軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百九話 トムさん

白い鴉と村から出てきた少年が重い病を患っていることが分かった。しかも、少年の方は俺が悪ふざけで作った詠唱の被害者だった。俺の知らないところで患ってくれるのであればなんとも思わないのだが、目の前で少年の人生を歪めた結果を見ると、非常に胸が痛む。

「風よ、縛れ」

俺が詠唱をすると、ラフバードが風に拘束される。

そのラフバードにおじさんと少年が走り寄り、手に持った槍を突き刺す。悲鳴をあげながら倒れるラフバード。

この二人の為に短縮詠唱ってことで短い詠唱を唱えているけど、短くても詠唱って結構恥ずかしいな。

「裕太さん、倒しました!」

笑顔で駆け寄ってくる少年、ジュリオ君。手助けがあるとはいえ、魔物を倒せたことが嬉しいらしく、プレゼントをもらった子供のような顔をしている。

その背後からちょっと申し訳なさそうな顔で走ってくるおじさん。名前はトムというそうだ。パワーレベリングされるのが、まだ申し訳なく思っているようで表情が晴れない。

この人も遠慮深い性格だよね。四十まで冒険者を続けて、この性格は貴重なんじゃないだろうか? 冒険者に向いているとは思えないけど……。

「おめでとう。でも、まだまだ沢山倒さないといけないから、次の獲物を探そうか。周囲への警戒を忘れないようにして、ちゃんとトムさんの指示に従うようにね。トムさん、お願いします」

「分かりました! トムさん、よろしくお願いします!」

「……はは、はい。では、ちゃんと索敵しながら慎重に行動しましょう。音を立てないように私の後について来てください」

元気いっぱいのジュリオ君のお願いに、若干顔を引きつらせて頷くトムさん。音を立てないようにってわざわざ言ったのは、元気いっぱいに大きな声で返事をするジュリオ君に注意を促したかったんだろう。でも、間違いなく通じてないよ。

一応、俺が面倒を見る形なんだから、次にジュリオ君が大きな声を出したら俺が注意しよう。

「裕太。こんなにのんびり進んでいていいの? ジュリオ達のレベルを上げたいのなら、もっと先に進んで強い魔物を倒させた方がいいんじゃない?」

先に進む二人を見守っていると、シルフィがもっとお手軽な方法を俺に進めてきた。若干面倒臭そうな雰囲気を出しているから、この単調なレベル上げに飽きてきたんだろう。

(言いたいことは分かるけど、ジュリオ君がトムさんの慎重な行動を学ぶいい機会だから、しばらくはこのまま進むよ)

俺には一般的な冒険者の一般的な探索方法が分からないから、今思うとトムさんと一緒に行動することになってラッキーだった。

ジーナ達のパーティーは大精霊を保険にした精霊魔法特化部隊だし、そういう風に育てられないジュリオ君の場合は、トムさんの慎重な行動が良い糧になるだろう。

「つまり、トムにジュリオの教育を押し付ける訳ね。リシュリーに頼まれた時は渋っていたけど、断わらなくて良かったわね」

(……うん)

シルフィには俺の内心が完璧に読まれているようだ。

でも、たしかにシルフィが言う通り、断わらなくて良かった。

ジュリオ君との話し合いでは、結局俺がジュリオ君の面倒を見ることになった。

シルフィがそう望んでいたし、ジュリオ君への罪悪感とリシュリーさんのお願いもあって、断わることができなかった。

それで終わりだと思っていたら、リシュリーさんからもう一人面倒を見てもらえないかと言われて、トムさんを紹介された。

どこかで見たことがある気がするおじさんだったけど、今更おじさんの面倒を見る意味が分からないので断ると、リシュリーさんが理由を説明してくれた。

なんと、トムさんは俺の精霊術師講習で二人しか契約できなかった、命の精霊との契約者だった。

どうりで見たことがあったはずだと思ったが、命の精霊と契約した二人はかなり大人気の様子だったので、なぜ俺が面倒を見るという話になるのか詳しく聞いてみると、なかなか面白いことになっていた。

なんとトムさん、Aランクパーティー、迷宮の翼からの勧誘を断わっていた。しかも、なんか眩し過ぎて一緒に行動するのが怖いという理由で……。

この時点でシルフィは大爆笑。

迷宮の翼の勧誘を断わった後も、色々なパーティーから勧誘を受けたトムさん。

でも、勧誘してきたパーティーが攻略ガチ勢だったり、筋肉だったり、若すぎだったり、性格が悪そうだったり、女性メンバーが多かったりと、腰が引けてなかなかパーティーを決められないトムさん。

困りきったトムさんが最後にとった行動は……ギルドに泣きつくことだったそうだ。

結果、加入したいパーティーが見つかるまで、ギルドの治療室で働くことになったトムさん。

でも、さほどレベルが高くないトムさんは、精霊魔法を連発すると直ぐに限界が来てしまう。

そんな困った状況にやってきたのが鴨、改め、精霊術師である俺。

ギルドでもトムさんのフォローを検討していたそうだが、ちょうどいいところにノコノコやってきて、しかもジュリオ君を育てることになったので、ついでにお願いしてしまおうということになったそうだ。

なんでそうなる? とも思ったが、結局は期間限定でトムさんを受け入れることにした。

その結果、なんとなく上手く行きそうだから、まあ、良かったんだろう。

***

「裕太さん、少しお時間を頂けますか?」

本日のパワーレベリングも終わり、久しぶりに利用した迷宮お泊りセットの前で焚火をしながらゆったりコーヒーを飲んでいると、トムさんが話しかけてきた。

なんか酷く真剣な顔をしていて、ちょっと怖い。

「え、ええ、大丈夫です? 座ってください」

焚火の前に席を勧め、コーヒーは飲みなれていないだろうから普通にお茶を渡す。

「それで、どうかしましたか?」

お茶を一口含んでちょっと落ち着いたタイミングを見計らってトムさんに声を掛けると、申し訳なさそうに話し始めた。

「こんなおじさんがお若い裕太さんにこんな相談するのも変な話なのですが……私、冒険者に向いているんでしょうか?」

いきなり重い話題がぶち込まれた。なんで俺にそんな重い相談をするの? 三日くらい師匠だったから? やめてほしい。

とはいえ、これだけ真剣な顔で相談されてしまっては、適当なことも言い辛い。冒険者は命がけの職業だもんね。

「……えーっとですね、正直に言いますと向いていないかと。理由はですね、命の精霊は優しい人を好む傾向にあるからです。トムさんも冒険者に馴染めなかったんじゃないですか?」

ズバリ、言ってしまった。

「あはは、やっぱりですか。自分でもそんな気はしていたんです……」

そう言った後、トムさんが自分の人生をポツリポツリと語り始めた。

やめてほしい。

深刻な表情につられたのか、トムさんの契約精霊である命の精霊が一生懸命慰めようとトムさんにスリスリしているから、めちゃくちゃ和んでしまって真面目な表情を作るのが辛い。

ふわモコで一生懸命に主にスリスリする赤ちゃん羊とか、反則だと思う。甘いお菓子を沢山あげたい。

……トムさんの話をまとめると、自分が冒険者に向いていないのは理解している。でも、今まで頑張ってきたんだから、冒険者としてちゃんと冒険してみたいってことらしい。

それと攻撃力が無いのも悩みだそうだ。

ヴィータいわく、命の精霊にもエゲツナイ攻撃はあるらしいんだけど……赤ちゃん羊にもトムさんにも合わないだろう。

精霊の複数契約も可能だから、攻撃力がある精霊を紹介することもできるけど……姿が見えない人に複数契約させると、適当に扱われる精霊が出そうで嫌なんだよね。

「……俺の考えですが、どうしようもない場合はともかくとして、向いていないことを無理にやろうとするのは辛いだけなんじゃないでしょうか? トムさんが冒険したいのなら、攻撃力を求めるんじゃなくて、サポートに特化したほうが良いと思います」

「サポートですか?」

トムさんがキョトンとしている。たぶん、前に組んでいたパーティーが弱小で、ずっと苦労して全員で戦っていたから、サポート専属って考えが思い浮かばないんだろう。

トムさんを誘った冒険者達は、治療専属のつもりで声を掛けたと思うけどね。

「はい、サポートです。俺が教えた命の精霊術は三つ。怪我の治療、状態異常の回復、体力の回復ですよね。それができる人が一緒に来てくれるだけで、冒険者は大助かりなんですよ?」

ポーションがあるにしても費用が馬鹿にならないから、怪我をしやすい冒険者にとって回復能力は羨望の的だ。

だから熾烈な勧誘争いが起こったのに、トムさんはその自覚が薄いと思う。

「それにこれからレベルも上がりますから体力も力も付きます。回復以外にもできることはあると思いますよ」

俺の話を聞いてうんうんと悩みだすトムさん。そんなに悩むようなことを話しただろうか?

「トムさん、考えるのは落ち着いた時にして、今日はもうゆっくり休んだ方がいいですよ。明日も明後日も大変ですからね」

「……そうでした。ここは迷宮でした。……裕太さん、相談に乗ってくださってありがとうございます。これからのことをしっかり考えます」

深々と頭を下げて簡易拠点に戻るトムさん。俺の精いっぱいだけど薄っぺらな回答が、何か役に立ったんだろうか?

「裕太」

「ん?」

「私の勘なんだけど、トムも面白い方向に進みそうな気がするわ。楽しみね」

やめてよシルフィ。笑顔で危険なことを言わないで。

えっ? 俺、ちゃんと真面目に回答したよね? シルフィを面白がらせる要素なんて皆無だよね? ちょ、シルフィ、言うだけ言って消えないで。

……パワーレベリングは残り二日か。

ベル達とジーナ達は、ディーネとドリーを護衛に付けたし、屋台巡りで買った料理も含めてジーナ達にたっぷり渡してあるから、俺が寂しい以外はたぶん大丈夫だ。

問題は、あの白い鴉だな。

案の定、ベル達が白い鴉に興味を示して、やみー、とか、しはいー、とか、ベル達に悪影響を与え始めたので、即座に隔離した。

あの時の俺の判断力は大したものだと思う。

でも……その隔離方法が、ジュリオ君が使う詠唱を考えるようにって言っちゃったんだよね。

ベル達が汚染される可能性を考えたらナイスな判断なんだけど、あの白い鴉、自分の生きがいはここにあったみたいな顔をしていたから、激しく不安だ。

……俺がその詠唱をジュリオ君に教えることになるんだよね。

……もう寝よう。