軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百六十八話 楽しい時間の始まり

鍛冶大会当日。色々な面倒事を処理して無事に大会を開けると安堵していたら、大会が開かれる鍛冶師ギルドが大混乱になっていた。どうやらシルフィのチートな調査能力によって暴かれた犯罪行為が切っ掛けになり、鍛冶師ギルド内部に大鉈が振るわれたかららしい。どうでもいいけど、大会はちゃんと開催されるのだろうか?

「ふん、逃げずによく来たな」

えっ?

目の前で起きている現実が理解できない。

えーっと、どういうことだろう?

「はぁ? 自力で工房を手に入れることができないからって、徒党を組んで無理矢理メルから工房を奪おうとする情けない男が、偉そうに何を言ってるの?」

俺がちょっと混乱している間に、ユニスが反撃する。

なんかあれだな、自分が噛みつかれると困るが、味方だとユニスって頼もしいな。

とりあえずゴルデンさん達は瞬間でキレたユニスにタジタジな様子だし、落ち着いて状況を整理しよう。

まず、俺達が部屋に入ると、ゴルデンさん達は気まずそうに目を逸らせた。

その理由はシルフィからの情報で分かった。

襲撃事件の後に、濡れ衣で俺を犯人だと決めつけたことが気まずかったからだ。

人を犯罪者呼ばわりした上に本気で治安組織に訴えたのに、それが間違いだったのだから目を合わせられないのも当然だよね。

うん、ここまでは理解できる。

だが、その後の行動が分からない。

そもそも、すでに作品は完成しているんだから挑発する意味も分からない。

あっ、もしかして最初は謝ろうと思って近づいてきて、俺達を見て憎らしくなって逆切れしたとか?

あはは、まさかそんな……ねえ……とってもありえそうだな。

俺に頭を下げることが許せず、濡れ衣を着せたことがバレないことに賭けたんだろう。

ゴルデンさん達目線では、騎士達が俺に話さなければバレないのだし、襲撃に関係ない俺達と騎士が事件について話し合う可能性は低いと踏んでもおかしくない。

実際には俺が手を回したしシルフィが居るからすべてが筒抜けなのだが、俺が関わっていないところで事件が起こっていたならスルーしていた可能性は高い。

なるほど、非常に、非常に遺憾な気持ちを押し殺して助けるように手を回したのに、ゴルデンさん達はなかったことにするつもりなんだな。

まあ、気持ちは理解できなくもない。俺がゴルデンさんの立場だったら、俺に頭を下げるのは死ぬほどムカつくだろう。

俺だって謝るくらいならバレない可能性に賭けて有耶無耶にしようとするかもしれない。

なんとなくゴルデンさん達の気持ちが理解できた。……だが理解できでも納得できるかは別だ。

いいだろう。元々ぎゃふんと言わせるつもりだったけど、ゴルデンさん達がそのつもりなら手加減はしない。

いや、元々手加減なんてするつもりはなかったけど、今回の出来事も含めてプライドが粉みじんになるまですりつぶしてやる。

「あー裕太殿、悪いが少し時間を貰えるか?」

胸の中で暗い決意を固めていると、いつの間にかタブレさんが目の前に居た。瞬間移動か?

「えーっと、まずはメルの作品を提出したいのですが、その後では駄目ですか?」

まあそのメルはギャンギャンとゴルデンさん達に噛みつくユニスに抱きしめられているから時間が掛かりそうだけど……というかゴルデンさん達が既に涙目なのがウケる。

「すまんが大会についてだから、先にこちらの話を聞いてほしい」

大会についてか、今の状況を考えると大会の延期か中止の相談かな?

***

予想通り大会延期の相談だった。

騒ぎについての釈明が必要で、鍛冶師ギルドも混乱もしている。大会に無関係な人達も、職員の不正を知ってギルドに集まり始めたから、できれば大会を延期してほしいとのことだった。

無論俺は相談を受け入れず、大会の開催を強く要求した。

今の俺は全力でゴルデンさん達を叩けるテンションだし、大会に無関係でも人が大勢集まってくるのならメルの実力を広める絶好の機会でしかない。

というか、俺はゴルデンさん達を辱める気満々だから延期したくない。

基本的に鍛冶師ギルド側のミスなので、強気な俺の要求が通り大会は予定通り開催されることになった。

まあ自業自得とはいえ、少し鍛冶師ギルドも可哀想ではある。

シルフィが言うには、ただでさえ混乱状態のところにメルの作品を受付して、劣化版ダマスカスを確認してさらに混乱。

現在の鍛冶師ギルドはパニックがパニックを呼ぶ状況になっているらしい。

ちゃんと大会が開催されるか少しだけ不安になってきた。

えっ? 主催者の挨拶をお願いしたい? 無理です。

***

「それでは審査を開始します!」

色々あって予定時間よりも少し遅れたが、なんとか大会を形にした鍛冶師ギルドは評価に値すると思う。

司会の言葉と同時に舞台上に居る五人の審査員の前に、一つ目の作品がカートに載せられて運ばれてくる。

シルフィがドルゲムさんをお城に強制送還していなければ、あの審査員達の中にドルゲムさんもまざっていたのだろうか?

……まあ、再度牢屋にぶち込まれた人のことを考えても仕方がないか。

ドルゲムさんの名声を利用することも考えたけど、メルにとってはデメリットの方が多そうだから邪魔だもんね。

五人の審査員が運ばれてきたロングソードを様々な角度から鑑定する。

俺からすると綺麗な剣だとしか分からないが、専門家の目から見れば色々と分かるらしく細々と指摘しながら評価をしている。

お宝を鑑定するあの番組っぽくて少し楽しい。

うん? 審査員の中に小柄な人影が……。

興味をひかれたのか、いつの間にかベル達が審査員の中にまざっている。あれは……いいのかな?

精霊の気配を感じられる人が居たら、俺が何か細工をしたと誤解されないかな?

……少し不安になるが、おそらく審査結果には圧倒的な差が出るから大丈夫か。

なにより、審査員と一緒にふんふんと鑑定しているつもりになっているベル達が、とてつもなく可愛らしいから許すしかない。

一つ目の審査が終わり、ロングソードが暫定一位の場所に運ばれる。

審査方法は有名な漫才のグランプリと似た方式で、審査ごとに順位が変動し最後に一位の場所にある作品が優勝ということになっている。

二番目の作品が運ばれてきた。

一番目と同じくロングソードだが、審査員と会場の反応が違う。鍛冶師達から見ると簡単に見分けられるくらいに差がある作品のようだ。

鑑定の後に一位の場所に運ばれるロングソード。前の作品は二位に移動される。

ゴルデンさん達三人の中の一人が露骨に喜び、順位が落ちたと思われる鍛冶師が露骨に落ち込んでいる。

……大会に参加した鍛冶師は隔離するべきだったな。あれだけ露骨に感情を表に出されると、無記名審査の意味が薄れてしまう。

今回は圧倒的な差があるから大丈夫だが、次に同じような大会を開くときには気をつけよう。

三つ目、四つ目と順調に鑑定が進む。

どうやら今回の審査形式は素人目に分かりやすいらしく、鍛冶師以外からも順位が入れ替わるたびに歓声が起きている。

大会が盛り上がるのは、主催者としては素直に嬉しい。

五つ目の作品が運ばれてくると同時に、会場にどよめきが起こる。

違いは素人の俺にも一目瞭然。

ロングソードよりも更に長い刀身。柄の部分も他の剣と比べると倍ほどの長さがとられている。俗に言うところのツーハンドソードなようだ。

だが、様々な武器が溢れる迷宮都市では、ツーハンドソードが出てきたくらいではどよめきは起こらない。

どよめきの原因は刀身に浮かぶ薄いグラデーション。このグラデーションはメルの親父さんの作品に似ていると思う。

メルの親父さんの作品の方がグラデーションは濃いが、ゴルデンさん達はメルの親父さんの剣を研究していると言っていし。同じ系統のゴルデンさん達の作品で間違いないだろう。

確認の為にゴルデンさんを見ると、バッチリ目が合った。とてもムカつく表情をしている。

その表情は、見たか、これが俺の実力だ、俺に挑んだことを後悔しろと言いたげで殴りたくなってくる。無記名審査の意味を考えてほしい。

「メル。あの剣ってどうなの?」

「……凄いと思います。私は自力ではあそこまで辿り着けませんでした」

「そうなんだ」

自慢するだけあってそれなりに凄腕なんだな。ドヤ顔が凄くムカつくが、実力だけは認めることにしよう。

審査員や観客の反応も上々で、コメントも今までと比べると倍以上。当然のごとく一位の場所に移動するゴルデンさんの剣。

まあそれでもゴルデンさんの負けは確定なんだけどね。

あのクソムカつく顔が敗北に歪む未来が待ち遠しくてしょうがない。

六番目、七番目と審査が進むがゴルデンさんの剣は一位の座を譲らず、最後に回されたメルの番がきた。

シルフィの偵察で知ってはいたけど、なんの波乱も起こらずに最後まで来てしまった。

大会としては盛り上がりに欠けるが、俺としては予定通りだから問題はない。本番はこれからだ。

メルの作品がカートに載せられて運ばれてくる。普通の剣ではありえない迫力と美しさを兼ね備えた剣の登場。

ショートソードだが、存在感はゴルデンさんのツーハンドソードよりも圧倒的に上だ。

会場内に戸惑いの空気が広がる。

ヒソヒソとささやかれる声に耳を傾けると、あれってダマスカスだよな? とか、おいおい、迷宮産の武器を出品したのか? などの声が聞こえる。

ふふ、予想通りの反応だな。

迂闊な俺でも、素直にメルの劣化版ダマスカスが認められると思うほど抜けてはいない。

問題はだれがこの罠に食いつくかなんだけど……。

「ふざけるな! おい、鍛冶師ギルドはこんな茶番を認める気か! あんな男に恐れをなして鍛冶師の誇りを捨てるつもりなのか!」

俺を指でさしながら叫ぶゴルデンさん。

俺のドヤ顔でダマスカスの剣がメルの作品だと気がついたらしい。ふふ、俺も無記名審査の意味がどうのこうのとは言えないな。

しかしゴルデンさんは意外と頭の回転が速いようだ。

あれがメルの作品と気がついてほとんどタイムラグなしに、俺が力で無理を通そうとしていると考えたのだろう。

まあ濡れ衣だけどね。さすがに俺もこんな場面で鹿を馬だと言うつもりはない。

さて、お楽しみな時間の始まりだ。

濡れ衣を二度も着せられてしまったことだし、全力で反撃しよう。

あっ、でもその前にメル以外の弟子達とベル達には退避してもらおう。人を追い詰めてニヤつく俺を純粋な子達に見せる訳にはいかないよね。