軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百十二話 メイド

契約した訳ではないけど、楽園に新たな仲間が増えた。ちょっと独特な感性をもった闇の大精霊のブラックさん。氷の上級精霊のグレイシャーさん。火の上級精霊のヒートさん。森の上級精霊のブランチさんだ。

仲良くなるためにも少し話をしてみようかと思ったが、挨拶が終わると速攻でバーと飲み屋の開店に向かって動き出してしまった。精霊達の気合の入り具合がハンパない。

でもまあ、みんなやる気満々だし、夜にルビー達も呼んで相談すれば、酒島の大体の方針が決まりそうだな。

***

「では、裕太が迷宮都市に向かう前日に、酒島のバーと飲み屋を開店させる形で構わないんだな?」

「俺は構いませんけど、7日程度しか時間はありませんよ? 大丈夫ですか?」

夜になって手が空いたルビー達を呼んでの会議。トントン拍子に話は進んだんだけど、開店が7日後は早すぎるんじゃなかろうか?

「なに、こちらはなんとでもなる。私は引率を他の者に引き継がせて精霊宮に戻るので、後はよろしく頼む」

「えっ、もう夜ですし、帰るのは明日の朝にしたらどうですか?」

「いや、まだ精霊宮の方でも詰めておきたい事がある。では、失礼する」

言うだけ言って、素早く飛び去って行くアルバードさん。今回はちびっ子達の引率が目的じゃなくて、飲み屋の打ち合わせが目的だったんだな。

「シルフィ。アルバードさんはなんとでもなるって言っていたけど、本当に大丈夫なの?」

お店がある程度完成しているとしても、商品やらなんやらの設置も終わってない状況なんだけど?

「裕太。精霊は寝なくても大丈夫なのよ」

なんでシルフィはそこはかとなくドヤ顔をしているのかが分からないが、まあ、寝ないで済むのは便利だし、人よりも時間を余分に使えるから大丈夫ってことなんだろうな。

「なあなあ、裕太の兄貴。飲み屋やバーで出すのは本当にツマミだけでいいんだぞ? 料理は沢山作れるんだぞ?」

ルビーは飲み屋やバーで、最初はツマミしか出さないことに納得がいかないようだ。長年、理解されずに仲間内でしか料理を楽しめていなかったから、他の精霊にもっと料理を食べさせたいんだろうな。気持ちは分かる。

「最初だけだよ。お店ごとにコンセプトも違うし、どれくらい忙しくなるのか分からないんだ。ちゃんと計画を立てたら品数を増やすことに反対はしないから、ブラックさん達やエメ達ともしっかり話し合って決めてね」

アルバードさんの話によると、ブラックさん達も漫然と飲み屋をやる訳ではなく、自分がやりたい雰囲気の飲み屋があるらしい。なら、その雰囲気に合った料理が必要なはずだ。

「うーん、分かったんだぞ。ちょっと話をしてくるんだぞ!」

「ちょっと待って。今は飲み屋の準備が大変なんだから、お店が落ち着いてからね」

さっそく話に行こうとするルビーを引き留める。そんなに不満そうな顔をしないでほしい。今後も酒島に飲み屋は増えるだろうし、料理を作る機会は山ほどあるよ。

あれ? これからも飲み屋が増え続けるとして、ルビーだけでは間に合わないよね? 料理ができる精霊を増やさないと大変なことになりそうだ。

あれ? 野菜や穀物は精霊が育てられるけど、肉類はどうするんだ? 迷宮で確保したお肉が腐るほどあるけど、酒島が発展してもなんとかなるのか? なんだか色々と大変なことになったな。

***

「シルフィ。お昼に精霊王様達が到着するんだよね?」

「ええ。精霊王様達も楽しみにしているから、時間に遅れず到着すると思うわ」

「そっか」

うん、そうだよね。聞いた話では、精霊初の飲み屋ってことで盛り上がっているらしいし、店開きに遅れることなんてないよね。しかし、あっという間に7日が経ったな。

この7日。ちょっとだけギクシャクしていたジーナの態度も落ち着いたし、ベル達もフクちゃん達やサクラと一緒に元気に楽園を飛び回り、ジーナ達も精霊術の練習と体力作りを頑張っていた。

俺は楽園に戻ってきて早々の忙しさがウソのようで、のんびりと楽園を見回ったり、偶にバーや飲み屋に簡単なアドバイスをしたりお酒を納品したりするだけの平穏な毎日。

でも、俺達がのんびりしている反面、毎日楽園に顔を出すアルバードさんと、アルバードさんに巻き込まれたシルフィ達とルビー達は、とても忙しそうにしていた。アルバードさんはともかく、シルフィ達が忙しそうにしているのは、とても新鮮だったな。

「ふぅ、しかしようやく開店ね。もう絶対に手伝わないわ。裕太、今度からアルバードに頼みごとをされても断るのよ。いいわね」

精霊は寝なくてもなんちゃらとか、そこはかとなくドヤ顔をかましていたシルフィが、真面目な顔をして注意してきた。

俺がアルバードさんにシルフィ達の協力を頼まれた時は、別に構わないわよって感じだったけど、自由を愛する風の精霊にとって予想以上に忙しくて辛かったようだ。

「うーん、協力を全部断るのはアルバードさんに申し訳ないし、1日単位で交渉する感じじゃダメかな?」

あれだけ苦労しているアルバードさんを見ると、まったく協力しないのも気まずい。

「……そうね。1日単位なら構わないわ」

「ありがとう」

かなり真剣に考え込んだあと、なんとか納得してくれたようだ。俺と契約しているから仕事はしていると考えていいんだろうけど、シルフィがニート1歩手前状態に見えたから、ちょっとホッとした。

「裕太ちゃん。どう? お姉ちゃん似合ってる?」

シルフィとの会話が終わったのを見計らったのか、上機嫌なディーネがクルクルと回りながら話しかけてきた。

「……なんでメイド服なの?」

「んふー。ブラックちゃんがお手伝いするならメイド服って言ったの! お姉ちゃん、頑張ってお城でメイドさんを観察したわー」

……よく分からないが、ディーネがメイド服なのはブラックさんの仕業らしい。ブラックさんって、確実に色々と勘違いしているな。バーも飲み屋も、執事とメイドは関係ない。

でも……ディーネのメイド服は素晴らしい。お城で観察しただけあって、地球で言うクラシックスタイルのメイド服。それが隠しきれない豊満な母性の象徴とあいまって、仕える者の貞淑さと色気を醸し出している。深いな。

「裕太……なんでジックリ観察しているの? それにディーネ……忙しいのにディーネの姿が見えないと思っていたら、城までメイド服の観察をしに行っていたの?」

おおう、シルフィの背後に修羅が見える。あれ? なんだか風が強くなってない?

「そうよー。お姉ちゃん、頑張ったわー」

違う。ディーネ、その自信満々な返事は間違ってるよ。シルフィの怒りが見えてないの?

「あれ? シルフィ、まだ着替えてないのか? もうすぐ時間だぞ。急げよ」

シルフィの迫力にビビっていると、背後からイフの声が聞こえた。イフ! ナイスタイミング。助けを求めて振り向く……ここはパラダイスか?

あっ、ここは楽園だった。うん、楽園なら褐色で母性の象徴が豊かなメイドさんが居てもおかしくない。普段よりも露出は減っているけど、活発なイフの清楚なメイドさん姿は激レアだよね。その後ろには、更に清楚さが増したメイド服姿のドリーが……異世界って素晴らしいかも。

「えっ? なんであなた達までメイド服なの?」

おお、怒っていたシルフィが、メイド服の集団に沈静化した。メイド服の効果って凄いな。

「あっ? ブラックの奴が、精霊王が来るんだからメイド服に着替えろって言ったんだよ。王様にはメイド、それが基本だってな」

王様にはメイドが基本とか聞いたことがないけど、俺的にはブラックさんの言っていることは間違ってないと思う。

「そうなの……」

あっ、シルフィの表情から感情が消えた。普段から表情の変化が少ないんだけど、完全に無になるのは初めて見たな。

「まあいいや。シルフィも早く着替えろよ」

「えっ? 嫌よ」

「えー、シルフィちゃんも着替えましょうよー」

「だから嫌よ」

イフとディーネの言葉をノータイムで否定するシルフィ。本気で嫌なようだ。でも、どうせなら女性陣全員がメイド姿で並んでいる光景を見たい。俺も説得に参加しよう。

まずは基本の酒樽……あれ? 今までは酒樽を提供することでなんとかなっていたんだけど、飲み屋が開店したらシルフィ達も飲みに行くよね。

うわー、酒樽の価値が……自分で自分の首を絞めた気がする。お酒以外でどうやってシルフィ達の機嫌を取ればいいんだ?

いや、焦るな。この前の話し合いで、酒島にお店が増えるまではシルフィ達が酒島に行くのを遠慮するって決めたはずだ。

自由に飲める体制が確立するまでは酒樽の価値は下がらない。酒樽の価値が下がるまでに、シルフィ達に対する切り札を見つける事にして、今は目の前のメイド服だな。

「シルフィ。衣装を揃えた方が見栄えがするし、手伝いだって分かりやすいと思うよ?」

「でも、飲み屋にメイド服って意味が分からないわ」

そんなにドストレートに正論を言われても困る。

「うん、まあシルフィの言う通りなんだけど、意味が分からなくても面白ければいいんじゃない?」

ピクッとシルフィが反応した。そうだよね。シルフィは面白いって言葉に弱いもんね。今回は不機嫌な時にメイド服って言われたから否定的だったけど、普段のシルフィならそこまで嫌がったりはしないはずだ。

「…………」

シルフィが考え込んだ。もう一押しすればメイド服を着てくれそうな気がする。

「精霊にとっての初めての飲み屋なんだから、お祭り気分で楽しもうよ。俺の居たところでも、仮装するお祭りとか沢山あったよ」

メイド服はお祭りというよりもコスプレイベントだけどね。

「……それもそうね。めでたい日なんだし、みんなでバカなことをやるのも楽しいかもしれないわね。じゃあ、裕太も変わった格好をするなら、私もメイド服に衣装を変えるわ」

「……へ?」

何を言っているのか理解ができないです。

「だから、裕太もいつもと違う格好をするの。裕太の世界でも仮装するお祭りがあったんでしょ。一緒に楽しみましょう」

たしかに仮装するお祭りはあったけど、俺はほとんど参加した事が無いって言ったら怒られるんだろうか? それ以前に鎧とかを装備している時点で、俺にとってはコスプレみたいなものなんだけど……。

「それ、面白そうねー。お姉ちゃんも裕太ちゃんの仮装、見てみたいわー」

「楽しそうですね。裕太さんがどんな仮装をするか、楽しみです」

「あはは。祭りか。楽しくなってきたな。裕太、あんまり時間が無いんだから急げよ。人間は精霊と違って服を自在に変えられないだろ」

話を聞いていたディーネ、ドリー、イフまでシルフィの話に乗ってきてしまった。俺はただ、みんなのメイド服が見たかっただけなのに、なんでこうなるんだよ。俺の仮装とか誰得なの?