軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百二十七話 ベティさん頑張って

トルクさんに新しい料理を開発してもらおうと厨房に行くと、そこでラフバードの皮を無造作に捨てている場面を目撃してしまう。こうなったら鳥の皮料理を開発だとトルクさんを煽るが、捨てるには捨てるだけの理由があり、なんとか料理は開発したが扱いは料理ギルドに任せることになった。

「初めまして裕太様。迷宮都市に数々の新しい風を吹かせていただき、料理ギルドの長として感謝に堪えません」

目の前に妙な輝きを放つ美魔女が居る。おそらく結構な年齢のはずなのだが、普通に美人でストライクゾーンに入っているのが逆に怖い。

下手をしたら俺の母親と同年代の可能性がある相手が、ストライクゾーンに入っているのは大変に危険だ。

別に口説くつもりはないが、精神的にちょっと押される気がする。

だいたい、ベティさんの申し込みから流れるように案内されたから心の準備もできていない。

普通、商業ギルドの受付嬢が面会を申し込んで、流れるようにギルドマスターと面会できる? まずはギルドのちょっとお偉いさんが間に入るのが当然だろう。

まあ、俺も鈍感な訳じゃないから、俺の立場を考えればギルドマスターとの面会があり得ることは否定しないよ?

でも、それならギルドマスターが美魔女なことくらい事前に教えておいてほしかった。

料理の鉄人的な気難しそうなおじさんかお爺さんが現れると想像していたから、色々な意味でいっぱいいっぱいだよ。

特に母親と同年代と推定されるのにストライクゾーンなのが本気で混乱する。

「裕太様?」

美魔女なギルドマスターが困惑気に俺を見つめている。そういえば挨拶の途中だったな。

「いえ、すみません。えーっと、こちらこそお会いできて光栄です。料理に関してはトルクさんやマリーさん、他の多くの方々の力添えのおかげです」

新しい風とか言っていたのは料理のことだよな? あやふやな料理知識をトルクさんに押し付けただけなんだが、結構感謝されているらしい。

「ふふー。私、頑張ったんですよー。ミルクの確保とか、特に大変でしたー」

うんうん、一時期激やせするくらいに扱き使われたのは知っているけど、このタイミングで自慢気に会話に参加するのは違うと思うよ。

威張るならトルクさんの方が先だ。あっ、ベル。ベティさんのマネをして胸を張らないで。ベティさんは悪い人じゃないけれど、参考にしていい人でもないからね。

「そうね。ベティは頑張っていたわね。まあ、そのお礼に料理ギルド系列のお店で原価での料理の提供をサービスしているのだけれど……食べまくっているみたいね?」

あっ、ベティさん、料理ギルドからそんな報酬を貰っていたのか。

トルクさんの宿でも優遇サービスを受けているはずだし、ぽやぽやした見た目の割にしたたかに立ち回っているようだ。

さすが商業ギルドの受付嬢ってことかな?

「お前、うちでも散々飲み食いしているのに、他の店でも食いまくってるのか? 苦労掛けてるから別に文句はねえが体に悪いぞ?」

トルクさんもベティさんの所業を知らなかったらしい。

「や、安くなった分ちょっと多めに食べているだけです。頑張ったご褒美だからいいはずですー」

顔を真っ赤にして反論するベティさん。

アレだな、半額になったら他にお金を回すのではなく、倍食べて満足するタイプなんだな。

ベティさんの反論にギルドマスターもトルクさんも嫌な顔をせず微笑んでいるし、ベティさんはかなり得な性格をしているように思える。

子供の欲張りを見守っている感じかな?

「コホン……失礼いたしました。裕太様の数々のご提案により、迷宮都市は食の面でも他の都市から頭一つ抜け出しました。そのおかげで料理ギルドの仕事も増え、充実した毎日を送らせていただいております。改めて、そのことに感謝いたします」

俺が若干呆れて見ていることに気がついたギルドマスターが、立ち上がって深々と頭を下げる。

感謝の気持ちもあるのだろうが、場を仕切り直す為に思えるのはうがちすぎだろうか?

でも、迷宮都市の食が充実していっているのは素直に嬉しい。

似たような味が多かったから食べ歩きとかも屋台以外はしていなかったが、料理が充実してきたなら食べ歩きを視野に入れても良いかもしれない。

話が終わったらギルドマスターに美味しいお店を紹介してもらうのも楽しそうだな。いや、そこら辺はベティさんに聞けばいいのか。

じゃあ、ギルドマスターとの話はラフバードの皮についてを優先しよう。

「いえ、先程も言いましたが、提案を形にしてくれた方々のおかげですから気にしないでください。それよりも話を進めましょう。トルクさん、お願いします」

「おう、そうだな。俺も宿のことがあるし裕太も忙しい。話を進めるか。ギルマス、これを見てくれ」

私も忙しいですよ? と口を挟むベティさんを無視して、トルクさんが二つの袋をテーブルの上に載せる。

「あら? ……見た目は良くないけれど、匂いは良いわね。これが今回の議題?」

袋の中を見たギルマスが冷静に意見を述べる。見た目か。鳥の皮はカリカリに焼いたら美味しいけれど、見た目に関しては優れているとは言えないよね。

「まあ、見た目はな。とりあえず食ってみてくれ」

トルクさんの勧めでギルドマスターが鳥の皮のカリカリを一つ手に取り口に運ぶ。

そちらも興味深いのだが、ベル達が鳥の皮のカリカリを見てよだれを垂らしているのがとてもハラハラする。お願いだからコッソリつまみ食いとかしないでね。

「……癖になる味ね。鳥の皮だけを料理したのは面白いのだけれど、他では鳥の皮も普通に食べられているしそれほど珍しいとは思えないわ。これがどうかしたの?」

あっ、そうか。迷宮都市ではラフバードが主流だけど、迷宮がない地方では普通の鳥が食べられているに決まっている。

「へー。私、コレ好きですー。滅茶苦茶美味しいって訳じゃありませんが、手が止まらないですー。あっ、こっちはカレー味なんですね。これも美味しいですー」

ギルドマスターが味を確かめている間に、自然に試食に加わるベティさん。まだギルドマスターが食べていないカレー味にも手を伸ばす貪欲さに呆れる。

それにしてもベティさんには好評だが、ギルドマスターにはそれほど高評価をもらえなかったようだ。

料理漫画の超絶リアクションとまではいかないが、驚いてくれることを期待していたから少し残念だ。

「こいつはラフバードの皮だ」

「なんですって!」

なんだラフバードの皮だと気がついていなかったんだな。ギルドマスターの驚く顔が見られて少し満足できた。

「私も料理人よ。ラフバードの皮を料理しようと挑戦したこともあるわ。油は利用するけど……これ、どれくらい手間がかかっているの?」

おぉ、さすがギルドマスター。俺が気がつかなかった問題を調理法を知る前に気がついた。

「ああ、かなり手間がかかる。だから料理ギルドに話を持ってきた」

「私達に手間を掛けろと?」

ギルドマスターがちょっとムッとした顔をするが、まあ、手間がかかって面倒だから任せたと堂々と言われたら気分は悪いよね。

「こいつを作るには手間がかかるが、技術はそれほど必要としねえ。ようするにカレー粉と同じだ。丁寧に作れば日持ちするし、王都や他の町にも売り出せる。元々捨てている大量のラフバードの皮が金に化けるんだが不満か?」

高級品ではないけれど、おやつにもお酒のつまみにもなる一品。数を捌けば結構な利益になる気がする。

トルクさん、言葉は乱暴だけど意外と交渉が上手だな。マーサさんに叱られてしょげているトルクさんを知っている自分としては、偽者にすら思える。

「技術はどの程度必要なの?」

「油を抜くのに手間はかかるが、そこは誰でもできる。必要なのはラフバードの皮の切り分けと、それを炒めて味付けするくらいの技量だな」

「うーん」

ギルドマスターがトルクさんの言葉に眉をしかめて悩んでいる。

「ん? あんまり乗り気じゃねえみてぇだな。儲け話だと思うんだが問題があるか?」

だよね。手間はかかるがゴミに値が付くんだから悪くない話のはずだ。なんで悩む?

「素晴らしい話ではあるのだけれど……問題は人材なのよ」

「人材? カレー粉と同じでスラムの連中に頼めばいいだろ?」

そうだ。スラムの人達にも仕事が増えて、お互いにウインウインだ。あれ? なんかギルドマスターがこちらを見ている。

「ポルリウス商会の調味料の配合や薬草の加工、ケチャップ等の下ごしらえ、カレー粉の下ごしらえに、急激に増えた迷宮での採取依頼。スラムの真っ当な人員はすでに手一杯になるほど仕事が増えているわ。この上、ラフバードの皮の加工……人が集められるかどうか……」

なんかギルドマスターの苦悩の原因が俺な気がする。

「それに料理人も地味に足りないわ。新しい味や調理法が増えたから、みんな競って料理を作って発表している。迷宮都市の住民も美食に興味を持つ人が増えたから、暇な料理人がほとんどいないのよ」

迷宮のコアに頼んでカレーに必要な各種スパイスをいろんなところに用意してもらったな。危険な場所の採取は無理だとしても、それほど危険がない場所ならスラムの人でも採取してお金に変えられるかもしれない。

それに、その加工にスラムの人達が起用されたのにも関係している。

マリーさんの雑貨屋のミックススパイスも地味に売れているみたいだし、その原料の加工にもスラムの人達が起用されているようだ。

他にもミルク関連やらなんやらスラムの人の仕事が増えて、そこに止めのカレー粉騒動。採取にも加工にも人が取られて人材が払底した。

ついでに料理人も大忙しになって、てんやわんやってことらしい。

改めて考えると、俺も迷宮都市で好き勝手やっているな。

ふむ、鳥の皮のカリカリだから、別に無理する必要はないんだよな。自分達の分はトルクさんが暇な時に作ってもらえばいい。

残念だけど鳥の皮の布教は失敗だな。でも、スラムの人でさえ仕事に事欠かなくなった切っ掛けに俺がなれたのなら、それはそれで少し誇らしい。

「あん? それくらいならそこらへんの主婦を短時間雇えばいい。その人選も力作業の人手もベティに任せればなんとでもなるだろう」

「ほえ?」

ベティさんが自分の名前が出たことに反応するが、どうしたの? といった顔をしている。鳥の皮のカリカリに夢中で、話を聞いてなかったんだな。

「んー。商業ギルドの協力があれば可能かしら? まあ、小規模から始めてみましょう。ベティ、頼んだわよ」

トルクさんの適当な提案をギルドマスターが受け入れてしまう。

「私は何を頼まれたんですかー?」

ベティさんの知らない間に、ベティさんに再びお仕事が振られました。

まあ、鳥の皮の仕入れと販売は商業ギルドの利益にもなるし、たぶん仕事を取ってきて褒められると思うから頑張ってください。

「え? 裕太さん、なんでそんなに優しい目で私を見るんですかー? 嫌な予感しかしないですー」

正解。頑張ってね。