軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百六十六話 果てしなく可愛らしい回転テーブル

トルクさんに提案した個室システム。その一室がなんちゃって中華飯店になっていた。雑談の中で何も考えずに話した内容が、目の前で劣化して現実になる驚き。驚かせると言う意味ではサプライズは成功しているが、店としてはそれで大丈夫なのかがとても疑問だ。

「さあ、突っ立ってないで座れ。料理を運んでくるからちょっと待ってろよ」

サプライズの成功に気を良くしたのか、トルクさんが上機嫌で個室を出ていった。まあ、トルクさんが満足しているのなら良いんだろう。たぶん……。

罪悪感のような感情とか文化的な申し訳なさとか、なんとも言えない感情が心にあることは確かだが、今までも料理やらなんやらで文化的な侵略はおこなってきたんだ。気にしないぞ。

とりあえず落ち着きたい気分だから、トルクさんに言われたとおり座って待つことにしよう。

「お師匠様のアドバイスで作られた個室なんですね。不思議な雰囲気ですけど、素敵だと思います」

「う、うん、ありがとう?」

席に着くとサラが微笑みながら褒めてくれる……が、これは素直に受け取っていいのかな? サラなら社交辞令の可能性があるからなんとも言えない。

「師匠、おれも赤いのがカッコいいとおもう!」

「そうか、ありがとう」

マルコも褒めてくれるが、こっちは素直に受け取れるな。単に赤いのが琴線に触れているだけな気もするが、子供っぽい素直な感想だから深読みしなくて良いから助かる。

「師匠、なんでテーブルを回すんだ? 家の食堂でも使えるのかな?」

ふむ、ジーナは回転テーブルに興味津々なようだ。家から離れていても家族思いの良い子だよね。父と兄はちょっとした危険人物なのに、なんでこんな良い子に育ったんだろう? 不思議だ。

おっと、答えが出なさそうな事に悩むより、ジーナの質問に答えないとな。精霊術師としてはなかなか師匠らしいことができないから、こういう時にポイントを稼いでおきたい。

って言っても、そんなに説明することが無いのが切ないところだ。

「ジーナの家の食堂に向くかは微妙だけど、このテーブルは品数が多い料理店向きのテーブルでこういう風に使うんだよ」

魔法の鞄からコップを取り出して回転テーブルの上に置き、テーブルを回転させて対面に座っているジーナの前に運ぶ。

「ふおぉぉ、おもしろいー」「キュキュー」「べんり」「クゥ!」「いかすぜ!」「「……」」「「ホー」」「プー」「ワフッ!」

「えーっと、師匠? なんだか目の前のテーブルに……」

「うん。なんだかベル達の琴線に触れちゃったみたいで、みんながテーブルの上に集まっているね」

ベル達だけじゃなくフクちゃん達も集まっているから、大きめのテーブルとはいえかなりの密集状態だ。

お行儀が悪いって叱る場面かもしれないが、とても可愛いのでそんなことは言えない。

「そっか。面白いもんな。……まあ、家の食堂だと品数が多い訳じゃないから向かなそうだな。師匠、ありがとう」

ジーナはアッサリと回転テーブルの必要性を見抜いたようだ。ジーナの家の食堂は言葉は悪いけど、貧しい人向けの食堂。回転テーブルは必要ないだろう。問題はキラキラした目で俺を見ているちびっ子達だな。

確実にテーブルを回してってことなんだろうけど、それって初めて回転テーブルを見た子供がテーブルを回してはしゃぐのと変わらないだろう。

ジーナ達は精霊の気配が感じられるから、何が起こっているのかを理解をしてくれるだろうけど……それでもおじさんがテーブルで遊ぶ姿は見せたくないよね。カッコ悪いもん。

「まわしてー」

はい、回します。ベルのお願いにアッサリ体が動き、回転テーブルをグルグル回す。ふむ、家具職人が苦労したらしいけど、引っ掛かりも無く滑らかな動きだな。職人のプライドが感じられる仕事だ。

そして、回転するテーブルに合わせて俺の前を通り過ぎる、幼女、子イルカ、少年、子ギツネ、幼女、スライム、豆フクロウ、ウリ坊、豆フクロウ、子犬、子スライム、果てしない可愛らしさだ。

一瞬メリーゴーランドを思い浮かべたが、密集具合を考えると回転寿司が正解な気がする。日本にこんな回転寿司屋があれば、満員御礼だ……いや、ベル、トゥル、フレアが並んでいる時点で警察案件だな。ロリショタが群れを成してしまう。

「ベル達、フクちゃん達が大喜びしているから、みんなも回してあげて。あんまり乱暴に扱うと壊れちゃうから、優しくね」

俺の言葉にジーナ、サラ、マルコ、キッカも手を伸ばし、おそるおそるテーブルを回し始める。

俺だけ回していると絵面が酷いので、弟子達も巻き込む。これで共犯、師匠の威厳も保たれるはずだ。

「お師匠様。マメちゃんもよろこんでるの?」

テーブルを回すのが楽しいのか、キッカが笑顔で質問してくる。

「うん、喜んでいるよ。回転しているからフクちゃんとマメちゃんの見分けが難しいけど、両方喜んでいるから間違いない」

魔力を使ってテーブルに引っ付いて回っているんだから、これで楽しくないのであれば魔力を供給しているキッカが可哀想だ。

俺と弟子一同でテーブルを回していると、ガチャっと個室のドアが開いた。

「なんだい裕太、良い大人がテーブルで遊んでるんじゃないよ。弟子を窘めるのが役目じゃないのかい?」

「あはは、裕太の兄ちゃんも怒られた。でもそれ、おもしろいよね」

料理を運んできたマーサさんが呆れた様子で正論をぶちかましてくる。そして、背後からヒョコっと顔を出したカルク君に共感されてしまった。

なんだか無性に恥ずかしい。

「……性能のチェック中です」

「そうかい。じゃあそろそろ性能のチェックは終えておくれ。料理が置けないからね」

俺の苦しい言い訳があっさり流されたので、悲しみをこらえながら回転しているテーブルを止める。それと同時にベル達が少し残念そうにテーブルから離れ、そこにマーサさんとカルク君が料理と飲み物を並べる。

料理は回転テーブルを活かすためか大皿にまとめてあるが、普段、食堂で出している料理が多くて、目新しさが感じられない。パスタもまだ来ていないし、本番は後から来るんだろうな。こういう時にトルクさんが新作で勝負してこない訳がない。

「まだトルクが料理を運んでくるから、その時に性能チェックの結果は報告しておくれ。あんまり遊ぶんじゃないよ」

「料理をのせてはやく回転させると、料理がこぼれるから気をつけてな」

マーサさんとカルク君が料理を並べて出ていった。カルク君の口ぶりを考えるに、あの子も相当回転テーブルで遊んでいるな。そしてかなり怒られているとみた。まあ、そんなことはどうでもいい。今は確認しなければならないことがある。

「シルフィ。人が来たら教えてくれるように頼んだよね?」

「ええ、ベル達が料理を食べている時に人が来たら教えてって頼まれたわね。ちゃんと教えてあげるから心配しなくていいわよ」

風の大精霊から契約の抜け穴的な論法で返答がきた。無表情なのにとても楽しそうなのが伝わってくる。確実に故意犯だ。

「シルフィ。もう少し融通を利かせても良いと思うよ?」

「大きな問題が起こらないのなら、私は面白い方を選ぶわ。あと、裕太も弟子がいる身なんだから、自分の言葉に責任が持てるようになりなさいね」

うーん、前半も本音なんだろうけど、後半は忠告かな? 最近気が抜けている気がしないでもないし、もう少し気を引き締めておくか。

妙なところで気を引き締めていると、ドアが開いてトルクさん達が入ってきた。メイン料理の到着のようだ。

「まずはリクエストのパスタだ。そして、これが裕太から教わった新作だ。試してみてくれ」

まずはリクエストした山盛りのキノコのパスタが置かれる。様々なキノコが入ってはいるが、見た感じ他に工夫が見えないシンプルなパスタ。でも妙に美味しくて癖になるパスタだ。

続いて並べられるのは、餃子だな。本場の中国では水餃子が王道らしいけど、日本人の俺としては焼き餃子が王道だよね。ちゃんと羽根つき餃子になっているところが素晴らしい。

でもまあ、餃子は予想通りだ。中華料理店の内装のことを話した時に当然中華料理の話をして、熱心に質問もされたから、いずれ餃子が登場することは分かっていた。

中華料理に話が移って、内装の話は聞き流されたと思っていたから個室を見て度肝を抜かれたんだよね。

でも、餃子。予想していたとしても楽しみだ。美味しいよね餃子。延々と食べ続けられる気がするくらいに大好物だ。

西洋風の料理が中心の中に餃子が並んでいる姿に若干の違和感を覚えるが、異世界なんだから気にしないようにしよう。

「裕太。餃子を最初に試してくれ。味としてはまとまっていると思うんだが、本物を知っている裕太の感想が聞きたい」

トルクさんが真剣な顔で話しかけてくる。味としては自信があるようだが、話を聞いただけで作った料理だから不安もあるんだろう。ならば話を伝えた責任者として、しっかり評価しないといけないな。

「分かりました」

俺も真剣な顔でトルクさんに頷き、フォークを手に取る。餃子はお箸で食べたいけど、まあ、これは後で自前の箸を出そう。

フォークを餃子に突き刺すと、パリッとした手ごたえを感じる。期待が持てる感触だ。

「味付けはどうなっているんですか?」

「ん? 具に十分な味は付けてあるぞ? まあ、塩だがな」

調味料については言及していなかったな。餃子は酢醤油にラー油派だけど、それは楽園で挑戦しよう。完成した醤油の出番だもんね。

トルクさんに頷き、みんなに見守られながら餃子に噛り付く。ふむ、皮が想像していた以上に厚い。水餃子の皮ほどではないけど、日本の焼き餃子の倍くらいはあるな。でも、皮のザックリと焼けた面と、モッチりとした面の感触のコントラストは素晴らしい。

「んっ」

歯が皮を突き破ると、口の中に爆発的にニンニクの香りが広がる。これ、明日の口臭が心配になるほどニンニクが入っているな。日本でだと引きこもる前日しか怖くて食べられない料理だ。

口の中をニンニクの香りが蹂躙した後、広がる豚の油の旨味。オーク肉の味の濃さがニンニクの香りに負けていない。そしてそこに加わるニラとしょうが。

癖が強い野菜と肉の餡が混然一体となり、パリモチの小麦の味がハッキリとした皮で包みこまれている。餡の味が強いからこそ、皮がこの厚みなんだろうな。

キャベツや白菜を使った餃子や刺激が少ないタイプの餃子も教えたんだけど、このニンニクががっつり効いた餃子……ニンニクが大好きなトルクさんらしい餃子で文句なしに美味い。

……文句なしに美味いんだけど、それをそのまま伝えていいのか?

宿屋を増築して、一応富裕層も食べに来られるようにしたんだよね?

なんか方向性が間違ってない? 口臭? 知ったことか! そんな漢向けな料理なんですけど……。

女性客は?