軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百三十五話 断固たる決意

ジーナ達と共に冒険者ギルドを訪れると、すでに冒険者ギルド側でも迷宮の情報を手に入れており、すぐにギルドマスターの事情聴取が始まった。元々の予定通り質問に対しては秘術で押し通すことはできたが、精霊術師の威厳を示すことができたかは…。

「あれ? そういえばジーナ達って冒険者のランクは上がっているの?」

ギルドマスターとの話し合いの後、ジーナ達が倒したアサルトドラゴンを納品している時にふと疑問に思う。

確かEランクだったよね? 昇級したら報告してくれるはずだし、ずっと変わっていないのかな? と……。

「ん? ああ、上がってないな」

ジーナがキョトンとした顔で教えてくれる。どうやらジーナもあまりランクに拘りがないようだ。

それにしても、迷宮の最前線に到達してアサルトドラゴンを討伐できるジーナ達がEランク……もしかして冒険者ギルドの嫌がらせ?

「ジーナ様達の昇級がないのには理由があります。そしてそれは冒険者ギルドの故意ではありません」

ギルドマスターの部屋から一緒に着いてきたたぶん見張り役なリシュリーさんが、俺の顔を見ながら会話に入ってくる。

心を読まれた?

「えーっと、理由とは?」

「まず、冒険者ギルドは冒険者の実力を鑑みて、特別にランクアップさせることがあります。ですが、それは裕太様の逆鱗に触れる恐れがありますのでジーナ様達には適用されておりません」

理由は分かりますよね? といった様子で俺を見るリシュリーさん。

まあ、ランクアップに関しては俺も散々に揉めたから、ランクアップさせてジーナ達を利用しようとしていると俺に誤解されないためなのだろう。

なんとなく理由は分かるので頷いておく。

「そうなるとランクアップは依頼の積み重ねが必要なのですが……ジーナ様達はほとんど依頼を達成していません。ランクアップの規定に達するのはまだまだ先になるでしょう」

「え? そうなの?」

ジーナ達は割と冒険者ギルドに顔をだしている気がするんだが? 驚いてジーナ達を見るが、それも当然といった顔をしている。

「師匠。あたし達、日常の半分は迷宮都市に居ないし、居たとしても訓練していることの方が多い。そもそも迷宮に潜るのも訓練だし、依頼じたい受けないことも多いぞ」

「え? そうなの?」

ジーナの言葉に驚く。

……そういえばジーナ達の報告を聞いて楽しんでいたけど、依頼を達成した話はほとんど聞いたことがないな。そもそも迷宮都市に居る時間が他の冒険者と比べて半分程度だった。

素材はジーナの実家の食堂に卸したり、メルのところに持っていったり楽園で使ったりだし、それ以外は邪魔になったら俺の魔法の鞄の中に投入している。

迷宮都市に居ない、迷宮都市に居ても訓練の方が多い、迷宮に潜ってもほとんど依頼を受けていない……これでランクアップした方が陰謀を疑うな。

「リシュリーさん、疑問は晴れました。ありがとうございます」

「いえ、誤解が解けたのであれば何よりです。あと、冒険者ギルドといたしましては、実力者には相応のランクに着いていただけると助かるのですが?」

まあ、アサルトドラゴンを討伐できる冒険者がEランクというのが微妙なのは俺にも理解できる。

精霊術師の立場を強化するためにジーナ達のランクアップが助けになるのも確かだろう。でも……。

「弟子達のランクアップについては、おいおい考えます」

ジーナはともかく、サラ達はまだまだ幼いからランクを上げて責任を負わせるよりものんびりと成長してほしい。

……最初は精霊術師の立場向上の為に利用するつもりだったのだけど、随分と絆されてしまったものだ。

あとリシュリーさんから、こいつ考える気がねえな、的な視線が飛んできている。

本当に心を読まれているということはないだろうし、自分の表情の分かりやすさに危機感を覚える。だからといって対応は難しいのだけど……。

このままだと墓穴を掘りそうだし、サクッと用事を済ませて冒険者ギルドからは撤退しよう。

***

「じゃあ師匠。あたし達は食堂に顔を出した後、メルのところに遊びに行ってくるよ」

「うん。あっ、ジーナ、くれぐれもアレの扱いには注意してね」

「ああ、分かってる。メル以外に誰もいない時にしか外に出さないようにするよ」

「よろしくね」

冒険者ギルドで用事を済ませジーナ達と別行動になったのだが、少し心配だ。

メルに会いに行くということで錬金箱を持たせたんだけど、マルコとキッカのテンションが高いんだよな。

手に入れたお宝を自慢したい気持ちは分かるが、ことが公になるようなことだけは控えてほしい。後、メルのテンションも地味に心配だ。

あの子も鍛治については妥協しないし一種のマニアなところがあるから、金属を生み出す錬金箱なんて物を見たら暴走しそうだ。

……まあそこら辺はジーナとサラが上手にコントロールしてくれると信じよう。

「コア、久しぶり……でもないね」

ジーナ達が迷宮に潜っている間にも顔を出したから、いつもと比べると随分と早い再会だ。

その早い再会を喜んでくれているのか、激しく点滅しているコアが地味に可愛い。

見た目はただの綺麗な丸い石? なのだけど、なんだかペットのように思えてくるな。

ベル達も俺と同じ気持ちなのか、コアに突撃して話しかけまくっている。まあ、コアには見えてもいないし聞こえてもいないんだけどね。

「この前きたばかりだから量が少ないんだけど、お土産だよ」

魔法の鞄に収納してある廃棄予定のゴミをコアの前に並べると、すごい勢いで吸い込んでいく。

いつもよりペースが早い気が、なんというか空腹の時に目の前にご馳走を並べられたような……もしかして俺達が原因だったりする?

なぜかディーネのやり切ったドヤ顔が脳裏に浮かぶ。

四十九層での大虐殺……俺が迷宮を荒らしていた時と比べるとどうかは分からないが、それなり以上にコアに負担が掛かったと考えるのが妥当だよな。

なんかごめんねコア。

……今日は頼み事に来たんだけど、なんだかとっても頼みづらくなってしまった。追加で普段はお土産にしないちょっと高価な素材なんかも提供しておこう。

「それで、今日はちょっと質問とお願いに来たんだ」

たっぷりお土産を提供し、満足したであろうタイミングを見計らってコアに声をかける。

ピカっと一回の点滅は了解の証だけど、ある程度コアの感情が分かるようになっても見た目は無機物だから、こういう時の感情が理解しづらくて困る。

元気よく返事をしてくれているのか、俺、というかシルフィが怖くて恐る恐る返事をしてくれているのか、どっちなんだろう?

……まあ、どちらにせよお願いはするんだけどね。コアの感情よりも自分の生活水準を優先する俺を許してほしい。

「コア。錬金箱って知っているよね?」

チカっと一回の点滅。良かった、ここで躓くとどう説明したらいいか分からなくなる。

「それで、その錬金箱で食料や調味料を錬金できる錬金箱って存在するのかな?」

「あれ? 裕太、お酒の錬金箱は?」

コアの返事がくる前に背後から疑問の声が聞こえる。シルフィだ。

今まで黙っていたから気づいていないのかと思っていた。

でも、声の雰囲気から考えるに、お酒の錬金箱を手に入れようとするのは当然なのになんで言わないの? と疑問に思っている声だ。

シルフィの中では、お酒の錬金箱を手に入れようとするのは、当然を通り越して確定した未来なのだろう。だから今まで何も言わなかった。

あっ、コアからの返事が。一回ということは存在するってことだな。それは朗報だけど、その前にシルフィをどうにかしなければいけない。

「……シルフィ、お酒の錬金箱を手に入れるつもりはないよ」

「あら裕太。不思議なことを言うわね。お酒が錬金できる箱があるなら、なにを置いても手に入れるのが当然でしょ?」

シルフィが心底理解できないという顔をしている。

「錬金には魔力を使うでしょ」

「当然使うわね」

「俺だってお酒は好きだ。ノモスが色々と研究しているけど、それでも地球のクオリティには敵わないし種類も少ない。飲みたいお酒は沢山ある」

「素晴らしいことね。沢山錬金して飲みましょう」

うっ。シルフィの圧が強い。

「でも、沢山は錬金できないよ。その少ないお酒をみんなで仲良く分け合いながら飲める? シルフィ達だけじゃない。ルビー達や酒島に来る精霊達も存在を知れば飲みたがるよ?」

「うっ……」

言葉をなくすシルフィ。

俺がお酒の錬金箱を除外した一番の理由がこれだ。性格が良く優しい精霊が殆どだが、そんな優しい精霊達もお酒には目の色を変え、途端にワガママになる。

そんな中に地球産の多種多様な美味しいお酒を投入したら、毎日おねだりされての錬金奴隷な生活。

しかも錬金箱はどう考えても効率が悪いから、金属よりも知識があって魔力の負担が少なそうなお酒でも大量には錬金できないだろう。

結果、お酒を奪い合うギスギスした楽園が誕生するのは目に見えている。

それを懇切丁寧に説明すると、ついにシルフィが黙った。

勝った。お世話になりまくっているシルフィに勝ったことで満足している自分もどうかと思うが、それでも幸せな楽園生活を守れたことには意義がある。

「じゃあ裕太がもっとレベルアップして魔力を増やせば問題は解決するわね」

勝ってなかった。

「いやいやいや、シルフィ。落ち着いて。俺がいくらレベルアップしようと焼石に水だからね。自分達の酒量を考えて!」

錬金していないから分からないけど、今の十倍レベルアップしても足りないのは確信できる。

俺としては少量を錬金して、それを参考にお酒を造るならアリだけど……お酒に関しては精霊の信用はゼロなので無理だ。

俺が保存している虎の子の地球産のお酒だって、偶にちゃんと残っているのか、こっそり飲んでいないかを確認されるんだぞ。

二度と手に入らない故郷のお酒だからギリギリ手を出されていないだけで、魔力でなんとかなるのなら精霊は止まらない。

「でも」

「でもじゃないから。お酒の錬金箱は絶対に駄目!」

ブスッとした表情でシルフィが黙る。今度こそ勝利したと思って良さそうだな。断固たる決意で立ち向かえば、シルフィもちゃんと分かってくれるんだ。

まあ、いずれこの問題が蒸し返される気がしないでもないが、その時はその時の俺に任せよう。

充実した気分で額の汗を拭うと、視界の隅でコアが点滅しているのに気がつく。そうだった、本題はまだ終わってないんだったな。