軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百六十二話 認識のズレ

メルをなんとか説得し、勢いで精霊鍛冶師なんて少し語呂が悪い職業を勝手に生み出したり、ゴルデンさんに微妙に言い負かされて悔しい思いをしたりしつつも大会のルールを決めることになった。

さて、希少金属の使用制限か……メルが作るダマスカスは劣化版だけあって希少金属は必要ないんだよな。

ゴルデンさん達の言い分を考えると、ゴルデンさん達も他の鍛冶師達も多少は希少金属を使うのだろう。

そんな中でメルがまったく希少金属を使わずに優勝すれば、そのことだけでもメルの実力が際立つことになる。

そう考えるとゴルデンさんの提案は好都合だ。

ただ、ゴルデンさん達の性格だと、希少金属を使わずに劣化版ダマスカスを精製しても、劣化版ダマスカスが希少金属で制限がどうのこうのと文句をつけてきそうな気がする。

希少金属を使わずに一般の金属で希少金属を生み出した場合はどうなるか、確認が必要だろう。

でも、それをここでタブレさんに確認するとネタバレになるよな。少なくともメルが何かしらの希少金属を精製するのでは? という疑いくらいは持つだろう。

ゴルデンさん達はメルの親父さんの作品のことも知っているし、ダマスカスについて思い至る可能性もある。

うーん……別にゴルデンさん達にバレても問題ないな。

サプライズ感が無くなるし、ゴルデンさん達の驚きからの絶望という落差が浅くなるのは少し残念だが、目の前でしっかり確認して付け入る隙を見せずに叩き潰す方が重要だ。

「タブレさん。希少金属の使用制限は構わないのですが、一般的な金属しか使わずに高性能な金属を生み出した場合はどうなるんですか?」

そもそも劣化版ダマスカスが希少金属に分類されるのかも問題なんだよな。

オリハルコンやアダマンタイトよりかはランクが落ちるのだから、希少金属ではないと言える気もする。でも、王様が目の色を変えたことを考えると、希少金属と言える気もする。

まあ、ダンジョン産ではなく、一般的な金属よりも数段上の金属を自作できるという利点も王様の琴線に触れたのだろうが、それでも結構微妙なラインだ。

今更だけどノモスの二段程度上の性能という言葉に、もう一度文句を言いたくなってくる。

「うん? 金属の配合による品質向上は鍛冶師の腕の見せ所だ。普通の金属しか使ってないなら問題はないぞ」

タブレさんが、当たり前だろ、何を言ってるんだこいつ、という顔をしている。間違いなく俺とタブレさんの間に認識のずれが生じている。

「品質向上程度の話ではなく、別物と言えるくらい金属の性質が変わった場合はどうなるんですか?」

「……ふむ。金属の研究は鍛冶師だけではなく各国でも研究されつくしている。そうそう鍛冶師ギルドで判断できん金属など出てくるとは思えんが、もしでてきたなら一般的な金属しか使っていないという証明が必要だろうな」

「えっ? 目の前で造るんですから、証明も何もないですよね?」

別物に生まれ変わった金属が使えるのか使えないのかを聞きたかったのだけど、通じてない?

「おいおい、鍛冶師一人一人にギルド職員を張りつけるつもりなのか? 個人の大会にそこまで手間は掛けられんぞ」

「うん? 大会でみんなの前で鍛冶をするんですし、素材の持ち込みをチェックすれば一人一人に職員を張りつける必要なんてないのでは?」

一瞬も目をはなさないというのは難しいかもしれないが、持ち込みのチェックとある程度の監視があればルール違反は難しいはず。

そもそもダマスカスみたいに別物と言える程の変化がなければ、目利きならある程度の判断は可能だよな?

「……あんたどんな大会を想像しているんだ?」

「ギルドの工房で武器を造ってそれを評価するんじゃないんですか? あれ? 鍛冶師ギルドなんですから、設備はそれなりに整っているんですよね?」

全員がいっぺんに造れるとは思わないが、時間を分ければ数日で可能なくらいの設備はあるよな? 鍛冶師ギルドなんだもん。

「ぷはっ、ひゃはははは、お、お、い、おい、おおお前って馬鹿なの? ぶふぉ、だいたい鍛冶師が人前で技術を晒す訳ないだろうが。駄目だ笑いが止まんねえ。あははは、ややややべぇ、ししし死ぬ。しんでしまうひゃひゃひゃひゃ」

ゴルデンさんが突然笑い始め、それに釣られるように残りの二人も笑い始める。更にそれにつられてタブレさんまで……どういうことだ?

「なんかムカつくわね。裕太、こいつらぶちのめす?」

シルフィが物凄く魅力的な提案をしてくれるが、意味が分からない状況でいきなりぶちのめす訳にもいかない。

「あの、お師匠様、ちょっとこちらに」

戸惑っているとメルに工房の隅まで引っ張って連れて行かれる。

「えーと、メル。なんか凄く笑われているんだけど、なんでか分かる?」

理由次第ではシルフィにGOサインを出してしまいそうなくらい笑われているんだけど?

「あの、普通の鍛冶の大会は、作成期間を設けて独自に作品を造り、それを提出して出来を競うんです」

「うん、だから?」

メルが困った顔をしているが、そのくらい俺でも知っている。

「あの、お師匠様はたぶん勘違いしています」

「勘違い? なにを?」

「その……普通の剣を造るのに急いでも三日、普通なら五日以上かかります。ましてや大会に提出するよう作品ならもっと時間をかけます」

「えっ?」

あれ? そういえば日本刀を一本仕上げるのに十日以上かかるって聞いたことがあるな。

「……この前メルは三時間くらいで剣を打ってなかったっけ?」

(その……それはメラル様とメリルセリオが力を貸してくれるから可能なことなんです。自分一人では無理です)

メルが言い辛そうに小声で教えてくれる。

なるほど、いつの間にか俺の基準がズレていたのか。

迂闊だった。俺も普通ならそんな勘違いはしないはずだが、楽園に居る間にメルが修行でポンポン剣や金属を製造していたから、ファンタジーならそんなものだと思い込んでしまっていた。

でも、火加減に関してチートなメラルと、未熟な浮遊精霊とはいえ金属関係にチートなメリルセリオ。この二人の協力を得ているメルを基準にしたら駄目だよな。

つまり俺の大会の想像は、ゴルデンさん達にとって笑いが止まらなくなるほど馬鹿げた想像ってことになるんだな。

(……シルフィ。人の記憶を消すことができるのって闇の精霊かな? もしかしてヴィータなら人の記憶を消せたりしない?)

「記憶は闇の精霊の領域ね。ヴィータならどうかしら? 可能かもしれないけど、専門ではないのはたしかよ」

(そっか……)

ムカつく。迷惑を掛けられているゴルデンさん達に笑われていることには死ぬほどムカつくが、さすがに自分のミスを帳消しにするために闇の精霊と契約するなんて軽はずみなことはできない。

正直、シルフィにすべてを消し飛ばしてもらってなかったことにしたい気分だが、甘んじて受け入れるしかないだろう。

「気がすみましたか」

ようやく笑いが治まったので、打ち合わせを再開するために話しかける。

「あぁ、すまない。もう大丈夫だ……」

「くはっ、死ぬとこだったぜ。まさか、まままさか……ぶはははは……」

「お、おい、やっと治まったんだぞ。わ、わ、わらうな……よ……がはは」

畜生。こいつら思い出し笑いを始めやがった。

***

「おい、お前らにとって笑えることを言ったのかもしれないが、次に笑い始めたら二度と笑えないようにしてやる。その覚悟があるなら好きに笑え」

「はい! すみませんでした!」

引きつった顔で謝るタブレさんとゴルデンさん達。

まあ、無理もない。

四人の首の周りに目で見えるほど激しい風の輪が渦巻いている。小さいが触れただけで首がねじ切れそうな迫力を持つ風の輪だ。

これでも笑えるようなら、しょうがないと諦めるべきだろう。

脅して黙らせるようで気分は良くないが、さすがにあれから話しかけるたびに三回も思いだし笑いを繰り返されれば強硬手段も許されるはずだ。

仏の顔も三度までって言うし、仏並みに我慢をしたのだから大人げないということもないだろう。

いや、笑われたくらいでこの所業は大人げないか?

脳裏に浮かぶのは笑いが止まらずに苦しそうにしながらも、笑いの合間に俺を馬鹿にし、そしてまた笑い転げるゴルデンさん達と、それにつられて再び笑い出すタブレさん。

大人げなくてもいいや。タブレさんには情状酌量の余地があるかもしれないが、タブレさんの笑いでゴルデンさん達の笑いが再発したこともあったし同罪ということにしておこう。

「……あー、なんかもう面倒になってきた。お前らの首を飛ばせば全部解決ってことにならないかな?」

俺の恥ずかしい勘違いも隠ぺいできるし、悪くない考えかもしれない。

「……冗談だから泣きそうな顔をするなよ。メルの工房をお前達の血で汚すつもりはないから安心しろ」

隠ぺいという誘惑にかられたのは確かだが、そんなことでシルフィに人殺しをさせる訳にはいかない。

シルフィに目で合図を出して、風の輪を消してもらう。

ホッとした様子で崩れ落ちる四人。

これでようやくまともな話し合いができそうだ。

***

訂正。まともな話し合いにならなかった。

思いだし笑いはしなくなったが、同時に俺の悪評も思いだしてしまったらしく、恐怖で俺の言葉を全肯定するようになってしまった。

一瞬もうこのまま追い返せばすべて解決だと俺の心の中の悪魔がささやいたが、メルの実力を認めさせるのが目的なのだから脅して解決では意味がない。

だいたいゴルデンさんとか、最初に脅しには屈しないって言っていたよね?

脅しとはいえ命の危機が目前に迫ったのだからビビるのはしょうがない。俺だってあんなものを首の周りに設置されたらビビりまくる。

ムカつき過ぎて軽率な行いをしてしまったと自分でも思うが、今まで粘着しまくっていたのだからもう少し根性を見せてほしい。

結局、四人が正常に戻らなかったので、なるべく公平な大会が開けるように俺からルールを提案して今日の話し合いは終わりにした。

希少金属の制限を受け入れ、他は一般的な鍛冶師の大会を踏襲することと、俺の悪評や影響力を鑑みて絵や書道のコンクールでよく使われている無記名審査を提案。

今の状況では正常な判断もできないので、俺の提案を吟味して後日返事をもらうことにする。

金属関連のルール違反については、証明の必要がある場合には鍛冶の素人を無作為に数名選出し、作成工程を見せることで対応することを提案した。

メル曰く、劣化版ダマスカスの場合は工程が繊細過ぎるので、本職が見てもわずかなヒント程度にしかならないらしいから、素人なら特殊なスキルでも持っていない限り問題ないだろう。

素人の選出については、方法をもう少し詰める必要はありそうだが、これでたぶん問題なく大会が開けるはずだ。

タブレさんとゴルデンさん達が正常に戻ればだけど……。