軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百九十六話 フェイバル

エルフの国からの依頼は精霊樹の種の発芽。精霊樹のことならドリーに相談するべきだろうとドリーを召喚し話を聞いてみると、なんとなく精霊が原因で大変そうな内容だった。でもまあドリーも精霊樹の種を気にしているし、欲望は後回しにしてエルフの国に行くことにした。

「あの町がエルフの国に一番近い町ね」

シルフィが町の近くに到着したことを教えてくれる。俺も見知らぬ町に興味がない訳ではないのだが、それよりもエルフの国があるであろう森の方が気になってしまう。

俺はこれでもこの世界でいくつもの森に訪れたことがある。

腐葉土を手に入れるため、動物を乱獲するため、ダンジョンでの冒険のため、遺跡を発掘するため、理由は様々だが森検定中級(捏造)くらいの知識はあると自負している。

そんな俺の目から見ても、目前の森は圧倒的な迫力を持っている。なんというか神聖さがハンパない。

もしかすると、エルフが住んでいるからそう見えるだけかもしれないが、それはまあ仕方がないことだろう。エルフという言葉だけでワクワクするから、採点も甘くなるよね。だって、エルフだもん。

「裕太?」

「あ、ああ、ごめん。町から少し離れた目立たない場所にお願い」

シルフィが要望通りの場所に俺達を降ろしてくれる。それにしても半日も掛からずに目的地に到着か。

ギルドマスターから話を聞いた翌日、朝に出発してもう到着しちゃっているから、国を三つまたいだ自覚がまったくわかない。

ベル達やジーナ達と一緒にワイワイ飛んできたから遠足気分だ。

「さて、じゃあ町に行くよ。ほら、森には後で行くから我慢してね」

「まちー」「キュー」「がまん」「クゥーー!」「もりもきになるんだぜ」「……」

ジーナ達はそれほどでもないが、ベル達が森を見てとてもソワソワしているので声をかけ、町に向かって歩く。

ベル達は自然が大好きだけど、今までの森と比べても興味が段違いに強い気がする。やっぱりあの森は特殊なのかもしれない。特にタマモ。

だからこそ精霊樹の種が発芽しないのが不思議だな。

……苦労しそうな気がしないでもないが悩んでもしょうがないから、今は未知の町とエルフに期待してポジティブに行動しよう。

新しい環境にはしゃぐベル達とマルコとキッカを宥めながら、歩いていくと町が見えてきた。

町としての規模は割と大きく、門もしっかりしている。ギルドマスターが言うにはエルフの国と唯一関係がある町らしいので、それで栄えているのだろう。

町の名前はたしかフェイバルだったはずだ。町は立派だがそれほど人は多くないようで、スムーズに門番のところまでたどり着く。

「えっ?」

門番にギルドカードを見せると、驚いた後に二度見された。言いたいことは分かる、Aランクに見えないんだろ?

こういう事態を避けるために金ぴかの光龍装備で来ようかとも思ったが、未知の町でキラキラしたくなかったし、エルフと接触するのにキンキラキンは違う気がしたのでノーマル装備にした。

だからその二度見は許そう。

「少々お待ちください」

おい、なんで通行許可を出さずに離れる。あぁ、上司に報告しているんだな。怪しんでいるのに割と丁寧な態度なのは、Aランクのギルドカードが本物だったら不味いと思っているからか?

「カードは本物ですね。失礼ですが、クリソプレーズ王国はあまり交流がなく、念のために確認をお願いします」

上司らしき兵士がやってきて、スッと見覚えがある水晶を俺の前に差し出す。これはあれだね、犯罪者かどうかを確認する魔道具だね。

身分証が本物でも信じきれないから、せめて犯罪者かどうかを確認しておこうって考えだろう。

別に良いけどね。こういう扱いは慣れたものだ。

水晶に触れると、当然の無罪判決。

門番達に凄く不思議な顔で通行を許可された。

あとに続いたジーナ達も犯罪者チェックを受けて、無事に通行許可を得る。俺のせいでジーナ達まで疑われたようで、少し申し訳なくなる。

……うん、どうしようもないことで悩んでもしょうがない。俺に威厳がないのはいざとなったら道具で補える。ポジティブに考えるんだ。

微妙に下がったテンションをポジティブに励まし、せめてもの嫌味に門番に冒険者ギルドの場所を聞いて歩きだす。

「師匠、なんだかのんびりとした町だな」

「そうだね、妙に落ち着く雰囲気だね」

ジーナの言うとおり、町を歩いていると見知らぬ町なはずなのに、のんびりとしていて警戒心が薄れていく雰囲気だ。なんでだ?

「お師匠様、武装している人がほとんどいません」

「あ、本当だ。サラ、よく気がついたね」

サラの言うとおり武装している人がほとんどいない。なるほど、迷宮都市なら武装した連中がデフォルトだし、近くの村でも自分達の身を守るために武装している人は多かった。

そうか、武装してピリピリしている人が少ないから、雰囲気がのんびりしているように思えるのか。

うん、俺、この町は嫌いじゃない。刺激は少なそうだけど、殺伐とした雰囲気よりも断然マシだし、隠居する時はこういう町に住みたい。

まあ、俺の場合は隠居することになっても楽園から離れることはないから、妄想でしかないけどね。

散歩気分で町中を観察しながら歩いていると、門番に教えてもらった冒険者ギルドに到着した。

のんびりとした町の雰囲気から想像していたが、建物はあまり大きくない。この町で働く冒険者が少ないから大きな建物は不要ということだろう。

ん? よく考えると、近くに巨大な森があるのに冒険者の仕事が少ないってことになるな。

豊かな森には冒険者の仕事がたっぷりありそうなものだが、それがないってことはエルフの国が関係していそうだ。

エルフの国の影響力を頭の隅に止めつつ、冒険者ギルドの中に入る。

……それほど大きくないギルドでも、酒場はちゃんと設置してあるんだな。人はいないけど。

妙なことに感心しつつ、カウンターに向かう。珍しいことに女性職員ではなく、おじさんが一人座っているだけなので、内心で少しだけガッカリする。

「こんにちは」

「はい、こんにちは。初めて見る顔だね、フェイバルの冒険者ギルドへようこそ」

おじさんでガッカリしたけど、愛想が良くて話しやすそうなおじさんだった。これはこれで気が楽だから悪くないな。

「はい、初めてです。えーっと、これがギルドカードで、こっちはクリソプレーズ王国、迷宮都市の冒険者ギルドのギルドマスターから預かった紹介状です。こちらのギルドマスターにお渡しください」

ギルドカードだけだと門の時の二の舞になりそうだから、迷宮都市のギルドマスターから預かった紹介状も一緒に提出する。

案の定、ギルドカードで二度見され、続いて紹介状でも二度見された。これって四度見されたってことかな?

そしておもむろに紹介状を開封して読み始めるおじさん。

驚くと同時に納得もした。これはあれだな、ギルドのカウンターに座っているおじさんは実は偉い人なパターンだな。

まあこのギルドの場合は、偉い人がわざわざ目的があってカウンターに座っているというよりも、他に人が居ないから座っているというのが正しい気がする。

「なるほど、了解しました。えー……」

紹介状を読んだ後、なぜか周囲を見渡して困った顔をするおじさん。

「どうかしましたか?」

「本来であれば応接室か私の部屋で話を伺うのが筋なのですが、さすがに受付を空にする訳にもいかないんですよね」

とても納得できる困りごとだな。

「そもそも、なんで一人しかいないんですか?」

……そういえば話の流れで自己紹介が飛んでしまったから、おじさんの名前も役職も聞いてないな。

まあ紹介状はギルドマスター宛てだったし、それを読んだこのおじさんがギルドマスターなのは間違いないだろう。

今更自己紹介をするのも空気が変になりそうだし、呼ぶ時はギルドマスターと呼べば問題はないよね。

「人が居る時は居るんですが、うちは基本的にエルフの国との取引か、商人の護衛以外に冒険者の需要がないのです。それでも少しは冒険者が居るのですが、今は昼ですし……」

おじさん一人でも十分に仕事が回るから、一人しかいないってことだな。なんだかとっても不用心な気がするが、この町の雰囲気から考えると大丈夫なのだろう。

「分かりました。ここで構いません。それで、どうすればいいですか?」

別に部屋じゃないと嫌ってこともないし人が居ないから盗み聞きもされないから、この場で話を済ませてしまおう。

「そうですね、連絡手段はありますが、二日後にエルフの国から商隊が到着する予定ですから、その方達と話をするのが一番早いですね。どうされますか?」

連絡手段がどういうシステムか分からないが、俺的には早い方が嬉しい。でも、俺の依頼は国からの依頼なはずだ。

「商隊の方達がエルフだとしても、依頼主と関係がなければ時間の無駄になるんじゃないですか?」

「商隊と銘打っていますが実質貿易なので、エルフの商隊は国が管理しています。つまりやってくるエルフも国の役人なので問題はありません」

「なるほど」

役人なら大丈夫かな? この町はエルフの国と唯一繋がりがある町らしいし、やってくるエルフも外交関連の役割を担っているだろう。

俺の話を聞いている可能性は高いし、知らないにしても国の上層部と話はできるだろう。

「了解しました。では、二日後にエルフの商隊との顔合わせをお願いします」

「分かりました。いつも到着は昼過ぎですので、その頃に連絡します。宿はお決まりですか?」

「いえ、どこかお勧めの宿屋を教えてください。食事が美味しい宿屋だと嬉しいです」

俺の要求におじさんが困った顔をしている。まさかギルドの職員でありながら、食事が美味しい宿屋を知らないとでもいうつもりか?

それだと怠慢と言わざるを得ないぞ?

「フェイバルにも自慢の宿があるにはあるのですが、エルフの商隊もそこを定宿にしています。どうしますか?」

なるほど、仕事先と同じ宿でも大丈夫かと言いたいのか。

効率を重視するなら同じ宿でも問題はないのだけれど、エルフ達が堅苦しいタイプだったら宿で落ち着けなくなりそうだな。

「別の宿でお願いします」

この町のグルメは外食で味わうことにしよう。さて、二日後まで時間ができた。のんびりした町をのんびりと観光させてもらおう。