軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百九十五話 裕太の決断

嫌な予感がしていた冒険者ギルドからの話は、少しだけ俺の想像と違っていた。遊びに行くのが遅くなりそうではあるが、俺に依頼を出したのはエルフ、しかも秘薬の類が報酬となれば話は別だ。真剣に内容を吟味しよう。

「少し考えさせてもらえますか?」

間違いを犯さないためにギルドマスターに時間を要求する。

「ええ、しっかり考えてください。エルフ側も急いでいるとはいえ、時間の感覚が長い方達なので十分な時間があります」

時間の感覚か。長い時を生きるエルフ特有のスパンなんだろうな。

ギルドマスターは一度持ち帰って検討すると勘違いしているようだけど、俺は持ち帰って検討するつもりはない。

精霊樹に関係するのならできるだけ力になりたいし、考えるのは俺が力になれるのかどうかと、先に済ませるか後に済ませるか、一人で行くかみんなを連れて行くか、それだけだ。ここで結論を出す。

俺はコッソリとドリーを召喚する。

まあ、最近は冒険者ギルドに精霊術師が増えたから、コッソリと召喚しても精霊の気配に敏感な人は気づいているらしいんだけどね。

でも、ほとんどの精霊術師の冒険者は講習で大精霊の洗礼を受けた人達だから、迷宮都市ではそれほど騒ぎになることはない。

「裕太さん、何か御用ですか?」

ギルドマスターの部屋に召喚されたことも気にせず、穏やかに質問してくるドリー。深窓の令嬢的な雰囲気だけど、ある意味では精神が図太いよね。さすが大精霊。

俺は小さく頷き、目線をシルフィに送る。それだけで理解したのか、シルフィとドリーの話し合いが始まる。

さて、ドリーが状況を把握している間に、俺は俺で考えられることを考えておこう。

精力剤の可能性を考えると、よっぽど時間がかかりそうでない限り、できれば依頼を先に済ませておきたい。

先にエルフの国に行くとして、ジーナ達やベル達を連れていくかどうか、慎重に考える必要がある。

連れて行かずに済ませられるのなら、エルフの国での用事が済んだ後に、このまま帰ってもジーナもベル達も忙しいし、休憩がてらベリル王国でのんびりしよう、的な流れをつくることができる。

迷宮都市からいきなりベリル王国に遊びに行くよりかは、自然な流れだと思うが、言い換えればそれくらいしかメリットがないな。

ふむ、それなら珍しいエルフの国をベル達にもジーナ達にも見学させてあげたい。なんたってエルフの国だもんね。

あれ? 難問かと思っていたが、意外と簡単に結論が出たな。

ヤバい、ギルドマスターが目の前にいるから、深刻な顔で考えるフリをしていたが、考えることがなくなると深刻な顔をするのが地味に辛い。

ドリーに話を聞くまでは深刻な顔を維持するとして……どの店に遊びに行くかでも考えるか? いや、深刻な顔がだらしない顔になる未来しか見えない。

「裕太さん、精霊樹についてですが……裕太さん?」

何を考えるかから始まり、そもそもなぜ深刻な顔をする必要があるのか、それ以前になんで俺は考える必要があるのか、エロは真理で、エロは希望で、エロは宗教で、エロは神……無意味なことを考えすぎて意味が分からなくなって逆に悟りが開けそうな心境になった頃、ドリーが俺に話しかけてくれた。

危なかった。いつの間にか性欲すら失いかねないほど自分が透き通っていた気がする。

「裕太さん、大丈夫ですか?」

ドリーが心配になるほど俺は危なかったらしい。この歳で欲望を失うとか地獄だし、危ないタイミングですくってくれたドリーに感謝だな。俺は感謝を込めてドリーに頷く。マジでありがとう。

「そうですか、良かったです。それで精霊樹についてですね。精霊樹の発生には大きく分けて三パターンがあります。まずは自然発生。これはごく僅かな可能性しかありません。奇跡といってもいいレベルの可能性です。続いて……」

ドリーが精霊樹について詳しく説明してくれた。

まずは自然発生。大精霊が奇跡というレベルってどれくらいの可能性なのか見当もつかない。宝くじよりかはヤバそう。

続いてサクラのように植物を司る系統の高位精霊が生み出すパターン。といっても最低でも大精霊クラスの力が必要らしい。つまり大精霊or精霊王ということだから、こちらも激レア。

最後は精霊樹自身が種を生み出すパターン。こちらも激レアらしい。元々数が少ない精霊樹な上に、寿命も果てしなく長い。その上、精霊樹は種を生み出すと枯れるらしい。

ようするに、どのパターンも激レアで、ガチャなら暴動が起こりかねない排出率だが、精霊樹の力を考えると当然と言えなくもない。

「そして、エルフの国の精霊樹は三つ目のパターンに当てはまる可能性が高いです。精霊樹はよっぽどのことがなければ種を生み出しませんし、その種が発芽しないということなら、それなりの原因があると思われます」

自分の命を賭けて種を残す、そういう状況に追い込まれたということか。碌な事じゃなさそうだな。

解決は可能なのかと視線で訴えると、ドリーは深刻な顔で話し始めた。

「植物関連なら私が居ればほとんどがなんとかなります。それ以外が原因でもシルフィ達と契約している裕太さんなら解決策はあるはずです。ただ……」

ただ、何? そこで止められると怖くなってくるよ。

「……ただ、疑問に思うことが一つあります。エルフが住む森は自然が豊かで、精霊も数多く存在するはずなんです。それなのに精霊樹が発芽に至らない原因が分からないです」

続きを聞いても結局怖かった。

精霊が沢山居るのに発芽しないのがおかしいということは、発芽の条件に精霊が深く関わっているのだろう。

でも精霊は沢山居るはず。そして呼ばれる精霊術師。精霊関連の面倒事なのかな?

普通の国相手なら、精霊の力でパパっと解決! って感じで強気で行けるんだけど、精霊が相手だとそれが難しそうだ。

下手をしたらかなり時間がかかりそうだし、先に遊びに行く選択肢が激しく点滅しはじめたのだけど……ドリーが発芽しない精霊樹の種について強く関心を持っているのが俺にでも分かる。

この状況で先に夜遊びにくりだすのは悪手だろう。畜生、夜遊び計画一時中断、まずは全員で精霊樹の問題解決を目指そう。

「……分かりました。エルフの国の依頼、受けようと思います」

俺がそう告げると、ギルドマスターの顔が満面の笑みに変わった。俺がエルフの国の依頼を受けることで、冒険者ギルドにもなんらかの利益があるのだろう。

危険な商売だし、秘薬でも卸してもらえるのかな? でも、精力剤は俺のだぞ。あるかは分からないけど……。

「では、俺はエルフの国に向かいます。現地の冒険者ギルドに寄れば大丈夫ですよね?」

「え? いえ、依頼を受けていただけるなら、向こうから迎えが来ますよ。遠いですから、送迎は任せた方が……いえ、余計なお世話でしたね。エルフの国へ直接入国するのは問題があります。森の近くの町の冒険者ギルドにお立ち寄りください。連絡できるように手配しておきます」

さすがギルドマスター。シルフィによる飛行移動を知っているのかは分からないが、俺の嫌そうな顔で俺がそれなりの移動手段を保持していることを理解したらしい。

もしかしたらエルフの美女が迎えに来てくれて、キャッハウフフな旅が始まるかもと考えなかった訳ではないが、それでもデメリットが大きい。

たぶん馬車の旅になるだろう。

国が用意する馬車なのだから性能は良さそうだが、それでも快適な空の旅とは比べようもない。

そしてギルドマスターが遠いというくらいだから、馬車の移動でどれほどの時間がかかるか想像もできない。俺の大切な体の一部が暴発してしまう可能性が高まる。

それに旅の間中、シルフィやベル達とのコミュニケーションが制限されてしまうのも辛い。

エルフの美女は、エルフの国に行けば沢山会えるよね。

以上のことを一瞬で考え、俺は自力でエルフの国に行くことを選択した。

それにしてもエルフの国か。なんの問題もない時に普通に観光で訪れたかったな。

***

「みんなも話を聞いていたから分かっていると思うけど、エルフの国に行くことになりました」

宿に戻り、ジーナ達に話しかける。

「あー、師匠。それってあたし達も連れて行ってくれるんだよな? 迷宮は?」

なぜかジーナがおそるおそるといった様子で質問してくる。

「無論一緒だよ。迷宮のアサルトドラゴン討伐は延期、エルフの国の依頼が終わってからだね」

ベル達とジーナ達の別行動も考えたけど、時間が読めないから強制連行だ。ジーナ達が迷宮攻略している間に俺はベリル王国。これは絶対だ。

ジーナ達が大喜びで騒ぎだした。エルフの国に行けることが相当嬉しいようだ。

エルフが想像の産物で、それにロマンを求めていた俺ならその反応も理解できるが、エルフが現実に存在する世界の住人であるジーナ達でも嬉しいのか。

エルフはこの世界でもロマンあふれる存在なんだな。

あっ、だから国なのに隠れ里っぽいのか。注目を一身に浴びるのは辛いし、悪人もよってくるよね。

美形は得だと思うけど、美形すぎるのも善し悪しなんだな。世知辛い。

ちなみにベル達やフクちゃん達もジーナ達と一緒になって騒いでいるが、たぶんあの子達はなんで騒いでいるのかは理解していない。楽しそうだから一緒に騒いでいるだけだな。

でもまあ、可愛いからOKだ。

「えーっと、シルフィ。それでエルフの国がある森まで連れて行ってほしいんだけど、どのくらいかかるかな?」

「そうね、国を三つほど跨ぐからそれなりに時間はかかるけど、楽園から迷宮都市に行くよりかは全然近いわ。半分くらいね」

「そっか、うん、じゃあさっさと依頼を終わらせたいから、明日出発することにするよ。よろしくね」

国を三つ跨ぐのに近いという言葉が出てくる違和感。シルフィの移動速度が異常なのか、死の大地が広すぎるのが問題なのか、どっちなんだろう?

……とりあえずどっちもということにしておこう。

さて、急遽迷宮都市を出発することになったし、トルクさんとマーサさんに話を通しておこう。

あっ、予想通りトルクさんは味噌ラーメンの開発に夢中になっちゃったから、そのへんも釘を刺しておかないとな。でないと俺がマーサさんに叱られてしまう。

あとはメルだな。マリーさん達は……おろした素材で悪巧みしているだろうから、放っておいても構わないだろう。