軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百三十四話 中級精霊の力

ベティさんのお願いは醤油を商品化することだった。ついでに味噌の商品化も追加でお願いし、ベティさんは仕事地獄に陥ることに決定した。まあ、逃れるチャンスはあったのだけど、彼女が美味しくご飯を食べることを優先したのだから仕方のないことだろう。

「じゃあノモス、お願いね。メル達も頑張ってね」

「はい! 頑張ります」

楽園に戻り、今日からメル達はダマスカスを習得するために修行を始める。

どのくらいで習得できるかは分からないが、ゴルデンさん達を追い返したまま放置しているので、できるだけ早くマスターするように祈っておこう。

長い期間工房を放置していると、また騒ぎそうだもんね。

「約束は守るんじゃぞ」

ノモスがギロっと俺をニラむ。約束……約束のお酒のことだな。

「大丈夫。他人の迷惑も考えずに買えるだけ買ってきたから、後でノモスの家か醸造所に運ぶよ。どっちがいい?」

本当に他人の迷惑を考えずにお酒を買い占めてきた。というか、マリーさんや迷宮のコアのところに顔を出す以外は、ほぼ酒場を巡っていた気がする。

「うむ。醸造所の方に頼む」

「了解」

俺が返事をするとノモスはメル、メラル、メリルセリオを連れて去っていった。

メルが修行する工房を自由に造っていいと伝えてあるから、どんなものが完成するか楽しみだ。

それに、体験施設の近くに造るようにお願いしているから、メルが迷宮都市に帰っても、工房での鍛冶体験施設として利用できるし、工房のデザインはメルがするように言ってあるから安心だ。

もしかしたら精霊から名鍛冶師が誕生するかもしれないな。

***

「師匠ー」

お酒を醸造所に配達しのんびりベル達とお散歩していると、マルコがこちらに向かって手を振りながら走ってくる。

たしかマルコ達はローズガーデンの様子を見に行くと言っていたから、ローズガーデンで何かがあったのかもしれない。

「マルコ、どうしたの?」

「師匠、なんだかすごいことになってる!」

ローズガーデンで凄いこと? 青いバラでも咲いたのだろうか?

「マルコ、落ち着いて。危険はないんだよね?」

楽園で危険なことが想像つかないが、念のために確認しておく。精霊の力は凄まじいから、悪気が無くても何かが起こる可能性は否定できない。

「きけんではないとおもう。えーっと、その、なんか、あそぶには師匠のきょかがひつようで……師匠、とにかくいっしょにきて!」

危険はないようだが説明が難しいらしく、直接連れて行くことを選択したようだ。

遊びに俺の許可ってところが理解できないが、遊びが関係しているのなら悪いことではないだろう。

……たしかに凄いことになっていた。

場所はローズガーデンではなく、その先の中級精霊に自由に使って良いと許可をした場所。

中級精霊が自由にできるように、何も無いただのスペースだったんだけど、こうなるのは考えていなかった。

スペースの一角が雪原になり、雪が降っている。

シルフィがいつも涼しくしてくれているから気にならないけど、本来は荒野でとても暑い場所だから、違和感が凄まじい。

「おししょうさま。あれ、ゆきっていうんだって。つめたいの!」

雪原と普通の地面が線で引いたようにクッキリと別れている場所で待っていたジーナ達と合流すると、キッカが雪原を指しながら教えてくれた。

どうやら初めて雪を見たようで、大人しいキッカが興奮している。

ジーナやサラも気になるようで、空から落ちてくる雪を不思議そうに見つめている。

そういえば大陸全体が暑いから、当然迷宮都市にも雪は降らない。俺以外のこの場の全員が雪を初めて見るんだな。

俺は日本でも雪を体験しているし、迷宮でも強烈な吹雪を体験したからそれほどでもないが、ジーナ達にとっては一生出会うことがなかった光景だし、興奮するのもしかたがないだろう。

まあ、迷宮の七十六層まで辿り着ければ猛烈な吹雪は体験できるけどね。

「師匠、あそんでいい? あの精霊があそぶには師匠のきょかがひつようだっていうんだ」

ああ、そういえば俺の許可が必要だって言っていたな。

雪遊び。マルコがワクワクした表情で許可を待っているから、許可してあげたいところだけど、ジーナ達の格好は……真夏仕様の普段着。

この格好で雪原で遊ぶのは自殺行為だろう。

死にはしないにしても、霜焼け凍傷は普通にあり得る。

マルコが指した精霊が俺の許可を必要としたのも、その辺りを心配してのことだろう。

現に雪原を発見して大喜びで突入していったベル達には何も言っていない。

「遊ぶのは構わないけど、まずは服装を変えないと駄目だね。ちょっとごつくなるけど、探索用の服に着替えて厚着するなら構わないよ。あぁ、手袋も忘れないようにね」

「わかった!」

マルコとキッカが走り出し、それに続いてジーナとサラも走り出した。たぶん家に戻って着替えてくるのだろう。

マルコとキッカの遊びたくてしょうがないという雰囲気は感じていたが、雪が降る空を見上げていたジーナとサラも密かにテンションが上がっていたんだな。少し微笑ましい。

ベル達は雪原で遊び、ジーナ達は着替えに帰った。シルフィはディーネとドリーとイフと一緒に自分達の家で女子会をしているので居ない。

思っても見ないところで一人になってしまった。

少し寂しいから、ジーナ達に注意してくれた精霊と話をしてみよう。

「こんにちは」

少し離れた場所で空を見ながらたたずんでいる、少女の中級精霊に声を掛ける。

「……こんにちは」

うわっ、綺麗な子だなー。

少女なのに冷たい美貌って言葉がピッタリな、人形のような透明な美しさを感じる女の子だ。

この子が大人になったら、凄まじい美女になりそうなんだけど……さすがに俺の寿命ではその姿を見るのは無理だろう。少し残念だ。

「えーっと、マルコ達に注意してくれてありがとうね」

「危険なのは駄目……」

やっぱりマルコ達のことを心配して注意してくれたんだな。冷たい雰囲気を漂わせているけど、内面はとても温かい精霊のようだ。

「うん、おかげでマルコ達が霜焼けにならずにすんだよ。そういえば、どうして雪を降らせようと思ったの?」

合わない環境だと精霊だって余計に力を使うはずだ。雪の維持も大変だろうし、なんでだ?

「……実験」

「実験? あぁ、温かい場所に雪を降らせたらどうなるかってこと?」

「そう」

「なるほど、そのおかげでジーナ達が雪を体験できるから俺達はありがたいよ。ん? 君は……雪か氷の精霊だよね?」

「雪の精霊」

「ということは、この大陸の精霊じゃないの?」

たしか精霊は環境に影響されて生まれるはずだ。この大陸は全体的に暑いから、雪や氷の精霊が生まれる余地は無いはずだ。

「そう、違う大陸から遊びに来た。ここはとても面白い。……ありがとう」

やっぱり別の大陸の精霊だったか。精霊の世界全体で噂になっているようだし、そういうこともあるだろう。

「えーっと、どういたしまして。楽しんでくれているのなら俺も嬉しいよ。君が住んでいる大陸ってどんなところなの?」

「……雪が沢山、年中とても寒い」

なるほど、北極とか南極みたいな場所なのかもしれない。

「人は住んでる?」

「住んでるけど、少し」

それほど文明が発展していないこの世界で人が居るなら、北極や南極まではいかなくてアラスカみたいな場所かもしれない。少し興味はあるが、極寒の地に遊びに行くのも勇気がいるな。

でも、別の大陸の話が聞けたのは良かった。この大陸ですら未到達の場所が沢山あるが、いずれ別の大陸に遊びに行くのも楽しそうだ。

「師匠ー」

ポツリポツリとだが雪の精霊と興味深い話をしていると、ジーナ達が手を振りながら走って来た。

「師匠。あそんでいい?」

……マルコが汗だくになっている。まあ、暑い中に厚着をして走ってきたんだから汗くらいかくだろう。

雪山での汗は大敵だって聞いたことがあるが、ここは雪原だし少し移動すれば温まることはできる。遊ぶくらいなら大丈夫だろう。

「適度に雪原から出て休憩を取ること、手足が痒くなったりしたらすぐに俺に報告すること。それが守れるなら遊んできていいよ。ああ、雪の精霊さんにお礼を言うようにね」

「やったー! 精霊さんありがとー」

「ありがとー」

お礼を言って雪原に飛び込んでいくマルコとキッカ、ウリとマメちゃん。

「うわっ、つめたい! でも、やわらかい、おもしろい!」

「ふわふわ! でもしゃむい!」

「ピュギュ!」

「ホー!」

四人ともとても楽しそうだ。

「師匠、あたし達もいい?」

「うん。ジーナもサラも遊んでおいで」

「分かった。雪の精霊さん。ありがとう。楽しませてもらうよ」

「ありがとうございます雪の精霊さん」

「ホー」「……」

「わふ!」

マルコとキッカに続きジーナとサラ、フクちゃん、プルちゃん、シバが雪原に飛び込んでいく。こちらもきゃあきゃあと騒いでとても微笑ましい。

ん?

「雪の精霊さん……もしかして照れてる?」

ジーナ達に真正面からお礼を言われたからか、透き通るように真っ白だった肌にほのかに赤みが差している。

「……ご飯食べてくる」

あっ、雪の精霊が飛んで行ってしまった。

あまり人には慣れていないみたいだし、余計な事を言ってしまったな。でもまあ、それほど広くない楽園内だから、また後で探して謝ればいいか。今はそっとしておこう。

さて、雪遊び初心者の我が弟子達は雪をすくい上げたり飛び込んでみたり、契約精霊達と戯れたりと雪の遊び方がまだまだ甘い。

ベル達は……あちらは普通の雪遊びとは次元が違うな。

猛スピードで雪を追いかけながら飛び回ったり、突然雪の中に飛び込みズモモモモと雪原を突き進んで飛び出してきたりと、人の身では考えられないアグレッシブな遊び方をしている。

下手に合流すると洒落にならないことになりそうなので、落ち着くまで近づかないことにしよう。

よし、まずはジーナ達に師匠としての威厳を示そう。

雪兎から入って雪ダルマを経てカマクラ造りって感じで進めていこう。雪合戦も気になるけど……俺はかなりの高レベルだし、ジーナ達も冒険者の一流に近いレベルを保持している。

下手に投げて弾丸みたいに雪玉が飛んでいったら危険だから、ある程度雪遊びで雪に慣れてから、雪玉の投擲練習をして雪合戦と言うことにしよう。

ヤバい。俺も結構ワクワクしてきた。