軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百七十二話 完璧なアイデア?

色々とハプニングがありながらも、大精霊達の家をすべて受け取った。どの家も家主になる予定の大精霊達は満足していて、珍しく自爆したシルフィ以外は楽園に戻って家が設置されることを楽しみにしている。お世話になっている大精霊達に少しは恩返しができた気分で、俺もちょっと嬉しい。

「シルフィ?」

返事がない。まだ立ち直れていないようだ。もしかしたら近くにも居ないのかもしれない。

シルフィの代わりに護衛についてくれているドリーが少し苦笑いをしている。ちょっと心配のし過ぎだろうか?

家を受け取った後、ディーネ達に連れ回されて様々な家具や雑貨を購入した。ついでに、ディーネがメルとメラルに会いたがったので、メルの工房にも顔を出した。

メラルがディーネに詰め寄られて、恋愛とはなんたるかを教授されることになってしまったのは申し訳ないが、まあ、メルに懐いているキッカも嬉しそうだったから、訪問したのは良かったんだろう。

その後、宿屋に戻ると新装開店で大繁盛していたので、大人しく部屋に戻って魔法の鞄から料理を出してみんなで食べた。

食後、ディーネ達を送還し、ジーナ達も自分の部屋に戻って、ベル達もベッドでお団子になって眠りについてもシルフィは帰ってこない。

召喚すれば戻ってくるとは思うんだけど、できれば自発的に戻ってくるまで待ちたいところだ。

消える瞬間のシルフィの表情……絶望とか羞恥とか怒りとか悲しみとか、色々と混ざりすぎて凄いことになってたもんな。

特に、ディーネにとどめを刺されたのは辛かったと思う。いつも窘めている相手からの悪気の無いツッコミ。

俺も経験があるけど、納得できない気持ちが湧き上がっちゃうんだよね。相手も悪くないのに、お前が言うなって言いたくなったりしてしまう。

……俺達の護衛はドリーがしてくれるし、帰還間際まではシルフィの自由にさせてあげよう。黒歴史を消化するには時間が必要だよね。

さて、シルフィには時間が必要だから待つとして、あとやっておくことは何があるかな?

マリーさんのところには雑貨を買う時に顔を出して、廃棄予定素材とお酒は受け取ったけど、珍しくマリーさんとソニアさんに会えなかった。

店員さんに聞いたところ、若返り草から作った薬品(化粧品関連)のことで呼び出されて王都に向かったらしい。

若返り草の薬品は周囲に甚大な影響を与え、ポルリウス商会の地位を高めると同時に、沢山の注目と妬みと嫉妬を買ったらしい。

なんだか大変なことになってはいるが、マリーさんのことだから嬉々として立ちまわっていると思う。

不思議とあまり心配にはならないけど、シルフィが戻ってきたら王都に様子を見に行ってもらおう。大丈夫だとは思うけど、何かが起こってしまったら寝覚めが悪い。

迷宮のコアには明日廃棄予定素材を届けるとして、後は……ジーナの宿題が残っていたな。

スラム近くの安食堂を繁盛させるメニューって言われちゃったけど、何にするのかが問題だ。

オークやラフバードを利用するなら揚げ物とかだけど、オークの脂身を利用するにしても揚げ物は手間とコストが掛かるし、トルクさんの宿屋にもメニューがある。目新しさも弱いだろう。

日本で流行っているメニューを参考にするとして、ファーストフードならハンバーガーだけど、この世界だとハンバーグを作るのも何気に大変なんだよね。ミンサーから作らないと駄目だ。

他だとフライドチキンか? でもあれは衣が難しい上に結局揚げ物になる。ラフバードを利用できはするけど微妙な料理だ。

牛丼は……オーク肉を使えば豚丼みたいになるかもしれないが、そもそも調味料と米が必要で難しい。

だいたい、ファーストフードって大量購入でコストを下げているから、個人経営でやってもそんなに安くできない気がする。

でも、参考にできそうなのはファーストフードのメニューしか思いつかない。仕事でちょっと良さげなお店で食べたこともあるけど、高級店の料理って一流の食材を使用していたり、調理器具等の環境にも拘っているから参考にするのが難しい。やっぱりファーストフードを参考にするのが良いだろう。

うーん、好きな具材が選べるサンドイッチは、食材のロスが多そうだ。

次は……次……カレー?

いや、さすがに難しいだろ。カレーは食べたいけど、香辛料は高価なのがファンタジー世界のテンプレートだ。

鷹の爪は迷宮で採れるけど……ん?

そういえば、マリーさんの雑貨屋でクレ〇ジーソルトのパクリ商品を生み出した時にも、いくつか香辛料を見た覚えがある。

あれ? あれれ? コアに頼めば香辛料が簡単に手に入る? ドリーに頼んで香辛料を育ててもらう方法もあるけど、それだと迷宮都市では流通できない。

胡椒が割と高いのは迷宮の最前線に生えているからだし、コアに頼んで程々の層にカレーで使う香辛料を生やしてもらえば、迷宮都市に新たな名物が生まれちゃう?

しかも、その名物の元祖がジーナの実家の食堂なら、大繁盛間違いなし!

あっ、駄目だ。ジーナの目的は大繁盛だけじゃなくて、安くて美味しい料理をスラムの人達に食べてもらいたいのも目的だった。

カレーだと香辛料を迷宮で手に入れたとしても、香辛料の処理や煮込みで手間とお金が掛かってしまう。

畜生。駄目だとなったら無性にカレーが食べたくなってしまった。明日コアと会った時に香辛料をもらおう。

ふー、色々と考えたけど、振出しに戻ってしまった。他のアイデアをひねり出さないといけないな。

いかん、カレーが頭から離れない。他のメニューを考えているはずなのに、強制的にカレーが頭に浮かんでくる。カレー食べたい。

こうなると考えても無駄だな。少し休んでから改めて考えよう。

カレーはレトルトがあるけどもったいなくて食べられないし、トルクさんとルビーに作ってもらおう。トルクさんに頼むのは新装開店した宿が落ち着いてからだな。

ベル達を起こさないようにベッドに寝転がり目を瞑ると、その瞬間、凄まじく天才的なアイデアが頭の中を駆け抜けた。

いける。これはいける。これこそ逆転の発想ってやつだ。これなら……いや、俺の思い込みなだけの可能性もある。ジーナに確認しないといけない。

ドリーにベル達のことをお願いして、急いでジーナの部屋に向かう。

「あっ、師匠か。どうしたんだ?」

ノックをするとジーナがすぐに出てきてくれたが、なんだか驚いた顔をしている。

……良く考えなくても夜に師匠とはいえ男が訪ねてきたら驚くよね。ナイスアイデアにテンションが上がってしまってデリカシーを忘れてしまった。

部屋を出る時にドリーが何かを言いたげだったのは、このことだったのか。

「師匠?」

デリカシーを欠如してしまったが、このまま帰るのもそれはそれで奇妙だ。

「えーっと、ジーナの実家の食堂のメニューを思いついたんだけど、ちょっとそれについて聞きたいことがあってね。明日の朝食の時にでも時間をもらえる?」

アポを取りに来ただけですって体で約束だけして部屋に戻ろう。いつも朝食で顔を合わせているってことは気にしないぞ。

「えっ、今じゃ駄目なのか?」

「いや、もう夜だし、メニューのことをジーナが気にしていたらいけないから、声を掛けにきただけなんだ」

言い訳だけどね。

「そんなこと言われたら気になって眠れないよ。まだ寝る時間じゃないし、話を聞かせてくれ」

美女に部屋に引きずりこまれるシチュエーション。とても嬉しいことなんだけど、ジーナはそんなこと微塵も考えていないんだろう。

俺が信用されているのか、ジーナが単に無防備なのか……。

部屋に入ると小さなテーブルに向かい合って座り、ジーナはさあ聞かせてくれと言わんばかりに笑顔で俺を見つめている。単に無防備なだけだな。

ジーナの警戒心については、ジーナのお母さんに相談しよう。俺から注意するのはなんか嫌だ。

「で、師匠。どんなメニューなんだ。美味いのか?」

美女で薄着で、エロいことを微塵も考えていない様子のジーナ。ある意味小悪魔と言っていいかもしれない。

あっ、シバがめちゃくちゃジャレついてきた。シバの存在を考えると、2人きりって訳じゃないか。

少し気が楽になったので、俺が思いついた天才的なアイデアをジーナに披露する。

「なあ、師匠。師匠が言うんだからそのカレーってやつはめちゃくちゃ美味いんだと思う。でも、香辛料が迷宮で採れたとしても手間を考えたらうちの食堂には向かないよ」

ふむ。ジーナも直ぐに問題点に気がついたか。ガサツな子だけど、頭が悪い訳じゃないんだよね。

「その問題点は俺も気がついているよ。でも、ちゃんと対策は考えてあるんだ」

得意気にジーナに見栄を切った後、逆転の秘策を説明する。

・ジーナの実家の食堂でカレーを作る。

・絶対に有名になるので、有名になったら料理ギルドか商業ギルドに条件を付けてレシピを売る。

・その条件は、香辛料の処理をスラムの女子供に仕事として任せることと、ジーナの実家の食堂の香辛料の処理は無料で引き受けること。

・迷宮のコアに香辛料を各層に生やしてもらう。

・実家の食堂で使う香辛料はジーナが自分で採取。

自画自賛だけど完璧なアイデアだろう。

ジーナの実家はカレーの元祖の名声が手に入るし、無料で各種香辛料の処理をしてもらえるから、手間とコストが減ってカレーを安く提供できる。

しかもスラムの女子供に仕事が増えて豊かになるので、食堂でたっぷりご飯が食べられるようになる。みんなが幸せになる完璧でしかないアイデアだ。天才ですな。

あれ? ジーナが浮かない顔をしている。ここは師匠凄いって絶賛する場面だよ?

「ジーナ、何か分からないところでもあった?」

結構細かく説明したはずだけど、難しかったかな?

「うーん、師匠が言うんだから上手くいきそうな気もするけど、冒険者ギルド以外のギルドは、スラムに関わるのをとても嫌がるんだ。香辛料は高価な物だし、料理一つでそんな条件を飲むかな? カレーってそんなに凄いの?」

……なるほど、冒険者ギルドはともかく、たしかに他のギルドはスラムと関りは薄そうだな。

でも、大丈夫だろう。なんたってカレーだ。あの香りと味を知ってしまったら、逆らうことは不可能だ。特に料理ギルドなんかは、知りたくてたまらなくなるはずだ。

「ジーナ、カレーは無敵だから、そんなこと心配しなくてもいいよ」

体質とかで食べられない人もいるかもしれないが、純粋にカレーが嫌いな人なんて想像だけど1割もいないはずだ。

そしてカレーの虜になった人は、もはやカレーから離れられなくなるだろう。そんな素晴らしい料理なら、料理ギルドでも商業ギルドでも、大抵の条件は飲むはずだ。

ベティさんに試食してもらえば、俺が手間を掛けずに勝手に段取りしてくれそうだから、楽が出来そうだよね。

「無敵なのか!」

……簡単に納得してしまった。無敵の料理ってなんだよとか突っ込まないところが、ジーナの人の好さを表している。

「あっ、でも、うちの親父に作れるかな? 料理は好きだけど、特別な技術は無いよ?」

「えっ?」

あれ? そういえば凄いアイデアを思い付いたし、香辛料も手に入りそうだからカレーを作れる気になっていたけど、香辛料の種類とか分量を俺は知らないんですけど……。

無敵とかドヤ顔しながら言ったのに、今更作り方が分からないとか……とても言えない。

そうだ! あれだ。レトルトカレーの箱に使った食材とか書いてあるはずだ。あれを見れば、とりあえず香辛料の種類は分かるかも。

分量は、まあ研究でなんとかしよう。なんちゃってなカレーでも、この世界ならご馳走に……なってくれたらいいな。

「そ、そんなに難しい料理じゃないから、たぶん大丈夫だと思うよ。じゃあ、もう夜も遅いし、俺はそろそろ部屋に戻るね」

「えっ?」

突然帰ると言い出した俺にジーナが戸惑っているが、素早く立ち上がり部屋をでる。

急いで部屋に戻り、魔法の鞄からレトルトカレーを取り出し、原材料が書いてある一覧を確認する。

……カレー粉って書いてありますね。

あはは、どうしよう?