軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百二十六話 運命?

のんびりしてもらう目的で楽園に連れてきたメルとメラル。なぜか生真面目な性質が発揮されてしまい、楽園でも緩まずに自分を高めようと頑張っている。彼女とメラルなら立派な精霊術師、そして鍛冶師になることができるだろう。

「お師匠様、私ではどうすれば良いのか分かりません」

夕食が済み、コーヒーを味わいながらのんびりするゆったりとした時間。

メルが乗り越えられない壁にぶつかって、絶望した人のように疲れ切った顔で話しかけてきた。

メラルも若干疲れが顔に出ているし、大真面目に困っているのだろう。

師匠として力になってあげたい気持ちはあるが、俺がアドバイスできる部分は少ない。

なぜなら、問題がメルが契約する浮遊精霊についてだからだ。

「うーん。もういっそのことメル達と相性がいい子をノモスに選んでもらう?」

「その方が良いのでしょうか? でも、ノモス様は自分で探すようにおっしゃいましたし……」

メルの思考がドツボにハマっている。

メルが困り果てるのも理解できない訳ではない。

別にメル達に問題がある訳でも、探している土の浮遊精霊に困った問題がある訳ではない。

問題は、みんなとても良い子達だという一点だけだ。

浮遊精霊達は一番下の階級でとても幼い。つまり赤ん坊に近い存在だ。ということは、どの子もとても無邪気で可愛らしい。

楽園をキャッキャと笑いながら飛び回っている浮遊精霊達を見て、俺も日々癒されているからとても理解できる。

毎日ペットショップで可愛らしい動物の子供達と戯れているようなものだ。だからこそメルの苦悩も深い。

メルはこう思っているのだろう。こんな可愛らしい子達の中から一人を選ぶなんてできない! と……。

浮遊精霊はペットショップよりも多種多様だし、楽園に遊びに来ている子達はある程度知能も発達している。

そして寿命も果てしなく長く、その契約がメルの子孫に代々受け継がれる可能性も高い。

そりゃあ迷うよね。

単純に考えれば合わなければ契約を解除すればいいだけなんだけど、真面目なメルはそんな風に気楽に考えられないだろうし俺だって無理だ。

だからこの三日、メルは悩みに悩んでいる。

土の浮遊精霊と契約すると決まった初日、メルは楽しそうに家から飛び出していった。

どんな子と契約することになるのだろう? とワクワクしていたのが傍目からでも分かった。

そして、初日で可愛らしい浮遊精霊の中から相手を自分が選択しなければならないことに気がつき、愕然として戻ってきた。

メルに人気がなければ簡単に済んだかもしれない。

でも、メラルも言っていたようにメルは中々の好物件だ。

ちゃんと精霊達のことを理解しているし、美味しい物も食べさせてくれる上に聖域にも出入りもできる。

浮遊精霊達が利に聡い訳ではないが、契約するのであれば楽しい方が良いに決まっている。

だからメルは大人気で、土の浮遊精霊を探しているのに他の属性の精霊が紛れ込んでいるような始末だ。悩むだろう。

「お師匠様はどう判断して、シルフィ様達やベルちゃん達と契約したのですか?」

……聞かれたくなかったことを質問されてしまった。

師匠として、大人なのに可愛らしく小首をかしげて俺を見る弟子に良いところを見せたいのだが……経験したことがないから想像でしかアドバイスができない。

だって俺、誰一人として選択して契約したことなんてないもん。

言ってみれば、俺はお見合い結婚のスペシャリスト。

最初に偶然ベルと出会い、そこから繋がった精霊達と片っ端から結婚したようなものだ。

お見合い精霊ハーレムだ。

契約精霊に男性型とか動物型とか幼女とか少年が混ざっているから、ハーレムと例えると犯罪臭が漂いまくって危険だが、だいたいそんな感じだ。

そんな俺にとって、メルの質問はとても難しい。

リア充のモテモテ野郎に、陰キャの童貞が恋愛指南をするくらいの難易度だ。

「ゆーたー。どうしてー?」「キュー?」「なんで?」「クゥ?」「おしえるんだぜ!」「……」

メルの質問に興味を覚えたのか、食後のデザートを味わっていたベル達が集まってきてしまった。

それだけではなく、ジーナ達やフクちゃん達もこちらに注目している。

……この注目の中で、俺はいったいなんと答えればいいのだろう?

思わず食事に同席していた大精霊に助けを求めるが……今日の夕食に参加していたのはシルフィとディーネだけだった。

シルフィはすべてを理解したうえで面白がっていることを隠さず俺を見ているし、ディーネは『お姉ちゃんと裕太ちゃんは運命の出会いをしたのよねー』と、訳が分からない妄想を炸裂させながらクネクネしている。

……大精霊が頼りにならない。

せめてドリーかヴィータが居てくれたら……。

ん? 運命? そうか、運命か。頼りにならないと思っていたけど、ディーネ、ナイスサポートだ。頼りにならないとか思ってごめん。

「ベル達やシルフィ達との契約は偶然と言われればそれまでだけど……たぶん出会うべくして出会ったんだと思う。今の楽園と違って、契約した頃はここは何もなかった。水場も食料も安全な寝床も……」

なるべく威厳があるように重い雰囲気で話し始めたが、思い返せば洒落にならないよね。偶然ベルに出会わなければ、十日も持たずに野垂れ死んでいたんじゃないだろうか?

自力で開拓ツールの存在に気がついて魔物をどうにかできていたとしても、心が死んでいた気がする。

「そんな中でベルと出会い、シルフィを連れてきてもらって、少しずつこの場所を開拓していくにつれてディーネ達が力を貸しにきてくれた。偶然と言われればそれまでだけど、ディーネがさっき言っていたように運命だったように思える」

「運命ですか?」

「そう、運命だよ」

メルがよく分からないと言った顔をしている。

まあ、出会う運命だったんだよって言われても、だからどうした? て話だし、メルの相談の答えにはなっていないんだから当然だろう。

でも、ベル達は運命って言葉が気に入ったのか『うんめー』とはしゃぎながら飛び回っているし、ディーネも『そうよねー』と満足した様子だから半分くらいの危機は乗り越えたはずだ。

いや、ジーナ達も、師匠も苦労したんだなと尊敬してくれているようだし、八割くらいの危機は乗り越えたかもしれない。

シルフィは俺の苦し紛れを理解している様子だけど、あそこは放っておいてメルをなんとか納得させれば、すべてを問題なく乗り越えられる。

「だからメルも焦らなくていいし、無理して契約する必要もない。メルが選ぶんじゃなくて、沢山の精霊と触れ合って、あの子と契約したいってお互いが思ったら契約すればいいんじゃないかな? ようするに、メルは自分が決めなきゃって気持ちが強すぎるんだと思う」

まあ、精霊は仲良くなれば力を貸してくれるし、メルが契約したいと思えばそれで決定しそうだけどね。

題して『運命と思える相手が居ないのであれば、運命と思える相手が現れるまで待とう』作戦。

ただの時間稼ぎとも言うが、焦って決めてメルも精霊も不幸になるよりかはマシだろう。

この作戦の欠点は、待っている間に時間だけが過ぎ去ってしまう可能性だけど、真面目なメルなら力を抜けば良い出会いもあるだろうから心配する必要はないと思う。

「ですが、もうすぐ迷宮都市に戻らないといけません」

「じゃあ、次に来た時に契約すればいいんだよ。たぶん、メルは鋳物のことがあるから契約を焦っているんだろうけど、別に土の精霊が居なければ鋳物ができない訳じゃないよね。俺の依頼で焦らせているかもしれないけど、俺はのんびり待つから焦らなくてもいいんだよ」

こうなることが分かっていたなら鋳物のことは土の浮遊精霊と契約した後に頼んだんだけど、鋳物を頼んだから土の浮遊精霊と契約することになった訳だから、どうしようもないよね。

「……焦り過ぎ……ですか……そうかもしれません。少し力を抜いて、ゆっくり浮遊精霊達と触れ合ってみます」

すべてを納得したという様子ではないが、メルも自分が焦っていることを自覚していたのか、なんとか俺の話を受け入れてくれたようだ。

「うん、それが良いと思うよ。せっかくの楽園に来たんだから、もっとメラルや精霊達と話してしっかり楽しんでいってくれ」

本来の目的はそれなんだから……。

「はい、分かりました。あっ、契約のことを考えている時に思ったのですが、お師匠様はもう精霊と契約しないんですか?」

「えっ? ……あぁ、うん、たぶんしないと思うよ?」

この子はいきなり何を言いだすんだろう?

……そういえば、最後に大精霊達と契約してから次に別の精霊と契約しようとか、考えた覚えがないな。

光や闇の精霊とか心の奥底に封印した何かが疼くが、ぶっちゃけシルフィだけで過剰戦力だ。

主要属性をコンプリートするために更に精霊と契約する考えがないではないが、この世界はゲームではないんだからさすがにそれは傲慢だろう。

まあ、その属性の力がどうしても必要になる。そんな出来事があれば別なんだけどね。

ダーク様と契約できたら最高なんだけど、とか、まったく思っていないよ?

***

「お師匠様! 私、この子と契約したいです! お師匠様のおっしゃっていた、運命を感じました!」

……メルなら焦らなくてもいずれ良い出会いがあるとは思っていたけど、相談の翌朝は早すぎじゃないかな?

俺、結構真剣に相談に答えたよ?

あと、俺は運命を感じたことがないから、メルのその嬉しそうな感情に共感できないんだ。ごめんね。

「お師匠様?」

「あ、うん、あぁ、メルが契約したいのなら、それでいいんじゃないかな。おめでとう?」

「はい! ありがとうございます」

……まあ、すべてが丸く収まったんだし、メルとメラルが良いのであれば、これでいいんだろう。

あと一日早く運命の出会いをしろよ! とはまったく思わない。まったくだ。