軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百八十二話 少し安心した

見捨てて後悔するのは嫌なので、渋々元ギルマスとエルティナさんが居る開拓村を助けに行くことにした。素直になれないお年頃なので、弟子達の修行の為という理由をでっちあげた俺は、結構可愛らしいところがあると思う。

「俺はテロンさんを手伝うからジーナ達は村を見せてもらって、改善できそうなところを探してきてくれ。他の人達が寝ているから静かにね」

本来なら村長の許可も取らずに勝手に村を見て回るのはどうかと思うが、村自体が見通し抜群のオープンスタイルだから、許可を取らなくても大丈夫だろう。

テロンさんから許可をもらうこともできそうだけど、テロンさんに聞いたら村長さんに聞いてきますって走り出しそうだから勝手にさせてもらう。

「師匠、農作業は手伝わなくていいのか?」

「うん、こっちは俺だけで大丈夫」

ジーナが心配してくれるが見た感じ、畑の規模がショボく手伝ってもらっても手が余りそうなので断る。

「分かった。じゃあみんな行くぞ」

ジーナがサラ達を率いて村の視察に向かう。

……改善が必要な点が多すぎてジーナ達が混乱しないかが心配だな。

ん? そういえばこの村って罪人も居るんだよな。

フクちゃん達も一緒だし、ジーナ達もかなり強くなった。そのうえシルフィが居るのだから大丈夫だと思うが……念のためにディーネを召喚してジーナ達の傍で護衛をしてもらおう。

「うふふー。お姉ちゃん登場ー」

妙にご機嫌なディーネが召喚された。いつも元気でポヤポヤしているタイプだけど、今日は更に機嫌が良いようだ。

お気に入りの寝床を守れたからご機嫌なのかな?

「裕太ちゃん、どうしたのー?」

ディーネが召喚の理由を聞いてくるがテロンさんが居るしシルフィに説明を……と思ったが、テロンさんは去っていくジーナ達の後ろ姿を見ながら、子供が元気なのは素晴らしいですねと呟いているから問題なさそうだ。

(ディーネ、悪いけどジーナ達の護衛をお願い)

「ジーナちゃん達の護衛―? わかったわ、お姉ちゃんに任せなさいー」

(うん、たのむよ)

ふわふわと飛んでいくディーネを見送る。さて、これで大抵のことがあっても大丈夫だろう。

「裕太、さすがに過保護が過ぎるんじゃない? ジーナはもう大人だし、サラ達だって冒険者としての実力はたしかなのよ?」

……シルフィの言うとおりなのだけど、心配なんだもん。しょうがないじゃないか。

「ふぅ、精霊術師の為に孤児を利用するとか言っていた裕太は、どこに行ったのかしらね?」

そんなことを言っていた過去もありました。でもジーナ達に完璧に情が移っちゃったから、利用するなんて無理です。

シルフィも分かっていて聞いているよね? 半笑いだもん。

「ゆーた、べるたちはー」

ベル達が俺の顔の周りに集まり、次は自分達の番だと疑いのない眼で俺を見つめている。

ここで仕事がないとは言い辛いな。チラッとテロンさんを見るが、まだほのぼのとしているから大丈夫っぽい。

(ベル達は村の周囲を偵察してくれ。アンデッドの巣の場所が分かると嬉しい)

「いえっさー」「きゅきゅっきゅー」「いえっさー」「ククックー」「いえっさーだぜ」「…………」

ベル達が久しぶりに敬礼をしながら返事をしてくれる。たぶん今日は外でのお仕事で任務っぽいから気合が入ったんだろうな。

敬礼姿はとっても可愛らしいが、そろそろ忘れてほしいと思うのは俺の贅沢なのだろうか?

……まあ考えても仕方がないか。いずれ忘れてくれると信じよう。

さて農作業を……と思ったが、テロンさんがまだほのぼのしている。目つきに嫌らしさの欠片もないからジーナに惚れたとか、サラ達を見て興奮したとかの危険な趣味ではなく純粋に子供が好きなのだろう。

見た感じ俺よりも少し年上っぽいし、もしかしたら子供が居てその子とサラ達を重ねているのかもしれない。

テロンさんの人生に興味がない訳ではないが、こんな村に流されている時点で地雷が敷き詰められている可能性が高い。聞くのは止めておこう。

「テロンさん、まず何をするんですか?」

「へ? あっ、はい、えーっとですね……」

テロンさん……慌てすぎだよ。

***

「A級冒険者って凄いです!」

テロンさんが驚愕の眼差しで褒めてくれるものだから、俺はとても調子に乗っている。

畑の世話はそれほど苦労なく終わり、この村についても必要そうな話はしっかり聞けた。

まだジーナ達もベル達も戻ってきておらず、他の仕事はないのかとテロンさんに尋ねると、普通の農作業が終わると少し離れた場所を新たに開墾していると教えられた。

そこに行ってみると、ポツポツと雑草が生えている荒れた大地に、申し訳程度に耕された小さな畑があった。

テロンさんはサボるタイプには見えないし、おそらく一生懸命にやってのこの結果なのだろう。

少し同情してしまった俺は、まだどの程度開拓村を支援するのかも決めていないのに、開拓ツール(鍬)を抜いてしまった。

巨大化した鍬に驚くテロンさんに気を良くして、ザックザックと荒れ地を耕していく。

正直アンデッドはともかく、国々の力関係を考えるとあまり肩入れするのも不味いのだけど、まあ畑を耕すくらいなら構わないか。

土も貧弱だし、耕しただけではそれほど力関係には影響しないよね。

それにしても、俺ってテロンさんの掌の上で転がされてない?

もしかしてあのお人よし全開な雰囲気が演技だったら……いや、ないな、俺を利用しようとするのならもっとしっかり褒めるだろう。

純粋な驚きと尊敬の目が心地良くて調子に乗ったのであって、言葉に煽てられたからではない。

仮に全てがテロンさんの計算通りだったとしたら、それならそれで構わない。俺が多少の労力を払うだけだし、その演技の技術の代金とでも考えよう。

尊敬の眼差しすら素直に受け取れない自分が、とても薄汚れたように思える。

「ジーナ、サラ、マルコ、キッカ、ご苦労様」

耕運機以上の速度で荒れ地を耕しているとジーナ達が戻ってきたので言葉をかけ、ディーネには目線で礼を言う。

あんまりやり過ぎても駄目だし、この辺りで終わりにするか。あとはジーナ達の話を聞きながら村人達が起きてくるのを待とう。

うん? ただいまと言った後にジーナ達の言葉が続かない。普段なら色々と見てきた物を報告してくれるのだけど、妙にテロンさんを気にした様子でソワソワしている。

あっ、なるほど、テロンさんの前では言い辛い内容なんだな。この村を見て回って楽しげな報告ができる訳がないことを失念していた。

「テロンさん。俺達は休憩しますけど、どうしますか? なにか予定がおありでしたら、俺達のことは気にせずに行動してください」

ちょっと露骨だったかな? まあこれでも一緒に居ると言うのなら、ジーナ達の報告は後で聞くことにしよう。

「え? そうですか? あれ? でも、お客様を放置するのは駄目ですよね?」

「あはは、俺達はただ座って休むだけですから、気にしないでください」

「分かりました。では私は片付けと細々とした用事を済ませてきますね。あっ、村長達が起きたらすぐに呼びにきます」

テロンさんは俺の言葉の裏にもまったく気がついていない様子で去っていった。マジで俺は自分の心を浄化する必要があるのかもしれない。

「それで、村はどうだった?」

「スラムの私達の家よりは立派でしたけど、ところどころ薄汚れていて細かいところまで浄化する余裕もないようでした」

サラがなんだか探偵みたいな観察力を発揮している気がする。

「たべもののにおいもほとんどしなかったし、スラムとにたにおいがした」

マルコは匂いが気になったようだ。獣人だからかな?

「おししょうさま、あのね、せいれいさんがいないの」

精霊が居ない? そういえばここに来てから身内以外の精霊を見ていないな。村を造って開拓をしているが、精霊にとって居心地が良い場所にはなっていないようだ。

キッカ、よく気がついたな。偉いぞ。

「……ジーナ?」

キッカの後にジーナが続くと思ったのだが、ジーナは暗い顔で黙っている。なにかグロいものでも見ちゃったのかな?

「あっ、悪い。えーっと、こんな大変そうな場所があるなんて思ってなくて、少しビックリした」

……あー、そういえばジーナって話し方は男っぽいけど、実際には箱入りで育てられた女の子だったな。

迷宮都市は都会だし、スラムの存在を知ってはいても直接は見ていなかったのだろう。楽園はそれなりに設備が整っているし、ヴィクトーさん率いる遺跡の発掘現場は物資も豊富で活気もある。

純粋に貧しい村を目の当たりにして、カルチャーショックを受けたようだ。本格的に報告を聞く前に温かいお茶でも飲ませて落ち着かせよう。

***

ジーナにはミルクティを渡し、サラ達にも飲み物を渡してゆっくりと報告を聞く。

予想通り追加の報告も良い情報はなく、柵が貧弱でボロかっただとか、死の大地側の柵の向こうにはアンデッドの残骸が処理しきれずに残っていたとか、結構ヤバそうな情報が満載だった。

そんな話を聞きながらジーナの様子も落ち着いてきた頃、テロンさんが走って俺達を呼びにきた。

どうやらみんな起きたらしい。

「貴様は!」

テロンさんに案内されて村長さんの家に向かうと、村長らしき人の隣から憎しみが籠った声が飛んできた。

はい、前ギルマスですね。

村長の隣に居るってことは、村の中でもそれなりに重要なポストを得ているってこと?

この村に罪人として送り込まれてまだ一年も経っていないのに、もうそこまで出世したのなら、優秀な人間はどこに行っても優秀ってことなのだろう。

少しムカつく……と思ったけど、前ギルマスの姿を見るとそうでもないな。

元々スタイリッシュな見た目だったが、そこから更に肉が落ちて頬もこけて痩せすぎといった印象を受ける。

目の下には濃いクマがあり、安物の小汚い衣装も相まって見すぼらしい雰囲気さえ漂わせている。

結論、めちゃくちゃ苦労しているっぽい。

それなりの立場を築いたとしても、ここまで転落した男にムカつきを覚えるほど、俺の心は腐りきってはいなかったらしい。

先程まで自分の心の汚さに切なくなっていたから、少し安心した。