軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百四十五話 思ったよりも大変

精霊王様方の要望は楽園に火と光と闇の属性に対応する環境を整備することだった。火と闇の属性は手間を考えなければなんとかなりそうだったが、問題は光の属性。光るキノコ、光茸って何? いくらファンタジーとしてもまぶし過ぎるんじゃないかな?

「うーむ。もう少しなんとかならんかのう?」

ライト様が上目遣いで可愛くおねだりしてくる。

真ん丸でふわふわでつぶらな瞳をした可愛らしい兎さんの懇願に俺の中の何かが屈しそうになる。

これがライト様の狡猾な交渉術だというのは分かっている。

普段は小さな体格ながらも見下ろされるのを拒み、甘味を食べている時以外は相手の目線の高さまで浮き上がって会話をする誇り高いライト様が、わざわざ見上げられるようにポジション取りをしているんだ。狙いが丸分かりだといっても過言ではない。

綺麗なお姉さんが接待してくれるお酒を飲むお店レベルのあざとさなのに……モフモフしたさ過ぎて右手が震える。

だが、ここでモフモフしたら俺の負けが決定してしまう。意思の力と負けた時の面倒を考えてなんとか震えを止める。

ベル達にお留守番してもらったのは失敗だった。あの子達が居ればナデナデしまくってもっと楽に耐えられたのに。

「いえ、さすがにこれ以上は難しいです。それなりの範囲で育てるんですよね?」

妄想でタマモをモフモフしながらライト様に対抗する。

「むぅ。しかしじゃな、もっと光っておる方が幻想的じゃと思わんか?」

ライト様の言いたいことも分からなくはない。いや、一面のキノコ畑って時点で意味が分からないが、光の精霊なのだから沢山光っている方が嬉しいのは理解できる。

でも、ライト様の要望をそのまま叶えると、天まで光の柱が立ち昇っていたり、死の大地方向の空が常に明るくなったりしそうなので拒否せざるを得ない。

ヴィータに光量を落としてもらったから普通に視認できるようになったが、それでも街の街灯以上の明るさで発光している。群生するのならこの辺りが限界だろう。

「幻想的かもしれませんが、まぶしくて視線を向けられないのであれば意味がないと思います」

「むぅ、妾達にはちょうどいい光なのじゃが……」

ションボリするライト様の姿にちょっと罪悪感が湧く。

俺だって光量を落とさないで済む方法もいくつか考えたのだけど、それぞれに利点と欠点があるんだよな。

洞窟か建物の中で光茸を栽培して、日が出ている間は天井を取り除いて日光を吸収させる。たぶん、ノモスに頼めばそんなに手間なく実現できるだろう。動く天井にロマンを感じないこともない。

ノモスも文句を言いながらも協力してくれる気がする。でも、それは俺がなんとなく嫌なんだ。

言葉にするのが難しいが、せっかくの楽園なのだから精霊がしたい仕事以外を楽園に持ち込みたくないと言えばいいのか?

酒造りは仕事じゃなくて趣味だし、お店も俺の要望も加味されているがルビー達が望んだ仕事でもある。

それぞれの属性の環境整備は仕事というよりも精霊の本能だし、仕事といえそうなのは職業体験所のフォロー役くらいだろうか。

自分の感覚ではそれらと、毎日の天井の開け閉めは少し仕事の種類が違う。

他にも鏡の反射を利用して建物内に日光を誘導することも考えた。それもできなくはないのだろうがシンプルな方が管理も簡単だし自然を好む精霊も喜びそうだと思う。

まあ、光るキノコが群生しているのが自然かどうかは置いておくとして、他よりも一段掘り下げた地面を岩で囲い、そこに光量を落とした光茸を群生させるくらいがちょうどいいのではという結論に落ち着いたんだ。

ライト様もそれで納得したんだけど、光茸の光量が折り合いがつかないんだよね。

ライト様、光の精霊だから当然なのかもしれないが、光に貪欲すぎるよ。

「ライト様。とりあえずこの辺で試してみませんか? 経過を観察して光量を増やしても問題なさそうであれば、その時にまた話し合いましょう」

「むぅ。まあ、この聖域の主は裕太じゃから、あんまりワガママも言えぬか。良かろう、その光の強さでとりあえず納得しておくのじゃ」

普通ならワガママ言いまくったよねとツッコミを入れるところだが、可愛いし精霊王様なので穏便に話を進めようと思う。

「納得していただけて助かりました。森の拡張が優先ですが、必ず用意しますのでご安心ください」

色々と予定外のことはあるが、本来の目的はサクラの為の森の拡張だからね。大元の目標だけは忘れてはいけない。

「うむ。期待しておるぞ」

期待が重いけどライト様も納得したからこれで……あれ?

「ウインド様、ちょっといいですか?」

俺達の話し合いに飽きたのか、アース様達と一緒に食事を食べていたウインド様に話しかける。

「ん? 構わないよ。どうかした?」

「はい。他の属性の方達には楽園にシンボル的なものを作る予定ですが、ウインド様は必要ないんですか?」

改めて考えたら、風関係のシンボルが楽園にはない。

「ああ、そういうことか。僕達には必要ないよ、空気が動く場所は僕達の領域、それは死の大地でも変わらないのさ」

「な、なるほど」

ドラゴンの顔だから確信がもてないが、ウインド様が凄いドヤ顔を披露している気がする。

そういえばシルフィも出会った当初にそんなことを言っていたな。

とはいえ、一番お世話になっているといっても過言ではないシルフィの風属性、そのシンボルが楽園に無いというのも俺としては納得できない気がする。

でも、ウインド様のドヤ顔とシルフィの無表情を見ると、俺から提案してもスルーされそうな雰囲気だな。

自分で余計な手間を背負いこんでいる気がしないでもないが、なにか考えて風のシンボルになりそうなものを用意するか。

単純だけど風車とかどうだろう? 俺では造れないから発注になるが、意外と喜んでくれる気がする。

あと、自分の敷地の中に風車があるのって素敵な気がする。よし、次に迷宮都市に行った時にコッソリ相談に行こう。

「で、裕太君、話し合いはもう終わったんだよね?」

こっそりサプライズを考えていると、ウインド様が含みがある様子で話を続けた。なんだろう?

「はい、終わりましたね」

「うん。ということは後は楽しむだけなんだけど、足りない物があると思わないかい?」

「……お酒ですね。すぐに用意します」

ウインド様はずっと楽しんでいた気がするが、野暮なことは言わないでおこう。

「甘味も頼むのじゃ。新作はあるのかや?」

ライト様のリクエストも飛んできた。新作か……錬金箱を利用すれば出せるのだけど、この状況での錬金箱の使用は自殺行為な気がする。

申し訳ないが、次回は新作を用意することを約束して今回は出来合いの物で我慢してもらおう。

さて、宴会だ。

***

「これで第一段階は達成だな」

「たっせいー」「キュー」「がんばった」「クゥー」「らくしょうだぜ」「……」

俺の言葉に喜んでジャレついてくるベル達を撫でくり回しながら、達成感を噛みしめる。

地味に長かった。精霊王様方との会議から二十日。

最初の五日は様々な要望により使用量が増えることが確定した岩のブロックの確保のために、親の仇のごとく岩山を解体し続けた。

大活躍の開拓ツールも最後の方には、違うこういうことじゃないと言っていそうなくらい解体した。

ベル達やジーナ達の協力もあり十分な量が確保できたので、次は穴掘りを開始。

こちらも開拓ツールをフル活用しながら無心で地面を掘り下げ、ベル達やジーナ達の協力の元に広大な面積を掘り下げた。

今度は開拓ツールの魔法のクワやスコップが悲鳴を上げそうなくらい地面を掘り下げた。

で、最後に掘り下げた地面に岩のブロックを無心で並べる。

そんな地味な単純作業を続けて完成したのが目の前の光景だ。少しくらい感動してもバチは当たらないだろう。

「改めて見ると、とんでもない面積を開拓したな。師匠、本当にこれ全部森にするのか?」

隣に居たジーナがやり過ぎじゃない? といった表情で俺に質問する。

「うん、森にするよ。ジーナも聞いていただろ、ラエティティアさんの言葉」

「……色々と話を聞いたから、師匠がどの言葉のことを言っているのか分からないぞ」

まあ、それもそうか。あれからもラエティティアさんはちょくちょく楽園に顔を出してサクラの相手だけではなく、俺達とも色々と会話して関係を深めているもんな。

「別に死の大地全体を森にしても構わないって言っていただろ」

「あー、たしかに宴会の時にそんなことを言っていたな。ということは……これだけの面積でも精霊樹にとっては狭いってこと?」

ジーナが嘘だろ? といった顔をしているが、残念なことに嘘じゃない。

よく面積で比較される東京の某有名ドーム何個分、いや、なん十個分の目の前のスペースですら死の大地では猫の額くらいの広さなのだ。

「これからも定期的に拡張が必要になると思うよ」

「そうなのか……」

ジーナが遠い目をしている。分かるよ、俺も終わりが見えないから考えるのが怖いもん。

「でも拡張は先の話だよ。まずは森を完成させないとね。他にもやらないといけないことは沢山あるんだから……」

森が完成したとしてもリフォームの一部が終わっただけなんだよね。施設の配置換えに精霊王様方の要望……気が遠くなるから、目の前の仕事を一つ一つ片付けていこう。

「という訳で次は森の木を植える土の確保だね。見て分かるとおり洒落にならない量の土が必要だから、いくつも森をハシゴすることになるよ」

一ヶ所から採取したら確実に環境を破壊してしまうから仕方がないが、森をハシゴするよりも飲み屋をハシゴしたかった。というか、森のハシゴって意味が分からないよね。

「うん、あたしも手伝うから一緒に頑張ろうな」

弟子の優しい励ましが心に染みる。終わりが見えないけれど頑張らないとな。とりあえず森の完成を急ごう。

ひたすらに土を集めて、あっ、ディーネのリクエストの新しい泉と水路も森に用意しないといけないんだったな。

その後に土を敷いて最後に木の種を植えたら、ドリーに頼んで森の完成だな。種植えもドリーにお願いすれば簡単なんだけれど、ベル達は自分の手でやりたがるだろうなー。

気軽にリフォームを決断したけど、思った以上に大変だな。