軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百七話 長老……

汚染されているという精霊樹が存在した場所を確認しに行くと、よくもここまで酷いことをと大精霊ですら顔をしかめる惨状が広がっていた。まあ、解決方法はドリーが思いついてくれたし、後は大精霊達にお願いするだけなんだけど……。

「では我々は現地に向かい、準備をしておきます!」

「うむ。エルハート、しかと頼むぞ」

「はっ、お任せください! 皆、出発だ!」

「「「「「おー!!!」」」」」

エルハートさんが闘志をみなぎらせた瞳で長老の言葉に応え旅だっていく。数えきれないほどのエルフを従えて……。

「どうしてこうなった」

その光景をエルフの国から使用を許可されたツリーハウスの上から、頭を抱えながら見下ろす。

「どうしてこうなったって、裕太が長老の懇願に押し切られたからでしょ」

そんな弱っている俺に対して、会話を聞こえるようにしてくれていたシルフィが無情にも真実を告げる。

その通りなんだけど、できれば優しさを混ぜてほしい。

癒しを求めて周囲を見渡すが、癒し筆頭のベル達は続々とパレードのように旅立っていくエルフ達に夢中、癒しその二であるジーナ達も同様、癒しその三であるドリーはまだちょっと怖い。

……今の俺には優しさが足りない。

エルフの国に戻ってきて、長老に精霊の力を借りて毒の沼を浄化することを説明した。

精霊術に自信がある自分達でさえ無理なことがと長老は首をひねったが、シルフィやドリーの方を向いて納得した様子で頷いた。

大精霊の桁外れな力を感じて信じてくれたのだろう。ここまでは良かった。

そうここまでは……。

毒の沼でも浄化が可能だと話を通していて、その場でも大喜びしていた長老とエレオノラさん。

だが、落ち着いた場所で大精霊の存在感をしっかり把握して話を聞くのは説得力が違ったらしく、夢うつつだった感覚が現実に変わり喜びが爆発した。

読み違えていたのはあの場所に対するエルフ達の思い。

精霊樹が存在した場所なのだからエルフ達にとって大切な場所だとは理解していた。でも、聖地レベルだとは思っていなかった。

毒の沼の浄化が現実化し、長老とエレオノラさんは縋りつくようにエルフ一同で沼の浄化のお手伝いがしたいと申し出た。

俺としては手伝いたいなら手伝えばいいと言いたかったが、全部大精霊に丸投げなので手伝える部分がない。

正直にエルフに手伝える部分がないことを伝えると、ならばせめて毒の沼が浄化される瞬間に傍に居たいと。

無論、直接見たいなどと贅沢は言いません。秘術をのぞき見しようなどともいたしません。ただ少しでも近くに……そう涙ながらに訴えかけられた。

とても面倒に感じたが、エルフの国なら俺の異常を晒してもそれほど問題にならなそうだし、シルフィ達も好きにすればいいという雰囲気だったから俺は頷いた。

気配が感じられるなら力を見せておいた方が更に安全になると思い、離れたところからなら見学も許可した。

でも、それが間違いだった。

狂喜乱舞した長老は若返ったかのごとく精力的に動き始め、その動きを優秀かつ的確にフォローするエレオノラさんとエルハートさんの存在で、一気にエルフの国中に話が広がり、翌日、つまり今現在、エルフの国のほとんどのエルフが、毒の沼に向かって出発してしまった。

大人も子供も老人も、移動が困難な者とその面倒をみる者、警備の者以外すべてが、まるでお祭りだと言わんばかりに食料やお酒をもって……シルフィ、我慢してね。お酒はちゃんとゲットするから。

それにしても先走りすぎだよね?

たしかになんとかなると言ったけど、だからといってこのお祭り騒ぎはどうかと思う。

嬉しいのは分かるけど、途中で長老が蒼い顔をして暴走を止めようとして、止まらなくてやけくそになったのも知っているけど、普通なら嫌がらせレベルのプレッシャーだ。

俺の場合はシルフィ達に全幅の信頼を置いているから頭を抱えるレベルで済んでいるが、自力での浄化作業だったら吐くレベルの苦行だ。

長老とエレオノラさんとエルハートさんには土下座レベルで暴走を謝られたが、普通なら逃げても許される気がする。

「……ふう、あのエルフ達が到着する三日後に浄化作業か。ドリー、本当に大丈夫なんだよね?」

今更無理とか言われたら俺の精神は死ぬと思う。

「ええ、問題ありません。あのような不愉快な場所は徹底的に綺麗にします」

「……あ、うん、お願いします」

不安がない訳ではないが、ドリーのやる気を考えると失敗を気にするだけ無駄だな。

それにしても三日間暇になってしまった。どうせならエルフの国の観光をとも思ったが、肝心の住民がほとんど居ない。

住民が居ない場所をウロウロと歩き回るのも誤解を生みそうだし、観光は止めておいた方が無難だな。かなり暇な三日間になりそうだ。

いつもと同じな気もするが、たっぷりベル達やジーナ達と遊ぶことにしよう。

***

本当に三日間のほとんどをベル達やジーナ達と遊びつくした。なぜなら現実逃避したかったから。

ベル達やジーナ達とたっぷり遊んだ初日の夜、暇になったので自分の力で毒の沼をなんとかできないか? なんてことを考えたのが間違いの始まりだった。

精霊術とは関係ない自分の力。これも自分の力といっていいのか微妙だが、開拓ツールが第一になるだろう。

転移当初は激しい環境の変化と命の危機で余裕がなく、途中からは精霊が万能で開拓ツールの出番が減り、隅々まで確認できていなかったから良い機会だとも思った。

途中まではそういえばこんな道具あったなーとか、あれ? この道具を思い出していればあの時輝いたのでは? なんて楽しく確認していた。

そしてある道具の詳細を読んで、俺は絶望した。

濾過槽。

言い訳をするのなら、焦っていたし、漢字がね、ピンとこなくてスルーしてしまっていたのだと思う。

説明文は、どんな汚い水でもこれにお任せ。液体であればあっという間に真水に変身。持ち手に重さを感じさせません。

そう、分かりやすく言うと、ろ過装置だ。

これを認識していれば海水をろ過して飲み水が確保できていたし、死に怯えて必死に井戸を掘る必要もなかった。

まあディーネとレインとの出会いのきっかけにもなったし、畑や楽園を潤すために井戸は有った方がいいから、結局井戸を掘ることになっただろうが、気持ち的に全然違ったはずだ。

それを思うと少し泣きそうに……というか泣いた。

そして説明文にある、液体であればという言葉。開拓ツールはチートだし、毒の沼も綺麗にできそうな気がする。

一瞬、自分の力で頑張ってみようかな? なんて思いもしたが、エルフ達の期待の大きさを思い出し、そっと思い付きを封印することにした。

だって国が空になるくらいに期待されているのに、ろ過って……いや、濾過槽を大きくすれば大迫力な気もするけど、エルフ達が想像しているであろう解決方法とは真逆だ。

それに、絶対にシルフィ達に、こんなに便利な物があったのになんで今まで使わなかったの? と呆れられる。

そんなこんなでよっぽどのことがなければ、この濾過槽は日の目を見ることがないことが決定された。

「裕太。ついたわよ」

自分の恥を隠蔽することを心に誓っていると、シルフィから到着の声がかけられた。

「完全にお祭りの準備ですね。魔物とかは大丈夫なんですか?」

下を見るとエルフ達が賑やかにテントを建てたり食事の準備をしたり、かなり賑やかに騒いでいるので、一緒に飛んできた長老に質問する。

エレオノラさんは相変わらず長老にしがみついているので、そっとしておこう。

「ここは元が我々の国ですから、それなりの対策ができています。戦える者も大勢きておりますので問題はありません」

そういえば元々はここがエルフの国だったな。定期的に訪れているような話もしていたし、安全は確保できるのだろう。というか確保できなければ、こんなに大人数で来ないよな。

納得したところでシルフィにお願いして、前回降りた場所にまた降ろしてもらう。

エルフが騒いでいる場所に降りたら、囲まれてめちゃくちゃ応援されそうな気がするから、近づくつもりはない。

浄化が終わり責任から解放されるまでは我慢する。

すべてが成功してから、なんの気兼ねもなく合流してエルフの美女達にチヤホヤされるつもりだ。

「分かりました。では俺達は沼の浄化に取り掛かります。長老は結界の開放後、離れてエレオノラさんと休んでいてください」

「少し休憩されてからの方が良いのではありませんか?」

さっそく開始しようとする俺にエレオノラさんが心配そうに声をかけてくるが、休憩が必要なのはエレオノラさんの方だと思う。顔が蒼いですよ。

「こちらは大丈夫です。あぁ、力の強い精霊の気配を複数感じると思うので、他の方達への注意喚起もお願いします。あと離れてみる分には構いませんが近づかないようにお願いします」

エルフの国に戻った時の打ち合わせで、複数の大精霊を召喚することも先に伝えておいたが、もう一度注意しておくにこしたことはない。

子供やお年寄りも居るし、事故防止はできる男の基本だよね。

まあ召喚の部分でものすごく食いつかれて、話が大幅に逸れたけど。この時に長命なエルフも、精霊術について色々と劣化しているのが分かった。

精霊が契約のしかたを変えたとは聞いていたが、エルフの技術も劣化するくらい昔だったのは少し驚きだった。

「分かりました。私は結界を開きますので、エレオノラは皆に注意事項の伝達を頼む」

長老は前回と同じく結界の開放に向かい、エレオノラさんは離れた場所でこちらを見ているエルフ達の方に向かう。

これで最低限の準備は整った。あとは皆を召喚して、浄化作業をお任せするだけだ。

契約している大精霊の全員での共同作業なんて初めて見るから、ワクワクするな。