軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百七十話 気にしないことにすることが多すぎる気がする

完成したシルフィ達の家の内見で、本職のジルさんの仕事にノモスもイフも大満足だった。しかし、家の中に灯台に使うような焚火台を設置し、その説明が微妙だったことでジルさんとの関係がビジネスな関係に落ち着いてしまった。……まあ、それはどうでもよいから、シルフィ達の家を見て回ろう。まずは、滝の確認だ。

「ここに水を溜めれば魔道具が水を吸い上げるようになっておる」

ジルさんに案内された家の裏には水を吸い上げる魔道具が設置されていて、そこに大きな穴が掘られている。

銭湯の大きな浴槽くらいの大きな穴。俺達に家を引き渡す前に、ここに水を溜めてちゃんと家の中の水路や滝の点検もしていたんだな。手間がかかっている。

「ん? この穴に敷いてある妙に光沢がある布はなんですか?」

おそらくビニールシートの異世界バージョンだと思うけど、ちょっと便利そうだ。次に楽園を拡張する時があったら、土の中に敷き詰めた岩の代わりに利用したい。

「あぁ、それはジャイアントトードの皮じゃな。泥水を吸い込むと家が汚れるから敷いたんじゃ」

思った通りビニールシートの代用品だったけど、あのでっかいカエルの皮なのか……アンデッドが溢れる大地だから今更かもしれないけど、カエルの皮が敷き詰められた楽園ってのも微妙な気がする。保留にしておこう。

「そうだったんですか。便利そうですね」

「うむ便利じゃぞ。前に作った裕太の家や今回作った家にも使っておるし、この家の中の水路の下にも敷いてある。ちょっとやそっとで破損して水が漏れることもないから、心強い素材じゃな」

衝撃の事実です。楽園にカエルの皮がどうのこうの以前に、マイホームに使われていました。毎晩カエルの皮に守られて就寝していたんだね。楽園に雨は降らないけど……。

……深く考えるのは止めよう。この世界では魔物の素材は一般的に利用されるものなんだ。いちいち気にしていたら何もできない。

「……そうですね。とても心強いです。じゃあそろそろ、水を溜めちゃいますね」

深く考えるとマイホームへの愛が憎しみに変わりそうなので、話を切り上げて次の行動に移る。

とりあえず、詠唱したふりをしてレインに水を出してもらおう。

(この穴にお水「お姉ちゃんの出番ねー!」を……)

レインを見ていた俺の目の前に、出番が来たと得意げに胸を張るディーネが現れた。

……このキラキラした表情……たぶんだけど、水を入れるって聞いてから、出番を今か今かと待っていたんだと思う。

なるほど、この場にはディーネが居て、ディーネが楽しみにしている滝を流すための水を用意する場面。ならディーネが自分の出番だと思うのも無理もないかもしれない。

今回はディーネが空気を読めていないんじゃなくて、気が利かなかった俺が悪い。

「キュッ」

レインもヒレでディーネを指している。

うん、そうだね。ディーネの出番だね。

(ディーネ、詠唱するからこの穴に水を入れてくれる? 溢れないようにお願いね)

張り切っているディーネに不安を覚えて、溢れないようにって言葉を追加してしまった。

(まかせてー)

力強く胸を叩いて請け負うディーネ。

俺の不安にまったく気がついていないところが、ディーネの良いところでもあり、不安なところでもある。あと、衝撃で弾んでたゆんたゆんな部分は確実にディーネの良いところだ。

邪な気持ちを表情に出さないようにしながら詠唱する振りをして、最後に右腕を軽く振る。

「とやー」

間延びして気が抜けた声だけど、ディーネにしては気合が入った掛け声で魔法が発動される。

ただ穴に水を入れるだけなのに、水の大精霊のディーネが気合を入れる? なんだかとても嫌な予感が……。

あれ? 普通だな。空中に生み出された水の玉が普通に穴に入っただけだ。俺の心配のし過ぎ?

「キュッキュキュー」

「ふふー。すごいでしょー。これが水の大精霊の力よー」

レインが興奮しながらディーネの周りを飛び、ディーネがレインに対してドヤってしている。

俺に理解ができていないだけで、間違いなく普通じゃないことが起こっている。

「精霊術は扱いづらい力じゃと聞いておったんじゃが、これだけの大きな穴に一滴も水をこぼすことなくギリギリまで水を満たしておる。この技術が凄腕と呼ばれる 所以(ゆえん) かの?」

ジルさんが妙なところで感心している。けどたぶん違うよ。ディーネなら気合を入れる必要もなくそれくらいのことはできる。

「さて、水も溜まったし魔道具を動かすか。どうせならお主がやるか?」

「えっ? えぇ、あぁはい」

ジルさん。一人で納得して話を進めないでください。思わず返事をしちゃったけど、このまま魔道具を起動しても良いの?

(シルフィ、シルフィ、この水、大丈夫なの? ディーネが凄く得意気だよ? 魔道具が壊れたりしない?)

ゆっくり水を吸い上げる魔道具に近づきながら、小声でシルフィに確認する。

ディーネも楽しみにしていた家だから壊すことは無いと信じたいが、張り切っているディーネを信頼するのは怖い。

「ふふ、大丈夫よ。張り切ったディーネの魔力がたっぷり詰まっているけど、水であることは変わらないわ」

クスクスと笑うシルフィ。微妙に不安な内容だけど、この家はシルフィの家でもあるんだから、この様子なら大丈夫だろう。

少しだけ不安を抱えながらも魔道具に魔力を通すと、魔道具が疑惑の水をグングンと吸い上げ始めた。

……ふむ。魔道具がガタガタと振動しだしたり、不穏な音を発したりすることもないようだ。俺の気にし過ぎだったみたいだな。

「チビ達もどうせなら滝の流れはじめから見たいじゃろ。急いで移動するぞ」

魔道具に注目していると、ジルさんが俺をせかしてきた。どうやらキッカ達に気を使ってくれたみたいだ。

ノモスにソックリなのに、子供が苦手ではないようだ。なんか不思議だな。

……ちょっと魔道具が気にならないこともないけど、たしかに滝から最初の水が流れ落ちるのは見たい。急いで移動することに決めて、ジーナ達を促して速足で玄関に向かう。

ジルさんは俺とジーナ達だけだと思っているんだろうけど、俺とジーナ達が契約している大精霊と下級精霊と浮遊精霊が集まっているから、かなりの大移動だ。

近くに精霊を感知できる人が居たら、腰を抜かしてしまうかもしれないな。大精霊だけでも6人だもん。

……あれ? これって普通にヤバい?

「師匠、はやく! みずがくる!」

「ししょう、はやく!」

マルコとキッカがすでに玄関に到着し、ドアを開けて俺を呼んでいる。

急がないといけないし、気にしないことにしよう。なんだか今日は気にしないことにしたことが多い気もするけど、それも気にしないことにしよう。

待っていてくれたマルコとキッカにお礼を言って中に入る。玄関から入って真正面にある滝からはまだ水は流れていない。間に合った。

「おみずきたー」

水が来るのが待ちきれなかったのか、滝の上部から水路の奥を覗いていたベルが笑顔で水が流れてきたことを教えてくれる。

ベルが教えてくれた通り、少しすると滝に水が流れ落ち始める。

最初はチョロチョロと流れていた水の量が徐々に増え、小さいながらも滝と言える水量になる。

滝の下には小さな滝つぼがあり、滝つぼが満タンになると水路に水が流れて部屋の中央の泉に向かう。

泉はシルフィ達がこだわった場所。泉の中央には石畳があり、石のテーブルが設置してある。ここでシルフィ達美女がお茶会でもしたら幻想的だろうな。

是非とも酒盛りじゃなくて上品なお茶会を開いてほしい。まあ、ジーナ達が頑張って作ってくれたローズガーデンでも、お茶会じゃなくてお酒を飲んでいるから期待薄だけどね。

おーっというみんなの声と、小さな滝や泉の周りではしゃぐマルコとキッカ、ベル達とフクちゃん達。こちらも家の中なのにすさまじくファンタジーな光景だ。

家の中に滝ってどうなの? とディーネの脳ミソを疑っていたけど、これはこれで有りなのかもしれない。

「ん? ……なんだか凄く気分がスッキリするというか、身も心も洗われるような気がする。部屋全体が清浄な空気で満たされている?」

滝のマイナスイオン効果? でも、日本で大きな滝を見に行ったことがあるけど、こんなに身も心も洗われるような気持ちにはならなかったはずだ。

ジルさんを見てみるが、明らかに普通とは違う空気に混乱している様子だ。ジルさんが特別に何かをした訳ではない。

そうなると答えは簡単だ。ディーネの魔力がたっぷりな水の影響しか考えられない。

滝や泉に大喜びでベル達と一緒にはしゃいでいるディーネをジッと見つめると、視線に気がついたディーネがこっちに来た。

「ふふー、裕太ちゃん。お姉ちゃんの本気のお水、すごいでしょー」

得意気に両手を広げるディーネ。たしかに凄いとは思うけど、本気を出すのは楽園に帰ってからにしてほしかった。

ジルさんなんか、明らかに普通とは違う空気に目を回しているよ。パニック状態だよ?

(シルフィ、これって大丈夫なの? 変なことになってない?)

「大丈夫よ。部屋全体がディーネの魔力で満たされて浄化されているだけね。むしろ良い効果しかないわ」

良い効果しかないはずなのに、ジルさんは目を回しているんだけどね。まだ滝しか見ていないのに、なんだかとても疲れた。

ドッと押し寄せてきた疲れが、部屋の空気で癒されていく。たしかに凄く良い効果だ。疲労の原因もこの水だけどね。ん?

(シルフィ、この魔力がたっぷりな水が、このままだと普通に排水されちゃうんだけど、影響はないの?)

大精霊の魔力がたっぷりな水が、建築現場にバラまかれるのは有りなの?

「んー、まあ、ディーネの魔力が大量に染み込むから、精霊、特に水の精霊にとっては居心地が良い場所になるんじゃないかしら? まあ、力の弱い精霊が集まるだけだから、自然のバランスが整えられるだけで、大した問題にはならないわよ」

……悪い影響はないみたいだし、まあ気にしないで良いか。環境が良くなるのなら、ジルさん達も喜ぶよね。

***

後日、ディーネの魔力がたっぷり染み込んだ場所には、なぜか小さな泉が湧き、植物が生い茂る小さな林が生まれた。

建築の邪魔になると整地を繰り返す大工達の奮闘を蹂躙して……。

この話をジルから聞いた裕太は思った。大精霊の大した問題とは、お酒のことか世界の危機なんだろうな……と……。