軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百九十話 裕太の悪辣な罠

ジーナ達を迷宮の奥に送り込み時間稼ぎ……アサルトドラゴンに対抗するための訓練を開始することにした。俗に言うパワーアップイベントと言うやつだ。ここで鍛えた力によってジーナ達は名実ともに一流の仲間入りをすることになるだろう。精霊術師万歳!

「マメちゃん、いくよー」

「ホキョー!」

ホキョーってなんだ? 気合か? 気合が入った鳴き声なのか?

どうでもいい疑問だがとても気になる疑問と共に、マメちゃんから無数の風の刃が放たれ、的を粉みじんに吹き飛ばす。

「おししょうさまみた? キッカできたよね?」

「お、おう、すごいぞキッカ。ちゃんとできてたぞ」

「ホー」

「うん、マメちゃんも凄かった。二人とも凄いな」

技が終わり笑顔で報告に来たキッカとマメちゃんを撫でながら褒める。

たしかにちゃんとできていた。おそらくベルの風神乱舞と同系統の技だが、ベルのそれと威力は並ぶところまで近づいているように見えた。

まあ俺もベルの全力は知らないし、厳密に並んだと判断はできないが間違いなくパワーアップはしている。

「キッカ、魔力は大丈夫なのか?」

「うーんと……たくさんがんばったから……つぎはすくなくしないとあぶない?」

さすがに魔力の管理はまだ難しいのか、俺の質問に首を傾げながら頭を悩ませている。

「そうか、なら次からはキッカが言ったように込める魔力を少なくして、ちゃんと自分の限界を把握できるようにコントロールしながら頑張ってごらん」

「わかった。マメちゃんいこっ!」

「ホー」

元気に駆けて行くキッカ。出会った頃の酷いありさまを思うと元気で明るくなったことは喜ばしいが、風の刃で標的を粉みじんにする幼女に成長してしまった。

死が身近な世界だから強いことは正義なのだが、だからといってこれはどうなんだろう? ありなのかな?

……まあ、可愛くていい子だから大丈夫か。若干遠い目をしていると、他の弟子達の様子が目に飛び込んでくる。

ジーナはシバと巨大な炎を、サラはフクちゃんと激しい竜巻を、マルコはウリと巨大な土壁をと、それぞれに今まででは無理な規模の精霊術を行使している。

「ねえシルフィ」

「なに?」

「シルフィ達が教えればそれほど難しくないとは聞いていたけど、短期間でパワーアップしすぎじゃないかな? 一応、精霊術師の名門でも使いこなせる家は少ないという秘術なんだよね?」

事前説明で聞いた話とずいぶん違う気がする。

秘術に相当する技を三日でマスターって……もしかしてジーナ達って天才?

「名門とあの子達では前提条件が違うのよ」

「そりゃあ大精霊の教えを直接受けるんだからそうかもしれないけど、秘術なんだよね?」

歴史がある名門だろうと、大精霊の教えに比べれば月とスッポンなのは理解できる。

メルなんて精霊術とは関係ないのに、ノモスに教えを受けて劣化版とはいえダマスカスを造っちゃうくらいだもんね。

「私達の教えというよりも、場所の問題ね」

「……場所ってことは聖域だからってこと?」

「そうよ、この技で大切なのは精霊と術者の意思の疎通とタイミング。気配しか感じられない術者と、会話はできないとしても直接見て触れ合いながら調整できる術者では難易度に差がでるのも当然でしょ? それに加えて私達が教えているんだもの、習得が早いのもあたりまえよ」

「なるほど……」

場所と教師がチートってことだな。理解した。

「でも、楽園を出ても使いこなせないと意味がないから、まだ完璧に習得したとは言えないわね」

楽園を出たら姿も見えなくなるし声も聞こえない。その状態で使いこなせてこそってことだな。

あんまりにも簡単にパワーアップしたら、それはそれで教育に悪そうだから、まだ次の段階があることに少しホッとする。

ジーナ達が簡単に増長するとは思えないが、思春期は怖いからね。ジーナはともかく、サラ達が天狗になったり厨二病を発症したら辛すぎる。

特にマルコ。あの子は仮面とバラとタキシードの紳士に憧れの目を向けていたから、要注意だ。

「それなら楽園から出て訓練する?」

「まだ魔力の管理が不安だから、あと数日訓練してからね」

「了解」

まあ順調ってことなら良いか。ジーナ達には頑張って訓練してもらって、見事にアサルトドラゴンを討伐してもらおう。

「じゃあシルフィ、俺はベル達の様子を見てくるよ。ジーナ達のことをお願いね」

「ふふ、こっちは大丈夫だから、しっかりベル達の話を聞いてあげなさい」

「あはは、うん、しっかり聞いてくるよ」

俺はジーナ達の訓練をシルフィ達に任せ、ベル達の様子を見に行くことにする。さて、あっちはどうなっているかな?

三日前、ジーナ達とフクちゃん達の訓練を開始した後、ベル達も当然のごとく自分達もやりたいと群がってきた。

その気持ちは理解できるが、ジーナ達のパワーアップイベントは俺とベル達には向かない。

という訳で、大人の汚い常套手段、子供の気を別に逸らすを発動。

群がるベル達を宥めつつ、頭の中で必死に気を逸らす方法を考え、そして思いついた。

ベル達の気を逸らす上に、迷宮都市滞在中にベル達を楽園に一時帰還させるナイスアイデアを。

欲望が絡むと、俺の脳は天才と並ぶかもしれない。そう思ったほどのナイスアイデアだった。

さっそく俺は肖像画の時に手に入れた紙を張り合わせ、大きな一枚の紙を作った。

なに? これなに? 面白いの? と興味津々なベル達を宥めながら、大きな紙に簡略化した迷宮都市のマップを書く。

観光地などでよくみるタイプのマップ、迷宮都市バージョンだ。

そして俺はベル達に言った、『これに迷宮都市のお店、美味しい屋台の場所とかを書き加えたら面白くない?』と。

俺の悪辣な罠に、素直で可愛らしいベル達はアッサリと引っ掛かり、俺から離れて簡易マップに群がった。

少しだけ寂しかったが、これでベル達は訓練を忘れ簡易マップに夢中になる。その上、迷宮都市に行ったら簡易マップの完成度を上げるために迷宮都市中を飛び回るだろう。

そしてある程度ベル達が迷宮都市を調べ回った後に、俺はそっとささやく。一度楽園に戻って簡易マップに情報を書き加えてくれば? と……。

おそらくベル達は俺の提案に飛びつくだろう。

普通なら少し時間が経ったら呼び戻すということになるだろうが、優秀なベル達なら書き加えることが沢山あるだろうから、呼び戻すのは三日後くらいかな? とでもいえば時間が稼げると思う。

戻ったベル達の面倒はディーネ……とドリーは迷宮の予定だから、ノモス……も微妙、イフやヴィータ、ルビー達に頼んでおけば問題はない。

おっと、考えている間に、もう家まで到着してしまった。悪いことを考えていると時間の経過がとても早いな。

玄関から中に入り階段を上ってベル達の部屋に向かうと、部屋の中からベル達の楽しそうな声が聞こえてくる。

会話の内容から察するに、今もみんなで簡易マップ作製に夢中なようだ。

「みんな、入るよー」

ノックをしながら声をかけると、元気なお返事が返ってきたので中に入る。

「ゆーたー」「キュー」「たのしい」「クゥ!」「みるんだぜ!」「……」「あう!」

部屋に入るとベル達が群がってくる。いつもならここでベル達が装備品に早変わりして撫でくり回すのだが最近は違う。

そのままベル達に引っ張られ、簡易マップの前に案内される。

「うわっ、また沢山書いたね。すごいよみんな」

子供相手になんでも凄いと褒めまくるのではなく、実際に凄いので本気で褒める。

俺が描いたのは大通りだけの単純な簡易マップなのだが、現在はそこに生活道や路地までしっかりと描き込まれている。

しかも想像やなんとなくで描いた訳ではないようで、ちゃんと六人で話し合い納得した部分だけ描き込んでいるらしく、記憶があやふやな部分は空白になっていて、そこにベル達の信念と拘りを感じる。

線は子供が描いたかのように乱れてはいるが、地図としてはちゃんと機能しているようで、説明されると、たしかにそこには路地があった気がすると納得できる出来映えだ。

そしてなにより驚くのが、お店や屋台の部分に拙いながらも文字が書いてあるところだ。

なんと、俺達の生活の中で、教えても居ないのにトゥルが字をある程度マスターしていたらしい。

最初は絵を描いてなんのお店か表現させるつもりだったから、俺だけじゃなくシルフィ達も盛大に驚いた。

「ゆーたー。ここがとるくー。それでこっちがまりー。ここがめいきゅー、ここがおにくー」

そして始まるベル達の説明会。

新たに書き加えた部分だけ教えてくれたら十分なのだが、ベル達は毎回最初からしっかりと説明してくれる。

可愛らしいベル達の説明はホッコリするのだが、さすがに何回も同じ説明をされると辛い。

完璧なアイデアを思い付いたと自画自賛をしまくってはいたが、ここだけは失敗したと思う部分だ。

まあそれでも最初から最後まで全部しっかり聞くんだけどね。

それが一人で遊びに行く俺のベル達への贖罪だ。

「すごいねみんな。まだ空白の部分は、次に迷宮都市に行った時にしっかり調べようね」

話を最後まで聞き、そして結論を告げる。

「しらべるー」「キュー」「がんばる」「クゥ」「よゆうだぜ」「……」「あい!」

みんな元気にお返事してくれるのだが、再び頭を寄せ集めて地図を修正し、そしてまた俺に最初から説明してくれる。いわゆる無限ループに突入してしまっている。

たぶん、迷宮都市に行くまでにあと何回か……いや何十回か地図の説明を受けることになるだろう。贖罪とはいえ、なかなかハードだと思う。

ん?

あぁ、ベルがやけにサクラに話しかけていると思ったら、簡易マップを利用しながら迷宮都市のことをサクラに説明してあげているのか。

サクラは迷宮都市に行けないもんな。

サクラは精霊樹から離れることはできないのだろうか? 成長したり魔道具か何かを利用すれば可能なら、サクラを迷宮都市に連れて行ってあげたいな。あとでシルフィ達に相談してみよう。

それにしてもベル達は完璧に地図作りにハマったな。あっ、線がブレているから、後で定規を用意してあげよう。

いっそのこと、新しく地図を描く紙を用意しておくか。今の地図が完成したら清書させることにすれば、三日なんてすぐに潰れるだろう。

うん、迷宮都市に行く前にしっかり準備を整えておかないとな。