軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百十二話 長老には任せられない

ドリーが精霊樹の種を完成させ、ヴィータが用意した琥珀に精霊樹の思念体を無事に宿らせることに成功する。続けてエルフの希望通りに精霊樹の種をドリーが成長させ、精霊樹の思念体であるラエティティアさんも復活。記憶の混濁は見られるものの、エルフの依頼を達成できたと思う。俺、かなり凄いよね、実際はお使いくらいしかしてないけど……。

「……なんというか、子供が親に今日の出来事を報告しているような感じだね」

「うん。マルコやキッカも師匠にあんな感じだよね。見た目は全然違うけど……」

たしかにジーナの言うとおり、見た目は全然違うな。

俺の場合、マルコやキッカ、そしてベル達が一日の終わりに、その日あった出来事を色々と報告してくれることがある。

幼いマルコやキッカやベル達の報告なので、話があちこちに飛ぶ上に鳴き声がブレンドされるので地味に理解するのが大変なのだが、ちょっとした癒しの時間でもある。

俺としてはジーナやサラが報告してくれて、他の子達が話の補足をしてくれる方が分かりやすいのだけど、ジーナやサラは喜んでお話をするちびっ子達が微笑ましいのか、あんまりメインで報告してくれない。

そして、現在目の前で行われている報告会は、ちびっ子達の報告会に似ている。

最初は長老がラエティティアさんに話していたのだが、そこにエルフの中でもご年配の方達が合流、ラエティティアさんと面識があるメンバーだからか、思い出話も加わり場が混沌とし始める。

ぶっちゃけ、話が長い。

いや、話が長くなるのはしょうがないと思うよ。だって寿命が長いエルフが青年からお爺さんになる間の出来事だもの、そりゃあ長くなるよ。

でも、細かい話は後にして、歴史年表風もしくはダイジェストで終わらせてほしい。

何百年前は何々とか、何百年前にこれこれとか、何百年前に誰それの子供がとか、それは今じゃなくていいよね。

本来なら、話は後にして俺にも挨拶させてよと話に割り込みたいところなのだけど……なんだかとっても割り込みづらい。

見た目はエルフの美形な老人達が聖母を囲んで茶飲み話をしている風なのだけど、内実はちびっ子達のお母さんへの報告会だもんね。

いや、幼稚園児が幼稚園の先生に群がっている感じか? どちらにしても邪魔をし辛い。

そして他のエルフ達も微妙に面倒な感じだ。

最初は笑顔で泣いていただけだけど、気持ちが落ち着いた後は精霊樹に祈り、ラエティティアさんに祈り、俺に祈り、大精霊達に祈りを繰り返している。

遠巻きにだからそれほど気にはならないけど、教祖に祭り上げられそうで少し怖い。

……空気が読める日本人として邪魔をするのは辛いが、割り込むことにしよう。なんとなくだけど、このままお祈りされているのは危険な気がする。

「あのー、お話し中、すみません」

「お、おい、師匠……」

意を決して会話の中に割り込む。背後でジーナの、え? マジで? 的なニュアンスの声が聞こえるが覚悟の上だ。

「あら? あなたは……人間……よね?」

俺の介入に気がついたラエティティアさんがコテンと首をひねる。聖母のような雰囲気なのに、無垢に首をひねる姿はとても魅力的だが、なぜ人間かどうかで疑問に思う?

「あっ、裕太様、申し訳ありません。まだ裕太様のことまで説明できておりません」

うん聞いていたから知っているよ。長老達、まだ何百年も前の話しかしていないもんね。

先に説明しろよとも思わなくもないが、ラエティティアさんが眠った後の説明から始めたから分からないでもない。

会話の途中で思ってもみない方向に話が進むのはよくあることだ。

「はい、人間です。裕太と言います」

「ラエティティア様。こちらの裕太様が我々ではどうにもできなかった精霊樹の種を目覚めさせてくれたのです。人間ではありますが、決してラエティティア様に危害を加えるお方ではありません!」

さっきまで俺のことを完璧に忘れていたであろう長老が、今更だが必死に俺のフォローを始める。

なるほど、眠っていた間の意識がなかったのであれば、つい先ほどまで人間から最悪なハラスメントを受けて、命がけで毒を吸い込んでいたことになる。

目の前に人間が存在する状況が理解できなくても不思議ではない。これは俺がもっと気を遣う場面……いや、だいぶ気を遣ってのこの結果だから、どうしようもないな。

あの調子で俺の話が出るまで待機していたら、たぶん明日になっていた。

「ふふ。大丈夫ですよファネモス。裕太様には素晴らしい精霊様方の気配を感じます。森を汚した人間と同じとは思いません」

ラエティティアさんはシルフィ達の気配を感じて、俺が敵ではないと判断したようだ。

それにしても気配か。

精霊樹の思念体であるラエティティアさんでも、精霊の姿を目視できないのか?

ん? いや、ラエティティアさんがシルフィ達に微笑みながら軽く目礼している。ちゃんと目が合っているし、やっぱり見えているよね?

「あぁ、あなたは私達が契約形態を変えた昔から存在していたのね」

少し混乱していると、シルフィが納得したように呟いて頷く。どういうこと?

「裕太。精霊樹は私達が見えているわよ。でも、黙ってくれているの。精霊が人に悪用されないようにね」

あー、なんとなく理解できた。精霊が人に利用されて厄介なことになったから、契約形態を変えた。

その時に精霊樹も何かしらの関りがあったのだろう。

おっと、詳しく聞きたいけど、今は話を進めるべきだな。俺まで迷走したら、いつまで経っても話が終わらない。

「……えーっと、どうかしましたか? 俺の顔に何かついています?」

話を進めようとしたら、ラエティティアさんが俺を不思議生物を見るような目で見つめていた。

俺、一応ラエティティアさんの恩人枠なのだけど、珍獣扱いですか?

「いえ、裕太様には感謝のしようもなく、伏してお礼を申し上げるべきなのですが、なぜでしょう? あなたを見ているととても愛おしく、飛びつきたくなってしまいます」

え? いきなり愛の告白?

異世界に来たのに都合の良いヒロインが登場しないことを理不尽に思っていたが、俺のヒロインはラエティティアさんだったってことか?

ふむ、種族や年齢についての疑問もあるし、聖母っぽい雰囲気なので恐れ多い気持ちもなくはないが、ラエティティアさんはとびっきりの美人だ。

悪くない。というか、かなり嬉しい。豊かな母性に包み込まれて残りの一生を穏やかに過ごす。俺が異世界に来た意味はここにあったのかとすら思う。

「心の奥からあふれ出すようなこの不思議な感覚……あら? 私の中にいつの間にか見知らぬ繋がりが……あぁ、この気持ちはあなたの心なのですね」

おいおい、ラエティティアさんがいきなり電波なことをつぶやきだしたのですが?

やっと登場した俺のヒロインが電波なのは勘弁してほしい。

「ふふ、そうですね、裕太様は素敵ですね。はい、こちらに来たいのですね。分かりました」

え? なに? なにか来るの?

ラエティティアさんの不思議な言動が続き、その後にポンとラエティティアさんの豊かな胸元になにかが現れた。

「あう!」

「……え? ……サクラ?」

「あい!」

サクラが俺に飛びつき、すっぽりと両手の中に納まる。

とりあえず抱っこしながらぷにぷにのホッペを突いてみると、キャッキャと笑うサクラ。どうやら幻覚ではなく本物のサクラなようだ。

……どういうこと?

周囲の長老達やジーナ達も驚いているが、それ以上に俺が驚いている。

「なぜかは分かりませんが、私の中にサクラちゃんですか? 彼女との深いつながりができていました。私が裕太様をとても愛おしいと感じるのは、サクラちゃんの影響だと思います」

なんだかよく分からないうちにサクラが登場し、よく分からないうちにラエティティアさんのヒロインフラグが折れた?

展開が早すぎてついていけてないが、なんだかとっても泣きたい気分だ。

「うふふ。こんなに純粋に一人の人間を思う気持ちは、初めてです。少しドキドキしますね」

ラエティティアさんが頬に手を当てて優しくつぶやく。ちょっと頬が赤くなっているように見えなくもない。あれ? まだ完全にヒロインフラグは折れてない?

「うー!」

頬を赤らめたラエティティアさんに見とれていると、サクラが腕の中で不満げに暴れはじめた。

どうやらもっと構えということらしい。

激しくラエティティアさんの気持ちが気になるが、とりあえずサクラを全力で撫でくり回す。

「それで、どうしてラエティティアさんはサクラを呼んだんですか? というか、精霊樹って精霊樹同士で繋がっているんですか?」

もしそうだったら、他の精霊樹の思念体も呼べるってこと?

「いえ、そんな能力はありませんでした。ですが、今はなぜかサクラちゃんと深く繋がっています。サクラちゃんを呼んだのは、彼女が裕太様に会いたいと望んだからですね」

ラエティティアさんの話を聞いて、なんとなく状況が理解できた。

「精霊樹の種を完成させるための素材に、サクラの素材を使ったからですかね?」

想像でしかないが、サクラとの繋がりはそれしか考えられない。

「? 精霊樹の種の為にサクラちゃんの素材を使ったのですか? 初めてのことで分かりませんが、そのことは関係ありそうですね」

キョトンとした表情の後に、納得したように頷くラエティティアさん。

そういえば何百年前かの思い出話しかしていないから、どうやって精霊樹が復活したのかラエティティアさんも知らないんだよね。

あっ、そうだ、こういう不思議な事こそ、ドリーに聞けばいいんだよ。なんたって森の大精霊だからね。

ドリー?

「私も初めてのことですから知りませんでした。興味深いですね」

ドリーですら初めての出来事だったようだ。まあ精霊樹が未完成の種を残して、そこに思念体が眠っているとか、そんなレアなケースが何度もある方が不思議ではある。

「……とりあえずなんとなく理由は分かりました。次はラエティティアさんに現状を説明しましょう」

「裕太様、その説明は我々が!」

長老達が勢いよく立候補してきた。

「長老達だと長くなるので駄目です。俺が現状を簡単に説明するので、思い出話は他の機会にお願いします」

俺の言葉にシュンとする長老達。若干申し訳ないが、これ以上の長話には付き合いたくないので任せられない。

思い出話は落ち着いてからどうぞ。