作品タイトル不明
六百四十三話 懐かしの作業
サクラの為に広い森を用意する話から発展して、楽園全体をリフォームする話になった。今の楽園も悪くはないのだけれど、不ぞろいになっている部分を統一して拡張性を高くするのが狙いだ。リフォームというよりも区画整理と言う方が正しい気がしないでもないが、とりあえず頑張って住みよい楽園を実現したいと思う。
「ふーー、いい汗かいてる気がする。でも、飽きた」
額の汗を拭い、空を見上げながら呟く。
「まあ、飽きるでしょうね。私には無理だわ。今からでも私がスパッとやってあげましょうか?」
俺の本音にシルフィが同意し、同時に魅力的な提案をしてくれる。
「……お願いしたくもあるけど、まあ、できるだけ自分で頑張るよ」
「そう? なら頑張りなさい」
シルフィのシンプルな励ましに少し力が湧いてくる。勝手な妄想だけど、頑張りなさいの後に『男の子でしょ』という副音声が聞こえた気がする。
クールなタイプの美女であるシルフィにそんな風に応援されたら、頑張りたくなるよね。だって、男の子だもん。気持ちは……。
「うん、頑張るよ。さて、今日はあと二つくらい岩山を解体しちゃおうかな」
気合を入れて今日の目標を宣言する。
そう、俺は今、懐かしの岩山解体をしている。
三日前の会議の後にリフォーム計画を発動したが、さすがにまだ細かい部分まで煮詰まってはいない。
特に精霊達が遊びに来るスペースなのだが、ルビー達もリフォーム計画に乗り気で、人の町のようにちゃんとした道を、とか、建物を並べて、とか、色々とアイデアが出てまとまるのに時間がかかりそうだ。
無論、張り切っているのはルビー達だけではなく、大精霊達もそれぞれに楽園が良くなるように意見を出してくれている。
だから楽園リフォーム計画の全貌が明らかになるのはまだ先のことなのだが、だからといってうだうだと何日も話し合いを続けるのも時間の無駄ということで、真っ先に拡張することが確定している森の為の準備をすることにした。
そこで最初に必要になるのは大量の岩だということで、岩山の解体に出ることにした。
楽園を、いや、楽園の基礎になるための拠点、それを造るために大量の岩山を解体したことを懐かしみながら、久しぶりの出番となった魔法のノコギリを持ち、この三日間、一心不乱に解体を続けている。
今回はこれまでと比べようもないほど大きく楽園を広げるつもりなので、当然、それと比例するように大量の岩のブロックが必要になる。
あと何個くらい岩山を解体すれば必要量が揃うのか分からないが、少なくともあと数日は同じ作業が続くだろう。
……シルフィが手を貸すと言ってくれたように、大精霊の力を借りればこんな苦労は必要ないのかもしれない。シルフィ、ノモスお願いと口にすれば、あっという間に基礎くらいなら完成するのかもしれない。
だが俺は忘れていない。
シルフィ達大精霊と出会った当初、シルフィ達が人間の手で死の大地となったこの場所を、人間の手で蘇らせてほしいと願っていたことを。
そのことを知っている俺が、契約しているからと言って大精霊達に力を振るえと、そんな恥知らずなことは言えない……なんていうのは建前でしかない。
本当は楽がしたい。シルフィに頼んでスパスパ岩山を解体してもらって、ノモスに頼んでサックリ地面を掘り返してもらい、解体した岩を並べて簡単に基礎工事を済ませてしまいたい。
そうしたら森に飛んで土を集めて基礎にぶち込んで、ドリーに頼めば豊かな森がサックリ完成する。
まあ、ディーネが望む大きな泉が必要だからある程度調整が必要だけど、岩山を解体し続けていたこの三日間で実現可能だっただろう。
だが、その選択肢を俺は選べなかった。
だって、ベル達とジーナ達が張り切りだしちゃったんだもん。
どうやらベル達は楽園の開拓生活が良い思い出だったらしく、その楽園を拡張する計画に、現在夢中な地図造りを後回しにするほどやる気を出した。
そして、そんなベル達に釣られて奮起したのがジーナ達の契約精霊であるシバ達だった。
奮起したシバ達をみて当然のごとくジーナ達も協力を申し出る。
師匠がやったことなら精霊術師としての良い修行になるよな。あっ、でもシバは火の精霊だから開拓には向かないか? でも、やれることは探せばたくさんあるはずだよな。それも修行だ! とどこぞの戦闘民族のようなことを言いだす始末。
こんな状況の中、いや、大精霊に頼んで簡単に済ませるつもりだ、なんて言えるわけがない。
だからベル達もジーナ達もシバ達も、俺とは違う岩山でディーネの監視の元に精霊術を駆使しながら岩山の解体を行っている。
全員、いや、ムーンとプルちゃん以外は大活躍だ。みんなそれぞれに自分の属性を活かして岩の切り出しや運搬、周囲の魔物の警戒や撃退をしっかり熟している。
まあ、タマモは操作する植物を俺が魔法の鞄から提供したけど。
ムーンとプルちゃんの出番が見張りくらいしかないのはしょうがない。命の精霊は戦いを嫌うし、出番は俺やジーナ達が怪我をした時になる。そんなの、俺やシルフィやディーネが許すはずがない。
まあ、うっかり小さな怪我を負ってしまうことはあるから、そういう時の回復で出番がないこともない感じだ。
そんなこんなで俺以外は大張り切り、楽をしたいという人間にとって当たり前の欲求を表に出すことができなくなった。
だから俺は師匠としての威厳の為に頑張っている。まあ、シルフィにはその辺りの葛藤も見抜かれている気がするけど……。
***
「ふぅ、さすがに疲れたね。お腹も空いたし、お風呂に入ってさっさとご飯にしようか」
岩山の解体という、ある意味では自然破壊なことを熟し、さすがに疲れたので夜はゆっくりしたい。
「あ、裕太さん、お帰りなさい」
「ん? ああ、ドリー、ただいま。こんな時間にこっちに来るのは珍しいね」
宴会の時や俺達が誘った時は来てくれるけど、普段のドリーは夜になると遠慮しているのか家に顔を出すことは少ない。
「ええ、お疲れのところ申し訳ないのですが、精霊王様がいらっしゃっていまして、今、私達の家でお待ちいただいています」
ぱーどぅん?
なんだか聞きたくない単語が聞こえた気がする。精霊王様? なんで?
……酷く嫌な予感がするが、お世話になっているから会わないという選択肢はない。まあ、お世話になっていなくても、精霊王様相手に面会拒否はできないけどね。
「えーっと、俺がそっちに向かった方がいいよね?」
「そうですね。こちらにご案内しても構わないのですが、おそらく騒がしくなると思うので私達の家の方が良いと思います」
だよね。せっかく楽園に来たんだから、精霊王様達もある程度の息抜きを目論むだろう。ライト様に渡す新しい甘味って、何かあったかな?
「分かった。えーっと、みんなは先にご飯を食べてゆっくりしていて。俺は遅くなると思うから、先に寝ていていいからね」
お風呂は諦め、生活魔法で体を綺麗にしてシルフィ達の家に向かう。ベル達は付いて来たそうにしていたが日も落ちているのでお留守番をお願いする。
お供は呼びに来たドリーと、一緒に行動していたシルフィとディーネだ。
「やあ、久しぶり。突然来ちゃって悪かったね」
シルフィ達の家のリビングに到着すると、六人の精霊王様が勢ぞろいしていた。その中の小さなドラゴン、ウインド様が片手を上げて挨拶をしてくれる。
リビングのテーブルの上は空のお皿が沢山並んでいるのは、おそらくというか間違いなく今も黙々と食事を続けているアース様の仕業だろうな。
図々しいと思わなくもないが、ご馳走を喜んで沢山食べてくれるアース様は地味に好きだ。あと、俺が居なかったからだろう、お酒の樽は一つも並んでいない。
みんな、王様らしく自由なんだけど、こういうちょっとした部分に気遣いが垣間見えるから憎めないんだよね。
「えーっと、皆様、お久しぶりです。突然の御来訪ですが、何かありましたか?」
まあ、このタイミングでの訪問だから、用件はなんとなく理解できるけど。
「うん、アルバードから裕太が聖域を拡張することを聞いてね、お願いに来たんだ。あっ、立ち話もなんだから座って座って。まあ、僕の家じゃないんだけどね」
ですよねー。
情報が漏れたのはアルバードさんからだったか。精霊王様方を会議に呼ぶのは止めたのだが、頻繁に来訪するアルバードさんに口止めするのを忘れていたのは俺のミスだな。
自分の単純なミスに内心で頭を抱えながら、大人しくソファーに座る。さて、楽園の拡張計画に口を出しに来たのは予想通りだが、その内容はサッパリ想像できない。
精霊王様達が無理難題を押し付けてくる可能性は低いと思うが、悪気なく爆弾を放り投げてくる可能性は意外に高い。
異世界と日本のカルチャーギャップに加えて、人間と精霊という種族の違い、平民と王という身分の違い、そして想像もできないほどのジェネレーションギャップ、この中のどれかが炸裂して、結果的に無理難題ということも十分にあり得る。
この後の会話には、ある程度の覚悟必要だろう。
「ありがとうございます。えー、それで、お願いとは?」
「うん? なんだかいつもより雰囲気が固いけど、まあいいか。お願いは僕じゃなくてファイアとライトとダークからだから、説明は三人に任せるよ」
雰囲気が固いのは警戒しているからです。それにしてもお願いがあるのはファイア様とライト様とダーク様なのか。
ライト様だけなら甘味でなんとかなりそうなんだけど、ファイア様とダーク様は何を頼まれるか予想できないから少し怖いな。
「うむ。では、妾が説明しよう」
説明を買って出てくれたのは玉兎の姿をした光の精霊王であるライト様。その可愛らしい姿はホッコリするから、お願いの内容もホッコリしてほしい。
「……お願いします」
「うむ。まず、聖域が六つの属性で成り立っておるのは承知しておるな?」
「はい。それぞれの属性の杖を集めたのは自分ですから、そのことは知っています」
結構苦労したし、そのために王様と交渉したこともあるんだから忘れるはずがない。
「うむ。それ踏まえて問おう。妾達の属性の扱いが少し悪くないか?」
「へ?」
ライト様から厳かに問われた内容の意味が分からない。属性で差別なんかしてないよな?