軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百七十四話 カレー

ジーナのお願いに対して、カレーというパーフェクトな正解を出したかに思えた裕太だったが、カレーに必要な香辛料の種類すら知らないことが発覚した。弟子に大見えを切った手前、なんとか香辛料についての知識は絞り出した裕太だが、無事にカレーを完成させることはできるのか! 乞うご期待!

「さて、それではカレーについて説明します」

ピートさんに対するジーナとダニエラさんの説教がひと段落ついたので、いよいよカレー作りに突入する。

「師匠。無敵の料理なんだよな!」

ジーナがキラキラした笑顔で無敵を強調してくる。マルコが凄い剣を見た時と同じような表情なのが少し悲しい。ジーナって偶に子供っぽいところがあるよね。

まあ、その素直なところに何度も救われているから俺は構わないんだけど、ダニエラさんが残念な娘を見る目をしているから、少し抑えてほしい。

とはいえ、今更無敵って言葉を取り下げることもできないので、話を合わせつつも無難なあたりに話を着地できるように頑張らないといけないな。

あと、ピートさん。料理に無敵ってと呟きながら、胡散臭そうに俺を見ないでほしい。

「そう、カレーは無敵の料理です。作り方によって千差万別に変化し、数多くの料理をカレーに染め上げてしまう最強の料理。心して学んでください」

たいていの食材にカレー粉は合うし、よっぽど変な食材じゃない限りカレーとして煮込めば美味しくなるから嘘は言っていない。

あと、言葉面だけだけど、無敵から最強に格下げはできたかな? 無敵と最強って無敵の方が強いよね?

ジーナは期待した目で、ダニエラさんは面白そうに、ピートさんは胡散臭そうに頷いたので、とりあえず納得してくれたと思おう。

「カレーとは簡単に言えば様々な香辛料を調合し、それをお肉と野菜と一緒に煮込む料理です」

「おいおい、うちみたいな貧乏食堂で様々な香辛料なんて使える訳ねえだろ。店で出す料理ってのはな、美味いだけじゃ駄目なんだよ。値段や手間も重要なんだ。これだから素人は……」

「そこら辺の対策も考えてあるので安心してください」

ベティさんに丸投げするだけだけどね。

文句を言うピートさんの言葉を遮り、カレーの説明を続ける。

コリアンダー シナモン 鷹の爪 カルダモン ターメリック パプリカ サフラン クミン

なんとか思い出して手に入れた香辛料を3人に見せながら、分量を匙で計り記録を取りながら調合する方法を教える。

「師匠。調合に正解はないのか?」

ジーナが苦しいところを突いてくる。そりゃあ、カレーを商売にしているところなら正解と言えるレシピはあるんだろうけど、お手軽なカレールーでしかカレーを作ったことがない俺には正解は分からない。

「先ほども言ったように、カレーは千差万別の料理なんだ。だから、この食堂に合う正解の調合は、この食堂で作るしかないんだ。頑張ろうね」

「そうなのか。思った以上に大変なんだな……」

そう。思った以上に大変なんだ。思い付きで始めたことを俺はとっても後悔している。

「まあ、そういう訳なので、試作することから始めます。まずは下ごしらえですね」

カレー粉を混ぜる前段階までのスープを大鍋で大量に作り、あとは小鍋でカレー粉と混ぜ合わせれば、何種類も試作できるだろう。

正確な分量が分からないなら、数で勝負すればいい。当たるまで打ち続けることができれば、正解にたどり着けるのは、一つの真理だ。

誤魔化しになるかどうかは分からないが、前段階のスープには拘ろう。

しっかり炒めた大量の玉ねぎは基本として……すりおろしたリンゴとハチミツは……どのタイミングで入れればいいんだろう?

***

「色が……これを料理として出していいのか? 言ったら悪いが、う〇こに見えるぞ」

小鍋に分けて作ったカレー第一号を見て、ピートさんが直球を放り込んでくる。

加えた小麦粉の量が多かったのか、カレーのドロドロが普通のカレーよりも強いのも見た目を更に悪くしているので、ピートさんの言いたいことも否定できない。

「でもあなた、すごく良い匂いはするわよ? なんていえば良いのかしら? 食欲が掻き立てられるような不思議な匂い?」

ダニエラさんも見た目は否定的だが、匂いは気に入っているようだ。たしかに試作第一号にしては良い匂いだと俺も思う。匂いだけはしっかりカレーだ。

「師匠。これで完成でいいんだよな?」

「うん。ちょっと小麦粉が多かったけど、試作品としては完成だね」

「じゃあ、味見だ。見た目は悪いけど、食べられない物は入れてないから問題ないよな」

「ジーナ。言っていることは間違ってないけど、こういう時はもう少し躊躇いなさい。かよわさを演出することも、女性として必要な手段なのよ」

「ジーナにはそんな手段など必要ない!」

たしかにジーナの言動は漢らしかったけど、だからと言ってこんな時に女性の手管を教育しないでほしい。ピートさんが荒れる。

「そういうのは今はいいんだよ。とりあえず味見だ。師匠、食べてもいいんだよな?」

「う、うん」

面倒くさそうにダニエラさんとピートさんを押しのけて、カレーにスプーンを突っ込むジーナ。

時と場所を選んでほしいとは思ったけど、ダニエラさんの言葉をまったく気にしないジーナも困りものだ。

「美味い! 師匠、これ、ちょっと辛いけど美味いぞ!」

こっちの気持ちなど気にもせずにカレーを試食したジーナが、大喜びで報告してくる。

試作一発目から成功しちゃった? 俺、天才?

ジーナの反応にダニエラさんとピートさんも試食をし、美味いと声を上げる。

本当に一発目から成功したのかもしれない。自分の才能に驚きながらも、試作第一号を試食してみる。

……なんか違う。それほど煮込んでいないし、スパイスも加工したてだからか香りは鮮烈だけど、味がぼやけているというかもったりしているというか……微妙だ……。

カレーとは言えなくもないって感じなんだけどジーナ達には高評価なのは、食べたことがない味だからだろうな。香りだけでも美味しく感じていそうだ。

だが、それでは駄目だ。

「みなさん。これはカレーとは言えません。カレーのポテンシャルはこんなものじゃないんです。まだ十倍も二十倍も美味しくなりますよ。試作を続けましょう」

俺の言葉に驚くジーナ親子。目を見開いている様子からも本当に美味しく思っていたようだ。カレーの香りの魔力だな。

「えー……裕太さん。これよりももっと美味しくなるんですか?」

「ええ、これはカレーとは言えません。本物のカレーに比べたら、駄作も良いところですね。こんなもので満足してもらっては困ります」

おそるおそる聞いてきたダニエラさんに、自信をもって答える。

なんとなくできそうだし、試作を続けよう。一発目でこれならもっと美味しいカレーが作れるはずだ!

***

「もう嫌。眠い。お腹いっぱい。帰りたい……」

強気でカレーのポテンシャルの高さを説明したことを、今は後悔しています。後悔ばかりの人生ですね。

「師匠。諦めないでくれよ」

「いや、だってね。結構美味しいのが沢山できたよね? もう十分じゃないかな?」

沢山試作した。

その中で、これ美味しいんじゃない? といった結果になったカレーに照準を合わせて、微妙に香辛料のバランスを変えながら試作を続けた。

その結果、香辛料の鮮度も合わさり、日本の自宅カレーにはちょっと届かないかな? 的な美味しさまではたどり着いた気がする。

ただ、飛びぬけた美味しさのカレーは完成しなかった。でも、俺は日本の自宅カレーにちょっと届かないくらいのクオリティがあれば、異世界で1日の試作なら十分な結果だと思う。

「でも、どれを店に出すのか決めないと駄目だろ」

ジーナの言う通りなんだよねー。

結構おいしいカレーが何種類か出来上がり、面倒な事にジーナ達3人の意見が分かれた。

完成度が上がったカレーの魅力に取りつかれた3人は、自分の意見に妥協しない。

それで、もっと美味しいカレーを作ろうと発奮してしまい、更に試作を続けようとする。寝ていないのに。

「いや、あのね? 俺は全部が正解であり基礎だと思うんだ。カレーは奥が深い。だからこそ、1日では完成しないんだ。後は研究を積み重ね、最高のカレーを作る。伸びしろがまだまだあるってことだよ……」

だからもう帰ろうよ。結構おいしいカレーで、俺好みなのは確保したから、時間が経ったらライスで食べよう。とりあえず当分カレーは遠慮したいな。

「ん? 外が騒がしくないですか? あっ、もう明るくなってますね。そろそろ終わりにしましょう」

「たしかに騒がしいな」

俺の言葉にピートさんが様子を見に向かう。

あー、完璧に徹夜をしてしまった。帰って寝たいけど、帰ったらベル達が起きていそうだし、眠れるかな?

きつかったらベル達は遊びに行かせて、仮眠を取りたい。

「うおっ!」

眠くてボーっとしていると、ピートさんの驚いた声が聞こえる。その後に続く知らない人達の声。この匂いはなんだとか、食わせろだとか聞こえてくる。

なるほど、カレーの暴力的な匂いが外に漏れていたのか。カレーの匂いの拡散率は半端じゃないし、人が集まるのも当然だな。

「あっ、外に集まっている人達に食べてもらって、どれを店で出すのか決めたらいいかも。一番大切なのはお客さんの好みだよね!」

眠くて敬語を忘れてしまった。ジーナには問題ないけど、ダニエラさんには馴れ馴れしすぎな気もする。でも、なんかめんどい……。

「いや、師匠。さすがにそれはヤバいよ。今食堂に人を入れたら素材を見られちゃうし、カレーは思っていた以上に美味しい料理だ。師匠は人気が出てから商業ギルドや料理ギルドに話を通すって言っていたけど、先にギルドに話を通した方が問題は少ないと思う」

「えー、でも、まだ完成してないよ? 香辛料の種類や量、他の素材なんかでまだまだ美味しくなるから、ギルドに話を通すのは早くない?」

今のカレーは、点数で言ったら65点くらいかな? 頑張れば短期間で80点は目指せると思う。

「師匠。外でおやじが絡まれている声が聞こえるよな? 匂いだけでこれなんだし、先にギルドに通しておかないと、本当に問題が起こるよ」

外の声に耳を傾けると、たしかにピートさんが大人数から詰め寄られている声が聞こえる。

ピートさんが新メニューの試作中だって言っているけど、食わせろって声が治まらないようだ。

暴動が起きてもなんとかできる俺が居る間に、ギルドに話を通しておいた方が安全だな。

今外に出ていくと絡まれそうだし、ギルドが開く時間になったらベティさんを呼んできて丸投げだ。あとは、あのぽっちゃりでムッチリな美女がなんとかしてくれると信じよう。