軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百十四話 ジーナの試練

精霊王様方の参加要請を受けて、中級精霊の迎え入れと同時に大規模な宴会を催すことになった。時間が微妙に少なく、変な焦りによって少し失敗をしてしまったが、楽しみにしている中級精霊達の為にも頑張って宴会を成功させたい。

微妙な失敗をして家に戻ると、ベル達がお出迎えしてくれて癒された。朝食を終えたらまた頑張ろう。

「ゆーた。べる、おねがいがあるー」

頭の上に張り付いているベルから珍しいことを言われた。屋台巡り以外であんまりベルからお願いされることがないから、少し新鮮だ。

「なんのお願いかな? 俺にできることならなんとかするよ?」

大宴会の準備で忙しいと言えば忙しいが、それとこれとは話が別だ。俺はベル達の望みなら、大概のことを叶える覚悟がある。

「えーとねー」

「なるほど、ベル達も精霊王様方と中級精霊達の為に何かやりたいってことだね」

「そー」

満面の笑みで頷くベル。

ベル達のお願いを正しく理解するのはなかなか大変だった。あっちこっち話が飛ぶから混乱してしまう。

でも、根気よく話を聞いて、ようやく理解できた。

ポイントはトゥルの話を主軸にして、他の子達の話は補足程度に聞くのがコツだ。

ふむふむ、今度来る中級精霊の為に自分達も何かをしたいけど、何をしたらいいのかが分からない、か……相談を受けたからには素晴らしいアイデアを披露したいところだが、ベル達の期待した視線がプレッシャーになる。

ベル達はとてつもなく良い子であることは間違いないんだけど、器用とは言い辛いから初めてのことを今からするのは難しいかもしれない。

そうなると、ベル達が今まで体験したことがあることで、歓迎の宴に相応しいこと……あぁ、それに相応しい物に先程触れたばかりだった。

「じゃあ、ハンドベルの演奏をしようか。今回、雑貨屋に新しくハンドベルを沢山買ってきたから、前よりももっと綺麗な演奏ができるようになるよ。フクちゃん達と合同でハンドベルの演奏をすればとても喜んでもらえると思うよ」

同じ音階の音でも、一人で鳴らすのと複数人で鳴らすのは音の深みが違うはずだ。

それに、大人の汚い考えだが、可愛らしいベル達の一生懸命な演奏を否定できる鬼畜な存在は、精霊には居ないから百パーセント成功するという素晴らしいアイデアだ。

「ふぉぉぉ。べる、がんばるー」「キュー」「まえよりもすごいえんそう」「クゥー」「みせばだぜ!」「……」

どうやらベル達が満足できる回答ができたようだ。

「おみせいくー」「キュー」「かりる」「ククー」「あかいのはゆずらないぜ」「……」

「あっ、ちょっと待って、朝ごはんが……」

お店ってことはエメのお店にハンドベルを借りに行ったんだろう。沢山あるって言っちゃったもんな。

でも、ベル達にどの音をどれだけ使うかなんて、判断できないよね。

「ふふ、行っちゃいましたね」

「元気なのは良いことだよ」

ドリーとヴィータが穏やかに微笑んでいるが、そういう問題ではないと思う。

「ドリー、ヴィータ。悪いけど、朝食が少し遅くなりそうだよ」

「私達は大丈夫ですよ」

「うん、大丈夫だよ。毎回食事を取る訳でもないから、ゆっくり待つよ」

「ありがとう。えーっと、ジーナ!」

もう朝食の時間だからジーナは確実に起きているはず。

予想通り起きていたようで、リビングから玄関に出て来てくれた。

「師匠、おはよう。朝からどうしたんだ?」

「あぁ、ちょっとベル達が暴走しちゃったんだ。悪いけど朝食を始めるのを少し待っていてほしい。あと、ドリーとヴィータに、先にコーヒーか紅茶を出してあげて」

俺的にはコーヒーがお勧めなんだけど、ちびっ子達はそのままだと嫌がるし、シルフィ達も紅茶の方を好む。そして、紅茶よりもお酒だ。

今度、コーヒーの布教のために、コーヒーがメインなのか牛乳がメインなのか分からないくらいのコーヒー牛乳と、コーヒーを使ったお酒を用意しようかな?

アイリッシュコーヒーとか結構好きだし、アレを再現してみるのも良いかもしれない。まあ、自家製の蒸留酒を使うから、アイリッシュとは言えなくなっちゃうけど……。

「ベル達が暴走?」

ジーナが首をひねっているが、ベル達は興味津々な物には結構暴走することがあるよ。

あぁ、そういえばベル達の演奏の指揮者はジーナだったな。ふむ、ベル達とフクちゃん達だけじゃなくて、サラ達とサクラも加えて演奏をさせるのも楽しいかもしれない。

ハンドベルの数も足りるし、規模が大きいほど盛り上がる。

「……ジーナ、頑張ってね」

「えっ、師匠、どうした?」

「なんでもないよ。じゃあ行ってくるね」

「いや、今の邪悪な顔はなんでもないって顔じゃないだろ。朝から何を企んでるんだよ!」

背後から聞こえるジーナの声を無視して雑貨屋に向かう。邪悪な顔なんてした覚えがないんだけど、どういうことだろう?

納得がいかない気持ちを抱えながら、先程まで作業していた雑貨屋に戻る。

「たくさんー」「キュキュー」「かして」「クーー」「あかいのだぜ!」「……」

「え? ちょっと待って。なにが必要なのかな? ちょっと落ち着いて」

雑貨屋に到着し中に入ると、元気っ子なエメがベル達に押されている。これはこれでなかなか珍しい光景だ。

結構焦っているように見えるから、俺が来る前からベル達のやる気に随分押されていたのかもしれない。

「ちょっと、裕太さん、見てないで説明して!」

あっ、そうだった。珍しい光景だったから、普通に見学してしまっていた。

「えーっと、ベル達が宴会で演奏会をすることになったんだ」

「えんそー」

「そうだねベル。演奏だね。それでせっかくの宴会だから、もっと沢山のハンドベルを使おうってことになって、この状況になりました」

「……分かったような分からないような説明だけど、なんとなく分かったわ。ハンドベルが必要なのね。必要な分を持って行っていいけど、ちゃんとお代は貰うわよ」

さすがにお店からタダで商品を強奪したりしないよ。

「ゆーたー、どれー?」

「どれっていうか、まだどの音がどれだけ必要か分かってないから、選べないよ」

一瞬でなんの音がどれだけ必要か分かるほど、音楽に詳しくないもん。

エメ、なんだそれって顔をしないでほしい。俺だって予想外だったんだよ。

「ベル達は朝ごはんを食べないの? みんな待ってるよ?」

「たべるー」「キュ」「くうふく」「クゥ」「わすれてたぜ!」「……」

ベル達がハッとした顔をしている。ようやく朝食の時間だと思いだしてくれたようだ。

「ゆーたー、かえるー」

朝食を思い出してあたふたするベル達が可愛い。

「先に戻ってて」

許可を出すと、ビュンと一瞬でベル達が消えた。そんなに急いで戻らなくても、みんな待ってくれているよ。

「えーっと……エメ、ごめんね?」

「いえ、大丈夫ですよ。あの子達は何も悪いことはしていませんから」

お店に来ただけだから、たしかに悪いことはしていないだろうけど、そんなに疲れた表情をされたら謝るしかないじゃないか。

***

「凄いことになっちゃったね」

「なっちゃったんじゃなくて、師匠が凄いことにしちゃったんだろ」

ジーナが恨めしい顔で俺を見る。たしかにその通りだけど、どうせやるなら派手な方がいいよね?

サラ、マルコ、キッカ、ベル、レイン、トゥル、タマモ、フレア、ムーン、フクちゃん、プルちゃん、ウリ、マメちゃん、シバ、に加えて新メンバーのサクラ。

見た目は超絶可愛らしい集団だ。

動物園とかの触れ合いコーナーでこんな集団を何度か見た気がする。まあ、飛んではいなかったけど……。

朝食を終えた後、なんとか譜面を脳ミソから絞り出し、必要と思われるハンドベルも揃えた。

譜面と指揮者と楽器が揃い、演奏者も気合十分だから、本番では素晴らしい演奏が奏でられること間違いなしだ。

「じゃあ、ジーナ、後はよろしくね」

「おい、ちょっと待てよ! 師匠はやりっぱなしで全部あたしに押し付けるつもりなのか!」

ジーナ、落ち着いて。下町感が出ちゃってる。微妙に下品な事を言っちゃってるよ。

「いや、押し付けるとかじゃなくてね、宴会まで日がないし、今回は中級精霊達の受け入れのために色々とやらないといけないことがあるんだ。だから、ジーナが指揮者として立派にあの子達を導いてくれると嬉しい。これも修行だよ」

「精霊術師としての修行じゃないだろ。どちらかというと子守の修行だ!」

子守こそが精霊術師の真髄だという気がしないでもないが、さすがにそれを言葉にはし辛い。

「俺は今から宿にベッドとか家具を納品しないといけないんだ。手伝える時はちゃんと手伝うから頑張ってね」

本当は俺も最初は手伝いたかったんだけど、譜面を捻り出したり、必要なハンドベルを考えたり借りたりしている間に約束の時間になっちゃったんだ。

悪いけど頑張ってほしい。

「早く戻ってきてくれよ」

「……うん」

お菓子は夜に考えることにしよう。

「裕太、ずいぶんと賑やかにやっているわね」

ジーナと別れ、宿に向かっていると、シルフィから声を掛けられた。

新築の家のガルウイング仕様の窓を両方全開にして、その下で優雅にお茶を飲むシルフィ、ディーネ、ドリー。

新しい家を楽しく活用してくれているようでなによりだ。

「あはは、シルフィ達もジーナを手伝ってくれると助かるんだけど?」

「気が向いたらね」

いつもと違って気が抜けているように見えるシルフィ。普段あまり変わらない表情も、心なしか柔らかくなっているように見える。

「お姉ちゃんに任せなさいー」

ディーネはいつものディーネだな。豊かな母性を張ってやる気を示している。たぶん、ちびっ子達の面倒を見るということで、お姉ちゃん心が疼くのだろう。

「ふふ、お手伝いできるか分かりませんが、見学にはいきますね」

ドリーは控えめだけど、見学と言いながらも、ちびっ子達を優しく導いてくれると信頼している。

ディーネとドリーは手伝ってくれそうだけど、シルフィは完全にマッタリモードだな。

少し残念だけど、俺の面倒を付きっきりで見てくれているシルフィなので、こうやってのんびりできる機会にはできるだけのんびりしてほしい。

シルフィがのんびりしている分、俺が頑張ろう。

おっと、やる気が湧いてきたのはいいが、ここで話して約束の時間に遅れては意味がない。

まずは宿屋だ。ひとつひとつコツコツ片付けて、中級精霊達を喜ばせてあげないとな。