軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百三十七話 スカウト

楽園の一区画に雪が降り、雪兎、雪ダルマを作った後は、みんなでカマクラを作り、その中で熱々の鍋を思う存分楽しんだ。ベル達もジーナ達も雪は初めてだったらしく、雪を降らせてくれた中級精霊には大いに感謝したい。

昨日の雪遊びは楽しかった。

そして何より、カマクラで食べた鍋が素晴らしく美味しかった。

やはり鍋は寒い季節が美味しい料理なのだろう。シチューやおでん、グラタンなんかも冬に食べるのが美味しいと思う。

それに鍋は他にももっと種類がある。カレー鍋なら今でも作れるし、牡蠣鍋や水炊きなんかも美味しそうだ。

でも、この大陸は年中暑い。冬に美味しい料理を楽しむタイミングがないということになる。

対策が必要だな。

「裕太、真剣な顔をして何を悩んでいるの?」

「ん? あぁ、考え事をしていたんだけど、あれ? シルフィ以外誰も居ないの?」

皆で朝ご飯を食べていたはずなんだが……。

「ベル達は雪で遊びに、ジーナ達は精霊術師の修行、メルは鍛冶の修行に出かけたわ。みんな裕太に声を掛けて行ったし、裕太も返事をしていたわよ?」

どうやら考え事をしながら生返事をしていたらしい。

しっかりした弟子達で良かった。

集中して考えることができたおかげで簡単な解決策を思いついたし、時間がないからさっそく動き出そう。

「シルフィ。楽園に雪を降らせてくれた中級精霊の子なんだけど、居場所は分かる?」

雪の精霊と会った時、シルフィはお茶会で居なかったから分からないか?

「あぁ、あの子ね。今は楽園食堂で朝ご飯を食べているわよ」

分かるんだ。さすが大精霊。

「じゃあちょっと楽園食堂に行ってくるね。シルフィはどうする?」

「面白そうだし一緒に行くわ」

単純に雪の精霊をスカウトしに行くだけだから別に面白いことなんてないんだけど、まあ、シルフィが一緒なら心強いから構わない。

楽園食堂に到着。

朝食時とあってか食堂は大繁盛で、ルビーとオニキスが忙しそうに動き回っている。

ふむ、中に入って話し込むと迷惑になりそうなくらい混雑しているし、姿は確認できたから出てくるまで待つか。

この混雑を見てちょっとした疑問が浮かんだし、シルフィと雑談して時間を潰そう。

「ねえシルフィ。今更なんだけど、なんで精霊達はご飯の時間をちゃんと守るの? 別に混雑している時に食べなくてもいいよね?」

人は活動時間帯がだいたい同じだし、お腹が空くタイミングが一致するのも仕方がない。

でも、精霊は食べなくても問題ない訳だから、わざわざ混雑するタイミングで食べなくてもいい。むしろ、空いている時間にご飯を食べた方がゆっくり味を堪能できるはずだ。

「娯楽だからよ」

「へ?」

ちょっと意味が分からないです。

「食べて味を楽しむのと同時に、人の世界で見たことを同じように体験して楽しんでいるのよ」

「……あぁ、なるほど」

非日常だから混んでいても問題ないというか、混んでいた方が盛り上がったりするのか。

混んでいると分かっていても、連休中に某夢の国に行くような感じなのかもな。

「そんなことよりも、出てきたわよ。声を掛けなくていいの?」

おっと、本来の目的を果たさないとな。前回はちょっと気まずい別れになったから、まずは謝ろう。

いや、気が利かなかっただけでものすごく悪いことをした訳でもないから、謝る方が過去をほじくり返すみたいで良くないかも。

なにごともなかった風に話しかけよう。謝った方が良さげなら、その時に謝ればいい。

「雪の精霊さん、おはようございます」

「……おはようございます」

うむ、この反応はどうなんだ? この雪の精霊さんはクール系だから表情から感情が読めない。

「えーっと、少しお話をいいですか?」

「……少しだけなら」

少し悩んだ結果、こちらの要望に応えてくれる雪の中級精霊。ん? あとから食堂から出てきた子になにやら話しかけてからこちらに戻ってきた。

目が合ったので俺も一礼しておく。なんかキラキラした金髪だし、光の精霊かな?

「ご友人と一緒の時にすみません」

ちょっと堅苦しい気もするが、今の俺はスカウトマン。信頼感が大切だ。

「大丈夫です」

「ありがとうございます。ここではなんですので、場所を移動しましょうか」

雪の中級精霊がコクリと頷いてくれたので、場所を移す。自宅に招いても良いけど、女の子だしローズガーデンでお茶を飲みつつ話をするか。

ローズガーデンの小さな浮島のガゼボに入り、魔法の鞄から紅茶とお茶菓子を取り出して世間話をしながらお茶の準備をする。

ローズガーデンをジーナ達が造ったことを伝えると、少し目を大きくして驚いていたので、胸を張ってしまった。

「それで、話なんですけど……契約、もしくは楽園に移住してきませんか? 空に浮いている島の一番上が未使用で、そこを雪の島にしてほしいんです」

年中暑くて寒い時に美味しい料理を食べられないのであれば、寒い場所を用意すれば良い。

単純な解決策だが環境を変化させるという、精霊とコミュニケーションが取れる俺くらいにしかできない方法だから、密かに凄い事なんじゃないかと自画自賛している。

「なにか考えているようだったけど、そんなことだったの。おおかたベル達やジーナ達が喜んでいるから雪で遊べるようにしたかったんでしょうけど……過保護じゃない?」

珍しくシルフィが俺の思考を読み違えている。

たしかにベル達やジーナ達の為という一面もないとは言わない。でも、俺の根底にある欲求は冬の料理を美味しく食べたいという純粋な欲望……あっ、そうか。

さすがのシルフィもそんなことで楽園の一部を常時雪にしようとするなんて思わないよね。

……表向きはシルフィが言ったように、ベル達とジーナ達の為ということにしておこう。雪が降れば俺の目的は達成される。

「いろんな環境があることが大切なのであって、別に過保護という訳じゃないよ」

「……裕太。あなたなんだか胡散臭いわよ?」

本来の目的を隠そうとして、挙動不審になってしまったらしい。

「シルフィ、今はこの雪の精霊さんとのお話の時間だからね」

このまま話を続けると、余計な事まで見抜かれそうなので話を本題に戻す。

「……しかたがないわね」

「ということで、雪の精霊さん、移住どうですか?」

シルフィが納得してくれたことで本題に戻り、雪の精霊に話を振る。

「無理です」

即答された。

「えーっと、どうして無理なのでしょうか? こちらでフォローできるならできるだけフォローしますよ?」

無理だと言われて簡単にあきらめていたらスカウトマンは務まらない。

まあ、スカウトマンじゃないし、その知識もないけど。

「能力が足りません。雪を降らせることもある程度環境を保たせることもできますが、長期間環境を変え続けることは難しいです」

……なるほど、力が足りないのであればどうしようもないな。

俺は中級精霊なら雪の世界を作るくらい簡単だと思っていたけど、そんなに簡単な話ではないらしい。

都市の一つくらい簡単に滅ぼせるというところから実力を推測していたが、破壊と継続は違うということなのだろう。

「ちなみに、契約すればすぐに上級精霊に成れたりはしませんか?」

「しません」

「……ありがとうございました」

スカウト失敗! というか的外れなスカウトをしていた。お詫びを言って、雪の中級精霊と別れる。

まあ、雪の中級精霊もお茶を喜んでくれたし、俺も中級精霊について少し詳しくなったからまったく無駄な時間じゃなかった。そういうことにしておこう。

「シルフィ。さっき俺が雪の中級精霊に言った条件に当てはまる精霊をしらない?」

自分でなんとかできそうなら自分で交渉するが、まったく手掛かりが無くなってしまったならしょうがない。

シルフィ先生、お願いします!

「うーん、雪の精霊ね。裕太がやりたいことを考えるなら雪の上級精霊以上の存在なのだけど……わざわざ契約か滞在をしてもらう必要があるの? 今回みたいに遊びに来た子達に雪原を作ってもらったらいいじゃない」

「それはそうなんだけど、どうせなら本格的な方が良いと思うんだ」

雪の精霊を迎え入れることを考えている間に、どんどん妄想が膨らんだ。

雪が降りしきる空に浮く島にログハウスなんかを建てちゃって、そこに暖炉を設置してその温かな火の前でチーズフォンデュを食べる。端的に言って最高ではなかろうか?

とうぜんチーズフォンデュだけではなく、鍋物も美味しく頂けるだろう。

「うーん」

なんだか珍しくシルフィが乗り気じゃない。

「もしかして、雪の精霊の知り合いが居ないの?」

「いえ、居るのは居るのだけど……少し面倒な精霊なのよね。気が進まないわ」

ふむ、シルフィがここまで素直に嫌な顔をする相手か……。

「危険な精霊なの?」

今までの経験から危険な精霊なんて想像ができないが、精霊は沢山居るから危険な精霊が居ないとも限らない。

「危険という訳じゃないけど、相手にするのが疲れるのよ」

疲れる精霊。性格がウザいタイプの精霊なのだろうか? 俺も進んで相手をしたいタイプではないが、相手が精霊ならこちらには切り札がある。お酒を渡せば解決だ。

「シルフィ。俺が相手をするから、その精霊を連れてきてくれ」

「嫌よ」

「えっ?」

なんで?

「相手にすると疲れるって言ったじゃない。連れ出すのも大変だから嫌よ」

そこまでなの?

……もう諦めるか? でも、ログハウスの建設は良いアイデアだと思うんだよね。

迷宮都市に発注しても良いんだけど、ログハウスならテレビで建てているところを見たことがあるから、自分で挑戦できないこともない。

開拓ツール大活躍が間違いなしのイベントだし、ベル達やジーナ達とワイワイしながらログハウスを建てるのはとても楽しそうだ。

「……別の雪の精霊の知り合いは居ないの? シルフィの知り合いだけじゃなくて、ディーネ達の知り合いでも構わないんだけど?」

まともな精霊を紹介してもらえば解決だ。

「別に居ないこともないのだけど、自然の調和を尊ぶタイプの普通の精霊だから裕太の目的を考えると望み薄ね。あと、ディーネ達は一ヶ所に腰を落ち着けていたから、近所では顔が広いけど、別の大陸の雪の精霊なんかだと、居ても話したことがあるくらいだと思うわ」

その点、シルフィは世界中を飛び回っていたから、知り合いも世界中に沢山いるということか。

「ねえ、シルフィ。普通の精霊という言い方は、シルフィ達が普通じゃないってことにならない?」

自虐ですか?

「この場所に風も水も土も森も火も命も昔はありふれていたのよ。元々まったく降らなかった雪とは条件が違うわ」

できの悪い子に優しく教えるように諭されてしまったが、言いたいことはよく分かった。たしかにこの場に雪は似つかわしいとは言えないよな。

「……分かった。じゃあその精霊の説得は俺がするから、その精霊が居る場所まで連れて行ってくれ」

蒸留酒以外にも、マリーさんに仕入れてもらった各国のお酒もお土産にしよう。

「まあ、裕太がやりたいというのなら止めないわ」

よし、じゃあみんなに出かけることを伝えて出発するか。癖が強い精霊みたいだから、俺とシルフィだけでいいよな。

「あっ、そうそう裕太。お酒でどうにかしようと思っているかもしれないけど、その精霊、お酒も好きだけどお酒よりも好きな物があるから、お酒での説得は難しいわよ」

俺の切り札が出発前に無意味になった。

……どうしよう、諦めるか?