軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百四十話 意外なこと

雪の大精霊を陥落させる寝具を作るためにノモスに頼ったら、ノモスではなくドリーを頼れと言われた。なんでもかんでもノモスに頼るのではなく、その時その時に頼るべき精霊を判断するのも精霊術師の役割なのだろう。なんかノモスに頼ればなんとでもなるような気がしていたので、良い勉強になったと思う。

「裁縫? できるぞ。あんまり好きじゃないけど、おふくろに無理矢理仕込まれたんだ」

「えっ、ホント?」

サクラにお願いをする前に外側の問題を解決しようとジーナに会いに来たのだが、まさか一発目で当たりを引くとは。

本命は革を扱うこともあるであろう鍛冶師のメルだったんだけど、ジーナが裁縫ができるなんて嬉しい誤算だ。

シルフィも意外だったのか、俺の隣で意外だわと呟いている。そうだよね、ジーナはキャラ的に裁縫ができると思えないよね。

「師匠。その反応は失礼だぞ。どうせガサツなあたしが裁縫なんてできる訳がないと思ってたんだろ」

まさしくその通りです。

「あはは……ごめんね」

言い訳しようかと思ったけど驚きすぎちゃって誤魔化すのは難しそうだし、素直に謝ろう。

「あたしもガラじゃないのは分かってるし、まあいいよ」

「ありがとう。でも、花嫁修業に通じそうな裁縫を、ピートさんがよく許したね」

ジーナに男を近づけないために男っぽい格好までさせていた人だから、邪魔をする方が自然だろう。

「どちらかというと親父はあたしの味方で裁縫をすることに反対していたんだけど、おふくろが絶対にやらせるって一喝したら何も言えなくなってた。肝心なところで頼りにならないよな」

なるほど、邪魔をした上で叩き潰されていたのか。ダニエラさんも色々と苦労しているんだな。

まあ、そのダニエラさんの強権をもってしても、ジーナがこんな風に育ったってことは、ピートさんも根性でダニエラさんに対抗したんだろうな。

ピートさんだけでは対抗しきれないだろうし、途中からジーナのお兄さんもピートさんの味方をしていそうだ。

まあ、ピートさんの心配も間違ってなかったよね。ジーナはかなりの美人だし、綺麗な格好をしていれば、断わりきれないところから縁談が舞い込んでいてもおかしくない。

ただ、そのせいで精霊術師になるという、ピートさんにとっては驚天動地な出来事が起こってしまった訳だが……。

「あの、お師匠様」

「ん? サラ、どうしたの?」

「お裁縫なら小さい頃から習っていましたので、私もできます」

そういえばサラは貴族の御令嬢だったんだっけ。なら淑女の嗜みとかそんな感じで習っていてもおかしくはないよな。

ただ、今でも子供なサラの言う小さい頃とは、いつのことですか?

すごく気にはなるが、詳しく聞くと悲しいことまで思い出させてしまいそうだから、ツッコムのは止めておこう。

「なら、ジーナとサラで協力してお願いできるかな?」

「あぁ、いいよ。一人より二人の方が楽だもんな」

「はい。頑張ります」

「ねえ、師匠。ちょっといい?」

「ん? マルコ、どうした?」

まさかマルコも裁縫ができるのか? そうだったらかなりびっくりだな。

「キッカもさいほうにきょうみがあるみたいなんだ。てつだうだけでもだめか?」

キッカを見ると、マルコの言う通り興味がありそうな感じだ。だいぶ俺達に慣れて明るくなったけど、こういう時に自分から意見を言える程ではないということか。

その妹の様子にちゃんと気がつくあたり、マルコは立派なお兄ちゃんだな。

「ジーナ、サラ、どう? 教えられる?」

俺は構わないのだが、ジーナかサラが教えられなければどうしようもない。

「私は先生に習ったことならちゃんと教えられると思います」

「あたしも、縫い方くらいなら教えられるから、別に構わないよ」

「じゃあ、キッカに裁縫を教えてあげて」

「はい」

「分かった」

「キッカ、よかったな」

「うん。おにいちゃん、ありがと」

「それで師匠、どんなのを作るんだ?」

……そうだった。えーっと……大きな一人用ソファーのようなビーズクッションを作ろうと思っていたんだけど……そもそも使うのは猫……いや、雪豹なんだよな。

ソファーである必要はない気がする。

うん、丸型か四角型のクッションで良いだろう。厚みはかなりあった方が気持ちが良いから巨大なオモチみたいなクッションにしよう。

あぁ、作る前に念のために布をノモスに確認してもらっておこう。高級感バリバリの布だけど、クッションに向いていなかったら使えないもんね。

「お餅……というか、ムーンみたいな形にするつもりだよ」

お餅って言っても分からないよね。いずれはモチ米をドリーにお願いして、餅つきイベントを開催しよう。

***

「お師匠様。その布でクッションを作るつもりなんですか!」

「え? ……駄目……かな?」

ノモスに布を見せに行くと、修行をしていたメルから悲鳴のような言葉が上がった。

ダンジョンの財宝の中に紛れていた布だからかなり良い物だとは予想していたが、予想を上回っているのかもしれない。

「駄目……ではないのですが、それっておそらく魔術布です。しかもかなり極上の逸品です。魔法耐性が有る希少な糸に、一流の魔術師が一本一本魔法処理を施しながら一流の織り手と共同で何年かけて作る希少品です。ですよね、ノモス様」

「うむ、たしかに魔術布じゃな」

なんか凄い布のようだ。

「なるほど、で、その魔術布はどんなふうに凄いの? 俺が使っている光龍装備よりも凄かったりする?」

たしかこの布は光龍装備よりも前の階で手に入れたはずだから、性能的には光龍装備のほうが上だと思うんだけど。

「……あれ? たしかに魔術布は凄い布ですが、お師匠様の装備と比べたら……人の手で作ることができますし、権力とお金があれば手に入らなくもない布で、お師匠様の装備は手に入れようと思っても手に入れられない……あれ? それほど貴重な物ではないのでしょうか?」

メルが混乱している。

でも、だいたい理解できた、要するに超絶お金持ちで権力者じゃないと手に入れるのが難しい、超超高級品ってことだな。

それで寝具を作ると聞いたら、悲鳴をあげる気持ちも分からないではない。

ふむ、少しもったいない気もするが、ぶっちゃけお金と権力レベルの品物で騒いでいたら、俺の魔法の鞄の中身はほとんどの物がもったいなくて使えなくなる。

大精霊をスカウトするのだから、これくらいの投資は問題ないはずだ。

「ノモス。これで寝具を作っても問題ないよね?」

メルは混乱したままメラルとメリルセリオにあやされているから、そっとしておくことにしてノモスに質問する。

「うむ。これはダンジョン産じゃから大丈夫じゃな」

「ん? ダンジョン産じゃないと何か問題があるの?」

「うむ。人が作ると魔力を込めた人物の特徴が魔術布に宿る。その場合はその魔力の特徴を好まぬ場合は逆効果になるじゃろうな」

なるほど、自分の好みとは合わない匂いがついた寝具とか、嫌だよな。

「ダンジョン産は良い匂いなの?」

「ダンジョンの物は純粋な魔力で作られておるから無臭じゃな」

純粋な魔力というのが良く分からないが、無臭なら精霊樹の香りを邪魔しないだろうし、魔術布は悪くない選択だったようだ。

他にもいくつか布があったけど、他の布はなんか発光していたり鏡面仕上げみたいにツルツルだったりと寝具には向きそうになかったから、魔術布がOKなのはラッキーだった。

あとは布を家で待ってくれているジーナ達に渡して、その間にサクラにビーズを作ってもらえば完成できるだろう。

「師匠、裁縫道具は?」

……さすがに迷宮の財宝の中には裁縫道具は無かった。

まあ、裁縫道具ならノモスが作れるだろう。

***

「サクラー。ちょっと話があるからこっちにきてくれー」

予想通り裁縫道具はノモスが簡単に作ってくれた。魔術布は高価なだけあってかなり丈夫らしく、作業に手間が掛からないようにオリハルコンを使って作ってもらったが、その時のメルのなんとも言えない表情になんだか申し訳なくなってしまった。

でもまあ、俺の弟子なら慣れてもらうしかないだろう。伊達に迷宮を攻略しちゃってないから、魔法の鞄の中にはメルの神経を痛めつけるものが沢山眠っている。

「うきゃー」

遠くから大声で呼ばれたのが楽しかったのか、サクラが満面の笑みで飛んでくる。赤ん坊が飛んでくる光景にもすっかり慣れてしまったな。

あと、サクラに続いてベル達もこちらに向かって飛んできている。ふむ、ベル達のテンションが高いようだ。

あの感じだとたぶん大興奮でしがみついてくるだろう。こういう時は普段頼りになるシルフィも静観を決め込むので、サクラにお願いするまでだいぶ時間が掛かりそうだな。

「ゆーたー」「キュー」「どうしたの?」「ククー」「でばんか!」「……」「う?」

さすが風の下級精霊。一瞬でサクラを追い抜き俺の顔面に向かって直行してくる。

「わぷ」

ベルはなぜか顔に張り付くのが好きなんだよな。まあ、ほとんど衝撃はないから構わないんだけど、ベルのお腹で視界を塞がれている間に次々と体に軽い衝撃がはしる。

最後の一番軽い衝撃がサクラだな。なんか声の感じが疑問形になっていたから、たぶん何か用事? といった質問だろう。

でも、今はその質問に答えるのは無理だ。

「えーっと、それで、サクラにちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」

ベル達が満足するまで撫でくり回して、色々とお話を聞いてようやく落ち着いたところでサクラにお願いをする。

「あい!」

元気よく頷いてくれるのはありがたいが、将来悪い人間に騙されそうで不安だ。後で返事をする前にお願いの内容を把握するように教えておこう。

「ビーズ……うーん、凄く小さな丸い粒が沢山欲しいんだ。精霊樹の樹液か落としてもいい枝で作れないかな?」

「う?」

首を傾げるサクラ。うん、確実に伝わっていないな。

このまま言葉だけで伝えようとしても伝えられる気がしないし、ドリーに協力してもらって、見本を見せながら説明しよう。

それにしても、軽くクッションを作って、簡単に雪の大精霊を陥落させるつもりだったけど意外と大変だな。

失礼な話だが、あの自宅警備員なお猫様にそれだけの価値があるのだろうか?