軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百八十話 精霊を怒らせると怖い

ディーネのお願いで海底火山の噴火を阻止することになり、それはノモスとイフの力でサックリと解決した。そしてその過程で判明した精霊のお酒大量生産問題を追及しようとすると、シルフィから話題逸らしの為に別の問題を提起されてしまった。

「それでシルフィ、楽園の影響で開拓村をアンデッドが襲っているってどういうこと?」

俺は正義の味方という訳ではないから、自分と関係ない場所での争いは気にしない。

でも、自分の影響で他人に迷惑を掛けるのは気まずいという、日本人らしい気質も兼ね備えている。

その気質をシルフィに見抜かれ、まんまと転がされているのは分かっているのだが、それでも気になってしまう自分が悲しい。

「楽園ができた影響でアンデッドが追いやられて、開拓村への襲撃が増えたのよ」

うん、それはなんとなく分かる。

「でも距離が離れているし、俺が多少無茶をしても周囲にそれほど影響はないって言ってたよね?」

開拓当初にシルフィからそう聞いた覚えがある。徒歩とはいえ、100日かかる場所は相当遠い。

「多少はね」

「……もしかして多少の域を超えたってこと?」

「聖域、精霊樹、聖域の拡張、精霊王様の来訪、酒島に集まる大精霊に上級精霊、拡張されて増えた中級精霊達、それって多少?」

「あっ、うん、多少じゃないね」

凄く納得した。シルフィが言ったこと以外にも色々とやっているし、多少どころか大幅に無茶をしているよね。

「後はジーナ達の影響も大きいわね」

「ジーナ達の影響? むしろアンデッドが寄ってきそうな気がするけど?」

ジーナは美女だしサラ達は可愛い子供だ。勝てるかは別問題としても、アンデッドからすれば魅力的な獲物に思える。

「あの子達、訓練も兼ねてアンデッドを狩っているでしょ?」

「うん、ジーナ達は真面目だし実戦の勘を鈍らせないためにも狩りに行っているね」

レベル的にはそれほど美味しい獲物ではないが、周囲の浄化も兼ねて頑張ってくれている。

でも、結果的にアンデッドを追いやる可能性があるにしても、退治もしているのだからシルフィが言うほど大きな影響を与えるとは思えない。

シルフィ達大精霊も付き添いで行っているから、そのくらいは知っているはずだ。

「裕太はジーナ達に戦い終わったらちゃんと後始末するように教えたわよね?」

ピンときていない様子の俺に、シルフィが説明を重ねてくれる。ズバッと言わないのはそれくらい自分で気がつきなさいということだろう。

そういうことなら俺も負けていられない。しっかり考えねば。

戦いの後の後始末ってことは、魔石の回収と……アンデッドの住居を更地にすることだよね。

偶に俺も付き添うけど、ジーナ達はきっちりアンデッドの住居を見つけて巣ごと潰している。

ん? 巣ごと潰す?

「……もしかして、外に出ているアンデッドの帰る場所も奪っているってこと?」

「正解。この辺りどころか結構な範囲を綺麗に掃除しているから、少数のアンデッドですら隠れられる場所がないわね」

……つまり気がついたら家がない。サンサンと日光が降りそそぐ死の大地で、日の光に弱いアンデッドから隠れる隙間もないほどの住処の排除。

うわー、そりゃあ逃げるわ。ちゃんとした意識がないアンデッドはそのまま滅ぶだろうけど、多少思考可能なアンデッドなら裸足で逃げ出す。

あっ、アンデッドは元々裸足だったな。

いやいや、そんなくだらないことを気にしている場合じゃない。

多少頭が回るアンデッドなら、次々に巣ごと潰されている危険地帯からは離れようとするだろう。

撃退しようとするかもしれないが、頭が回れば回るほど無理なことに気がつく。だって何体もの上位種もろともに排除されているんだもん。

リッチやキングクラスなら当然勝てないと理解するはずだ。

そしてそいつらが巣を移せば、それに引っ張られて意識のない下級アンデッドも移動する。

そんでもってその群れに収まりきらなかったアンデッドが、更に先にまで追い出される。

いや、ジーナ達の討伐範囲も広がっているから、リッチやキングクラスのアンデッドも安全の為にドンドン移動しているのかもしれない。

開拓村付近にはそれほど強力なアンデッドは出ないって聞いていたけど、ドミノ倒しで移動しているのならかなり危険なことになっている可能性がある。

「シルフィ、もしかして開拓村が滅んだりしてない?」

「ふふ、さすがにそこまで危険なことになっていないわよ。せいぜい襲撃の回数が倍以上になって、襲ってくるアンデッドの中にナイトなんかの上位種が交ざるようになったくらいね」

それなら安心……できないよね。危険度マシマシになっているよね。

「ねえシルフィ、なんでもっと早く教えてくれなかったの? それならもっと早く対処できたのに」

今までのシルフィの話しぶりからすると、ずいぶん前から開拓村の現状を把握していたはずだ。

「裕太の影響もあるけど、元々死の大地のアンデッドはこの大陸にすむ人間達の業だもの。責任は裕太じゃなくてこの大陸に住む人間が取らないといけないのよ」

……死の大地が生まれたのってずいぶん昔のはずだから、今の住人にはほとんど関係ないはずだが、気が遠くなるほど長いスパンを生きる精霊からすれば、まだ罪から逃れられないらしい。

精霊を怒らせると怖いな。

「ん? じゃあなんで俺に教えたの? やっぱりお酒から話題を逸らすため?」

知らなければ気に病むこともないんだから、どうせなら最後まで黙っていてほしかった。

「違うわよ! いくら向こうに責任があったとしても、裕太の影響で開拓村が滅んだのを後から知ったら裕太が気に病むでしょ。もう少ししたら裕太に教えるつもりだったわ」

「そうなんだ。でも、ちょっと厳し過ぎない?」

というかもうシルフィ、話題を逸らすためだったって自白してない? もう少し黙っているつもりだった開拓村の危機を、話題逸らしで話したってことだよね?

「いいのよ、主に襲われている開拓村には迷宮都市の前ギルマスやエルティナが居るんだから、少しは苦労させないと反省できないでしょ」

前ギルマスとエルティナさん? なんだかすごく懐かしい人が出てきたな。

そういえばあの人達、開拓村に移動させられたんだった。

なるほど、前ギルマスもエルティナさんも精霊術師をバカにしまくっていた上に、俺にたいして嫌がらせをしまくっていたから、俺もだけどシルフィ達の怒りも高値で買いまくっていたな。

うん、すぐにフォローしなかった理由が分かった。やっぱり精霊の怒りを買うのは怖いってことだな。

「でも、他の開拓村の人達が可哀想だよね?」

完璧に巻き添えで苦労していることだから、申し訳ない気持ちになってくる。

「最前線の開拓村よ。前ギルマスやエルティナ以外も罰労働よ。甘やかす必要はないわ」

シルフィが厳しい。でも罰労働ならありな気もするから不思議だ。

「それで裕太はどうするの? 助けに行く?」

えっ? これはどうなんだ? 俺が前ギルマスやエルティナさんを助ける?

それはそれで意味が分からない。

あいにく罰を受けたんだからノーサイドだね、なんてヒーローやスポーツマンのような爽やかさは持ち合わせていない。

前ギルマスとエルティナさんでも死なれるのは寝覚めは悪い。でも苦労は買ってでもしてほしい。ジレンマだ。

「開拓村は滅びるの?」

滅びるのはさすがにどうかと思う。

「滅びるのはまだ先なんじゃない? 今のところ怪我人が増えたくらいで死人もでていないわ。疲れが限界に達した頃が危険かしら?」

……凄く微妙な状況のようだ。

ギリギリなら嫌々でも助けに行くけど、まだ粘れるのか?

あぁもう! なんで今更エルティナさんや前ギルマスのことで頭を悩ませなきゃいけないんだよ!

「裕太よ、儂らはいつまでここに居れば良いんじゃ?」

「ノモスの言うとおりだぜ。俺にとってここは居心地が良いって訳じゃねえし、必要ないなら送還しろよ」

あっ、ノモスとイフのことをすっかり忘れていた。お酒に関して追及したいところだけど、今の精神状態では無理だ。シルフィの狙い通りの展開だな。

「……送還するよ」

ノモスとイフを送還し、更に悩もうかと思ったが別に海底で悩む必要はないよな。俺も楽園に戻って、コーヒーでも飲みながら考えよう。

「シルフィ、ディーネ。俺達も帰ろうか」

「裕太ちゃん、お姉ちゃんはクラゲちゃんの様子を見たいわー。海上まで送るから残ってもいい?」

そういえばデリケートなクラゲだって言っていたな。せっかく苦労したのに死なれたら無駄骨だしディーネが泣く。経過観察は必要だろう。

「分かった。海上までは頼むよ」

「了解―。裕太ちゃんありがとー」

手を振るディーネに見送られながら海流に流され、体がグングンと海上に向かって進む。

はぁ、どうしようかなー。

***

「シルフィ、開拓村まで連れて行って」

楽園に戻りコーヒーを飲んで、ベル達を撫でくり回して癒されながら色々と考えた。

心情的に見捨てるのは無理で、今助けるかギリギリまで粘って助けるかが焦点になったが、結局今助けることに決めた。

粘りすぎで死人がでたら、罪悪感が凄いからだ。

続いて悩んだのがどのように助けるか。これもまた難問だった。

一番無難なのはこっそり開拓村付近に行って、周囲のアンデッドを根絶やし&住居になりそうな場所を潰す。

これをすれば開拓村は平和になるし騒ぎになることもない。いきなりアンデッドが現れなくなって開拓村の住人が驚くくらいだろう。

影ながら人助けをするヒーローみたいでカッコ良くもある。

でも助ける相手が元ギルマスとエルティナさんだから無理。あの二人が俺のフォローにも気がつかずに、最近平和だ! なんてホッコリするのは許せない。心が狭くてごめんね。

だから俺は堂々と開拓村に向かうことに決めた。

罰を受けた二人を今更嫌がらせや煽るつもりはないが、嫌がらせをした相手から助けられる屈辱と気まずさくらいは味わってもらっても罰は当たらないだろう。