軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百四十一話 寝具……クッション? 完成

雪の大精霊を陥落させるための寝具を作ることになり、精霊樹の素材と、メル曰く超高級素材である魔術布を利用することにした。裁縫の方もジーナとサラが可能ということなので、あとはサクラに素材を分けてもらえれば問題なく完成するだろう。

「えーっとね、これが俺が欲しい物なんだけど、これを精霊樹の樹液か木材でものすごくたくさん作ってほしいんだ。ドリーも手伝ってくれるそうだからできるとは思うんだけど大丈夫かな?」

ドリーに作ってもらったビーズくらいの大きさの球体をサクラに見せながらお願いをする。

身内特権でサクラは俺に甘いそうだから、精霊樹の状態に問題がなければ協力はしてくれるだろう。でも、こんな小さな球体を大量に作ってもらうのは大変そうで心が痛む。

あと、赤ん坊に物をねだる絵面がとても危険だ。

ベル達は何が起こるんだろうとワクワクした様子で見守ってくれているから問題ないが、事情を知らない人に見られたら通報待ったなしの絵面のような気がする。

「う? むぅ?」

人差し指の上に乗せた小さな球体を不思議そうな顔で観察するサクラ。いったいこれはなんなのだろう? といった様子だ。

「うー……う? むー」

サクラがなにやらパタパタと両手を動かし始めた。俺になにかを伝えたいようだ。というかなぜ言葉にしないのだろう。

サクラって拙いけど喋れたよね?

そういえばサクラが話すのは簡単な単語が多かったな。説明が必要な言葉の羅列はまだ難しいのかもしれない。

となると、この動きを解析する必要がある。高難易度のジェスチャーゲームの始まりだ。

「ん?」

可愛らしい赤ん坊がくるくると表情を変えながら手足をパタパタ動かす姿は可愛らしく、何も考えずにホッコリしながら見守っていたいのだが、解析難易度がインフェルノでまったくホッコリできない。

不意に袖が引っ張られ、視線を向けるとトゥルが居た。トゥルが話の間に入ってくるのは珍しいな。

「トゥル、どうしたの?」

「そざいはだいじょうぶだけど、つくるのはむずかしいって」

なるほど、通訳をしてくれたようだ。あまりの難易度の高さに諦めが頭をよぎったところだったから、とても助かる。

「ありがとうトゥル」

お礼を言って頭を撫でると、目を細めて控えめに喜ぶトゥル。あれだな、精霊の姿が人間に見えなくて本当に良かった。ショタが見たら犯罪に走りかねない可愛らしさだ。

「作るのは難しいのか」

トゥルのおかげでサクラの言いたいことが分かったのは良かったが、作れないとなると困った。

いや、素材を貰えるのなら問題ないか。だって、ドリーがいるもん。実際、サクラに見せた見本もドリーに作ってもらった物だ。

「ドリーならサクラからもらった素材を加工できるよね?」

「はい、先程作ったものであれば、木でも樹液でも問題なく加工できます」

「じゃあ、サクラ。精霊樹に負担がない程度に木と樹液を分けてくれ」

「あい!」

ドスン!

「うおわ!」

サクラが元気に返事をしてくれた後に、少し離れた場所に桜が満開の巨大な木が落ちてきた。

「う?」

サクラがどうしたの? といった顔をしているけど、身近に急に木が落ちてきたらビックリするからね。

「な、なんでもないよ。でも、サクラ。こんなに大きな木、いや、枝を落としても大丈夫なの?」

「あい!」

大丈夫なようだ。

「ふふ、裕太さん。この精霊樹はまだ幼いですが、それでもこれくらいの枝なら小枝のようなものですよ」

ドリーが微笑みながら説明してくれるが、普通の木と同じくらいの大きさの物体を小枝と言われても頭で理解はしても感情が納得しないよ。

……そっか、小枝か。そういえば、見上げると首が痛くなるような大木なんだけど、ドリーが生やしてから一年も経っていないんだよね。

精霊という存在が一番のチートだな。

スケールの違いに少し現実逃避をしていると、サクラがグイグイと俺の腕を引っ張る。どうやら精霊樹の根元に行きたいようだ。

「サクラ、ちょっと待って」

精霊樹の木、改め精霊樹の小枝を魔法の鞄に収納し、サクラに引っ張られながら精霊樹の根元に向かう。

たぶん樹液をくれるのだろう。

「むー」

予想通り精霊樹の根元に到着すると、サクラが可愛らしい声を上げた。もしかして気合を入れたのか? 聞いている方は微笑ましくて力が抜けそうだ。

「えっ? あれ、大丈夫、いや、大丈夫じゃないよね。入れ物、入れ物、空樽が……全部ノモスに預けちゃってるよ。あっ、そうだドリー、木で器を作ってくれ」

微笑ましいとか思っていたら精霊樹の幹からあふれ出すように樹液が流れてくる。サクラ、せめて樹液を溜める器を出す余裕くらいちょうだいよ!

「裕太さん、大丈夫ですから落ち着いてください」

「えっ?」

落ち着いた様子のドリーを見て少し冷静になり、ドリーが指す場所を見ると、噴き出した樹液が精霊樹の根元で一塊になりながら固まり始めた。というか、どんどん大きくなっている。

樹液って間欠泉が噴き出すように流れ出るようなものだったっけ? 大きさから考えると不思議ではないかもしれないが、もっとじんわりと染み出してくる感じでお願いしたかった。

「あいー」

サクラが俺に向かって満面の笑みを見せてくれる。どうやら終わったらしい。

「あ、ありがとうサクラ」

お礼を言ってサクラを撫でくり回す。

「えらいー」「キュー」「がんばった」「ククー」「さすがいもうとぶんだぜ」「……」

「うきゃー」

なぜかベル達も乱入して、俺と一緒にサクラを褒めまくる。

ベル達の中の誰かを褒めて撫でくり回していると、集まってきて一緒に撫でくり回されるのがテンプレなのに今回は褒める方に回るとは……もしかして、年上としての自覚と言う奴なのだろうか?

フレアが言っていたように、ベル達は生まれたばかりのサクラを妹として見ているんだな。

ディーネと比べるとよっぽど姉っぽい気がするが、このことは心の奥底に仕舞っておいた方がよいだろう。

それにしても、あれはどうなんだ? 樹液が固まったものなんだけど、業務用の大型冷蔵庫くらいの大きさになっている。

あれ? 樹液が固まったものが琥珀なんだっけ? そうなると、あれは大型冷蔵庫大の巨大な宝石?

違う、たしか琥珀は固まった樹液が化石化した物のはずだ。つまり、まだあれは宝石ではない。セーフだ。

なにがセーフなのかはよく分からないが、たぶんセーフだ。

まあ、メルがこの場に居たら白目をむいて気絶しそうだけどね。嫌な予感がするから修行していますと工房に残ったメルは未来予知の素質があるかもしれない。

さて、あの宝石のような樹液の塊を加工するのはもったいないが、すでに魔術布を使っているんだから今更だ。

まずは精霊樹の枝と樹液の塊をドリーに加工してもらって、どちらが良いか確認するか。

……その前に加工したビーズを入れる入れ物からだな。

***

「これは……難しい……」

目の前には二つのコップに入った沢山のビーズがある。

一つは精霊樹の枝から作ったもので、もう一つは精霊樹の樹液から作ったもの。

見た目は……枝の方が素朴な木の素材なはずなのに妙な風格を漂わせていて、樹液の方は……もう宝石と変わらない。

まあ、見た目は布で隠されるのだからこの際置いておくにしても、香り感触ともに甲乙付けがたい。

感触はそれほど違いがないから判断材料は匂いということになる。

固形化した樹液よりも木を使った物の方が香りは強いが、樹液の方は精霊樹の木材から発せられる香木のような爽やかな香りに加えて、わずかに甘い匂いを感じる。

爽やかさ限定で寝具を作るなら木材、甘い香りを選択するのなら樹液。

樹液の方が甘い香りでリラックスできそうな気もするが、なんかムーディーな香りでもあるんだよな。

あの雪の精霊にムーディーな演出が必要なのかがとても疑問だ。

シルフィ達に意見を求めても、さすが精霊樹と呼ばれるだけあってシルフィ達も両方の匂いが好きで、その先はほんの少しの好みの違いでしかないという。

両方を混ぜ合わせればとも思ったが、重さが違うから変な偏りができたら困る。

……こういう時はアレだ、両方作ろう。

ジーナとサラに倍の負担をお願いすることになるが、サラは楽しそうに縫物をしているし、それを学んでいるキッカに経験を積ませるためにも良いことなはずだ。

あれだけ眠ることが好きな精霊なんだ。二つ貰っても困らないだろう。

***

三日後、ジーナ達の頑張りによって立派な寝具が二つ完成した。まあ、寝具と言っても巨大なお餅型のクッションにしか見えないけど。というか、クッションだよね?

……まあ、これでとりあえず雪の大精霊を陥落させる目途がついた。あとはシルフィに雪の大精霊のところまで連れて行ってもらうだけなのだが……。

「ねえみんな、それは雪の大精霊に渡すものだから、当然のように使用されると困るんだけど?」

人を駄目にするクッションは精霊にも効果があるのか? なんて疑問も目の前の光景を見れば一瞬で解消できる。

人を駄目するクッションは精霊も駄目にする。間違いない。

なんせ巨大な二つのクッションにはシルフィ、ディーネ、ドリー、イフ、ベル達とサクラ、フクちゃん達が群がって、クッションの不思議な感触を堪能している。

普段は酒造所に居ることが多いイフまでこちらに来ている時点で、効果は保証されたような物だろう。

大精霊達以外は小さいから全員で使用できているが、あれだけ集まるとさすがに狭そうだ。

ここにはいないノモス、ヴィータもクッションを試した時には驚いていた。たぶん、こんな風に混みあっていなければ二人とも確実に使用するくらいには気に入っていたと思う。

「ぶー。もうちょっとだけー。お姉ちゃんのお願いー」

「いや、もう出発するから。シルフィ、そろそろお願い」

これ以上待っていると、新品であるはずの物が中古になってしまう。

「……しかたがないわね」

活動的なシルフィですら出発を躊躇わせるとは、このクッション、あの雪の大精霊に渡すのが危険な気がしてきた。

……まあ最悪、雪だけ降らせてくれればいいか。

「ねえねえ裕太ちゃん、お姉ちゃん達のクッションは?」

……なかなか出発できないな。

大精霊、いや、精霊達、いや、それに加えてジーナ達とメルもこのクッションに魅了され、結局全員分作ることになった。

本人達は自分のクッションが作れると上機嫌で頑張っているが、楽園の一部がブラック化している。

夜はちゃんと休むように注意しておこう。

「今、ジーナ達が作ってくれているからちょっと待ってくれ。ほら、もう収納するからみんなどいて」

みんなをクッションからどかせてクッションを収納する。どくように言うと素直にどいてくれるのが精霊達の良いところだ。

さて、変なところで時間を食ってしまったがようやく出発できる。あとは変な風にごねられないように交渉すればミッションクリアだ。