軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百二十五話 たしかな成長

ジーナから体術の教師の追加の話を聞いて会いに行くと、厨二病を卒業できないまま長い時を過ごしてしまっていそうなお爺さんが現れた……こっちの世界でのお祓いってどうすればいいんだろう?

「では、決定だね。安心したまえ。私がこの子達を立派な怪盗に育ててみせよう」

「いえ、まだマルコが面白そうって言っただけですよね。先走らないでください」

マルコが興味を示しちゃったから、マルコの教育に関わるのは避けられないだろうけど、だからといって他の子達まで任せるつもりはない。

ジーナのタキシード姿は似合いそうだからちょっと興味があるけど、どうせならタキシードよりもル〇ンに出てくる色っぽい女盗賊の方がうれしいよな。もしくはタキシードな仮面の紳士にあやかって、セーラー服も捨てがたい。

「ふむ。そうだったね。では、最後にその 幼子(おさなご) の意見を聞いてくれたまえ」

邪なことを考えていると、あきらめが悪いダークムーンさんが、あきらめの悪いことを言う。さっきまでは吐血寸前の様子だったのに、マルコの返事で息を吹き返してしまったようだ。

キッカに聞けってことなんだろうけど、聞きたくないなー。キッカは女の子だけど、お兄ちゃんが大好きな女の子だから、マルコがやるのなら一緒にやるって言ってしまいそうで怖い。でも、聞かないと納得してくれないだろうな。

「……キッカはダークムーンさんの訓練を受けたい?」

若干、あきらめながらキッカに話を聞く。

「キッカは……ちょっといや」

「ヨシッ! キッカ。自分の意見をちゃんと言えて偉いね」

予想外にキッカがハッキリと自分の意見を言ったことに驚き、思わずガッツポーズしてしまった。さっきのダークムーンさんにやり返せたようで、ちょっと気分がいい。思いっきりキッカを褒めまくろう。

しかし、あれだな。リーさんの苦しい訓練もマルコと一緒に頑張るキッカが、嫌って言うってことは本気で嫌なんだろうな。

でも、嫌なことを嫌と言えない気弱なキッカが、しっかりと自分の意見を言えたことは、キッカのたしかな成長を感じる出来事だ。師匠としても保護者としても、こんなに嬉しいことはない。

キッカを褒めまくった後にダークムーンさんを見ると、キッカみたいな幼い少女にハッキリ言われたことが堪えたのか、生まれたての小鹿のように膝が震えている。ショックで心臓が止まらないかが心配だ。

「そういう訳ですので、多数決で今回の話はなかったことになりました」

弱った老人に鞭を打つようで申し訳ないが、ここはチャンスと考えて押し切ってしまおう。水に落ちた犬を打てってやつだけど……これって相当酷い言葉だよね。

「ま、待ちたまえ。その少年は違う意見だったはず。なあ、少年。私と共に伝説を追い求めようではないか!」

ジーナ、サラ、キッカの拒絶にもあきらめず、マルコに狙いを絞って説得するダークムーンさん。不屈の精神をもつ人だな。いや、早々にマルコ以外をあきらめたってことは、最後の望みにすがっているだけなのか?

「えーっと、よくわからないけど、おれはきょうみがある。師匠、だめか?」

クリンと俺の方を向いて聞いてくるマルコ。んー、どうしたものか。

「……マルコ。正直に言うけど、ダークムーンさんに影響されると、将来、周囲の人から避けられるか、胸をかきむしりたくなるような後悔を抱える可能性が高いよ。それでもやりたいの?」

本来ならタキシードな仮面の紳士はとてもカッコイイキャラクターなんだけど、現実になると厳しい面がある。しかもお爺さんが大真面目にやっているからなおさらだ。

まあ、マルコくらいの子供なら微笑ましいで終わるんだけど、大人になるまで引っ張っちゃうとキツイ。しかも、子供の頃の失敗って、大人になったら色々と言われるんだよね。特に冒険者ギルドの訓練場なんて大勢にみられる場所でやっちゃったら、洒落にならない。

「君、それは失礼ではないのかね?」

「申し訳ないですが、大切なことですから黙っていてください。マルコ、よく考えてごらん」

よく考えて、あきらめるんだ。俺の言葉に眉間にシワを寄せて考え込むマルコ。

***

「結局許可を出しちゃったのね。そんなに暗い顔をするなら、全力で断ればどうにでもなったんじゃないの?」

すべての話し合いと訓練の見学もおわり、迷宮のコアに会いに行く途中でシルフィが話しかけてきた。

(シルフィ。俺は結構全力で断ったつもりだったんだけど、押し切られちゃったんだよ)

ダークムーンさんのあまりにも憐れな状態に、マルコが同情してしまったのが敗因だ。少し追い詰め過ぎたのかもしれない。

「そう? 最後は裕太の方が弱気になっていたように見えたわよ。マルコだって裕太が駄目ならあきらめるって言っていたじゃない」

(まあ、そうなんだけどね。ダークムーンさんのあの醜態って、俺の同郷が関わっている可能性が高くて、最後にはなんだか申し訳なくなっちゃったんだ)

俺には関係ないことなはずなんだけど、ちょっとした罪悪感の影響で押し切られた。ベリル王国でスーツなんかも売っていたし、地球の文化の影響が微妙にこの世界にある。

ベリル王国の歓楽街やスーツなんかは構わないんだけど、人の人生を狂わせるような内容で地球を感じたくはなかったな。自分には責任がないって分かっているのに、自分にも責任があるような気になってしまうのが不思議だ。

まあ、有名なアニメだし、日本だけじゃなくて世界にも発信されていただろうから、日本人のせいだと確定していないのが救いと言えば救いだ。他国のアニメファンのせいってことにしておこう。

「あら、裕太の世界の関係者? どういうことなの?」

シルフィの瞳が好奇心で輝いた。

(いや、俺は読んだことがないけど、この世界で物語になっている怪盗が、俺の世界で有名な物語のキャラクターの可能性が高いんだよ。勘違いの可能性もあるけど、俺と同じ世界の人がこっちでやらかした結果がダークムーンさんなら、無下にするのも気まずいんだよね)

怪盗+黒いタキシード+仮面+マント+シルクハット+赤いバラ=タ〇シード仮面様

異論は認めるが、この公式に間違いはないだろう。

「へー。物語を真似した裕太の世界の異世界人がこの世界で物語になって、その結果、マルコが弟子になるのね。ちょっと面白いわ」

面白いかな? 俺的には文化の汚染が気になって、とても申し訳なく思うんだけどね。いや、俺も結構自分の趣味を広めているし、お互いさまってことになるのかな? ……まあ、精霊が問題無いと判断しているのなら、別に俺が気にしなくてもいいか。

(そういえば、シルフィはその怪盗に会ったことがないの? 200年くらい前に、物語になるくらいに世間を騒がせていたんだよね?)

物語になるほど派手に動いていたのなら、好奇心が強いシルフィなら見に行ってもおかしくないと思う。

「んー。色々と世界を回っていたけど、私は見たことが無いわね。200年くらい前は……あんまり覚えてないけど、たぶんのんびり風に吹かれていて、世間を見ていなかったんじゃないかしら?」

(そうなんだ)

シルフィが知っていてくれたら真相がハッキリしたんだけど、そう都合よくはいかないか。元の世界に戻ったとか、そこらへんが知れたら今後の指針にもなるんだけどな。

ん? 今からでも物語の元になった国に行けば何か分かるのか? 200年前だと望み薄な気もするけど、この世界にはシルフィみたいに長い時間を生きる精霊が居る。何か情報が得られるかもしれない。

シルフィにその国にいた精霊を連れてきてもらうか? いや、どうせならその国がどうなっているかを見てみたい。楽園に戻って少しゆっくりしたらシルフィに連れて行ってもらうか?

そう考えると、今回のダークムーンさんとの出会いは悪くない結果だな。ダークムーンさんのコスプレにはドン引きしたけど、同郷の人の情報を得られそうなのは嬉しい。派手にやっていたみたいだから、結構情報が残っていそうなところが期待大だ。

まあ、黒歴史を生み出してしまいそうなマルコには申し訳ないけど、訓練の内容はかなりの部分を制限したし、リーさんも監視してくれると約束してくれたから、大丈夫だよね。

できれば、訓練中のダークムーンさんの衣装を普通の物にするって意見を飲ませたかったんだけど、老人の泣き落としに屈してしまったのが心残りだ。

おっ、迷宮についたな。気持ちを切り替えてコアに会いに行こう。

んー。こうも簡単に迷宮の最深部に到着すると、ありがたみが無いな。いや、転移陣のおかげで楽ができているんだから贅沢な話ではあるんだけど、近所の友達の家に遊びに来た的な気軽さはどうなんだろう?

「こあー。あそびにきたー」「キュキュー」「げんきだった?」「クーー」「さんじょうだぜ!」「……」

コアに突撃していくちびっこ達の言葉がすべてだな。もはや迷宮は迷宮ではなく、遊びに行く友達の家ってことなんだろう。ベル達の言葉はコアには聞こえないはずなんだけど、なんであんなに懐いているのかが不思議だ。

それにしても、今も迷宮で富と名誉を手に入れるために命を賭けているであろう、冒険者達とのギャップが凄まじいよね。

「ゆーた。こあにごはんあげるー」

ひとしきりコアと戯れたベルが楽しそうに飛んできた。とってもご機嫌だね。

「まだお昼には早いけど、ご飯を食べるの?」

「ちがうー。こあのごはんー」

「ああ、マリーさんからもらってきた素材をあげたいんだね」

「そー」

満面の笑みでコクコクと頷くベル。ベル達はコアがドンドン廃棄素材を吸い込んでいく光景がお気に入りだもんね。

「コア。久しぶり。ベル達が持ってきた素材をコアにあげたいって言っているんだけど、大丈夫?」

一度チカッとYESの点滅をした後、間をおいてチカチカと激しく点滅するコア。これは喜んでいるんだろうな。問題が無いようなので、廃棄予定素材をコアの目の前に山盛りにする。

「みんな。コアに食べさせてあげて」

俺の言葉にベル達が廃棄予定素材に群がり、次々とコアの元に運んでいく。廃棄予定素材がコアに吸い込まれるたびに、キャッキャと笑うベル達が可愛らしい。

しばらくはコアのお食事が続くだろうし、俺はシルフィと話しながら休憩するか。そのあとに昼食にして、若返り草の収穫だな。物語の場所に行くのなら、次に迷宮都市に来るまでに時間が掛かりそうだからコアに多めに生やしてもらおう。

それと、あと何回くらい廃棄予定素材を運んでくれば新しい階層が作れるのかも聞いておきたいな。これが終わったら大工さんに差し入れに行って少しのんびりしよう。