軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百九十二話 そ、そこはダメ

迷宮都市に到着し少しゆっくりしようと思ったのだが、ベル達は迷宮都市のマップ作りに出発し、ジーナ達は冒険者ギルドに情報収集に出かけてしまった。ついでにトルクさんはオーク骨ラーメンに手をだして異臭を漂わせていた。今回の迷宮都市訪問も微妙に忙しそうだ。

「あー、マーサにも言われたが、そんなに臭うか?」

シルフィに頼んで換気してもらったから、さすがに厨房にこもった臭いに気がついたらしい。

言われるまで気がつかないあたり、かなり末期な気がする。

「ええ、宿屋家業&料理人として問題になりそうなくらい臭っています」

昔の小さな宿屋時代ならともかく、増築してそれなりに宿屋のランクが上がった現在は問題ありだろう。

乳製品の甘味も加わって女性客が増えているから、そこら辺には気を遣わないとね。

「むぅ、やっぱりか」

すごく不満そうなトルクさん。臭いことは理解していても、料理研究のために認めたくないのだろう。

「実は新しいラーメン、味噌ラーメンを作ってもらいたいんです」

トルクさんに臭いから止めろと言っても無駄だろうから、代案を用意しないといけない。

「本当か? いやしかし、うーん……一度始めちまったものを途中で止めるのもなぁ……」

興味津々な様子ではあるものの、豚骨ラーメンにも未練たっぷりなようだ。

俺としては豚骨ラーメンを頑張ってもらうのは歓迎なのだが、マーサさんに迷惑をかけるわけにはいかない。怖いから。

「オークの骨のラーメンは環境を整備してから、改めて挑戦しましょう。でないとそろそろマーサさんに本気で怒られますよ?」

「…‥そうだな、宿屋なんだから臭いは気にしないとな。裕太、味噌ラーメンについて詳しく教えてくれ」

マーサさんの怒りにトルクさんも気がついていたのか、意外と簡単に納得してくれた。

代案の味噌ラーメンの効果もあると思うけど、マーサさんがキレれば簡単だったんじゃないのかな?

「それでどうするんだ。何を用意すればいい?」

「俺もあやふやなんですが……」

味噌ラーメンについて俺が知っている限りをふんわりと説明する。あやふやな説明だが、トルクさんならなんとかするだろう。

「なるほど、味噌と合わせるスープが難しそうだな。いくつか作ってためしてみよう」

さすがプロの料理人、俺の話と鶏ガラ醤油ラーメンの経験からある程度完成図が見えたようだ。

「裕太、味噌をくれ」

「……マーサさんに渡しておきますから、マーサさんから受け取ってください」

マーサさんに味噌を渡すと約束しているから、トルクさんにわたすわけにはいかない。

「お、おい、マーサに渡したら研究がし辛くなるだろうが」

それが目的でマーサさんに管理してもらうんだよね。味噌ラーメンは食べたいが、マーサさんを敵に回すくらいなら時間がかかった方がマシだ。

「では失礼します。あっ、味噌を貰いに行くのは自由ですが、先に厨房を片付けたほうが良いですよ。マーサさん、臭いをかなり嫌がっていましたからね」

言うだけ言って厨房を後にする。

諦め悪く俺の方に手を伸ばしていたが、シルフィの風が臭いを防いでいる間に片付けた方が楽だと思うよ。頑張ってください。

「マーサさん、いま大丈夫ですか?」

厨房から出た後、カウンターに座っているマーサさんに声をかける。報連相、大事だよね。自分まで被害が及びそうな場合は特に……。

「おや、裕太かい。大丈夫だよ」

「トルクさん、オークの骨を煮込むのを止めてくれましたよ」

「おや、そうかい。ありがとう、助かったよ。今晩は一品オマケするから、期待しておくれよ」

豪快な肝っ玉お母さんタイプのマーサさんだけど、臭いには困っていたのか本気で喜んでくれているようだ。

オマケか。あれだね、お金持ちになったのだから、一品オマケくらいで大喜びする必要はないのだが、根が庶民だからか普通に嬉しい。

「ありがとうございます。次からはこの味噌を研究すると思いますから、管理をお願いしますね」

「了解。しっかり管理しておくよ。しばらくは厳しくしようかね」

ふむ、しばらくトルクさんは苦難の日々を送りそうだな。味噌ラーメンのためにしっかり頑張ってもらいたい。

さて、最低限の義理は果たした。次は……メルのところに顔を出しても良いけど、それならジーナ達と一緒の方がいいよな。

特に急いでやることもないしベル達とジーナ達が戻ってくるまで、部屋で今後の計画を煮詰めるか。

あっ、今日はベル達もジーナ達も帰ってくる時間が読めないから、夕食は部屋で食べられるようにお願いしておこう。

***

「べるかえってきたー」「キュー」「ただいま」「クゥ」「もどったぜ」「……」

おっ、もうベル達が戻ってきたのか。

意気込んで飛び出していったから帰ってくるのは少し遅くなると思っていたが、意外と早かった……あれ? もう外が暗くなりかけている。

予想通りベル達はしっかり迷宮都市を探索して戻ってきていたようだ。

あれだね、どのお店に行くのか考えるのが楽しすぎて、時間があっという間に過ぎていたらしい。

「おかえりみんな。楽しかった?」

「たのしかったー」「キュキュー」「じゅうじつ」「クゥ!」「さいこうだぜ」「……」

本当に楽しかったのかベル達が興奮気味に群がってきて、俺の体に次々に装備される。そしてそのまま今日の報告会が始まる。

「あのねー。あっちにもみちあったー」

「キュ、キュキュ、キュゥーキュ」

「おみせがいろいろあるのがおもしろい」

「クゥ! クー……クゥ?」

「あなばはっけんだぜ!」

「…………」

ふふ、予想以上に難しい。

コミュニケーションを強化して、ベル達の言葉が少しは理解できるようになったと思っていたが、まだまだ甘かったようだ。

まあ地図の説明なんて大人が地図を見ながらでも難しいんだから、ベル達の説明では難易度マックスだよね。

うーん、ベル達の話を聞きながら俺がマップを作ってもいいんだけど……全部自分達だけでやるのが楽しいという一面もある。

ここはおとなしく話を聞くだけにしておくか。こっちでマップが完成してベル達が飽きちゃったら事だもんね。

悟りが開けそうな心持ちでベル達の話を聞いていると、部屋のドアがノックされた。どうやらジーナ達が帰ってきたようだ。

よく帰ってきてくれたという気持ちと、もう少し早く帰ってきてほしかった気持ちがせめぎ合っている。

まあ、とりあえずご飯にしよう。

夕食のオマケ一品は、分厚いチキンカツが全員にプラスされた。正直、オマケとして提供されるには高カロリーだが、美味しかったので問題はない。

ジーナ達も冒険者ギルドでの情報収集が上手くいったようだし、全員充実した一日が送れたようで何よりだと思う。

ただ気になることが一つある。

ジーナ達が冒険者ギルドに行ったところ、ギルマスの有能秘書っぽいリシュリーさんから俺の予定を何度も聞かれたのだそうだ。

そして、できれば俺に冒険者ギルドに顔を出してほしいという伝言まで受け取った。

前ギルマスの時と比べると関係は悪くないのだが、俺がかなり暴れたから警戒されているのは間違いない。

だから基本的に呼び出しなんかされないのに、ジーナ達が用件を確認したところ言えないの一点張り。

精霊術師講習についてなら言えないこともないし、なんだかとても面倒な予感がする。

今回は冒険者ギルドに顔を出さないでおこうかとも思うが……それだとジーナ達が冒険者ギルドに顔を出し辛くなる。

アサルトドラゴン討伐をするように言ったのは俺だから、ジーナ達が冒険者ギルドを利用し辛くなるのは好ましくない。

ちくしょう、行くしかないか。

問題は遊びに行く前に顔を出すか、遊びに行った後に顔を出すかだな。

一週間くらいは放置できそうだから遊びに行った後でも問題ないが、それだと呼び出しの理由が気になって遊びに集中できない気がする。

テストが終わって自由なのに、テストが返却されるまでの嫌な気持ち。

点数が悪いのは確定なのに、不安と希望がないまぜになったあのモヤモヤ感。そんな気持ちを抱えていたら全力で楽しめない。

……しょうがない。嫌なことは先に終わらせておいた方が楽だし、迷宮都市の細々とした用事を済ませてから冒険者ギルドに顔を出すことにしよう。

「ジーナ、次にギルドで俺の予定を聞かれたら、三日後くらいに顔を出すと伝えておいて」

メルのところとマリーさんのところ、迷宮のコアのところなら三日もあれば十分だろう。

「ん、了解。じゃああたし達はそろそろ休むよ。キッカも眠たそうだしな」

ジーナの言葉でキッカを見ると、たしかに寝落ちしそうになっている。お腹いっぱいになったから眠くなったのだろう。

「分かった。みんな、お休み」

「「「「おやすみなさい」」」」

部屋から出ていくジーナ達を見送ると、ベル達がワラワラと集まってきた。たぶん、途中で終わっていた迷宮都市マップの続きをするつもりだろう。

俺も寝落ちしたい。

ベル達が可愛らしいのは間違いないんだけど、解読が難解すぎるんだよね。

「裕太」

「ん? シルフィ、どうしたの?」

もしかして助けてくれるの?

「ベル達とお話するんでしょ? その前に少しでいいからお酒を出しておいて。できれば蒸留酒がいいわ」

おい! とツッコミたいところだが、数日後にはベリルに連れて行ってもらわなければいけない。

報酬の先払いも兼ねて蒸留酒を提供しておくか。

「……いつもはもっとゴネるのに、素直に出したわね。裕太、あなた何か企んでる?」

素直に提供したのに疑いの眼差しで酷いことを言われた。まあ、企んでいるんだけどね。シルフィの勘の鋭さがエゲツナイ。

「要らないならいいよ」

「要るわ」

ご機嫌を損ねても良いことはないので、蒸留酒とコップを提供しておく。そしてまだ? まだなの? と待機しているベル達に向き合う。今夜は長くなりそうだ。

「それでねー」

「うんうん」

やっぱり長くなった。ベル達、本当に隅々まで迷宮都市を探索しているようだ。まだ全部回りきっていない状態でこれだ、これからの毎日が少し心配になる。

「それでねー。ここー、みんなはだかだったー」

「うんうん……うん?」

あれ? みんな裸? たしか大衆浴場なんて素敵な物はなかったよね? あれ? 俺が知らないだけ?

「ベ、ベル、そこはどこらへんかな? シルフィ、ちょっと確認して」

ベルに頼んでシルフィに場所を伝えてもらうが、酷く嫌な予感がして怖い。

「あぁ、そこら辺は歓楽街ね」

やっぱりかー。俺は目立っちゃったから行かないことにしていたけど、迷宮都市にも歓楽街はあるんだよね。

「そ、そこはダメ、みんな、歓楽街周辺は行くの禁止!」

えーなんでー、とベル達は不満顔だが、さすがに歓楽街マップをベル達に作らせる訳にはいかない。

これはなんとしてでも阻止だ。