軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百六十六話 偵察結果

トルクさんにラーメンの開発をお願いし、鍛冶の大会までの暇な時間を麺の研究に費やしながら過ごした。麺の方は順調とは言えないが手ごたえは感じているし、大会の方もシルフィとノモスに偵察に行ってもらったからなんとかなるだろう。

「それでねー。べるたちかったー」

むふんと胸をはってドヤ顔を披露するベル達。大人のドヤ顔は鼻につくことが多いが、ベル達のように純粋なちびっ子達のドヤ顔はとても可愛らしい。

「そっかー。みんなすごいなー」

とりあえずベル達を褒めまくっておくが、正直何が凄いのかはあまり理解できていない。

元々、迷宮都市には定期的に訪れていて、ベル達の趣味の屋台探索も新発見は少なくなっていた。

それでも食に力を入れ始めた迷宮都市だけあって、それなりにベル達が満足できる発見はあったのだが、今回は少しばかり滞在期間が長くベル達を満足させる屋台が出尽くしてしまった。

暇になったベル達は迷宮都市に居る精霊達も巻き込んで遊びはじめる。

そして帰ってきてご飯を食べたらその日の出来事を一生懸命説明してくれるのだが、ちびっ子精霊達の思いつきの遊びなうえに、話があちこちに飛んでしまって理解が難しい。

だから喜んでいれば褒めまくり悔しがっていればなぐさめているのだが、これでいいのか偶に不安になる。

一度思い切ってシルフィに相談してみたが、人の子供と違って精霊にそんな心配は必要ないと呆れられてしまった。

現にベル達は毎日を思いっきり楽しんでいるから、シルフィの言うことは間違ってないのだろう。

でも、俺は厨二に染まり、進化の過程で真っ白な鴉に変わってしまった精霊を知ってしまった。

万が一ベル達が厨二に染まってしまったら、俺は正しい道に導くことができるのだろうか?

自分も染まってしまった過去があるだけに、とても不安だ。

特にイフのカッコ良さに憧れているフレアは要注意だろう。憧れが暴走して変な方向に進んでしまうのだけはなんとしても阻止しなければいけない。

「戻ったわよ」

悩みつつもベル達を褒めまくり撫でくり回していると、大会に参加する鍛冶師達の偵察に出ていたシルフィとノモスが戻ってきた。

「シルフィ、ノモス、お帰り。少し遅かったけど何かあった?」

半日も経っていないのに、シルフィの力を考えると時間が掛かったように思えるから不思議だ。

シルフィに質問したはずなのに、ノモスがずいっと前に出てきて無言で俺の顔を見つめる。

ノモスの目が、なんの対価もなく情報を受け取るつもりか? と言っているように感じる。

精霊契約とはなんなのか、俺の魔力が対価なのでは? と思わないでもないが、大精霊の力を無駄にしている魔力程度で協力してもらうのも違う気がするので、俺も無言で酒樽とグラスを提供する。

「うむ、実力ではメルに並ぶ者もおったが、ダマスカスを評価に含めるのであれば問題はないじゃろう」

酒樽を確認したとたんになめらかに動き出すノモスの口。分かりやすい反応でとてもありがたい。

考えてみると、ベル達の言葉を読み取る方がよっぽど難しいんだよな。

「問題ないにしては時間が掛かったね。鍛冶師が居なかった?」

大会が目前だとしても四六時中鍛冶をしている訳ではないから、確認に時間が掛かったのかもしれない。

「鍛冶師は全員すぐに見つけられたのだけど、同時にいくつかおまけも発見しちゃったのよね。それを調べたから少し時間が掛かったの」

一杯目のグラスを綺麗に空にしたシルフィが、少し呆れた雰囲気を出しながら教えてくれる。

「おまけ?」

シルフィの雰囲気になんとなくだが面倒事の気配を感じ、このままスルーしたくなるが聞かない訳にはいかない。

「二つあるわ。一つはどうしても工房を手に入れたいのか、審査員を探して買収しようと企んでいる鍛冶師ね。すでに二人ほど金を渡したみたいよ」

買収か。急遽開催された大会で、準備時間もそれほどないのに二人も買収済みって、地味に優秀なんじゃないのか?

商人に向いている気がする。最終的に自滅しそうだけど……。

「対策したほうがいいかな?」

無記名審査とはいえ先に作品を見せておけば、審査をコントロールすることは可能だろう。

とりあえず買収した審査員を調べて鍛冶師ギルドにチクるか?

「ふん。作品を見たが、たいしたことないわい。差がないのであれば効果があったかもしれんが、あれでは金を受け取った審査員もどうしようもあるまい」

鍛冶の実力はそれほどでもないのか。ならノモスの言うとおり気にしなくても良さそうだな。

劣化版とはいえ、実力があるメルが打ったダマスカスの剣があるのに、買収者のたいしたことがない剣を推すほど馬鹿じゃないだろう。

自分の見る目が疑われるもんね。

でもまあ、一応調べてチクるのはやっておこう。俺が主催者だし、野放しにするのはちょっと違うよね?

「もうひとつは?」

「ゴルデン達を襲う計画をしていた鍛冶師が居たわ。ゴルデン達さえ潰せば工房は俺の物だと高笑いしていたわね」

襲撃か……煩わしいゴルデンさん達が痛い目を見るのは別に構わないのだけど……放っておく訳にはいかないよな。

襲撃されて大会に出られなかったら納得しないだろうし、俺が企んで襲わせたとか言いだしかねない。

俺がゴルデンさん達を守るなんて非常に……非常に遺憾だが、こっちも調べて鍛冶師ギルドにチクることにしよう。

それにしても、ゴルデンさん達は他の鍛冶職人から優勝候補だと認識されているんだな。

自分達で優勝はこの三人の中の誰かだ! と自信満々な様子だったが、ただのうぬぼれではなかったらしい。

「計画内容は分かる?」

「ゴロツキにお金を払って大会当日に襲って作品も奪うって言っていたわね。間に何人も挟んだからバレる心配はないとも言っていたわ」

大会当日に襲うつもりなのか。失敗したら後のフォローが難しそうだけど、怪我から復帰して別の作品を出品されることを警戒したのかな?

再度打つ時間はなくても、メインの作品だけしか打っていないってこともないだろうから、分からない警戒ではない。

間に何人も挟んでいるのが少し面倒だが、シルフィに調査してもらって芋づる式に捕らえてしまおう。

まったくもって面倒だ。

とりあえず、追加で酒樽を出しておこう。

***

「裕太、そろそろ始めたいんだが、忙しいのか?」

「あっ、すみません。忙しくはないのですが、時間を忘れていました。今から行きます!」

くだらないことを企んだ鍛冶師達を潰す打ち合わせで、トルクさんとの約束をすっかり忘れていた。

もう一度トルクさんに謝って、一緒にトルクさん専用の厨房に向かう。

「とりあえず、前日に仕込んだ麺を茹でるから味見を頼む」

厨房に到着したとたんに、あらかじめ沸かしていたお湯に麺を投入するトルクさん。マーサさんに時間を制限されているから、一秒でも無駄にしたくないのだろう。

約束を忘れていたのが本当に申し訳なくなる。

「まずはこれからだ」

小皿に盛られたただ茹でただけの麺。もう何度も味見を繰り返したので慣れたが、ラーメンが完成する頃には麺を嫌いになっていそうなのが怖い。

「うーん、コシは十分なんですが、まだ独特の臭いが強いですね」

「そうだな。ある程度はスープで打ち消せるだろうが、これではまだ臭いの方が強いだろう。次を茹でるぞ」

ズズっと麺をすすったトルクさんも同じ感想をのべる。

当初は麺を上手にすすることすらできなかったのに今では違和感もなく麺をすすり、確認を終えると素早く次の麺を茹で始める。

ラーメンの研究を一緒にするまで知らなかったが、トルクさんはかなりのデータ派で、細かく分量を調整しながら沢山の麺を作る。

だから試作を繰り返すたびに完成に近づいていくのだが、細かい調整が多いからどうしても試食の回数が増える。

そして最大の問題が、細かい調整によって変化する味の違いが俺にはほとんど感じられないことだ。

いまのところ漫画知識で思い出した麺を一晩寝かせる方法や、分かりやすい部分での日本の麺との味の違いで意見を出せるが、研究が進めば進むほど役に立たなくなるのが目に見えている。

研究から離脱する時期も考えておくべきだろう。できれば麺が嫌いになる前に離脱したい。

「裕太、お客さんだよ」

「こんな時間にですか? というか誰ですか?」

麺の研究をしていると、マーサさんが困惑した表情で俺を呼びに来たが、俺の方が困惑している。

時間もそうだが、寂しいことに俺を訪ねてくるなんてマリーさん等の少数しかいない。そしてマリーさん達ならマーサさんは困惑した表情なんてしないだろう。

「それが騎士様なんだよね。裕太、何かしたのかい?」

何もしていないとは口が裂けても言えないが、捕まるようなことはしていないはずだし、こんな時間に騎士が訪ねてくる理由も想像できない。

劣化版ダマスカスの為に国から派遣されてきた可能性もあるが、それならこんな夜中に尋ねてこないよな?

「……とりあえず会ってみます」

「ロビーに待たせているけど、あたしも一緒に行った方がいいかい?」

「いえ、大丈夫です」

マーサさんの存在は心強いけど、面倒事だった時に巻き込みたくない。

「お客さんみたいね」

ロビーに向かいながら念のためにシルフィを召喚しようとすると、召喚する前にシルフィが合流してくれた。

ノモスとお酒を飲んで楽しんでいたはずなのに、こういう時にすぐに察知して駆け付けてくれるのが嬉しい。

「裕太殿、夜分に申し訳ありません」

ロビーに到着すると、二人の騎士が立ち上がって出迎えてくれる。

俺の顔を知っているようだし、俺もどこかで見たことがあるような顔なので、おそらくお城に勤める騎士なのだろう。

雰囲気からして、俺を捕まえに来たのではなさそうだ。

「いえ、それは構いませんが、何かありましたか?」

「……その、ドルゲム殿の姿が消えました」

騎士が申し訳なさそうに教えてくれるが、ドルゲムって誰だ? 聞き覚えはあるのだが、誰かが分からない。

…………騎士が来るってことは国の関係者だよな。

……あぁ、思い出した。宮廷の鍛冶師長の名前がドルゲムだったな。そうか、あのメルに縋りついて弟子入りを願ったドルゲムさんが消えたのか。

「……こちらに来ますよね?」

「ほぼ間違いなく来られると思います」

「ですよねー」

俺はただ、メルを馬鹿にしたり下に見たりしている迷宮都市の鍛冶師達。

特にゴルデンさん達がメルの実力を知って『ぎゃふん』する姿が見たいだけなのに、なんでこうも面倒事が続くのかな?

……とりあえず、シルフィに捕まえてもらって、そのままお城に捨ててきてもらおう。そうすればもう一度牢屋直行だろう。

俺はどこぞの主人公のような波乱万丈でイベント満載な人生など望んでいないし、関係が薄い職人の情熱に応えたいとも思わないから、諦めてほしい。