軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百四十七話 冒険者の焚火

シュティールの星にイノシシの丸焼きを差し入れし子供達のヒーローになったが、ヴィクトーさん達が宴会を提案してきたので素早く戦略的撤退をしてクランハウスからも王都からも脱出した。今夜は森でイノシシの丸焼き&キノコパーティーだ。

「ゆーたー、まるやきー」「キュー」「たのしみ」「ククー」「くいつくすぜ!」「……」

「師匠! まるやきを食べるんだよな!」

「キッカもたべる!」

シルフィに人の手が入っていない大森林の奥地の、少し開けた場所に連れて行ってもらうと、到着したとたんにちびっ子達がテンション高く騒ぎ出した。

ベル達もフクちゃん達も、マルコとキッカも、騒いではいないけど嬉しそうなジーナとサラも、みんな丸焼きが楽しみなようだ。

ただ、ベル。ベルの言い方だと俺が丸焼きになったみたいに聞こえるから止めてほしい。

「すぐに食べたい気持ちは分かるけど、キノコ料理も作るからもう少し待ってね。天然キノコは美味しいよ」

俺の美味しいって言葉にちびっ子達が喜んでいるけど、ジーナが天然? と首を傾げている。そういえばこの世界でキノコの養殖ってされているのかな? キノコは全部天然物?

……まあ難しく考えなくていいか。大森林のキノコが美味しいってだけで十分だ。さて、まずはキノコの下処理だな。

ドサッと天然キノコを取り出すと、ちびっ子達が興味津々で集まってきた。ジーナ達も興味津々だし、頑張りが報われた気がする。まあ、前半のキノコ狩りはともかく、後半のキノコ狩りは楽勝だったんだけどね。

それはともかく……えーっと、天然キノコの下処理は……どうすればいいんだ? 天然キノコの下処理なんかしたことがないから、水で丸洗いしていいのかすら分からないぞ。

「……ドリー。キノコの下処理ってどうすればいいか知ってる?」

「下処理まではちょっと分からないです。ただ、キノコには虫が入っていたりしますね」

虫か……虫は困る。虫を食べる文化があるのは知っているけど、俺は遠慮したいです。

「洗って塩を入れたお湯に漬けるのよ。でも、時間が掛るからレインに綺麗に洗ってもらった方がいいわね」

俺が困っているとシルフィがあっさりと解決案を出してくれた。キノコとは全く関係が無い風の精霊のはずなんだけど、好奇心が強いと色々と知っているんだな。

「ありがとうシルフィ。レイン、ちょっときてー」

「キュー」

なになにーっとやってくるレイン。今日はイノシシ確保の一番乗りだったし、心なしか気力が充実しているようにも見える。あと、可愛い。

「レイン。このキノコを洗ってほしいんだ。ヒダの隙間に汚れや虫が入っているらしいから、ちょっと手間がかかりそうだけど、大丈夫?」

「キュキュー!」

ビシッっと右ヒレを敬礼の形にするレイン。まだ敬礼を覚えていたんだな。でも、ごめんね。それは若干黒歴史になりかけているから、昔みたいに大声で乗れないんだ。あの頃の俺は……死の大地で、ちょっとだけ壊れていたんだ。

(レ、レイン隊員。……このキノコを隅々まで綺麗に丸洗いするのだ!)

だから小声で勘弁してください。

「キュ? キュキュー!」

レインはなんで小声なのっと首を傾げたが、まあいいかといった様子で元気に敬礼してくれた。深く考えずに納得してくれて助かった。

「キュ!」

敬礼をした後にレインが水球を生み出し、キノコの山をまるっと包み込んだ。水球がグルグルと回転を始め、キノコから細かい汚れが浮き上がる。

おっ、水球が振動しだした。野菜を収穫した時に、根に絡まった土を綺麗に落とした方法だな。これなら隅々まで綺麗になる気がする。

「キュー!」

レインが俺を見て、何かを訴えかけている。ふむ、これくらいならベル達の通訳が無くても完璧に理解できる。洗ったキノコを置く台が必要なんだな。

テーブルを取り出すと、レインがその上に洗ったキノコを置く。見たところキノコの表面に付いた余分な水分も飛ばしてくれているようで、ツヤツヤな光沢のキノコ達がこんにちわしている。見ただけで美味しそうだ。

「レイン。ありがとう」

「キュキュー」

頑張ったといった様子のレインを、撫でくり回して褒めまくる。今日のレインは大活躍だな。レインを十分に褒めて、下処理を再開する。

「師匠。手伝うぞ!」

「お師匠様。私もお手伝いします」

ジーナとサラがお手伝いしてくれるそうだ。そういえば一緒に料理をするのは久しぶりだな。俺も楽しくなってきた。

「ありがとう。じゃあまずは、キノコの石づきとか、食べられない部分を取ってくれる?」

「分かった」

「はい」

ベル達もマルコとキッカも待ちきれなくなりそうだし、少し急ぐか。

***

あぁ、これはたまらん。

炭火を敷いた焼き台の上で焼かれている大ぶりの丸ごとシイタケ。ジリジリと火が通るにつれてヒダからジワッと染み出す水分。

この水分は洗った水が残っていた訳じゃなくて、シイタケ自体からにじみ出る水分。まるで宝石のような輝きを放っている。

これは美味しい。食べなくても分かる。これは美味しい。食べるけど。

「お師匠様。美味しそうですね」

「うん。美味しそうだよね」

何事にも少し距離を置いて冷静に観察するタイプのサラが、珍しく焼けているシイタケを見つめてホッコリしている。ヴィクトーさんに会えて、肩の荷が下りた感じかな?

シイタケから目を離すとサラだけではなく、よだれをたらしそうなベル達やフクちゃん達や、早く食べたいとウズウズしているマルコとキッカの顔が見える。

ふむ、サラの肩の荷が下りたのか、ただ炭火で焼かれているシイタケの魅力が暴力的でホッコリしているのか、判断が難しいところだな。

「師匠。シイタケの焼け具合を見るのは構わないけど、こっちも忘れないでくれよ。これでいいのか?」

ジーナがあきれた表情で俺を見ている。さすが料理屋の娘ってことなのか、シイタケの魅力に屈せずに、しっかりと料理を進めていたようだ。

「ごめんごめん。えーっと、今確認するね」

ジーナがメインで作っていた鉄鍋を確認すると、こちらも暴力的な匂いが俺の鼻を貫く。……なんか暴力的としか表現していない気がする。

食べて味を表現するまでに、もっとかっこよさげな表現を準備しておこう。ジーナとサラから流石師匠って思われたい。

「うん。こっちもそろそろ良さそうだね」

鉄鍋の中から香るオリーブとニンニクの匂い。グツグツと煮立つ油にコーティングされて輝く沢山のキノコ。こちらも見ただけで分かる。美味しいやつだ。

ベル達のことを考えて鷹の爪は少なめにしたけど、俺の好みでニンニクマシマシのキノコのアヒージョ。暴力的に美味そうだ。あっまた暴力的って……。

最初はキノコタップリの鍋かスープにするつもりだったんだけど、出汁やスープに自信が無くてあきらめた。

キノコ鍋はポン酢でとも思ったが、まだ楽園の醤油が完成していない。今回くらい日本産の醤油を使うかとも思ったが、貧乏性に負けてしまった。俺、醤油、使う、怖い。って感じだ。スープは単純に技量の問題だな。

天然のキノコなんだからシンプルな料理の方が良さげなんだけど、沢山採れたしキノコと油の相性は抜群だから問題ないはずだ。何より、俺がキノコのアヒージョが大好きなんです。

「分かった。じゃあ、食器を準備しないとな。マルコ、キッカ手伝ってくれ。師匠、食器をお願い」

ジーナの呼びかけに素早く集まるマルコとキッカ。リーさんの訓練の成果か、体の切れが素晴らしい。

魔法の鞄からテーブルと食器を取り出すと、あっという間に準備が整った。

暗い森の中にポッカリと開けた空き地。中心に焚かれる焚火と、それを囲むように配置されたシンプルな石のテーブル。

楽園でも似たようなことをしたけど、太古から変わらぬ姿を保っていそうな大森林だと、また違った雰囲気でカッコいい。

楽園の時は荒野を 流離(さすら) うガンマンの焚火で、大森林の焚火は黄金郷とか古代遺跡を探す冒険者の焚火って感じがする。

まあ、イノシシの丸焼きを出すと、何かしらの秘境の部族の怪しい儀式臭もするけど、そこは気づかないふりで乗り切ろう。

さて、ちびっ子達だけではなく、シルフィにドリー、ノモスまで早く食べたいって目が言っているから、そろそろイノシシの丸焼き&キノコパーティーを開始するか。

「じゃあ、食べるよ。まずはシイタケの炭火焼きからだね。次にキノコのアヒージョで最後にイノシシの丸焼きだ。いただきます!」

普段なら自由に食べてもらうんだけど、今回は食べる順番が大切だ。特にシイタケの丸焼きは、イノシシやアヒージョの暴力的な味の後では、本来の旨味を堪能するのは難しい。

「裕太。エールよ。冷えたエールを出してちょうだい」

「うむ。たしかにエールが欲しくなる味じゃ。裕太。早く出すんじゃ」

グルメぶって食べる順番とかを考えていると、すでに炭火焼きのシイタケを口に頬張ったシルフィとノモスが、冷えたエールを要求してきた。気持ちは理解できるけど、もう少し情緒を大切にしてほしい。

ジトッとした目を向けるも、意に介さずにエールを要求するシルフィとノモス。その隣で私も欲しいですと言った目をするドリー。こうなると、お酒を出さない選択肢は奪われる。

まあ、大精霊達は俺にお酒を無理矢理飲ませないで自分で飲むタイプだから構わないか。

ドンッと冷えたエールを樽ごとシルフィ達の前に置き、ジョッキを渡すと。3人は何も言わずに樽からエールをすくい取り、ゴキュゴキュと飲み干して満足気な笑みを浮かべた。

パラりと塩を振った天然のシイタケの炭火焼きを口いっぱいに頬張って、冷えたエールで流し込めば、そりゃあ美味しいよね。でも、感想も言わずに次のシイタケに手を付けるのはどうかと思うよ?

あれ? 焼き台に隙間が無いほどシイタケを並べて焼いたのに、もう半分以上なくなってる。

周囲を見ると、口からハフハフと熱を逃がしながらシイタケを頬張るジーナ達と、熱などものともせずにシイタケに食らいつくベル達とフクちゃん達。みんな微笑ましいけど、勢いが凄い。

一瞬、エールを冷やしたのにこの場で飲んでいないディーネや、楽園で待機しているイフやヴィータに対して申し訳なく思ったが、そんなことを考えている場合じゃないな。

今すぐ食べないと、もう一回シイタケの焼き上がりを待つことになってしまう。ちょっと、ノモス。シイタケを飲むように食べないで。