作品タイトル不明
六百四十四話 精霊王の要求
楽園を拡張することになり、すべての方針が決定した訳ではないが森を広げるのは確定なので、とりあえずそれに必要な材料を用意するためにひたすら岩山を解体することになった。単純作業を続けようやくの帰宅というところで、なぜか精霊王様方の来訪。更に火と光と闇の属性の扱いが悪いとのお達しを受ける。なんで?
「……えーっと……扱いが悪いとのことですが、自分的には属性の扱いで差をつけた自覚がありません。どういった部分で扱いが悪いと思われたのでしょう?」
意味が分からないのであれば聞いた方が手っ取り早い。幸いなことに話が理解できないからといって無能扱いするタイプの王様じゃないから気が楽だ。
あと、ファイア様、ライト様、ダーク様の話が本題なら、残りの精霊王様方はなぜここに? という思いは無粋なのだろうな。
アース様の食べっぷりを見ただけで分かる、残りはついでに遊びに来ただけだ。
「うむ。妾も裕太に悪気があるとは思っておらぬ。じゃがお主は気づかぬところで属性に差をつけておる」
「差ですか?」
そんなの付けた覚えがないのだが、あ、光の精霊と闇の精霊とは契約していないな。でも、イフやフレアと契約しているから、ファイア様の存在で否定される。
「うむ。お主は土を豊かにし、水を巡らせ自然を復活させた。それは素晴らしいことなのじゃが、その結果、土と水と風が聖域の恩恵を強く受けることになっておる」
「はぁ、なるほど?」
土は植物を育てるために、食べるために大切だから頑張ったし、水は命に直結するしディーネの要求が強かったから環境に気を遣ったな。
そういう意味では差をつけたと言われてもしょうがない……のか? なんか理不尽な気がする。
「ここは聖域と言っても裕太が開拓した土地じゃ。悪意なく差が生まれているのであれば、妾達が口を挟むことではない!」
ライト様が可愛らしいお目目を尖らせて俺の顔を真剣に見つめる。語尻に入った力の強さに不満の大きさが垣間見えるが、俺、結構精霊王様方に気を遣ってきたはずだ。なにがそんなに不満なのかさっぱり分からない。
「じゃが、雪の精霊の環境を整えるくらいなら、先に妾達の属性の環境を整えるのが先ではないか?」
あっ、言いたいことがようやく理解できた。
なるほど、ベル達やジーナ達も偶に遊びに行って喜んでいるし、浮島に冬の環境を造ったことに後悔はないが、精霊王様方からすれば、雪よりも先に聖域の根幹となっている自分達の属性の環境を整えるのが先じゃないかと訴えたくなるのも分かる。
あと、地味に浮島で引き籠っている雪の精霊が怠け者なのも影響していそうな気がするな。
それでも口を出すことではないと我慢していたのだが、聖域の拡張というイベントを聞いて、このチャンスを逃してはならないと押し掛けてきた。
細かい部分は違うかもしれないが、おおむねこの推測で間違っていないだろう。
俺には分からないが聖域と言われるくらいだから、そこに自分達の属性が整えられているということも重要っぽいよな。
そう考えると、このタイミングまで口を挟まなかった精霊王様方には感謝するべきだろう。それだけこちらを尊重してくれていたってことだからな。
ならば俺もその配慮に応えなければ! と言いたいところだが……どうやって環境を整えればいいんだろう?
火と闇はなんとなく分かる。簡単とは言えないが、火なら火山とか火が沢山使われている環境を用意すればいいし、闇は単純に考えれば地下空間を用意すれば納得してもらえるだろう。
氷室があるのに満足されていない様子なので、広めの地下空間が必要かもしれないが、広い地下空間とか厨二心が擽られるのでちょっとワクワクしなくもない。
でも、光ってどうすればいいの?
「精霊王様方のお気持ち、すべてとは言えませんが理解できたと思います。ファイア様。イフとも相談し、拡張に合わせて火の精霊が過ごしやすい環境を用意しようと思います。ダーク様。地下空間で大丈夫であれば、こちらもノモスやオニキスと相談してご満足いただける環境を用意します」
「おう。無理を言って悪いが助かる。火のチビ共も喜ぶだろうぜ」
「うふふ。ありがとう、地下は闇の精霊にとってとても落ち着く場所なの。みんな喜ぶわ」
推測は間違っていなかったようで、ファイア様は闊達に、ダーク様は妖艶に俺の提案を受け入れてくれた。
火山に地下空間か……手間は掛かるが、まあ、火の精霊と闇の精霊が喜ぶのであれば苦労の甲斐もあるだろう。
はは、岩山の解体に加えて穴掘りか。楽勝楽勝、精神的疲労を除けば超楽勝だ。火山の方は、開拓ツールでどうにかなるような話じゃないから大精霊任せだから、本来の意味で楽勝だ。
問題は、次は妾の番じゃよな? と威厳を保とうとしつつも隠しきれない期待が目に現れてしまっているライト様だ。
「あの、ライト様」
「うむ」
「光の精霊が喜ぶ環境ってどうすれば造れるんですか?」
ライト様がコロンと転げた。別にボケたつもりはないのだが、ライト様のお笑い芸人みたいなリアクションにちょっとホッコリする。体が丸いとコケるんじゃなくて転がるんだね。
「ふむ。まあ仕方がないじゃろうな。裕太よ、よく聞くのじゃ」
転がった後、体勢を整えたライト様が咳ばらいをし、すべてをなかったことにして話し始めた。そのメンタルの強さは見習いたい。
「はい。お願いします」
「うむ。光の精霊にとって一番居心地が良いのは、当然太陽の光じゃ。じゃがいかに光の精霊王である妾でも太陽は作れん」
そりゃあそうだろう。太陽がつくれたら、もはや神だ。
「ゆえに一番は太陽を追いかけることなのじゃが、それでは一定の場所に留まることができぬし落ち着かぬ。そこで登場するのが、昼には太陽の光を吸収し、夜には穏やかにその光を解放するキノコ、光茸じゃ」
うん? なんだか話の方向が思っていた方向と違う方向に進んでいる気がする。
特殊な魔道具とか、精霊の力が込められた聖なるなんたらとか、そういうのを覚悟していたのだが……キノコ?
それってアレだよね、うっすらと緑に光るやつ。あれって太陽とは光の種類が違った気がするんだけど……まあいいか。
「えーっと、その光茸を沢山生やせばいいということですか?」
「うむ。贅沢は言わんが、一面に広がる光茸が見られれば、皆も喜ぶであろうな」
一面に広がるレベルで贅沢じゃないんだ。さすが王様。
とはいえ、一番の面倒を覚悟していたライト様のお願いがキノコなのは助かったな。いや、そもそもそのキノコを俺達で育てられるかが問題だな。
「ドリー、光茸って育てられる?」
「キノコはヴィータの領分ですよ?」
首を傾げるドリー、ちょっと可愛い。そういえばキノコって菌類だったっけ? 命の精霊の出番だ。ヴィータ……は、居ないな。
「シルフィ。悪いけどヴィータを呼んできてくれる」
「了解」
「うーん、育てられるけど、アレって環境整備が結構大変だよ?」
「「そうなの(かや)?」」
シルフィが連れてきてくれたヴィータの答えが、一筋縄でいかなそうなので驚いたが、なんでライト様も一緒に驚いてるんだ?
そっちの方が驚きだよ。
「ヴィータ、説明してくれる?」
「うん。まあ、見てもらった方が早いから、ちょっと待ってね」
俺達に待つように言ったヴィータが、右手を広げるとそこに光が集まりだす。もしかして光茸を作ってる?
あれが菌を集めるにせよ、新しく生み出しているにせよ、生命創造じゃないのかな? 大精霊の力って、改めて考えなくてもヤバいな。
そして……「まぶし!」
なんかシルエットしか分からないけど、漫画とかでよく描かれているキノコの形をした物体が、目を潰さんばかりに光り輝いて俺の目を攻撃してくる。
「裕太、これが光茸だよ」
「これって言われても、見えないよ?」
「まあ、そうだろうね。今は知らないけれど、昔は灯台なんかで使われていたそうだし、それくらい強烈な光を発するのが光茸なんだ」
異世界を舐めていた。淡く緑色に光るキノコを想像していたけど光量が違った。
とりあえず収納しておいてと手渡された光茸は、意外なことに何の熱も発していなかった。ファンタジーにも程がある。
「まあ、見てもらって分かるとおり目立つし、その光を維持するために日の光が重要だし、動物はもちろん周囲の植物にも影響を与えてしまうから、管理が難しいよ。この傍で落ち着けるのは光の精霊くらいかな?」
「なるほど、あれ? じゃあダーク様は!」
ある意味では闇の天敵なキノコだよね。
「ああ、ダークならキノコが光り出した瞬間に消えたから大丈夫だよ。しばらくしたら戻ってくるさ」
ウインド様がダーク様の行方を教えてくれるが、闇の精霊王が避ける輝きなのか。ライト様、心地良い光なんじゃがなと不思議そうにしないでください。
「ライト様、一面の光茸は無理です」
「な、なぜじゃ!」
「なぜって言われても、一本であれだけ光るキノコが一面に生えていたら目立ちます。一応、人からは隠していますから」
精霊樹とか浮島とかあるから、近くに来れば洒落にならないほど目立つけど、一応、秘密の場所ではある。特に光は目立つもんね。
「むう、たしかに聖域の場所が明るみに出るのは不味い。じゃが、それでは光の精霊だけ仲間外れになってしまう。裕太、なんとかしてたもれ」
なんとかしてって言われても、俺にどうしろと? ライト様のお願い、最初は簡単そうだと思ったけど、やっぱり厄介だった。
「ヴィータ、どうにかならない?」
「どうにかって言われても……」
丸投げしてごめん、でもライト様にウルウルした瞳でお願いされたら、なんとかしないわけにはいかないでしょ。
「うーん、あんまりやりたいことではないけど、菌を変化させて光量を抑えるようにするとか?」
なるほど、ダイレクトに品種改良をするのか。ヴィータの性格的に好みの方法じゃないだろうけど、背に腹は代えられない。今回は我慢してもらおう。
「ライト様。それでいいですよね?」
「それは実物を見てみんことには分からんのじゃ」
おうふ。ライト様、急にシビア。今の状況だと、ウルウルな瞳で、ありがとうと感謝するべき場面では?