軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百二十話 試飲

俺が酔っ払って眠っている間も、ベル達が中級精霊達の案内をしてくれていた。ジーナ達もハンドベルに興味を持った中級精霊達に使い方を教えてくれていたし、フレアも少し方向性を間違えてはいたが、一生懸命に頑張ってくれていた。みんなとても良い子達だ。

「んー、どうしようかなー」

ソファーに横たわり、しがみついてくるベル達やサクラを撫でくり回したり、くすぐったりしながら考え事をする。

大宴会が終わって数日、中級精霊達が遊びに来ることになって楽園も忙しくなると覚悟していたが、そんなことはまったくなかった。

料理を作る量がダイレクトに増えたルビーは少し大変そうだが、やる気に満ち溢れているし、他の施設は中級精霊達が増えて細やかに下級精霊達や浮遊精霊達の面倒を見てくれるのでむしろ楽になった。

心配して楽園に張り付いている必要はないようだ。

そうなると、俺に自由行動の時間ができる。

サラのヴィクトーさんへの顔見せも俺の自分探しの旅も中途半端で切り上げちゃったし、再開するのもいいんだが……メルとメラルを楽園に誘いに行くのも捨てがたい。

両方を実行するのは確定なんだが、どちらを先にしよう?

メルとメラルも急に店を休めるか分からないし、先に話しだけ通しておいた方がいいんだろうけど……なんだか迷宮都市には近づきたくないんだよね。

あれからそれほど経っていないのに、自分の罪と向き合うことになる、そんな嫌な予感がプンプンする。

でも、自分探しの旅を再開すると、メルとメラルの楽園への招待も遅くなってしまうかもしれない。

うーん、悩みどころだ。

「裕太。ちょっといいかの?」

「裕太、だらしがないぞ。俺が気合を入れてやろうか?」

「あれ? ノモスにイフ。二人が昼間から家に来るなんて珍しいね。それと、気合は遠慮しておくよ」

宴会以外ではあまり家に近づかない二人が連れだって来るなんて、どうしたんだろう?

あと、リビングのソファーでダラダラしていたくらいで気合とか言わないでほしい。

「ふふ、宴会が終わって裕太も気が抜けているみたいだし、イフに気合を入れてもらうのもいいんじゃない?」

「いや、シルフィも余計な事を言わないで。ちょっと考え事をしていただけだよ。それよりもどうしたの? なにか用事?」

イフが俺に怪我をさせるとは思わないが、イフの気合とか根性焼きよりも熱そうだから嫌だ。会話を先に進めよう。

「うむ。海に沈めておいた酒をな、そろそろ確認したいんじゃ」

「精霊王達も帰ったし、ちょうどいい頃合いだろ?」

あぁそうだったな。蒸留酒を海に沈めてから半年以上経過した。

そろそろ確認してみようって話になっていて、どうせなら大宴会で試飲イベントにする? と聞いたんだが……精霊王様方が居たら飲める量が減ると言って後回しになったんだったな。

シルフィ達って大抵のことにはおおらかなんだけど、お酒のことになると貪欲になるよね。

「うーん、まだお昼を過ぎたばかりなんだけど……まあいいか」

幸い、今日は楽園に精霊達が遊びに来る日じゃないし、構わないだろう。というか、今日が休日だから昼から飲もうと計画を立てたんだろうな。

「ふふー。新しいお酒、楽しみねー。シルフィちゃん、準備はできたのー?」

「裕太さんから飲ませていただいた、あのウイスキーというお酒にどれほど近づいているのでしょうか? 楽しみです」

「あはは、僕とイフはそのお酒を飲んだことがないんだよね。どんなお酒なのか楽しみだよ」

ディーネ、ドリー、ヴィータが現れた。

……大精霊達の中ではすでに意思の疎通が万全のようだ。

「ええ、裕太は構わないそうよ。じゃあ、私とディーネがお酒を回収に行ってくるから、裕太はおつまみの準備をお願いね」

「……うん」

新しいお酒の試飲に大精霊達が喜びの表情でテキパキと動き出したが、ちょっと納得がいかない。

俺が昼間からの宴会に難色を示したら、数で押し切るつもりだったよね?

ちょっと釘を刺しておいた方がいいかな? と思ったが、大精霊達の様子が屋台巡りを目前に控えてソワソワしているベル達と似ていたので止めておこう。

皆、俺では想像がつかないほど長生きしているんだけど、子供っぽい部分が垣間見れて少しホッコリしてしまった。

「ゆーた、えんかいー?」

胸元にしがみついていたベルがワクワクした表情で質問してくる。宴会のご馳走を期待しているんだろう。

「宴会とは違うよ。お酒の試飲会みたいなものかな?」

「しいんー?」

試飲と言われてもピンときていないようだ。

「えーっとね、新作のお酒の味見をするんだよ」

「なるほどー」

ベル達はうむうむと頷いているが、分かっているのかは微妙だな。特にサクラは、一緒に頷くだけで楽しいのか、キャイキャイと笑いだしてしまっている。

「そういう訳で、ご馳走は出ないから、みんなはお外で遊んでおいで」

わかったーと元気に家から飛び出していくベル達とサクラ。

……ふむ、自分達の師匠が昼間から宴会で酒浸りなんて誤解されたら悲しいし、外で訓練しているジーナ達にも試飲会のことは伝えておいた方が良さそうだな。

宴会ではなく新作の試飲会。この建前は重要だ。

***

目の前に酒樽が置かれている。

半年程度の時間でも、酒樽をコーティングしていたガラスには藻や海草がこびりつき薄汚れてしまっていたが、ノモスがガラスを取り外せば普通の酒樽にしか見えなくなった。

大精霊達の視線が俺に集中する。

どうやら酒樽を開ける栄誉は俺に任せてくれるらしい。

待たせると暴れ出しそうだし、さっさと開けて飲ませてしまおう。ノモスとイフの目がギラついていて怖い。

酒樽の蓋を開ける用の金属のヘラを取り出し、蓋の隙間に差し込んでテコの原理で力を込めるとパキリと蓋が外れた。

……ふむ、アルコールの匂いはそれほどきつくはない。

柄杓で蒸留酒を掬い、ノモスが作った無色透明のガラスのコップに注ぐ。

「うーん、色が薄いね。でも、色がついているってことは熟成が足りないだけで成功はしているってことなのかな?」

ウイスキーは好きだけど、そこまでお酒造りに詳しい訳ではないから判断が難しい。でも、すくなくとも腐ってはいないようだ。

「どうなのかしら? でも、たしかに裕太から飲ませてもらったウイスキーに比べると、色に深みがないわね。裕太、匂いは? 味も早く確認してちょうだい」

「いや、別に俺を待たなくても良いから、みんなもそれぞれ自分で確かめてよ」

一応、造り主である俺に敬意を払って味見やらなんやらを任せてくれているんだろうけど、プレッシャーが酷いので逆に迷惑だ。

ノモスとか、どこの頑固職人ですか? といった目で俺を見ている。

俺の言葉に大精霊達がいそいそと柄杓を取り、コップに蒸留酒を注いでいく。

「ふむ、香りは悪くないわね。裕太のウイスキーと比べると単純だけど、蒸留したてのお酒と比べると断然良くなっているわ」

「そうじゃな。匂いはだいぶマシになっておる。味は……うむ、なるほど……これが酒を寝かせる効果なんじゃな。最初は寝かせる意味が分からんかったが、これほど変わるのであれば寝かせる意味はあるじゃろう。だが、半年程度では裕太のウイスキーにはまったく届かんな」

「そうですね。味の深みが違います」

「でもー、お姉ちゃんはこれも嫌いじゃないわー」

「美味いぞ? 裕太の酒はこれよりももっと美味かったのか?」

「イフの言う通り、僕も美味しいと思ったけど……裕太のお酒はこれ以上のようだね」

本物のウイスキーの味を知っているシルフィ、ディーネ、ノモス、ドリーと、知らないイフとヴィータではだいぶ反応が違う。

だが、それほど感触は悪くないようだ。

大精霊達の様子を見た後に、俺もグラスに口を付ける。

……たしかに蒸留したてに比べると断然飲みやすくなっている。

アルコールの刺々しさが薄くなり、香りもアルコールオンリーだった頃に比べると少しは複雑になっている。

でも、これをウイスキーと呼んだら、ウイスキーの職人には怒られる気がする。

ただ、悪くないのも確かだ。

ウイスキーとは呼べないかもしれないが、もっと熟成させれば楽しんで飲めるお酒になるだろう。

お酒に情熱を燃やすノモスなら、これからも研究を重ねて本物のウイスキーに負けないお酒を造りだせる可能性は感じられるな。

その頃に、俺が生きているかは微妙だけど……。

「こら! お前達、今はまだ酒の味を確かめる時間じゃぞ! そんなにグイグイ飲むでない!」

「えー、お酒はこうやって飲むから味が分かるんだと、お姉ちゃんは思うわー。だいじょぶー。海にはまだまだ、お酒は眠っているわー」

「そうだぜ、グイっと喉に流し込んでこそ、この強いアルコールと酒の味が生かされるんだ!」

訂正。ちゃんと熟成させて研究することができたなら、本物のウイスキーに負けないお酒を造りだせるかもしれないな。

シルフィ達だけでも危ういのに、熟成酒の可能性に精霊王様方や他の精霊達が気がつけば、三年熟成させることすら難易度が高そうだ。

カパカパとコップを空にするディーネとイフ。ゆっくりと嗜んでいるように見えるのに、スルスルとお酒を減らしていくシルフィ、ドリー、ヴィータ。

俺のコップのお酒はまだ半分も減っていないのに、酒樽の中身は三分の一ほど消費されているように見える。

俺が生きている間に完成するのは絶望的かな? ノモス、頑張れ!

あと、おつまみの用意をするように言ったのはシルフィだよね? 誰もおつまみに手を付けないんだけど?

「あー、ズルいんだぞ! 自分達だけで新しいお酒の試飲をするなんて、ズルいんだぞ!」

「そうだー。ズルいぞー!」

「そうですね、この楽園を共に盛り立てていく仲ではありませんか。一声くらいかけていただいてもバチは当たらないのではありませんか?」

「……仲間外れは悲しい……」

「うふふ……」

「チッ、嗅ぎつけおったか」

ルビー達が突然現れ、ノモスが舌打ちをした。

俺もルビー達を呼ぶことに思い至らなかったけど、ノモスは故意に排除していたようだ。

精霊にはそれぞれなんとも言えない個性があったりはするものの、みんな人格者だと思っていたが、その印象が崩壊しそうになっている。お酒って怖い。

***

「あー。るびーだー」

「おっ、みんな。こんにちはなんだぞ! ん? 裕太の兄貴達は一緒じゃないんだぞ?」

「おさけー」

「昼間からお酒とは珍しいんだぞ?」

「しんさくー」

「ん? なんだか聞き逃せない言葉が聞こえた気がしたんだぞ? みんな、詳しく教えてほしいんだぞ!」

「……こうしちゃいられないんだぞ! 皆、緊急集合なんだぞ! 直談判なんだぞ!」