軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百五話 ごめんね、マリーさん

久しぶりの開拓作業で初心を思い出し、それと同時に自分の周囲が賑やかになったことを強く実感した。中級精霊を迎え入れて更に楽園を賑やかにするためにも、前向きに開拓を頑張りたいと思います。

なんて作文みたいな清々しい気持ちだったんだけどな……。

実際に開拓は楽しい。

開拓当初のような命の危機も遠ざかり、サバイバルよりもスローライフという言葉が似合うようになったからだろう。

自分の拘りに忠実に突き進むシルフィ達。

謎の拘りと可愛らしさで俺の予想を覆し驚かせてくれるベル達。

たしかな成長を感じさせ、着実に精霊術師としての階段を上るジーナ達。

ジーナ達だけではなく、俺やシルフィ達にまで無邪気に戯れてくれるフクちゃん達。

楽園が拡張されることになり、赤ん坊なのにふんすふんすと気合十分なサクラ。

料理だけの為ではなく、中級精霊の為にもと施設の充実に協力してくれるルビー達。

まだまだ懐いたとは言えないが、徐々に歩み寄ってくれる楽園の動物達。

スローライフといった穏やかで退屈な日常を思わせる言葉とは裏腹に、毎日がお祭りのような楽しい開拓の日々。

今だからこそ分かる。俺は癒されていた。

「ささっ、裕太様、どうぞこちらにお座りくださいませ」

「裕太さん! ようこそお越しくださいました! どの様なご用件でしょうか? このマリー、全身全霊を以て裕太さんのご要望にお応えいたします!」

純粋な世界で癒されていたから、マリーさんとソニアさんの邪悪さが浮き彫りになる。

楽園で必要な雑貨を仕入れに迷宮都市に来たんだけど、店に入った瞬間からこの二人が待ち構えていて、この調子だ。

まあ、商人だし、俺からのペナルティもあるから必死なのも理解できないこともないけど、ソニアさんまでテンパり気味なのは、収拾がつかなくなりそうで怖い。

「近いです。落ち着いてください」

マリーさんとソニアさん、二人とも美人だから距離が近いのは嬉しいけど、なんとか汚名返上しようとする意識が強すぎて引く。

「はっ、申し訳ありませんでしたー!」

「申し訳ありませんでした!」

ちょっと落ち着くように言っただけで、深々と頭を下げるマリーさんとソニアさん。この調子だと少し強く言っただけで土下座に移行しそうな気がする。

……やりづらい。

「あはは。裕太、面白いことになっているわね。この二人、今なら何でも言うこと聞いてくれそうだけど、何か言ってみる?」

……シルフィがはしゃいでいるけど、これは間違えてはいけない場面だ。

美女がなんでも言うことを聞く=Hな要求。

俺の中ではこの方程式が成り立つんだけど、シルフィは違う方程式で動いているから、Hな要求でもしようものなら間違いなく大ヒンシュクを買う。

たぶんシルフィが望んでいるのはクスリと笑える罰ゲーム的な要求……そんなの都合よく思いつかないよ。

なにも浮かばなかったので黙って首を横に振ると、シルフィがつまらなさそうに溜息を吐いた。シルフィが厳しい。

おっと、シルフィに気を取られていたから、マリーさんとソニアさんの頭を下げさせたままで放置してしまった。

「えーっと、話ができませんから、頭を上げてください」

俺の言葉におそるおそるといった様子で頭を上げる二人。二人の中で俺は危険物扱いされている気がする。

「二人とも、俺のことを怖がり過ぎじゃありませんか? もっと普通にしてください」

何も言わずに引き攣った表情で微笑む二人。

「裕太の罰の効き目はバッチリみたいね」

うん。シルフィが言う通り、バッチリ過ぎるくらいにバッチリ効いている。

この調子だと何を言っても無駄っぽいから話を進めよう。罰が終わる頃には普通に戻るよね。

「……このリストの物を揃えたいんですけど、お願いできますか?」

実はこのリスト、マリーさん達の管轄外の家具やらなんやらも含まれている。

色々と店を巡って全部を集めるのが大変なので、強い立場を活かしてマリーさんに押し付けてしまおうって作戦……だったんだけど、これだけビビられていると押し付ける罪悪感が酷い。

まあ、それでも押し付けるんだけどね。

俺の為に大変な仕事をしたらマリーさん達の気持ちも楽になるかもしれないし、これはむしろ良いことなんだと自己弁護できたから罪悪感も消え去った。

「えーっと、難しいですか?」

マリーさんがリストを見て微動だにしないので、改めて声を掛ける。数は多いけど貴重な物はリクエストしていないから、マリーさんなら楽勝だよね? 何か品薄な物でもリストに入っていたのかな?

「いえ、ほとんどの物は少しお時間を頂ければ集めることは可能です。ですが……この、何か面白そうな雑貨、何か役に立ちそうな雑貨、何か変わった雑貨という項目をどうすれば良いのかと……」

あぁ、そういえばそんなリクエストを追加した覚えがある。たしかに今の状況でその項目は難しいだろうな。

マリーさん達が反省しているにしても、ここまで深刻にとらえているとは思っていなかった俺のミスだ。

「そこはあまり気にしないでください。俺にない視点の雑貨が欲しかっただけですから、そのリストに無いものでそれっぽい物を用意してもらえれば十分です」

マリーさんが明らかにホッとしている。ちょっと申し訳なく思う。

「……そういうことでしたら、家具を含めて五日程度頂けましたらご用意できると思います」

五日? 家具が間に合うかのか疑問だけど、マリーさんがその辺を読み違えるとも思えないし、お任せしてしまおう。早い分には大歓迎だ。

「では、よろしくお願いします」

待ち時間が五日なら、適当な場所でキャンプをしながら土を集めるのもいいな。

ベル達とジーナ達にはキャンプ地でお留守番してもらって、その間にササっとベリル王国に行ってハンドベルを手に入れよう。誘惑に負けそうだからベリル王国での長期滞在は無しだ。

それで最後に迷宮都市に寄って楽園に戻れば、後は楽園ですべての準備が整う。

帰ってからの作業がいくつか残っているにしても、思った以上に早く準備が終わりそうだ。中級精霊達も喜んでくれるだろう。

「そろそろ失礼しますね。では、また五日後にお伺いします」

「あのっ、裕太さん……」

席を立とうとしたら、焦った表情でマリーさんが声を掛けてきた。

「どうしました?」

黙ったままスクっと立ち上がるマリーさんと、その横に並ぶソニアさん。なんだか嫌な予感がする。

「裕太さん! なにとぞ、なにとぞもう少しだけ若返り草をお願いいたします。罰のことは重々承知しております。ですが、なにとぞ、お願いいたします」

嫌な予感が的中した。室内で人目が無いとはいえ、知り合いに土下座されるのは辛い。しかも二度目だ。

「あー、罰だということを自覚していて、その上で若返り草が欲しいということは、それなりの理由があるんですよね? 席に戻って話してください」

席に戻らずに床に頭を擦りつけたまま動かないマリーさん達。なんか、土下座のままで話した方がお願いを聞いてもらえそうとか考えている気がする。

「土下座させたまま話を聞くほど精神が強くないので、席に戻らないなら帰りますよ?」

素早く元の位置に戻る二人。やっぱり何かしらの計算を働かせていたのかもしれない。

そうなると、テンパリ気味の行動や過剰な反省も計算か? 若返り草の為に最初から演技をしていたとしたら、ちょっと感心してしまう。

でも、感心したからと言って簡単に若返り草を卸すつもりは無いけどね。罰は罰だもん。

***

「自業自得じゃないですか」

理由を聞いたところ、それしか言葉が出てこなかった。

「面目次第もございません」

恥ずかしそうに頭を下げるマリーさん。そりゃあ恥ずかしいよね。王都でヒャッハーして噂が広まった結果のピンチなんだもん。

「そんなに足りないんですか?」

命が危ないと言われたから、足りるように罰は調整したよね?

「はい、その、今まで興味を持たれていなかった大貴族から注文が入ってしまいまして、断わりきれませんでした。その結果、一部の上級貴族と力がある中級貴族に卸す分が足りなくなってしまいました。かなり不味い状況です」

足りなくなるって分かっていても断り切れないって、結構な大物から注文が来たんだろうな。

詳しく話を聞いてみると、大物貴族も必死だったらしい。

大物な貴族が必死って……どのくらいの大物なのかは知らないけど、状況を理解して俺の影響もあるマリーさんが断り切れないくらいなんだから、相当な必死さだったんだろう。

今まで興味を持っていなかったみたいだし、少なくともお気に入りの女性に強請られたといった、くだらない理由ではないだろう。

正妻のご機嫌取りの線は……ワンチャンありそうかな? いや、かなりの量が必要だったようだし、正妻のご機嫌取りの線も無いな。政治が絡んでいそうだ。

それで断り切れなかった結果、怒らせたら不味い貴族達に卸す分が足りなくなり、待たされている貴族達から突き上げをくらっているということか。

うーん、この場合はどうしたものだろう?

罰だから駄目って言うのは簡単だけど、相手は権力者だから放置してしまうとポルリウス商会が洒落にならないことになるかもしれない。ポルリウス商会が潰れたら俺も困る。

「……分かりました。仕方がない事情もあるようですし足りない分は追加します。ですがその分、罰の期間は延長しますからね」

追加した分は期間延長で補おう。それならトータルで卸す量は変わらないんだし、甘くみられることも無いだろう。

「……あ、ありがとうございばずーー」

追加を伝えると、いきなりマリーさんが泣き出した。約束していた顧客からの突き上げが相当プレッシャーで、なんとかなったからホッとして泣いちゃったのかな?

でも、鼻声でございばずーーって……ちょっと面白い。

「泣くほどヤバかったんですか?」

あっ、鼻水も出ちゃってる。

「はいー。かなりピンチでしたー」

……ということは、テンパリ気味だったのも、こちらが困惑するくらいに反省していたのも演技じゃなかったんだね。

邪悪さが浮き彫りになるとか、演技だとか、内心でだけど色々と思ってごめんね、マリーさん。