軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百五十四話 城

メルが造れるようになった劣化版ダマスカスが思った以上に凄い金属のようなので、先に王様に話を通してメルの後ろ盾になってもらうことにした。ノモスは性能が二段くらいしか上がらないって言っていたから安心していたが、ノモスの一段階はかなり基準が高いようだ。これだから精霊は……。

「なに! あの精霊術師が与えた短剣を使って余に面会を求めてきただと?」

常に威厳のあるたたずまいを崩さず、滅多に素の驚きを表さない表情に僅かながらも驚きを浮かべたのは、クリソプレーズ王国のトップである国王。

「はい。私が対応し、陛下の元に案内しようとしたのですが、今回は面会の約束だけで十分だと固辞されました」

そしてその国王を僅かながらも驚かせる報告をおこなったのは、裕太の相手をした執事。

裕太はなんか凄そうな執事で緊張するとしか考えていなかったが、彼はこの国の執事のトップで爵位を持ち王に直接報告ができる所謂パワーエリートな存在なので、凄そうという評価はある意味では的外れで、凄そうではなく実際に凄いのだ。

「ふむ。ようやくまともな短剣の使い方を理解したか」

ホッとした様子で安堵の吐息を漏らす国王。

「そのようでございます」

その国王にたいして姿勢正しく返事をする執事長。

「それは僥倖。ベリル王国から確認の使者が来た時にはさすがに恥ずかしかったからな」

裕太は知らないが、ベリルの宝石の主人が裕太のことをベリル王国の王宮に報告したことで少し騒ぎになっていた。

裕太が持つ短剣は、それを持つ者の後ろ盾が国王であることを示す物。つまり超VIPの証。

普通そんな恐れ多い物を、高級とはいえ他国の飲み屋で身分証代わりに使う者などいない。

ベリル王国側も困惑し、念のために確認の使者を派遣した。

あの、あなたの短剣を持つ者が、うちの国の飲み屋で短剣を使って入場したのですが、間違いありませんか? と……。

使者の側もそんな馬鹿な質問をするのは気まずかっただろうが、そんな馬鹿な質問をされる方はもっと気まずい。

一縷(いちる) の望みをかけて短剣を使用した人物の特徴を確認するが、残念ながら自分が短剣を与えた精霊術師で間違いがなかった。

使者に対して間違いないと答えた時、王の胸中には様々な思いが溢れていた。

一番大きいのは恥ずかしさ。続いて、そんなくだらないことに短剣を使うなという怒り。

最後に、ちゃんと短剣の価値や使い方を説明させておけば良かったという後悔。

今後二度とこのようなことがないようにしたいのだが、問題の人物は敵対するにも説教するにも短剣を取り上げるにも危険すぎる人物。

王は泣き寝入りするしかなかった。

「はい。ベリル王国で最高の店とはいえ、紹介状代わりに陛下の短剣を使うなどと夢にも思っておりませんでしたな」

執事長もその時のことを思いだしたのか苦笑いで応える

王としても自分の短剣をそんなくだらないことに使う人間がいるなど想像もできず、今回短剣をまともな使い道で使用した裕太に心底ホッとしたのだ。

「次にくだんの精霊術師に会う時、それとなく短剣の使用法に釘を刺しておいてくれ。国の最上級の身分保証書を発行しても構わん。また短剣を使用して飲み屋に行かれるよりもマシだからな」

「畏まりました」

身分保証書とは国がその人物の安全性を保証する物で、最上級となると高位貴族並みの信頼性と効力を持つ保証書ということになる。

当然なまはんかな功績で得られる物ではないのだが、王の短剣に比べるとその効力はマイルドなので、飲み屋で使っても使者が派遣されるようなことにはならない。

「それで、精霊術師が余に会いにくる目的はなんなのだ?」

「陛下に弟子を紹介し、その後ろ盾を望んでいるようです」

「弟子を余に仕えさせるということか?」

「いえ、なんでも凄い金属を弟子が造れるようになったらしく、それで起こる騒ぎを陛下のお力でどうにかしたいようです」

「随分と図々しい願いだな。そもそも、なぜ精霊術師の弟子が金属を造る……いや、たしか一人鍛冶師の弟子が居たな。その者が造ったか」

「さようでございます」

「それで、その金属とはなんなのだ? 余が関わらねばならぬほどの物なのか?」

「劣化版のダマスカスとのことです。本物や希少金属には及ばないそうですが、一般的な金属と比べると破格の性能を誇るらしく、世に出れば騒ぎになるのは間違いないようです」

「……それは製造の手間とコストによっては、国全体の強化に繋がる話ではないか?」

一般兵が持つ物すべてとはいかずとも、ある程度上の者の装備が強化されるだけでもそれなりに国の力は上がる。

王からすれば聞き逃せる話ではない。

「詳しい話は聞かされておりませんが、その可能性は十分にあるかと」

「……そうか。精霊術師とその弟子を最上級の歓待でもてなせ」

「いえ、事を大きくするとおそらく逃げ出します。丁重にもてなしつつも控えめに歓待するべきかと」

わずかな接触で執事長は裕太の性格を見抜いてしまっていた。

「ふぅ。どうにもあの精霊術師は分からんな。地位や名誉、金や女で動くのであれば簡単なのだが、お前の目から見てなんとかなりそうか?」

「ベリル王国でのことを勘案すれば女性が一番効果的だと思われますが、それでも無理かと。面倒な人間関係を嫌う気質に見受けられます」

「変人の魔術師に偶にいるタイプか。関係をこじらせると面倒なタイプでもあるな。よかろう、お前の差配に任せる。この国に悪い感情を持たぬようにせよ」

王はスッパリと裕太を手駒にすることを諦め、関係の悪化を防ぐことを第一にした。

王という立場上、会う相手はそれなりの権力者、実力者に限られる。

権力者はともかく、実力者には癖が強い人物が多いことも理解しており、縛ろうとすると関係が悪化することも認識しているのだ。

「畏まりました。そのように手配いたします」

「うむ。あぁ、それと謁見時にはその劣化版ダマスカスとやらの評価ができる者と、バロッタも同席させるようにな」

「はっ」

裕太は自分の急な行動が城に迷惑を掛けていることは予想していたが、ここまで慎重に対応を検討されているとは夢にも思わず、国王との謁見に向けて急ピッチで準備を進めていた。

***

「宿の人にお店も教えてもらったし、そろそろ行こうか」

「うぅ、本当に行くんですか?」

「うん。だってメルは王様と謁見する時の服を持っていないんだよね? なら買わないとしょうがないよね」

自分が身嗜みを整えるために一張羅を魔法の鞄から引っ張り出した時に、メルにも王様と会う時の服が必要なことに気がついた。

楽園に修行に来たメルが、王様と会う時用の服など当然持ってきている訳がない。念のために自宅にはあるのか確認もしたが、余所行きの服はあっても偉い人と会う時用の服なんて持っていないと涙目で応えられた。

まあ、一般人なのだから当然だろう。

無いのなら買いに行くしかないねと言うと、王様と会う覚悟を決めていたメルの覚悟があっさり粉砕され、弱気全開のメルに戻ってしまった。

どうやらメルは修行一筋で、服に関してもユニスにお世話されていたらしく、ファッションはかなり苦手な分野なのだそうだ。

職人としてそれもどうかと思うが、自分もそれほどファッションに興味があるタイプではないので深くは突っ込まなかった。

だが、服が必要なのは変えられない事実。王様に会うための最低限の身嗜みは整えなければならない。

ついでにジーナ達の服も買おうかと誘ったのだが、サラ、マルコ、キッカは成長中ですぐ着られなくなる可能性が高いのに、着る予定のない高価な服など必要ないということになり、ならばジーナはと聞くと、極一部がまだ成長中だという答えが返ってきた。

ジーナの母性、元々かなり大きいのにまだ成長中だったんだ。

……シルフィの目がなんだかとても怖かった。

「ほら、謁見は明後日なんだから時間がないから行くよ」

「ですがお師匠様、急に買いに行って服が手に入るものなのでしょうか? 私のような庶民の普段着でも新品は結構時間が掛かりますよ?」

メルはどうにか服を買いに行くのを阻止したいようだ。服がなければ謁見が中止になるかも? などと都合の良いことを考えているのかもしれない。

というか、絶対に考えているな。

「緊急時用に服を揃えてある店を教えてもらったから大丈夫だよ」

オーダーメイドだと絶対に間に合わないが、ここが王都であることとメルが小柄であることが幸いした。

貴族だろうがなんだろうが子供は子供。教育されていて普通の子供よりは大人しかったとしても服を汚してしまうことは間々ある。

予備があるならいいが、下級貴族の場合は予備がない場合や、突然のパーティーに必要になることもあり、その店には最低限の礼儀が守れる子供服が豊富に取り揃えられているのだそうだ。

「ですが……」

「ああそれと、服が買えなかったら普段着でお城に行くことになるから、急いだ方が良いと思うよ」

「お師匠様。急いで行きましょう!」

「メルが前向きになってくれてよかった」

半分脅しだったような気もするが、たぶん気のせいだ。

「あれは……ベル達?」

遠目になんだか見覚えがあるちびっ子達が王都の空を爆走しているのが見える。ベル達だと確信が持てないのは、なぜか集団の数が妙に多いからだ。

「ええ、ベル達ね」

少し悩んでいるとシルフィが間違っていないと教えてくれた。ということは、増えた子達は王都で友達にでもなったのだろう。

今は忙しくてあまりベル達に構えないから、楽しそうなのは何よりだ。

たぶん、新しい屋台とかを発見しているだろうから、メルの件が落ち着いたら一緒に散歩でもしよう。

王都の街並みを観察しながら宿の人に教えてもらった場所に到着する。

なかなか立派な店構えだが、貴族も利用する店ならこれくらいの格式がないと駄目なのだろう。

「いらっしゃいませ」

中に入ると即座に店員が出迎えてくれた。姿勢正しく身嗜みもきっちりしている。さすが高級店といったところか。

「明後日にこの子が謁見をすることになりまして、恥を掻かない服が必要なんです。常識的な範囲内でしたら予算は問いませんので、コーディネートをお願いできませんか?」

なにか聞かれる前に店員に丸投げをお願いする。俺もメルもファッションセンスに自信がないので、道すがらメルと話し合ってそうすることに決めていた。

「あの、お師匠様、気のせいだと思うのですが、子供服が……」

「俺は少し外で休憩していますので、よろしくお願いします」

メルの言葉を聞こえなかったふりをしてやり過ごし、店員にお願いして店から離脱する。

スタイルの良い美女の服選びであれば、露出を増やす方向に死力を尽くすことができるがメルの服選びだと俺が役に立つ場面は微塵もない。

それに……ごめんよメル。メルのサイズの大人服はオーダーメイドでしか手に入らないらしいんだ。頑張って少しでも満足がいく服を店員と選んでくれ。