軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百三十三話 こんな面倒ならいくらでも!

迷宮探索から無事に戻ってきたジーナ達を出迎えホッと一安心……する前に、なかなか頭が痛くなる報告を弟子から受ける。ディーネ……守ってくれて感謝するけどディーネ、なんで素直に感謝させてくれないんだディーネ……でも……ありがとうディーネ。

「それで、面倒かもしれない物って?」

山盛りのワイバーン&アサルトドラゴン惨殺祭りよりも面倒だったりする?

「師匠、ちょっとこっちに」

なぜかジーナに部屋の隅に誘導されて見せられたのは……金属の箱? 蓋もないしなんだか妙にぼろっちく感じる。

なんだこれ?

「ゴミ?」

百均で売っていても買わないクオリティだ。

「これが四十九層の隠し部屋の罠付きの宝箱から出てきたんだ」

ジーナが分かるだろ? と言いたげな様子で俺を見つめる。

「……そういうことか」

四十九層の隠し部屋の罠付き宝箱から出てきた物の見た目がショボい。これは逆説的に凄まじく価値が高い物であることは確定的に明らかなのは明白。

逆にこれでゴミだったら迷宮のコアにお説教案件だから、間違いなく凄いお宝だろう。

「それで、その箱、あたしの魔力を吸い取って金を生み出したんだ」

「うわ。面倒ってそういうことか。たしかに扱いに困るね。でも、魔法の鞄に封印しておけばいいんじゃない? お金が必要なら、俺が買い取る形でも構わないよ?」

魔力で金を生み出すアイテムとなると、外に出すと面倒な気配がある。だけど、それなら外に出さなければいいだけの話だ。

外に出せないアイテムなんて俺の魔法の鞄の中に腐るほど眠っている。

「まあ、そうなんだけど……師匠、ちょっと耳を貸してくれ」

ジーナがサラ達の方を見た後、俺の耳を要求する。部屋の隅まで移動したうえに内緒話?

(帰りの時にマルコとキッカがな、初めて宝箱でお宝発見したから、それを師匠にプレゼントしたいって言いだしたんだ)

え? なにその俺の情緒を真正面からぶん殴ってくる感動話。話を聞いただけでちょっと泣きそうなんですけど?

(でだ、先に事情を説明したのには理由がある。師匠の場合、こんな面倒な物をなんの説明もせずに渡したら封印確定だろ?)

まあ、たしかにそうだな。面倒だから魔法の鞄に放り込んで、時間が経てば存在すら忘れているだろう。

(言いたいことは理解した。受け取ったプレゼントを大喜びすればいいんだな?)

弟子達からのプレゼントだ、言われなくても大喜びするぞ?

(わざとらしくならないように頼む。それと、それに加えてしっかり使っているところを見せてやってくれ。マルコとキッカは師匠に恩返しできると思っているからな)

なるほど、面倒ってのはコレを含めての面倒ってことだったんだな。

今のジーナは初めてのお使いに、バレないようにコッソリと付いていく母親のような心境なのだろう。

あれって身内や知り合いの店にお使いを頼む場合、しっかりと根回しをして準備万端整える人も居るらしいからな。

プレゼントを受け取った時に俺がリアクションに失敗して、マルコとキッカが悲しむことがないように事前に俺に根回しをしたのだろう。

(了解。気持ちを落ち着けるから少し時間をちょうだい)

今のテンションでプレゼントを受け取ったら、マルコとキッカが引くほど喜ぶ気がする。師匠としてそんな醜態は避けたいところだ。

(分かった。じゃあ少ししたら声をかけるからよろしくな)

ジーナが箱を魔法の鞄に戻し去っていく。さて、師匠の威厳を保ちつつも、マルコとキッカをガッカリさせない喜び方を大至急考えなければいけない。

ハイテンションも駄目、泣くのも駄目、包容力のある笑顔を浮かべつつも少し感動している雰囲気を匂わせるくらいがベストか? 悩む。

「師匠、ちょっといいか?」

「なな、ゴホン、なんだいジーナ」

いかん、普通に緊張してきた。ジーナがしっかりしろよという目で見てくるが、正直、告白前の乙女のごとく胸が高鳴ってしまっている。まあ、乙女心なんて分からないのだけれど。

「ほら、マルコ、キッカ」

ジーナに押されてマルコとキッカが前に出る。手に持っているのは例の箱だ。あと、二人の後ろでサラが少し申し訳なさそうにしているのにちょっとだけホッコリする。

サラは大人びているから、あの箱が厄ネタになりかねないと理解しているんだろうな。

でも、俺が喜ぶと疑わないマルコとキッカには本当のことを言えなかった。だからこその申し訳ない表情なのだろう。

ジーナもだけどサラにも色々と苦労させているから、なにかしらのフォローを考えておこう。ヴィクトーさんのところにでも連れて行くかな?

「師匠、これ、師匠にあげる。いっぱいたすけてくれたおれいだ。師匠、ありがとう」

「ありがとー」

…………ハッ。いかん、なんかちょっと危険な世界に飛ばされるところだった気がする。

狼耳とシッポのヤンチャ系美少年のデレとか、属性盛り過ぎで俺が女だったら危ない趣味に目覚めていたかもしれない。

このぶんだとキッカはもっと危険だな。狼耳とシッポのおどおど系美幼女……こっち方面に目覚めるのも洒落にならん。

意志を強く持って……あっ、良かった。笑顔で俺を見上げるキッカを見て湧き上がってきたのは衝動ではなく慈愛。

純粋な感謝と俺が喜ぶと疑わない信頼の瞳の前には、邪な恐れなど簡単に浄化されてしまうようだ。

「……ありがとう。マルコ、キッカ、サラ、ジーナ。それで、これはなにかな?」

知っているけど知らないふりをする。心が浄化されたからか、落ち着いて対応できるようになった。

「師匠、これ、ぼろいけどすごいんだ。おたからがでてくるはこ!」

「そ、そうか、それは凄いな」

感動はしたが、マルコにはもう少し勉強が必要かもしれない。サラに甘えているだけではなく、迷宮都市で一般教養や礼儀作法の先生を探そうかな。

「たしかにとんでもないお宝だね。みんな、ありがとう」

マルコとキッカの拙い説明に加え、ジーナとサラの的確なフォローで波乱なくお宝を受け取り、ジーナ達に笑顔で感謝を告げることができた。

サラはともかくマルコとキッカは満足気な様子なので、今のところ順調だな。あとは、実際に使ってみるか。

「えーっと、使ってみようと思うんだけど、金をイメージしてこの箱に触ればいいんだよね?」

「あっ、先にちゃんと調べて使った方が良いと思います」

とりあえず試そうと思ったら、サラから真っ当な提案がなされた。たしかに調べてからの方が安全だよね。

「シルフィ。これがどんなものか分かる?」

困った時にはシルフィの出番だ。

「うーん。心当たりがないこともないけど、ノモスに聞いた方が確実でしょ」

それもそうか。じゃあ、ノモス、召喚。

「なんじゃ? 儂は忙しいんじゃぞ」

「ノモスが忙しくしていない時なんてあるの? それよりもこの箱を調べてくれ」

二十四時間働くというか、二十四時間酒造りだから常に忙しいよね。

「む。……ふむ、これは錬金箱じゃな。どうやら金属に特化した物のようじゃが、ハンパな魔力では扱えん代物じゃ」

錬金箱? なんだかとっても厨二心が擽られる魔道具ですね。

「金属に特化ということは、どんな種類の金属でも生み出せる箱ってこと? ん? いや、金属に特化ということは、他の物に特化した錬金箱があるってこと? 例えば食べ物とか」

「ん? 薬やらは聞いたことがあるが、食べ物は聞いたことがないな。あと、どんな金属でも生み出せると言えるが、無知な者が使っても魔力を大量に消費して僅かな金属しか生み出せぬ結果になる。錬金箱を使いこなすには知識と魔力が必要ということじゃ」

残念、食べ物はないのか。いや、でも、ノモスが知らないだけで食べ物を作れる錬金箱が存在しないと確定した訳ではない。

味噌と醤油が手に入り、食生活がある程度充実したとはいえまだまだ足りないものは多い。食料とまではいわないが、調味料が生み出せる錬金箱は是非とも欲しい。

……迷宮のコアに相談してみようかな。

「裕太、なにをボーっとしておる。話が以上なら早く儂を送還せい」

おっと、新たな調味料を獲得できる可能性に意識が飛んでいたが、今は弟子達からもらったプレゼントに集中する時間だな。

「悪い。もうちょっと待って。えーっと、その金属に対する知識と魔力だったよね。ちょっと挑戦してみる」

俺が馴染みがある金属と言えば鉄だけど、鉄の知識?

元素記号がFeで鉄鉱石を精製して造るくらいの中学生以下の知識しかない。あと、炭素の混入で鉄の質が決まるとかそんなあやふやな知識もなくはないが、これでいけるのか?

まあ、試してみるか。

雑多な鉄の知識を寄せ集めて想像し、錬金箱に触れる。

うお、一気に魔力を持っていかれた。普段はほとんど意識しない魔力の流れが認識できて違和感が凄い。

あっ、錬金箱の中心に物質が現れ、徐々に大きくなっていく。なんていうか、凄くファンタジーな光景だ。

俺から吸い取った魔力をすべて使い切ったのか、錬金箱の中にゴロンとこぶし大の塊が転がる。これが鉄か。

結構な魔力を持っていかれてこぶし大の鉄。鉄以上に知識があやふやな希少金属を生み出すなんてことになったら……あれ? これ、不良品じゃね?

「おお、凄いな。あたしの時は砂粒みたいな金しか生み出せなかったのに、さすが師匠だ!」

突然ジーナに褒められる。いや、金と鉄を一緒にされても、いきなりどうした? あっ、難しい顔をしていないで喜べってことだな。

「す、すごいな。さすが錬金箱。これがあれば色んな金属が生み出せるぞ。ジーナ、サラ、マルコ、キッカ、本当にありがとう。俺、物凄く嬉しい!」

「裕太は何を騒いでおるんじゃ? 鉄くらい、儂どころかトゥルでも山ほど用意できるじゃろ?」

「そうよねー。裕太ちゃん、どうしちゃったのかしらー」

ノモス、ディーネ。言いたいことは分かるけど、今はそっとしておいてくれ。

「はいはい。裕太にも色々あるのよ。ノモスとディーネはちょっと黙ってなさい」

シルフィ。ありがとう。

ちょっとわざとらしかったかもしれないが、俺の喜ぶ姿にマルコとキッカも喜んでくれている。

あとは偶に錬金箱を使って、あっ、メルにも使わせてあげたらメルもマルコもキッカも喜びそうだな。

ちょっと大変だったけど、こういう面倒ならいくらでもドンと来いだ。