軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百八十九話 自意識過剰?

シルフィ達との相談の結果、今回はできるだけ大人数の面接をして使える精霊術師の人数を少しでも増やすことになった。そのことを冒険者ギルドに伝えたあと、ドリーのお願いを叶えるために商業ギルドに行くと、ベティさんが萎んでいた。

……俺が先生役か。ジーナ達には師匠面しているけど、大勢の人数を教えるとなると違った緊張感がある。

あれ? 今日の面接で不合格者ばかりだったらどうなるんだろう? シルフィ達が教育した浮遊精霊達が丸々宙に浮くことになるのか? それはそれで困るな。面倒ではあるが精霊術師達には頑張ってもらいたい。

……この七日の間に俺もできるだけの準備はした。大丈夫。大丈夫だ。俺はできる。

ジーナ達は迷宮に行かせたから、俺が講習で恥を掻いても見られる心配はない。大丈夫だ、気合を入れて面接に挑もう。

……よく考えたら面接は受けるばかりで落とす立場は初めてだな。ちょっと楽しくなってきたかも?

「なあ、マーサ。もう少しだけでいいから醤油をくれないか? いい味付けを思いついたんだよ」

「駄目だね。明日にしな」

部屋を出て階段を下りていると、トルクさんがマーサさんにすがりついて醤油を手に入れようとしていた。

この宿はアレだな。肩に入った力を良い具合に抜いてくれる良い宿かもしれない。

この七日間で体調が万全になってマーサさんから醤油を少し手に入れたトルクさんは、予想通り醤油にハマった。

この世界の料理に合わせるのが難しいらしいが、素晴らしい可能性を感じると嬉々として研究し、マーサさんからもらった少量の醤油をすぐに使い切ってはマーサさんに泣きついている。

トルクさんの体調を考えてシビアに醤油の管理をしているマーサさんは流石だけど、トルクさんは……もはやお小遣いを使い切って駄々をこねる少年にしか見えないな。

まあ、いいや。良い具合に肩の力も抜けたし、声を掛けずに出発しよう。

「ゆーた、ゆーた、べるがんばるー」「キュキュキュー」「れんしゅうしたからだいじょうぶ」「クゥ! クククー」「まかせろ! びしびしいくぜ!」「…………」

冒険者ギルドに向かっている途中、興奮マックスで飛び回っていたベル達が、やる気満々の笑顔で俺のところに飛んできて言い放った。

ベル達の手足が興奮につられるようにワチャワチャと動きまくっている。

人の姿のベル、トゥル、フレアは分かりやすいけど、一生懸命にヒレをパタパタさせているレインはイルカの曲芸をしているように見えるし、タマモは前足をコイコイしまくっているので、キツネなのに必死に何かを招いているようにしか見えない。ムーンは……いつもよりもプルプルしていて、なんだかとっても美味しそうだ。

みんなが頑張ってくれようとしているのは分かるけど、なんだかN〇Kの子供番組を見ている気分だ。

(……うん。みんな期待しているよ。頑張ってね)

「ふぉぉ。べるがんばるー!」「キューー!」「しっかりする!」「クゥーー!」「きあいだぜ!」「…………」

期待しているという言葉がベル達の琴線に触れたのか、マックスだと思っていた興奮を突き抜けて迷宮都市の空を縦横無尽に飛び回るベル達。

しまったな。応援するんじゃなくて落ち着かせるべきだったかもしれない。

……ふぅ、本当ならベル達にも遊びに行ってもらって、講習は大人組だけでやりたかったんだけど、『べるたちもおしえるー』とやる気満々になってしまったから断れなかった。

良い具合に肩の力が抜けていたはずなんだけど、また緊張してきた。のんびりした様子で迷宮都市を見ながら歩いているシルフィ達はなんで緊張しないんだ? 年の功なのか?

……一瞬、シルフィ、ディーネ、ドリー、イフから凄まじい殺気が飛んできた。

一瞬だったから勘違いだと思いたいけど、背筋がゾワッとして鳥肌が立ったから勘違いではないのだろう。

でも、ドリーの方から殺気が飛んできたのは絶対に勘違いだ。ドリーが俺に殺気を飛ばすなんてありえない。そう、絶対に勘違いだ。

おそるおそるドリーの方を見ると、ドリーはとても優しい笑顔で俺を見ていた。うん。勘違いだ。でも、これ以上年齢のことを考えるのは止めておこう。

そういえば、前回も同じような失敗をした気がする。……俺もいい加減、同じ失敗を二度しないように学習をしないといけないな。分かってはいるんだけど、やっちゃうのはどうすれば学習できるんだろう?

「裕太さん、お待ちしていましたー」

冒険者ギルドに入ると、商業ギルドの受付嬢であるベティさんから出迎えられた。理由は分かってはいるんだけど、違和感が凄いな。

でも、萎み気味だったホッペもモチモチに復活しているし、体調は良さそうだ。お仕事をお願いした後に、トルクさんの宿屋の個室を利用して、ご馳走を大盤振る舞いした甲斐はあったようだ。

「ベティさん、おはようございます。それで、人数は集まりましたか?」

「私が頑張ったので、四人も来てくれましたー」

ベティさんがドヤ顔で頑張ったと胸を張る。でも四人? 四人って少なくない?

「四人だけですか?」

「むー、裕太さん酷いですー。四人集めるのも大変だったんですよー」

言い方が悪かったのか、ベティさんのご機嫌を損ねてしまったようだ。でも、四人は少ないだろう。

「でもベティさん。冒険者は三百人以上集まったのに、四人は少なくないですか?」

「冒険者と農家は違うんですー。裕太さんの名前だって農村にはそれほど広まってないんですからねー」

「えっ?」

結構有名になったと思っていたんだけど、実はそれほどでもなかったってこと?

「だいたい、みんな隠していたり自分からは精霊術師だって言ったりしないんですからねー。私が時間内で回れる農村に全部行って探して説得してきたのに、そんな言い方は酷いですー。鬼ですー。鬼畜ですー」

鬼と鬼畜ってどう違うんだろう?

いかん、くだらない疑問を持っている場合じゃないな。ベティさんが顔を真っ赤にしてプンスコしだしたから、まずは落ち着かせないといけない。でないと、やっと落ち着いた冒険者ギルドでの俺の悪評が再燃してしまう。

チラチラとこっちを見ながらヒソヒソと話している冒険者達は、間違いなく誤解している。

「裕太。あの冒険者が、今度は商業ギルドを滅茶苦茶にする気なのか? って恐れおののいているわよ。滅茶苦茶にしちゃうのかしら?」

滅茶苦茶になんてしません。あと、周囲の反応は表情を見たらなんとなく分かるので、教えてくれなくても大丈夫です。

「裕太ちゃん、注目されちゃって人気者ねー。お姉ちゃんは鼻が高いわー」

怯えられているのに、なぜディーネが鼻高々なのかが理解できません。

「ふむ。話には聞いておったが、ずいぶんと恐れられているようじゃな」

ノモス、感心しているフリをしているけど、特に興味はないよね?

「裕太さん。まずは四人だけでも大丈夫ですよ。ベティさんを労わってあげてください」

まずはってことは、次があるってことですか?

「まあ、舐められるよりも恐れられた方が良いだろう。何かあったら燃やしてやるから裕太も気にするな」

燃やしません。

「イフ、裕太は人間を燃やしたりしないよ」

ヴィータ。俺の気持ちを理解してくれてありがとう。

「ゆーた。べるがやつけるー?」「キュー?」「まもる」「クゥ?」「もやすぜ!」「……」

やつけなくても燃やさなくてもいいからね。お願いだからベル達はシルフィとイフの影響を受けないでほしい。

「えーっと、ベティさん。すみませんでした。冒険者が沢山集まったので誤解していました。頑張ってくれてありがとうございます。約束は守りますから安心してください」

自由な精霊達に気を取られながらも、ベティさんに謝罪とお礼を言う。

「分かってくれたならいいんですー。農家の皆さんは精霊術師と農業の関係を理解してもらうだけで大変でしたから、約束が守られなかったら死んじゃうところでしたー」

プンスコしていたベティさんの機嫌が一瞬で元に戻った。

ベティさんが簡単なのは助かるけど、ドリーのお願いが難しそうなのは問題だな。

森の精霊であるタマモもそうだけど、植物に関係する精霊は浮遊精霊や下級精霊の時はあまり戦闘に向かない。

だから、順調に成長するために農業で植物に関係する精霊の力を活かしたかったんだけど、まさか農村には俺の評判が届いていなかったなんて……。

これって自意識過剰ってやつですか? 三百人も集まったし、みんなが俺を知っているから農村の人達でも楽勝で集まると思っていた、俺の自意識過剰ってやつですか?

……帰りたい。楽園に帰ってすべてを忘れてなかったことにしたい。

でも、大精霊達も集まってくれているし、ベル達もやる気満々だ。なにより、シルフィ達が教育した精霊達が契約を待っているんだから、俺が恥ずかしいからって逃げる訳にはいかないんだよね。

……気持ちを切り替えよう。恥ずかしがって悶え苦しみたい気持ちは、宿のベッドにもぐりこむまで無理矢理忘れよう。

「ベティさん。それで、その四人はどちらに?」

「ぐふふー。ドラゴンのお肉ですー。楽しみですー。属性竜ってどんな味なんでしょー」

恥ずかしさをこらえてベティさんに声を掛けたが、そのベティさんは魂をどこかに飛ばしている様子で声に気がついてくれない。

頑張ってくれたら属性竜のお肉をご馳走しますよって約束はしたけど、ここまで楽しみにしていたとは思わなかったな。

でも、ベティさんのだらしない姿を見ると、俺の恥なんて恥じゃないって思えるから不思議だ。俺の気持ちを楽にしてくれた分も含めて、しっかりご馳走してあげようと思う。

「ベティさん、ベティさん。正気に戻ってください」

「ふぇ? あ、裕太さん。どうしました?」

ベティさんの肩を揺さぶると、ようやく正気に戻ってくれた。可哀想だからよだれが垂れていたのは見なかったことにしてあげよう。

「……農家の四人はどちらに?」

「あぁ、それでしたら訓練場に先に行ってもらっています。面接は冒険者の方達と一緒にするんですよね?」

「……三百人以上の冒険者が居る中に、四人の村人を放り込んだんですか?」

それはどうなんだ? たとえ冒険者ギルドの中とはいえ、狼の群れに羊を放り込むような所業に思えるんだけど?

「心配いらないですー。頼りになる人も居るので冒険者にも負けませんー」

ベティさんの言っている意味が分からない。農家の人を集めてもらったのに、冒険者にも負けないってどういうこと?

……ここで考えていても分からないだろうな。こうなったら実際に見て確認するのが一番早い。

「ご案内いたします」

訓練場に向けて歩き出そうとしたら、ギルマスの秘書っぽい女性がスッと現れて先導してくれた。

たぶん、俺がベティさんと話していたから、邪魔をしないように傍で待機してくれていたんだろう。

知り合いとはいえ沢山の美女と仲良くなっているのに、こういう、気が利いて控えめな女性と仲良くなりたいと思う俺は贅沢なんだろうか?

くだらないことを考えながら訓練場に到着すると、三百人以上の人達が一斉にこちらを向いた。

集まる視線にビビってしまったが、その人達の全ての顔が恐怖に引きつっているように見えるのはなぜなんだろう? もしかして、俺にAランク冒険者としてのオーラが急激に目覚めちゃったりした?