軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百十一話 復活

ヴィータの最後の仕上げにより汚染された土地は完全に生き返った。続いて本来の目的である精霊樹の種の完成にドリーとヴィータが挑む。いつにない険しい顔をするドリーに驚いたりもしたが、こちらも無事に成功。エルフの森に、エルフ達の大歓声が響き渡ることになった。

もうそろそろいけるか?

……いや、まだだな、体力がないはずの長老が、まだ元気いっぱいに騒いでいる。落ち着くには時間がかかりそうだ。

ふぅ、嬉しいのは分かるけど、完成した精霊樹の種と思念体が宿っている琥珀がプカプカ浮いたままなのはいいの?

俺的には主役を放置しているようにしか見えない。

なんとなく申し訳なくなったので、種と琥珀をそっと手に取る。

うーん、今更だけど、種はともかく琥珀は素手で触って良かったのだろうか?

妙に温かいし思念体が宿っていると知っているからか、生命の鼓動を感じる気がする。

ん? もしかしてこの状況ってラエティティアさんの体を無造作に触っているってことになるのか?

ラエティティアって聞きなれない名前だけど、女性名であってほしい。響き的には女性名なのだけど、異世界だからなー。むさくるしいおじさんの可能性もなくはない。

となると、俺は無防備なおじさんの体を……気にしないことにしよう。深く考えると、思念体がどんな存在でもダメージを受ける気がする。琥珀は琥珀だ。

「師匠、みたい!」

俺が種と琥珀を手に取ったことに気がついたマルコが、走り寄ってくる。

一瞬、見世物にするのはどうかとも思ったが、今更なのでしゃがんで集まってきたマルコ達に精霊樹の種と琥珀を見せる。

一緒に来たジーナ達も興味津々な様子だが、基本的に見た目はちょっと大きめの種なんだよな。迫力はあるけど。

それでも興味深いのか、真剣に種と琥珀に注目している弟子達が可愛い。

ん? そういえばこういう時に好奇心いっぱいに集まってくるベル達が来ないな。

どうしたんだろうとベル達に目を向けると、ベル、トゥル、フレアが先生になってレイン達に耳を塞ぐ方法を指導していた。

……レインやタマモなら可能性はある気がするけど、ムーンは無理だろ、というかムーンの耳ってどこなの? そもそも耳があるの?

こちらも深く考えるとドツボにハマりそうなので、ベル達のことは気にしないで弟子達とのコミュニケーションを楽しむことにしよう。

「長老、種と琥珀ですがどうします? 皆さんで管理されるのであればお渡ししますし、育てる場所が決まっているのであれば協力します」

渡す場合は報酬をもらって観光してサヨナラかな?

精霊樹が育ったところを見たくもあるが、エルフ側にも都合があるだろう。

「はぁ、はぁ、失礼、お待たせしてしまいました。はぁ、できれば裕太様に協力を願いたい、はぁはぁ、精霊樹があったこの地で、はぁ、育てたいのですが、はぁ、それは可能でしょうか?」

落ち着いたと思ったから話しかけたのだけど、まだ息が整っていなかったらしい。少し申し訳なく思うが、長老と言われる年齢なのだから息が切れるほどはしゃがないでほしい。

それにしても即決だな。

「今住んでいる都市で育てなくてもいいのですか?」

あちらの方が施設が整っているから、育てるのも管理するのも楽だろう。

「ここに戻ってくるのは我々の悲願ですから、はぁ、汚れが払われた今、はぁ、移動を躊躇う理由はありません」

エルフの国の総意といったところか。エレオノラさんも頷いているし、長老の独断ではないらしい。

チラッとドリーを見る。

「この地で精霊樹を育てるのは可能です。というよりも私達が環境を整えたのですから、この地で育てるのが正解ですね」

すごく自信にあふれた言葉がドリーから返ってきた。それが自惚れじゃないところがカッコいいよね。

とりあえず問題ないどころか、ここで育てるのが正解というのなら反対する理由はないな。

「分かりました。休憩しながら話を詰めましょう」

まずは長老の息切れをなんとかしないと俺が怖い。ヴィータが居るから問題はないはずだけど、老人の息切れって見ているだけで不安になるよね。

***

「では長老、エレオノラさん、精霊樹の種と琥珀を共に埋めてください」

「分かりました」

返事をした長老とエレオノラさんが、精霊樹の跡地の中心地に開けた穴にそっと精霊樹の種と琥珀を置き、優しく土を掛ける。

休憩を兼ねての話し合いで、すぐに精霊樹の種と琥珀を復活させることが決まった。

儀式とか居残り組への布告とかが必要ないのかと聞いたのだが、移動できるエルフはすでにこの場に来ているので問題ない、儀式は必要ではあるが復活してからでも大丈夫とのことだった。

長老は色々と建前のようなことを言っていたが、おそらく精霊樹の復活を目前にして、待ちきれなかっただけだろう。

「終わりました」

土を掛けた後に深く祈りを捧げた二人が立ち上がる。

「では、移動しましょう」

長老、エレオノラさん、沢山のエルフと共に種を埋めた場所から離れるようにゾロゾロと移動する。

ドリーの力で急成長させるから、この場に居たら巻き込まれてしまう。

「裕太さん、その辺りで大丈夫です」

ドリーの指示で止まり、長老を含めたエルフ達にはもう少し離れてもらう。

「では、精霊樹を精霊術で成長させます」

エルフ達に向かって宣言をして両手を前に突き出す。まったく必要がないアクションだが、精霊樹の復活という大イベントなので見栄を意識してみた。

それに合わせてドリーが手を振ると、種を埋めた場所からピョコンと芽が出て、ズモモモモと勢いよく成長を始める。

それに伴いベル達とジーナ達が大はしゃぎする。

前に楽園の精霊樹の成長を見ていたから真顔を維持できているが、これが初めてだったら俺も大はしゃぎしていただろう。

成長していた精霊樹が、楽園の精霊樹と同じくらいの大きさで成長を止める。急成長させるにしてもこのくらいの大きさが限界なのかもしれない。

それにしても、なんだかとっても精霊樹っぽい雰囲気だ。

いや、精霊樹なのだから精霊樹っぽくて当然なのだけど、楽園の精霊樹はサクラのおかげで桜に変化しているから違う感動がある。

太く立派な幹と枝に、瑞々しく華やかに生い茂る葉。桜な精霊樹も素敵だけど、ゲームに登場するような精霊樹もロマンを感じるよね。

ん? ……うわー。なんか森の至る所から精霊が集まってきた。

元々が自然豊かで精霊が多い森だったから数が多い、しかも汚れが浄化された上に精霊樹が生えてテンションが上がっているのか、どの精霊もかなり浮かれているように見える。

こちらの方が微笑ましいが、テンションは酒島に遊びに来る精霊達に似ている。

兎にネズミに鹿に猪に鳥、普通の動物タイプから、魔物や幻獣のようなファンタジー生物タイプの精霊、数が多すぎて目が追い付かない。

なるほど、こうやって集まる精霊達の気配を感じた人が、精霊樹のことを精霊樹と名付けたんだろう。

それにしてもエルフ達が静かだな。また大歓声を上げて騒ぐと予想していたのだけど……。

振り返ってエルフ達の様子を確認すると、長老を先頭にエルフ達が笑顔で涙を流していた。

満面の笑みで静かに涙を流す美貌のエルフの集団、軽くホラーだ。地味に怖い。

背後には精霊樹と沢山の精霊、目前には無言で涙を流すエルフの集団。なんだこれ?

「長老、エレオノラさん、大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」

「あ゛、あ゛りがと゛う゛ございまぶー」

固まっている長老とエレオノラさんに声をかけると、ものすごくお礼を言われる。汚れを浄化した時も同じ感じだったな。今日はよく感謝される日だ。

でも、まぶーってなんだ。感謝が極まっているのは分かるが、エルフの巫女さんというハイポテンシャルなキャラクターを壊さないでほしい。

「生きている間に、精霊樹を再びこの目で見られるとは、感謝のし……」

長老が更に感謝の言葉を続けようとして、なぜか途中で固まってしまった。

視線が俺の背後を向いている。

え? 幽霊?

冗談はやめてほしいと言いたいが、普通にゴーストが存在する世界なので冗談と言い切れないのが辛い。

おそるおそる背後を振り返るが、精霊の集団がワチャワチャしているだけで変化はない。あっ、ベル達が集団に混ざっているけど……これは関係ないよな?

「え? ちょ、待ってください」

いきなり長老が精霊樹に向かって走り出し、それをエレオノラさんが追いかけていく。

本当に何が起こった?

状況が理解できないが、とりあえず長老とエレオノラさんを追いかける。

「ラエティティア様!」

前を走る長老が叫ぶ。ラエティティアって精霊樹の思念体の名前だったはずだ。

なるほど、集まった精霊達に隠れて見えなかったが、精霊が見えない長老にはその姿が見えたのか。

というか、楽園が聖域だからサクラの姿がみんなに見えると思っていたのだが、思念体は聖域じゃなくても普通に見えるんだな。それとも、長く生きた精霊樹の思念体だからか?

長老に追いつき精霊樹の根元に到着すると、そこには精霊樹の思念体と思われる人物が存在していた。

……とびっきりの美女であることは間違いない。

髪の色や顔立ちは違うが系統的にはディーネに似ている。ディーネと同じくとびっきりの美女で、ディーネと同じく素晴らしく豊かな母性の象徴を所持している。

でも、大きく違うところが一つある。

なんちゃってという枕詞が付くか付かないか、それが大きな違いだ。

ディーネはなんちゃってお姉ちゃん、ラエティティアさんはガチのお姉ちゃんというか……聖母?

魅力的なのに下種な視線を向けると、罪悪感で居たたまれなくなりそうな雰囲気を持っている。

「あら、あなたはエルフね。どうして泣いているの?」

そのラエティティアさんが長老に目を向け、迷子の子供を心配するように優しく声をかける。

美しい光景だけど、外見年齢のギャップが酷い。

「ファネモス。ファネモスにございます、ラエティティア様」

そういえば長老ってファネモスって名前だったな。初対面の挨拶以降、長老としか呼んでいなかったからすっかり忘れていた。

「ファネモス? ……私の知っているファネモスは青年……そういえば私は毒で……」

ラエティティア様が混乱した表情で額に手を当てる。起きたばかりなのと長老の変化に現実が追い付いていないようだ。

俺も挨拶したいんだけど、まずは状況のスリ合わせが先かな。