軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百六話 汚染地

精霊樹の実と根と大きな琥珀を艱難辛苦の果て(心情的)に手に入れ、意気揚々とエルフの国に戻ってきた。ちょっとした誤解で、俺、なんかやっちゃいました? を披露してしまったが、後は精霊樹の種を復活させるだけ! なはずだったのだけど……。

精霊樹の跡地は汚染されているらしい。

長老の衝撃発言の後に、詳しく質問してみたのだが話を聞くだけでは酷いことに、いや、かなり酷いことになっているとしか分からなかった。

エレオノラさんが呼んできた鑑定士に精霊樹の実であることを確認してもらった後、最終的に見に行かなければ状況が分からないという結論に落ち着いた。

ならば見に行こうと場所を聞くと、目的地まで二日も掛かると言われ、さすがに今の状況で二日も歩くのは遠慮したいので、長老とエレオノラさんを連れて飛んでいくことになった。

エルフに対して油断し過ぎな気もするが、エルフはほとんどが精霊の気配を感じ取れるらしいので逆の意味で安全だという判断だ。

俺にはよく分からないが、分かる相手には大精霊の後ろ盾は御老公の印籠クラスの破壊力だよね。

ふと横を見るとエレオノラさんが長老に必死な顔でしがみついている。エルフの美貌だからそれでも醜いということはないが、なんとなく微笑ましいことになっている。

精霊の力を知ってはいても、いきなり空を飛ぶことになれば怯えるのも無理はないだろう。高所恐怖症にならないことを祈りたい。

ベル達が怖くないよとエレオノラさんを励ましているが、間違いなく気づいていないな。

反面、長老は落ち着いた様子でエレオノラさんをあやしている。風の上級精霊と契約しているから、おそらく飛ぶことにも慣れているのだろう。

「あそこでございます」

長老とエレオノラさんの反応の違いを考察していると、その長老が前方を指でさした。

「うわー……」

長老の指の先を追うと、森の中にぽっかりと空白ができており、遠目でも分かるほどどす黒い何かが見えた。

シルフィが気を利かせてくれたのか、目的地の少し手前の上空でとどまってくれる。

「……これを汚染と言っていいんでしょうか?」

眼下の光景は……なんというか汚染というよりも呪われていると言われた方が、ピッタリに思える。

ここにあった精霊樹はサクラとは比べ物にならないほど巨大だったのだろう。その精霊樹が枯れはて、代わりに汚染物質が侵食した。

なんとなくの流れは見えるが、問題はその侵食された部分。

根があった空間に雨が流れ込んだのかどす黒い沼のようになっている。

もうなんというか、沼の色自体が汚い。

沼が黒い時点で違和感があるが、単なる黒というだけではなく、無意味に様々な色を混ぜて結果的に汚い黒になったという感じか?

まあ、様々な毒や森を汚す物質が一ヶ所に集まった結果だから、あんな風に汚くなるのも当然か。

納得はできたが、とても不愉快な光景だ。

俺以外も同じ意見なのか、ジーナ達は目の前の光景に言葉を失い、大精霊は顔をしかめ、ベル達は憤慨しているし、長老とエレオノラさんは悲しそうだ。

「長老、どこに降りればいいですか?」

ここで見ていても悲しくなるだけなので、長老に降下場所を聞き、指定された場所に着陸する。

「この辺りの木もとても立派ですね」

エルフの国の木も立派だったが、この辺りの木はそれに輪をかけて立派に見える。

「はい、精霊樹の傍で育った木々ですから、我らエルフにとっても家族のような木々なのです。昔はここにエルフの国がありました。精霊樹の加護を受け、平和で豊かで幸せな国が……」

長老が過去を懐かしむように俺の言葉に応えてくれる。

国を移したのか。

ここでも生活できそうな気もするが、戦争もあったし大切な精霊樹が生えていた場所が汚されているのを見続けるのも辛かったのかもしれない。

断腸の思いで国を移したのだろう。

「失礼しました。では参りましょうか」

遠くを見ていた長老が、正気に戻って俺達を沼へ案内してくれる。

「ここで少しお待ちください」

長老が沼の手前で止まり、魔法の鞄の中から木の杖を取り出す。

事前の話し合いで聞いていたが、あの杖は精霊樹の枝の杖で、この毒の沼を封印している結界の鍵らしい。

この結界は精霊樹の種を作る前に、精霊樹が張った物なのだそうだ。

精霊樹は毒のすべてを浄化できず、この地が汚染されてしまうことも理解しており、だから結界を張った。

それは素晴らしいことだけど、長期間毒を封印するような強力な結界を張ったから、種を完成させられなかったのでは? という疑問が頭をよぎってしまう。

種の完成を優先するか、森の命を優先するか、難しい決断だったんだろうな。

長老が精霊樹の杖を前方にかざすと、何もなかった空間にうっすらと透明な壁が現れ、杖が触れた部分から両開きの扉が開くように壁が動く。

これで中に入れると思ったが、長老は杖を掲げたままモゴモゴとつぶやき始めた。

そのつぶやきと共に長老の契約精霊であるハヤブサが杖の先に進み出て、激しく羽ばたきはじめる。

その動きが切っ掛けだったのか、沼地に向かって突風のような風が吹き込む。

なるほど、結界の中を換気したのか。

見て分かるほど汚れている毒の沼なんだし、たしかに換気は必要だよね。

そしてベルとフクちゃんとマメちゃんが大喜びしている。シルフィとは違う上級精霊の技を見ることができて嬉しいのだろう。

「これから中に入りますが、風が吹いている場所以外には行かぬようにお願いします」

換気だけじゃなく常に風を吹き込ませるのか。この沼、やっぱりかなり危険なんだな。

「分かりました。ジーナ達も注意してね」

ジーナ達にも注意を促し、長老とエレオノラさんに続いて結界の中に入る。

ふむ、黒い沼の表面がポコポコと泡立っている。

確実にガスが発生しているな。シルフィが一緒だから大丈夫だとは思うけど、絶対に風の通り道以外には行かないように注意しよう。

自分と弟子達に気を配りながら、さも調べていますよといった様子で沼の周囲を歩き回る。

毒の沼、ヤバそう、くらいにしか分からないけど。

「裕太様、どうですか?」

「……もう少し時間をください」

エレオノラさんのすがるような質問に、分かったフリをしているだけの俺には答えるすべがない。

「そうですよね。私達も定期的にここを浄化しようとしていますが、まったく結果が出ていません。簡単には分かりませんよね」

エルフもただ手をこまねいて放置している訳ではなく、なんとかしようと努力を続けていたらしい。

それでも解決できない問題に不安が増すが、シルフィ達ならなんとかしてくれると信じるしかないな。

エレオノラさんに軽く頭を下げ、シルフィ達に祈りを捧げながら再び調べるふりをする。

エレオノラさんと長老から顔を背けて時間を稼ぎ、そろそろ結論が出ただろうとドリーに目を向ける。

「周囲が汚れすぎていて、このままではここで種を完成させる意味がありません。むしろ悪影響です。そして何より、この状態は不快です」

……俺が知っているドリーと違う。

ベル達がプンスコだったから、この毒の沼が精霊にとって不愉快なのは理解していたが、ドリーがここまで怒気を表すのは予想外だった。

とても怖いです。

ここが森で酷い目にあわされたのが精霊樹だからというのもあるのだろうが、毒の沼でこれだけ怒るってことは、死の大地が生まれた時は……考えないでおこう。自然は大切に! だな。

「ふぅー。幸い、今の私には裕太さんが居ます。力を貸してくれますよね?」

深く息を吐いてドリーが話を続ける。たぶん怒りを吐き出したつもりなのだろうけど、笑顔になっただけで怒りが隠しきれていないから怖さが増しています。

長老やエレオノラさんに変に思われることも無視して、俺は全力で頷く。

「ありがとうございます。とはいえ、これだけ酷い状態だと簡単には行きませんね。どうしましょうか……」

大精霊であるドリーが悩むレベルでヤバい沼のようだ。そんなに難しいの? という意味を込めてシルフィを見る。

「私だと土地全体を風で切り裂いて、どこかに捨てるくらいしか選択肢はないわね。よくここまで酷いことができたものだわ」

とんでもないことを言っている気がするが、シルフィならできるのだろう。でも、捨てる場所に困るよね。不法投棄どころか公害レベルの問題を引き起こしそうだ。

あっ、火山に捨ててもらえば焼却されるんじゃ?

他に方法がなさそうなら後で提案してみよう。……いや、それなら高温で燃やせば済むってことになる。

わざわざ火山に捨てなくてもイフに燃やしてもらえば終わりだな。それでいいなら、ドリーが悩むわけもない。

「決まりました」

俺が下手な考えで頭を悩ませていると、考え込んでいたドリーが対策を決定したらしい。

俺としては解決案をズバッと提示して良いところを見せたかったが、さすがに無理があったようだ。俺の知識の中に毒に対する知識なんてほとんど無いから仕方がないよな。

どうするの? という意志を込めてドリーを見る。

「力業になってしまいますが、この地を汚している物質をできる限り分離して処理します」

ん? 真っ当なことしか言っていない気が、どういうこと?

……理解してない雰囲気を漂わせる俺に、ドリーが細やかに説明してくれた。

どうやら日本のゴミの分別以上に細かく細分化し、バラ撒かれた毒物そのものを取り出すのではなく、その毒物を更に細分化した状態で取り出し処理をしていくつもりらしい。

凄く真っ当な方法でどこが力業なの? と首を傾げたら、毒物が混ざり合い一体化し変質までしてしまった物質を大精霊の力で分離するのですから、力業で間違いないとのことだった。

それで、そのためには他の大精霊達の力も必要になるということらしい。

この地に六属性の大精霊が集まることになりそうだが、長老とエレオノラさんは大丈夫なのだろうか?

……いや、今回は下見だし、一度エルフの国に戻って二人を置いてから再挑戦だな。

エレオノラさんには良いところを見せたい気もするが、長老がガチでポックリ逝ってしまいそうなので、自重するべきだろう。

「長老、エレオノラさん、浄化の目途がつきました。準備が必要ですから、一度エルフの国に戻りましょう」

「まことですか!」

「本当ですか!」

急激に詰め寄ってくる二人。気持ちは分かるけど、長老の血管が心配だから落ち着いてほしい。

……毒の沼の解決よりもこの二人の説得の方が疲れそうだし、さっさと帰ってエルハートさんあたりに押し付けてしまおう。