軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五百一話 自分探し、延期

ちょっとした思い付きでラフバードの丸焼きに挑戦したら、半裸のムキムキマッチョメン達から野獣のような目で一日中凝視されることになった。次から時間のかかる料理は人目のつかない場所で調理したいと思う。飯テロは優越感を味わえるけど、長時間の調理テロは危険がいっぱいだ。

「裕太殿、あの米という食べ物はどこで手に入るのですかな?」

調理テロをおこなった翌日、ベッカーさんが真面目な顔で質問してきた。

そういえば、鳥の丸焼きにお米を詰めたら美味しいのは間違いないよねって思って、何も考えずにラフバードのお腹に詰めたけど、よく考えたらこの世界ではマイナーな穀物だった。

なんとなくお米のお披露目は迷宮都市だろうと思っていたんけど、まさかこんな場所でお披露目することになろうとは……無意識って怖いな。

「えーっと、お米でしたら少しくらいなら融通できますけど、お気に召しましたか?」

昨晩はみんな野獣のように肉と米を食い漁っていたから、ご飯が珍しいとは意識していなかった。まあ、あれだけ無我夢中で食べていたから口に合わなかったってことは無いだろう。

「私のような年寄りには少々重たい気もしましたが、若い者達は腹にたまって力が出ると気にいったようですな」

……ベッカーさん、昨晩何回もお代わりしていた姿を見ているんだけど、どの口が重たいなんて戯言を言うんだろう。あれだけ食べればパンだろうがナンだろうが重たいに決まっている。

でも、故郷の味が気に入ってもらえたのは嬉しいな。あれ? 鳥の丸焼きは故郷の味になるのか?

……まあ、いいか。お米は日本人の魂だし、地球も大きなくくりで言えば俺の故郷だ。そういうことにしておこう。

「でしたら今回もある程度の量を置いていきますし、簡単な調理法も教えておきますね」

楽園では気が向いた時にドリーにお願いして栽培しているから、米の備蓄はたっぷりだ。差し入れするくらいの余裕はある。

調理法と簡単な料理くらいは教えておかないと困るだろう。シンプルな素のご飯だと匂いが苦手だったり、味気ないって思う人もいたりするらしいから、料理は大切だ。

「ありがとうございます。ちなみに、このお米はこちらで育てられたりしませんかな? 珍しい穀物ですから切り開いた遺跡の跡地で育てられたら、団の新たな収入源にできそうな気がするのですが……」

……遺跡の跡地で農作業って、なかなか衝撃的な言葉だな。日本だと遺跡の保護とかでいろんなところからクレームが飛んできそうな話だ。

それにしても遺跡で農業をするつもりなのか?

……邪魔になる木を伐採しているし、手を入れる必要はあるが利用できる建物も残っていないこともない。

法とか詳しいことは分からないが、村を作って申請すれば貴族に返り咲けたりするのかもしれない。

遺跡発掘で資金を手に入れて領地をゲット。悪くない計画かも。ただ、人里から離れているから不便っぽいのは大丈夫なんだろうか?

……詳しく聞きたい気もするけど、聞いたら聞いたで巻き込まれそうな気がする。

サラのお兄さんのやることだから手を貸すのが嫌って訳じゃないけど……まあ、様子見だな。大変そうだったらちょっとくらい協力しよう。今は自分探しで忙しいんです。

あとは、お米の栽培か……。

「お米の栽培は気候的にはできそうな気がしますけど、お米を育てるのってかなり大変みたいですよ?」

ドリーが居なかったら俺も諦めていた……いや、お米は諦められないから挑戦しただろうけど、間違いなく滅茶苦茶苦労しただろう。

水田を用意するのも大変だし、畑で米を育てられないことも無いにしても、日本での主流は水田なんだから、たぶん畑で栽培したら何かしらのデメリットがあるのだろう。

シュティールの星に精霊術師の才能がある団員が居れば、植物関連の精霊と契約してなんとかなるかもしれないけど、それでもノウハウが無い状態だと大変そうだよね。

「どのように大変なのか裕太殿はご存じですか?」

「えーっと……元は湿地帯に生える植物で、育てるのに水が沢山必要で、収穫までも結構時間と手間が掛かるらしいです。それと収穫後に食べられる状態にするのも手間が掛かるみたいですね」

精霊の協力が無かったら、収穫から白米にするまでもかなり大変だと思う。

「ふーむ。水場の確保はなんとかなりそうですが、それだけ時間と手間が掛かるのであれば今から手を付けるのは難しそうですな。……裕太殿、いずれ米を育てる機会が巡ってきた時には、ご協力願えますかな?」

大変だと理解してもスッパリ諦めるつもりは無いようだ。ベッカーさんはお米のポテンシャルを薄々感じ取っているのかもしれない。

うーん、お米が広まるのは嬉しいけど、大変な作業なのは間違いないから簡単にOKとは言えない。

「……手間が掛かる作物を育てることができる基盤がしっかり整ったなら、お手伝いすることはできると思います。でも本当に大変ですし、知っている知識も中途半端ですから成功はお約束できませんよ?」

「分かっております。ただ、将来に備えて色々と検討しておくことは大切ですからな。時が来たらよろしくお願いします」

顔がやる気満々だ。成功を約束できなくても挑戦はしてみるつもりみたいだな。森で水田……いけるのか?

「分かりました」

まあ、失敗も覚悟の内なら協力してみよう。ドリーにアドバイスをもらえばなんとかなるよね。

……あれ? 森を切り開いて水田って、ドリーは森の精霊……ドリーに頼るのは止めておいた方がいい気がする。

まあ、基盤ができるにしても随分先のことだろうし、挑戦するのかも確定じゃないんだから、その時になったら考えよう。

さて、ベッカーさんにも仕事があるだろうし、そろそろ俺も何か行動しよう。自分探しが目的なんだから、のんびりしていても何も見つからないよね。

***

なにも見つからなかった。

ローゾフィア王国の王都にも出向いたけど、琴線に触れるような何かは見つからない。

森の中を散歩してみても、気分が癒されるか魔物と戦うか採取をするだけ。

戦いに目覚めたり採取に目覚めたりもしなかった。

次はベリル王国に行ってみるか?

いや、あの国は俺にとって欲望を満たす危険な楽園。今から行くとジーナ達やベル達も連れて行くことになる。それだけはできない。

そういえばベリル王国に行く前まではとてつもなく充実していた気がする。

……いや、違うな。充実していたんじゃなくて色々と欲求不満でナニがナニとは言わないが、暴発寸前で欲望に向かって一直線だっただけだな。

「まだ悩んでいるの?」

ヴィクトーさんが用意してくれた一室でウンウンと唸っていると、シルフィが話しかけてきた。心配してくれているようだ。ちょっと嬉しい。

「うん。心に響くことが見つからないんだ」

心に響くとか、詩的なことを言ってしまった。悩み過ぎて文学的なデリケートさまで生まれてしまったのだろうか? なんていうかセンチメンタルな感じ?

「じゃあ、行ったことがない国にでも行ってみる? 面白そうな場所に連れて行ってあげるわよ?」

見知らぬ国か……。

「うーん、そういうのとはちょっと違うんだよね」

ラノベとかだと見知らぬ場所に行けば、冒険や面倒事に出会って忙しくなるのがテンプレだけど、俺が求めているのはそういうのじゃないんだ。

こう、なんていうか、巻き込まれたりするんじゃなくて、人生の目標とか生きる意味とまでは言わないけれど、満足感を得られる生活と言えばいいのかなんというか……うーん。

「面倒臭いわね」

「えっ? シルフィ、いまなんて?」

悩んでいる俺に対して、シルフィがビックリすることを言わなかった?

「面倒臭いわね」

聞き間違いじゃなかった。面倒臭いって言われたら結構傷つく言葉だよ? 小さいとか早いとかよりかはダメージは少ないけど、それでも結構傷つく言葉だ。

「えーっと、シルフィなんで?」

「裕太の悩みって、なんか悩んでいる自分が好きなように見えるわ。だって、本当に悩んでいたら手段のえり好みなんてしないでしょ? 私が面白そうな場所に連れて行ってあげるって言ったら、すぐに飛びつくはずよ」

シルフィが無表情なのに、背後にバーンという文字が浮かんでいそうな勢いで断言した。

うーん、心になんとも言えない焦燥感みたいなものを抱えているのは本当なんだけど、シルフィが言うことも理屈に合っているような気がする。

悩んでいる自分がカッコいいとか思春期みたいなことを考えていた訳じゃないけど、もしかして、悩んでいることを理由に自分を甘やかそうとしていた?

「そんな裕太に私からプレゼントをあげるわ。楽園を開拓して村の規模を拡大しなさい」

「なんでそうなるの?」

楽園は今のままでも十分だと思う。とくに不便も無いしみんな楽しんでいるよね?

「中級精霊がいまだに遠慮している状況が続いているんだから、そろそろなんとかしてあげてほしいわ。酒島で上級精霊や大精霊は満足しているけど、どちらにも行きづらい中級精霊がかわいそうなのよ。やることがないなら丁度いいでしょ?」

中級精霊が遠慮?

……そういえば浮遊精霊達と下級精霊達を楽園に行かせるために、中級精霊が順番を譲ってあげていたんだったな。

そして、今も楽園で中級精霊が戯れている姿を見た覚えがほとんどない。小さい子の保護者替わりで偶に来ていたような気がしないでもないくらいだ。

あれ? 精霊の村の運営にも慣れてきて、遊びにくる子達が増えたはず……。

「えっ? まだ中級精霊まで順番が回ってないの? っていうか、浮遊精霊と下級精霊ってそんなに存在しているの? 遊びに来るのは意識がハッキリしている子達だけなんだよね?」

シルフィが俺の顔見てため息をはき、やれやれとでも言いたげに首を左右に振った。

「ねえ裕太。精霊は死の大地でもない限り、自然があればどこにでもいるの。そして、生存圏が狭い人と違って、厳しい環境でも十分に生存できるわ。そして、世界は広いのよ?」

たしかに死の大地以外では、どこに行っても精霊はふよふよと飛んでいるね。どこにでも当たり前に存在するから、いつのまにか気にしないようになっていた。

「つまり、沢山居るのよ」

「……なるほど」

とりあえず、自分探しの旅に出ている場合じゃないのは理解した。まずは中級精霊も遊びに来られる場を整えて、それから自分を発見しよう。