軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百十二話 リクエスト

中級精霊を楽園に迎え入れる準備のために迷宮都市に向かった結果、色々と精神が削られてしまった。ひとまず精神を削る出会いとは距離を置くことができたが、いずれ再会を果たす可能性が非常に高くて辛い。

「ふぅ、今回の旅は中々ハードだったね」

「そう? 私には裕太が楽しそうにはしゃいでいたようにしか見えなかったけど?」

楽園に戻り自分の部屋で一息ついた俺に対して、シルフィが酷いことを言う。俺の疲れの八割、いや、九割はシルフィが原因なのに……。

「はしゃいだのはキャンプとベリル王国での買い物だけだよね。それより前にひたすら苦労したの。主にシルフィのせいで!」

ベリル王国の買い物の時も確かにはしゃいだけど、それでも抑えたんだよ? 本当なら歓楽街に突撃したかったもん。色々と発散したかった!

「ふふ、まあ裕太が頑張ったのは確かね」

そうだよ。キャンプ地で豊かな土を大量に確保したし、ちゃんとマリーさんから物資を受け取ってきた。ベリル王国でもハンドベル以外に色々と面白そうな物も仕入れてきた。やるべきことはしっかり熟している。

シルフィは文句を言う俺に対して笑っていないで労わるべきだ。具体的に言うと、もっと甘やかしてほしい。言えないけど……。

「あら? アルバードが来たわ」

せめてシルフィの好奇心をもう少し抑えられないかと考えていると、シルフィが不思議そうに首を傾げながらアルバードさんの来訪を告げた。

アルバードさん? 今日は精霊達が遊びに来る日じゃないし、どうしたんだろう?

「何か用なのかな?」

「アルバードに限って、なんとなく遊びに来たってことはないでしょうから、用があるのは間違いないわね」

だよね、アルバードさんだもんね。風の精霊なのにとても真面目だもんね。シルフィと違って……。

……なんか嫌な予感がする。

サクラを甘やかさないといけないし、忙しくなるルビー達のシフトも調整しなければいけない。確保した豊かな土を拡張部分に投入する仕事もある。

帰ってきてもまだまだ忙しいのに、また何か面倒事?

……このままベッドに飛び込みたい気持ちになるがそうもいかない。

アルバードさんはどちらかというと被害者の分類で、シルフィに翻弄される俺としては、ウインド様に翻弄されるアルバードさんにはちょっとした仲間意識がある。無下にはできない。

足取り重く玄関に向かうと、ベル達にお出迎えされてジャレつかれているアルバードさんが居た。

ベル達が、とても素早い。

「……えーっと、アルバードさん、こんにちは。何か御用ですか?」

「あ、ああ、少し話があるんだが……」

とても困っていらっしゃる。お客さんを頑張っておもてなししようとするベル達に、アルバードさんがとても困っていらっしゃる。

しかしベル達も妙にテンションが高いな。

『こっちー』と言いながらアルバードさんをリビングに連れて行こうとするベル。レインはアルバードさんの背中を押しているようだ。

『おちゃ?』と呟いて困っているトゥル。お客さんにはお茶を出さないとと思っているようだが、自分でお茶の準備をしたことがないから困っているようだ。なぜかタマモをしっかり抱きしめてオロオロしている。

フレアは……お客さんにお土産を要求しないように後で注意しておこう。ムーンはアルバードさんの頭の上に乗っている。たぶん、癒してあげているつもりなんだろう。

……なるほど、家にはめったにお客さんが来ないから、テンションが上がっちゃったんだな。色々とお手伝いするチャンスだと張り切っているんだろう。

まあ、グイグイ来られてアルバードさんは困惑しているけど、ベル達が可愛らしいから問題ないと思う。

話は中でと促すと、ベル達に連行されるようにリビングに連れ込まれるアルバードさん。

お土産を要求するフレアを確保し、魔法の鞄からお茶を出してトゥルに渡す。

「あ、ありがとう……」

リビングのソファーに座らされ、お茶を出して満足気なトゥルを撫でながら戸惑いつつお礼を言うアルバードさん。なんだかホッコリする。

「みんな、ありがとう。アルバードさんはお話があるみたいだから、悪いけどみんなはお外で遊んでてね」

はーいといった様子で文句も言わずにお外に遊びに行くベル達。リビングに案内してお茶を出したことで満足したようだ。

「すみません、お客さんが嬉しかったみたいで……」

よく考えてみたら、身内以外ほとんど来客がないから、普通に玄関に訪ねてくる人(精霊)って激レアなんだよね。

「いや、歓迎してくれている気持ちはちゃんと伝わってきたから構わない。良い子達だ」

ベル達が褒められるとちょっと、いや、かなり嬉しい。このままベル達の良い子さを語りたくなってくる。

「それで、アルバード、急にどうしたの?」

俺の気持ちを察したのか、シルフィが話を進めてしまう。ちょっと残念だ。

「あぁ、中級精霊の受け入れについてなんだが……」

言い辛そうに言葉を詰まらせるアルバードさん。

「何か問題でも起こりましたか?」

中級精霊を受け入れる準備をすることは最初に伝えてある。いきなり受け入れますって言っても混乱するだけだもんね。

「いや、問題は起こっていない。中級精霊達もたいそう楽しみにしている様子だが、のんびりと順番が来るのを待っている」

たいそう楽しみにしてくれているのか。ちょっとプレッシャーではあるが、期待に応えたくなるな。

でも、問題が起こっていないなら、なんでアルバードさんが来たんだ?

「今回、私は精霊王様方の使者として来た」

俺の疑問を察したのか、アルバードさんが来た理由を簡潔に説明してくれた。

「……えーっと、もしかして、跪いたり、格式に気を配ったりするべきでしたか? 今からでも間に合います?」

王様からの使者の出迎えを、ちびっ子達に任せてホッコリしていたら駄目だよね?

「いや、人のように格式張る必要は無いし、精霊王様方がアレなのだから今更だろう」

アレと言う言葉を口にする時に遠い目をするアルバードさん。なんだかとても共感してしまいそうだ。

「まあいい、それで話なんだが、聖域の拡張の時なんだが、精霊王様方も参加したいとの事だ」

「……それは構いませんが、拡張は精霊王様のお力を借りる必要はありませんでしたよね?」

ノモスだけでも対処可能だったはずだ。

「その通りだ。まあ、楽園の拡張を理由にした息抜きだな」

アルバードさんがぶっちゃけた。でも、別に問題はないな。

精霊王様達は別に理不尽なことをしないし、ダーク様は美女だし、ライト様はモフモフだし、ダーク様は美女だ。大切な事なので二回言った。

いきなり来られると心臓に悪いけど、先ぶれを出してくれるなら何の問題も無い。むしろ大歓迎だ。

というか、不遜な言い方になるけど前もって使者を出すという常識的な行動に、精霊王様方の成長が感じられて嬉しい。特にウインド様。

「宴会ね」

シルフィが嬉しそうに言う。けどまあその通りだろう。精霊の息抜き=宴会だよね。お酒とご馳走を並べておけばかってに楽しんでくれるので気が楽だ。

「ああ、それでなんだが……宴会の内容にこちらが口を出すのは申し訳ないが、精霊王様方が、カレー、味噌、醤油に大層興味を示しておられるんだ。お願いできないだろうか?」

ちょっと申し訳なさそうにリクエストを口にするアルバードさん。言い辛そうだった原因はこれか。たしかに歓待の内容に口を出すのはアレだよね。

たぶん、アース様あたりが醤油と味噌に興味津々なんだな。完成したばかりなのに何で知っているの? とも思うが、沢山精霊が遊びに来ているし、隠している訳でもないので情報が駄々洩れなんだろう。

「分かりました。満足していただけるように準備しておきます」

醤油と味噌のレシピはまだまだある。沢山の料理でおもてなし可能だ。

ルビー達が大変な気もするが……まあ、彼女達なら大丈夫だろう。新しいレシピに大喜びで取り組んでくれるはずだ。

「それと、ライト様が新しい甘味を楽しみにされているようなのだが、大丈夫か?」

新しい甘味?

「……そんな約束をした覚えはないんですけど?」

「裕太。あなた、前の宴会の時にまた味見をお願いします的なことをライト様に言っていたわ。そのことなんじゃない?」

そんなこと言ったっけ?

……たぶん言っているな。

ライト様はダーク様と違った魅力がある精霊王様だ。捧げた甘味を喜んでもらえたら、俺は大きなことを言ってライト様を喜ばせようとしている可能性は高い。宴会で酔っていたならなおさらだ。

「……ライト様に楽しみにしていてくださいとお伝えください」

「いや、完全に忘れていただろ。そんなことを言ったらライト様は完璧に期待するぞ、大丈夫なのか?」

「大丈夫です!」

アルバードさん、心配してくれるのは嬉しいですが、大丈夫であろうとなかろうとやるしかないんですよ。

あのモフモフで妾な可愛らしい精霊王様を悲しませる訳にはいかないんだ。俺は全力で新しい甘味を開発する!

「そ、そうか、それではそうお伝えしておこう。それで、聖域の拡張はいつ頃になりそうかな? 精霊王様方の予定と中級精霊達への告知もあるから、ある程度時期を絞ってくれると助かる。十日ほどでなんとかなるだろうか?」

……アルバードさんの顔が、できるだけ早い方が助かると言っている。十日と言うのも、俺なら実現可能っぽい期日なので、冷静に俺達の力を見極められている気がする。

俺としても気持ちは分かるし、中級精霊達に早く楽しんでもらいたいとも思う。でも十日はちょっと……もう少し余裕をお願いしたいです。ルビーが大変になるんです……。