軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百十七話 もう改築?

酒島で開店したお店の視察をした。バーをキャバクラ風にしようとして少し怒られたり、ちょっとだけブラックさんに拘りを捨ててもらうのに苦労したりしたが、おおむね問題はなかったと思う。あとは足りない人員を追加しながら、無理なくお店を回せるようにすれば、勝手に酒島も発展していくだろう。

「やっ!」「クー」

……困った。サクラがタマモにしがみついて離れない。モフモフのタマモのお腹に顔をうずめてイヤイヤしている。

「えーっと、ドリー……サクラは離れたくないみたいだけど、サクラも迷宮都市に連れて行っても大丈夫なのかな?」

「サクラは精霊樹の意識体ですから、本体の精霊樹からあまり離れることはできません。連れていくのは難しいですね」

そうなのか。サクラとベル達はとても仲が良くて微笑ましかったんだけど、こういった弊害が出てくるとは予想していなかった。うーん、どうしよう?

「ん? 難しいってことは、連れていく方法があるの?」

方法があるのなら頑張ることもやぶさかではない。

「ごめんなさい。今は無理なんです。もっと成長して、自分の精霊樹から依り代を作り出せるようになれば移動も可能なのですが、力が足りません」

申し訳なさそうにドリーが言う。まあ、ドリーは優しいから、サクラの様子を見たら申し訳なく思うよね。子供の行かないで攻撃は、攻撃力が高すぎるよ。

「んー、それってドリーが精霊樹を成長させても駄目なの?」

それだけで万事解決な気がする。

「精霊樹を成長させることは可能ですが、精霊樹は意識を持つ木です。ある程度意識がハッキリしたあとの急激な成長は、可哀そうに感じてしまって……」

「子供の段階を飛ばして成長させるってことになるの?」

「その通りです」

それは駄目だな。精霊樹も同じとは限らないが、大人になってしまった身としては、子供の頃の時間がどれだけ大切かは理解できる。連れていくのは駄目だな。

「サクラ、10日くらいでまた戻ってくるから、お留守番していてくれないかな?」

……ウルウルした瞳で見つめられると心が折れそうになる。もう迷宮都市に行くのを止めたくなるが、向こうは向こうでやることがあるんだよな。ベル達がサクラを撫でくり回してなぐさめてくれているけど、どうしたものか……。

「サクラちゃん。裕太ちゃんを困らせたら駄目よー。裕太ちゃんがいない間はお姉ちゃんが一緒だから寂しくないわー」

ひょいっとサクラを抱きかかえたディーネが、サクラをギュムっと抱きしめながら説得してくれている。

「う?」

「そう、寂しくないわー」

「あそぶ?」

「ええ。たくさん遊びましょうねー。私だけじゃなくて、ノモスちゃん、ドリーちゃん、イフちゃん、ヴィータちゃんも遊んでくれるわよー」

ディーネって時々すごい。単語と単語にもなっていないサクラの言葉に対して、正解と思しき返事を返している。まあ、巻き込まれたノモスがビックリしているけど、隠れ子供好きだから大丈夫だろう。おっ、サクラがこっちに飛んできた。

「いってらっしゃい」

ディーネの説得のおかげで、ちゃんと納得してくれたようだ。……ありがたいことなんだけど、こうアッサリと送り出されると、それはそれで寂しい。こういう心境を二律背反って言うんだろうか?

「う、うん。ありがとう。お土産買ってくるね」

「あい!」

うん、これでお土産を買い忘れたりしたら洒落にならないな。絶対に忘れずにサクラが喜ぶものを買ってこよう。最後にもう一度サクラを撫でくり回して出発だな。

***

……豪腕トルクの宿屋に到着したら、なんかもう隣で解体工事が始まっているんだけど……改築じゃなくて建て直すの? あと、しっかり計画を練るって言ってなかった?

「いらっしゃい。あっ、裕太かい。よく来たね!」

「マーサさん、こんにちは。えーっと、隣の工事って、宿を拡張するための工事なんですか? なんだか壊しているみたいですけど……」

「ああ、そうなんだよ。大工に相談したら、こっちの営業を続けながらでもある程度の工事は可能だってことだったから、工事を始めたのさ」

「まだ相談を受けてから10日程度しか経っていませんよね。急ぎ過ぎているように感じるんですが、大丈夫ですか?」

普通、自分の家を建てるだけでももっと時間が掛かるよね?

「うん? 別に急いでないよ? 隣は前から買う相談をしていたし、大工とはトルクとあたしとでしっかり話し合ったさ」

問題ないらしい。ちょっと不安だけど、俺も家を頼んだ時は速攻で作ってもらうことになったし、この世界だとそんな感じなのかもしれない。

「問題ないなら良かったです。個室を作るとは言いましたが、どんな感じの宿になるんですか?」

「あはは。それは完成してからのお楽しみさ! でも、あんたのアイデアはしっかり反映しているから、楽しみにしてな!」

自信があるみたいだな。俺としてもこの宿が栄えると嬉しいし、楽しみにしているか。あぁ、それとジーナ達のことをお願いしておきたいけど、忙しいのはどうなっているんだろう? いや、そもそも泊まる部屋は空いているのか?

「マーサさん。部屋は空いていますか? あと、お願いがあるんですけど、忙しさは緩和しましたか?」

「ん? あぁ、部屋は空いているけど、昼間は隣で工事をしているから少しうるさいね。大丈夫かい?」

工事の音か……ジーナ達も俺も昼間は外に出ているし、工事の音くらいなら問題ないよね。

「昼間うるさいのは問題ありません。部屋をお願いします」

「あいよ。あと、店を大きくするのに合わせて、ベティが人を探し出してくれてね、忙しさはだいぶマシになったよ。それで、頼みってなんだい?」

おっ、ついに人が入ったのか。時間の余裕があるなら頼みやすいな。

「あっ、その前にちょっといいかい?」

急にマーサさんが何かを思い出したように話しかけてきた。ちょっと焦ってる?

「ええ、構いませんよ。何かありましたか?」

「裕太にお客が来ていたんだよ。前に裕太が帰った日にスレ違いで訪ねてきて、そのままこっちに滞在しているのさ」

俺にお客? 宿に滞在してまで俺を訪ねてくる知り合いなんていないぞ?

「えーっと、誰ですか?」

「バロッタって名乗っていたよ。なんだか王様の勅命とか内密とか言ってたけど、のんびりしているからちょっとおかしいんだよね。あんた、また何かに巻き込まれたりしてないかい?」

バロッタって、精霊術師のバロッタさんだよな。 バロッタさんが王様の勅命? 内密? なんだ?

「裕太、たぶん文句を言いにきたんじゃない? ほら、前回、王都でガッリ親子の屋敷を消滅させたじゃない」

あー……そうだった。そんなに時間が経った訳じゃないのに、昨日が激動の1日だったからか、完璧に忘れていた。シルフィの言う通り、王都での出来事に関係している可能性が高いな。

バロッタさんが俺に会いにきたってことは、俺の仕業だってほぼ確信されているよな。んー、捕まるのか? まあ、捕まえにきたのなら逃げるけど、王様の勅命で内密らしいし、のんびりしているみたいだから危ない用事でもなさそうだな。とりあえず、会ってみるか。

「バロッタさんは国に仕えている精霊術師ですね。怪しい人ではないので大丈夫です。そうですね、迷宮都市に到着したばかりですので、できれば1時間後にお会いしたいと伝えてもらえますか?」

「なんだか胡散臭かったけど、同じ精霊術師だってんなら大丈夫なんだろうね。ああ、それと頼みだったね。あたしも言っておきたいことがあるから丁度いいよ。時間があったら夜にでも話をするかい? まあ、王様の勅命で、あんたの時間が取れるかは疑問だけどね」

マーサさんの言う通り、何か面倒ごとの可能性もあるんだよな。まあ、それでもジーナ達の教育は重要だから、お願いしておきたい。

「今日の予定がどうなるか分かりませんが、時間を空けておいてもらえますか?」

「夕食の時間が終わればいつでもいいよ。時間ができたら声を掛けておくれ」

「分かりました。では、お願いします」

「ふー、聞いていた通り、俺はバロッタさんとお話があるから、みんなは好きにしていていいよ。でも、念のためにヴィータとイフに護衛をしてもらうから、ジーナ達は必ずどちらかと一緒に行動してほしい」

本当はバロッタさんの精霊と仲良く話していたディーネも召喚しておきたいところだけど、サクラと遊んでいるだろうから、止めておいた方がいいよな。

「ゆーた。べるたちおさんぽー」

おおう、もの凄くベル達がソワソワしている。結構な時間、迷宮都市に滞在しているんだけど、まだ迷宮都市を見てまわるのが楽しいのかな?

「ベル達はお散歩か。夕食までには帰っておいでね」

「わかったー」「キュー」「じかんげんしゅ」「ククー」「らくしょうだぜ!」「……」

許可を出すと、楽しそうに窓から飛び出していくベル達。出がけに屋台ってはしゃいでいたから、新しい屋台の出現を期待しているようだ。迷宮都市の散歩と言うよりも、屋台の探索が趣味みたいになっているようだ。

「えーっと、ジーナ達はどうする?」

「師匠。リー先生にあいにいってもいいか?」

迷宮都市に到着早々、スパルタ教師と会いたがるマルコの気持ちが分からない。

「んー、バロッタさんとの話とか、今晩のマーサさんとの話で訓練がどうなるか分からないし、リーさんに会いに行くのは明日にしようか。ジーナとサラも紹介したいしね」

想像でしかないけど、マルコ達だけを行かせたら訓練の予定をビッチリ入れて戻ってきそうな気がする。

「わかった。じゃあ、メル姉ちゃんにあいにいくのは?」

「うん。キッカもメルちゃんにあいたい!」

キッカがとても嬉しそうに賛同した。俺もメルとメラルに会いたいけど、まあ、時間ができたら会いに行けばいいか。

「マルコとキッカはメルの工房に行くとして、ジーナとサラはどうする?」

「私もメルお姉さんの工房に行きます」

「あたしは……うーん、実家に顔を出そうかとも思ったけど、なんだか嫌な予感がするから、サラ達に付き合うよ」

ジーナの嫌な予感ってなんだろう? いや、ジーナが実家に嫌な予感を感じるのなら、十中八九、過保護な男性陣が暴走しているんだろう。俺もジーナの実家方面に近づくのは止めておこう。

「分かった。じゃあジーナ達も夕食までには戻るようにね」

まとまって行動するなら、護衛役の大精霊は1人でいいな。とりあえず……ヴィータにお願いするか。ふぅ。バロッタさんとの話し合い、穏便に終わってほしいなー。