軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百二話 対価決定

エルフの国に到着し、長老と巫女であるエレオノラさんに依頼内容を聞くと、人間がかなり下種なことをして精霊樹を枯らしていたことが分かった。俺は無関係なのだが、精霊樹はサクラ関連で他人事ではないので頑張ろうと思う。

「ではこちらに」

長老とエレオノラさんが案内の為に俺を先導してくれる。

ある程度依頼の話し合いに目途がついたので、報酬と精霊樹の枝や葉の状態確認に向かうことになったのだが、どうやら吊り橋は使わずに一度地面に降りて向かうようだ。

巨木の上のエルフの生活を間近で見てみたかったので、地面に降りるのは少し残念だ。ベル達やジーナ達は今頃楽しく観光しているのだろうか……羨ましい。

少し寂しく思いながら歩いていると、長老とエレオノラさんが一本の巨木の前で立ち止まった。

見上げると吊り橋や枝の橋が架かっているようには見えない。たぶん大切な物を保存している場所だから、簡単に侵入できないようにしているのだろう。

孤立していることで逆に分かりやすい気もするが、周囲を見渡すとなぜか視界が通らない。

なるほど、狙ってのことかは分からないが、沢山の巨木が絶妙の位置にあり、目の前の巨木が目立たないようになっているらしい。これはこれで凄いセキュリティだな。

迎賓館? の時と同じように精霊の力で浮いた板に乗り木の上を目指す。

枝と葉が茂り視界が通らないところに近づくと、エレオノラさんがブツブツと詠唱を始めた。

すると枝がひとりでに動き出し道ができる。

俺は若干混乱している。枝が動くは別に構わない。ドリーやタマモにお願いすれば、似たようなことは簡単にできるだろう。

でもエレオノラさんには精霊がついていないよね? あれ? 俺が見逃していただけ?

改めてエレオノラさんとその周囲を観察してみたが、エレオノラさんが美女だということ以外は分からなかった。あれ? 精霊は?

「あら珍しいですね。彼女は植物使いのようです」

頭の中でクエッションマークを並べていると、ドリーがエレオノラさんのやったことを説明してくれる。

植物使い? 説明はしてくれたが、更に頭の中のクエッションマークが増えた気がする。

でもまあこの世界は精霊術がすべてな訳じゃないというか、精霊術はマイナーな部類だし、不思議な力が存在してもおかしくはないか。

開拓ツールと同じくユニークなスキルなのかもしれない。

エレオノラさんが再び詠唱をすると、今度は木の幹がメキメキと音をたてながら左右に開いていく。

影になっていて見えづらいが、どうやら奥は空間が広がっているようだ。なるほど、木の中に貴重な物を隠しているのか。

これって知らなければ発見がかなり難しい気がする。それに植物をコントロールする力がなければ、宝を取り出すには力業以外で開ける方法を思いつけない。

凄いセキュリティだな。植物系統の精霊と契約していそうな沢山のエルフ以外には……これも人間への対策か、なんだか申し訳なくなってきた。

板が洞の中に入り、そのまま下降していく。どうやら内部は割と広いようだ。

「到着しました」

長老の言葉と同時に洞内が光に照らされる。暗視スキルがあるからある程度は見えていたが、光のおかげでハッキリ見えるようになった。

感想は……地味。

宝物庫だからさぞかしキラキラしているのだろうと想像していたが、割と……というかかなり地味だ。祖父の家の倉庫を思い出す。

「えーっと、これは?」

「ここに並んでいるのは、エルフの秘薬と呼ばれる薬の中でも、希少な材料を使った物です」

俺の質問にエレオノラさんが答えてくれる。壺が並んでいると思ったが、秘薬だったのか。良かった、果実酒とか漬物をとかじゃなくて……。

「沢山ありますが、どれも種類が違うものなのですか?」

「はい、いくつかは同じものもありますが、ほとんどが別の薬です」

ふむ、これだけの種類があるのなら、俺が望むナイトでフィーバーな効果がある薬があるかもしれない。

直接質問したいところだが、目の前でうっすら微笑んでいるエレオノラさんに聞くのはさすがに無理だ。

「すみません。今は選べないので、後で効果をリスト化して渡してもらえますか?」

「畏まりました」

笑顔で承諾してくれたエレオノラさんを見て思う。薬をもらう時は長老に頼もう。

「では奥に進みますね」

長老とエレオノラさんに続いて奥に進むと、並べられていた壺が途切れて少し宝物庫っぽくなってきた。

「ここにある物がこの国で価値がある物になります。裕太様のお気に召す物があればよいのですが……」

長老が周囲を見ながら少し困った顔をしている。

うん、その気持ちは分かるよ。宝物庫っぽくはなってきたけど、それでもまだ地味だよね。

お金や貴金属が並べられている棚もあるし、それなりの価値はあるのだろうが精霊樹の果実となると釣り合う雰囲気はない。

道具は質は良さそうだが地味な物が多い。反面、武器や防具はエルフの国とミスマッチな感じの結構派手な物が並んでいる。

目立つ弓の中にはキンキラキンで宝石か魔石でデコられているような物まであるぞ。あれをエルフが使うのか?

……あぁ全部魔道具なのか。それならキンキラキンでもしょうがないよね。

「えーっと、武器は間に合っていますので、道具の説明をお願いできますか?」

武器は迷宮でたっぷりゲットしたし、そもそも使う機会がほとんどない。それなら生活に役に立ちそうな道具が欲しい。

長老が、え? 武器要らないの? 冒険者なのに? という顔をした後、チラッとシルフィ達の方を見て納得したように頷いた。

シルフィ達と契約しているなら武器なんか必要ないよねと言った顔だが、あながち間違ってはいない。

「分かりました。では一つずつ説明していきます」

「お願いします」

長老がいくつもの魔道具を説明してくれたが、今のところ心に響くような魔道具は説明されていない。

正直、魔法の鞄を筆頭に俺が迷宮で手に入れた物に似たような物があるし、似たようなものがなくても精霊の力を借りれば代用が可能な物ばかりだ。

この調子だと報酬が支払えなくて、長老の残りの人生が返済に染まることになってしまうかもしれない。それはそれで気まずいぞ。

「すみません、もう一度お願いします」

深夜のショッピング番組を聞き流しているような気分になっていたが、今、ピンとくるアイテムが説明された気がする。

「ん? この親子鏡についてですかな?」

「はい」

親子鏡? たぶん翻訳で分かりやすく置き換えられているんだろうが、微妙にダサいアイテム名だな。

でも、聞き間違いじゃなければ性能は素晴らしいはずだ。

「分かりました。この鏡は親子関係にあり、この大きな鏡が親で、小さな鏡が子になります。子鏡は五枚あり……」

うん、やっぱり通信手段になる鏡だった。

親鏡と子鏡の間でしか通信できないのが不便だけど、それでもこの世界なら十分に貴重なアイテムだ。

問題は通信距離だな。

「どれくらい離れると使えなくなるか分かりますか?」

「今のところ距離の限界は分かりません。一国や二国またいでも使えましたが、距離が離れるごとに魔石の消費が大きくなるようです。あとは迷宮など特殊な空間では鏡は使えなくなります」

魔石の消費が大きくなるのは、換金できないほど余っているから問題ない。

迷宮で使えないのは少し残念だけど、シルフィも別な世界みたいなことを言っていたから無理もないだろう。

ふむ、ジーナ達に持たせておけば離れて行動する時も安心だな。あと、迷宮都市と楽園で通信できるなら、メルに持たせておけば色々と便利かもしれない。

これは有りだ。

「長老、親子鏡は便利だと思うのですが使っていないのですか?」

欲しいけど、さすがに普段使いしている物をもらうのは気が引ける。

「……昔は使っていたのですが、今は一番の遠出がフェイバルなので使っておりません」

……あぁ、全体的に引き籠っているから、使う機会がほとんどないのか。まあ頻繁に使うのなら、こんな場所にしまい込んではいないよね。

とりあえずこの親子鏡を第一候補にして、残りの魔道具の説明をお願いしよう。

***

結局、親子鏡を対価にすることにした。

長老とエレオノラさんからはこれだけでは釣り合わなくて申し訳ないと、他の魔道具や武器も勧められたが、正直ピンとこない物ばかりだったのでもらえる秘薬の量を増やしてもらうことで対応することにした。

長老達の感覚では俺が損しているようだが、多少不便だが貴重な通信手段が手に入ったのだからトントンもしくは俺の方が儲けている気持ちすらある。

使って便利だったら、迷宮のコアに追加を頼もう。

さて、そろそろ現実に戻るか。

考え事を終えて目を開けると、とっても上機嫌なベル達とジーナ達が居る。

ベル達からもジーナ達からもエルフの国の様子を聞いた。端的に言うととても羨ましい。

この国には屋台文化がないようで、ベル達はそこが残念だったようだが精霊が沢山居るのでお友達が沢山増えて大満足だったようだ。

そしてジーナ達。エルフ独特の文化はもちろん、住民達がとても親切にしてくれたらしく、最高の観光だったらしい。

……俺も明日は観光にとも思うのだが、長老やエレオノラさんの期待の視線が強くて観光する雰囲気ではない。

落ち着いて観光するには、しっかり精霊樹の種を復活させてプレッシャーから解放されてからじゃないと無理だろう。

「みんな、今後の予定を説明するから聞いてね」

パンパンと手を打って全員の注目を集め、予定を説明する。

「まず、明日の早朝に出発。楽園に戻ってサクラから果実と根を分けてもらう。その後は琥珀探し。目的の物が揃ったらエルフの国に戻ってくる。そんな感じで行動するよ」

宝物庫で精霊樹の素材を確認したが、性能が良い魔法の鞄で枝と葉を保存していて、ドリーから量も質も合格点をもらえた。という訳で必要なのは果実と根と琥珀だ。

「師匠はエルフの国を見て回らなくていいのか?」

全員が頷いてくれたが、その後にジーナが心配した様子で質問してくる。みんなの話を聞きながら俺も行きたかったと愚痴ったからだろう。

あれだね、一応全員の保護者は俺なんだから、迂闊に愚痴ると心配かけちゃうよね。次からはできるだけ注意しよう。

「依頼を終わらせてからしっかり観光するから大丈夫だよ」

さっさと終わらせてエルフの国を観光して、そしてベリル王国でフィーバーするんだ。

よし、やる気出てきた!