恐れてへっぴり腰で振ると、木は伐れるだろうがカッコ悪い。見栄も大切だからバランスも気にしなければならない。

野球選手が鏡の前でフォームのチェックをするように、力を込めなくても体幹を意識して。

「とりゃ」

カッコいいスイングができていると信じて斧を振るうと、スパンと木を伐るには違和感がある音と共に手応えなく斧が木を通り過ぎる。

一瞬空振りを心配したが、ドサドサと音をたてながら木が倒れていく光景を見てホッと胸をなでおろす。

それにしても気持ちいいな。欲を言えばもう少し手応えがあった方が爽快感が増す気がするが、これはこれでストレス発散になりそうだ。

残り三十本程度か、すぐに終わりそうでちょっと残念だ。

予想通りすぐに終わった。

あとは根っこを掘り起こすのと、枝打ちも済ませてしまうか。え? もう終わりなの? と言っている気がしないでもない魔法の斧を収納し魔法の鍬を取り出す。

こちらは魔法の斧と比べると使用頻度が段違いなので『やれやれ、出番か』的な風格を感じる。

魔法の鍬を巨大化しサクッと土に突き刺してテコの原理で力を籠めると、モコっと木の根が掘り起こされる。

伐採した後の木の根の処理は人力だと苦行とも言える重労働なのだけど、やっぱり開拓ツールはチートだな。

この調子なら三十分も掛からずに作業が終わるだろう。サラとヴィクトーさんとの交流も順調なようだし、今日は食料を提供してちょっとした宴会を開催して、明日にはエルフの国に向かって出発するか。

***

ヴィクトー視点

「あー……、あ、すみませんヴィクトーさん、えーっと、お世話になりました。また顔を出しますのでその時はよろしくお願いします」

昨晩の宴会で飲み過ぎたのか、裕太殿が辛そうにしている。うちの者達が代わる代わる酒を注いでいたせいで飲み過ぎたのだろう。早めに止めるべきだった。

せめて声の大きさは注意することにしよう。騎士団を率いていた時もそうだったが、発掘などしている間に地声が大きくなってしまったからな。

「いや、こちらこそお世話になりました。裕太殿がいらっしゃると皆も喜ぶので大歓迎です。ぜひまた顔を出していただきたい」

この地での生活は刺激的だが不便な面も多々ある。新たな遺跡や財宝の発見はその不便を補って余りある感動を与えてくれるが不満がない訳ではない。

特に補給が貧弱ゆえ、男どもはともかく女子供には苦労を掛けてしまっている。

その面を裕太殿が補ってくれるから、こちらとしても非常に助かるのだ。それに……。

「お兄様、お世話になりました」

再会できなくともせめて無事であってくれと願っていた妹と会うことができるのが嬉しい。

「うむ。裕太殿にご迷惑を掛けぬようにな。そして仲間を大切にし、しっかり学ぶように」

「はい!」

離れて暮らすことは心配だが、サラの笑顔は純粋で輝いている。下手をすれば貴族教育でがんじがらめであったあの頃よりも明るい表情をしているかもしれん。

むろん、あの頃が不幸であったとは思わん。父も母も我らを愛してくれたし、家臣も領民も誠意をもって我らを支えてくれた。

シュティールが誇りであることは変わらぬが、冒険者生活や発掘作業もなかなか水が合うのも確か。

サラは控えめで優しい少女であったが俺の妹でもある。裕太殿との自由な生活が、あの笑顔を生み出しているのであろう。

サラの保護、遺跡の発掘の権利、これらの恩を返すのは簡単ではないな。頑張らねば。

「ではお兄様、またお師匠様にお願いして顔をだしますね」

「ヴィクトーさん、お世話になりました」

「「「お世話になりました」」」

サラと裕太殿とその弟子達が手を振りながら空に浮かび飛び去って行く。

昔は精霊術師の才能を得てしまったサラを不憫に思ったものだが、今では羨ましくなる。なぜあれだけのことができるのに精霊術の評判が悪いんだ? いや、理由は知っているのだが納得できんな。

……今度機会があれば裕太殿にお願いして空に連れて行ってもらおう。

「行ってしまいましたな」

背後に控えていたベッカーが、サラ達が消えた方向を見つめ寂しそうにつぶやく。

「ああ、行ってしまったな。それでだ……あれ、どうする?」

「……どうしましょうか? 我々に家を一軒ずつ建てても確実に土地が余りますな。農地にもできると裕太殿が太鼓判を押してくださいましたが、すべてを活用するには人手が足りません」

「ああ、そのとおりだな」

しっかり水場まで用意されていて、準備万端整えられている。

今の発掘現場で財宝を発見できれば拠点を本格的に整備すると伝えたが、まさかこんなことになるとは思わなかった。

小さな畑くらいは作るつもりだったが、発掘に必要な人手を考えるとそれ以上の規模は難しい。

だが、新鮮な作物が育てられる場所を放置して無に帰すのももったいない。

この環境で新鮮な作物は非常に貴重なのだ。

「……発掘のペースを落として人手をこの広場に回すぞ」

「よろしいので?」

「ああ、これだけの厚意を頂いたのだ、無駄にする訳にもいかん。それに今回の建物で財宝が発見できずとも、他を探せばいずれは必ず財宝は発見できる。ならば先に拠点を整備しても問題あるまい」

他にも沢山の遺跡が眠っているのは間違いないからな。できれば確実に財宝を手にしてからの方が良かったが、見切り発車をしてもなんとかなるだろう。

それにしても僅か二日で簡単に我々の手に余るスペースを用意するとは……なんで精霊術師は害悪扱いされているんだ?