軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三百九十話 その頃、王城では

「ラザル騎士団長、状況は?」

「遠目での確認ですが、ガッリ侯爵家の屋敷は消滅。現在敷地内に突入を試みておりますが、風の結界らしきものに阻まれ、入ることはできません。現在は王城、王都全体に兵達を緊急配備し厳戒態勢を取っております」

なにも分かっておらぬと言うことか。緊急で集まった者達も慌てておる。まずは……落ち着いておる爺に話を聞くか。

「ふむ……爺よ。宮廷魔術師の長としての見解は?」

「部下を派遣しましたが、魔術による結界とは考え辛いとの報告ですな」

「魔術を利用せずに結界が張れるのか?」

「教会が利用する聖域結界は魔術とは違うと言われておりますが、それでも魔術の臭いがします。部下の話ではそういった痕跡もなく、強いて言えば精霊術に似ているとのことです。それを踏まえれば精霊術師になら可能なのかもしれません。ただし、侯爵家の屋敷を包み込むような、大規模な精霊術の結界は聞いたことがございませんな」

爺の部下であれば有能な宮廷魔術師。であれば情報に間違いがある可能性は低いな。精霊術のような大規模な結界か。

ガッリ子爵と争ったことがある、強力な精霊術師に心当たりがあるのだが、余は手を出すなと厳命しておる。もしや争いが再燃したか? いや、いくらガッリ家の者でも、さすがに余の厳命を無視することはあるまい。

「内部への侵入は可能か?」

「無理に突入するなら、強力な風の結界を突破するためにこちらも大規模な術式を展開する必要がありそうですな」

「貴族街でそのようなことは可能なのか?」

「陛下の決断次第ですな。ただ、風の結界の強度しだいでは周囲に被害を与える可能性があります。それと結界を破られた時の相手の反応も想像できません」

余の判断次第と言うことか。そうなると貴族街であることが好都合ではあるな。民に被害が出るよりも、豊かな貴族に被害が及ぶ方が、よっぽどマシであろう。あとは、突入させるか様子を見るか……難しい判断になる。

「バロッタよ、精霊術師を率いて原因を調べよ。ただし、いまだガッリ侯爵家以外に被害を出してはおらぬ。迂闊に刺激するようなことは避けよ」

精霊術師の仕業であれば、精霊術師で調べられるであろう。まあ、王宮に仕える精霊術師よりも腕は上なのだろうが……。

「……分かった。私はダブリン。現ガッリ子爵で次期ガッリ侯爵家の後継者だ。……私は迷宮で活躍している冒険者を利用するために……メッソン男爵に命じて弟子を誘拐させようとした。これでいいのか?」

「爺、この声は?」

今の声が余の空耳でなければ、王都を騒がせておる原因も、その犯行を行った者にも心当たりがある。

「恐らく魔術で声を拡散させておるのでしょう。これは魔術でも可能ですな」

「ふぅ。要するに、ガッリ家の者が余の命を無視し、あの精霊術師に手を出したと言うことか? そして、その反撃でこのような事態に陥っておると」

「正確には精霊術師の弟子に手を出そうとして、撃退されて捕まっておるのでしょうな」

なんともバカらしいが、あの精霊術師がここまで思い切った行動をするとはな。争いは嫌がるタイプに見えたのだが……。

***

「……ようやく終わったようだな」

魔術で拡散された声は王都中に広がり、ガッリ侯爵家の者共の情けない声と、下種な犯罪を長時間まき散らした。

声を止めようにも術者の場所が特定できず、ただ、たまにガッリ侯爵家の者共が空から落ちてくるだけ……。いや、空に居るのだろうが、これではどうしようもない。

空飛ぶ魔道具を使って偵察にでることも検討したが、数人しか乗れぬ魔道具で、実力の上限が読めぬ相手に近づけさせる訳にはいかぬ。

「はい、終わったようです。陛下、やはりここを離れて避難された方がよいのではありませんか? ガッリ侯爵家の屋敷を消滅させた攻撃が王城を狙うことも考えられます」

「無用だ。攻撃するのであれば、ガッリ侯爵家の者共の声を王都中に流すようなことはするまい」

「しかし」

「ラザル、何度も言わせるな」

「はっ、申し訳ありません」

騎士団長として間違った判断ではないが、そのような短気な者であれば、迷宮都市の冒険者ギルドはなくなっておるであろう。

情報によれば、ずいぶんお人好しな男であるようだし、弟子に危害を加えられておれば話は別であったかもしれぬが、未遂なのだ。これ以上の攻撃はないであろう。もっとも、ガッリ侯爵家の屋敷を消滅させただけでも十分な大事なのだがな。

それに……あれほど悪辣な犯罪行為を王都中に暴露すれば、こちらの手がふさがるのも計算しているのであろう。

「うむ、しかし……なんとも頭の痛いことだ。話に出た者達は捕らえておるのか?」

「証拠はこの怪しげな声だけですので、拘束まではしておりませぬが、陛下の命ということで、王宮に居たものに関しては監視付きで軟禁しております」

「では、その者達の屋敷の捜索をいたせ。名前が出て居場所が把握できておらぬ者達の屋敷も強制捜査を許す」

「しかし陛下、このような非常事態に兵を分散させてしまえば、陛下をお守りできませぬ」

「余に害を加えることなどない。それよりも、あの者共の声は王都中に響き渡っておるのだ。素早く対応し、真実を明らかにしなければ民の信頼を失う。よいな」

「はっ」

ふう、どこぞのバカが民の信頼など無意味と呟いておったが、そのような傲慢な心が腐敗を生むとは分からぬのか? 嘆かわしいことに貴族の特権を履き違えておる者達が増えた。

その代表格がガッリ侯爵家の者達なのだが……先代のガッリ侯爵は王たる余から見ても尊敬に値する立派な人物であったのに、なぜ後継がああなってしまったのであろう?

……余が先代侯爵に配慮したのが、ガッリ侯爵家の増長を招いたのであろうな。増長を招いた余も責任を取らねばならぬが、その前に無能者達を排除せねばならぬ。あの精霊術師にたいしてはどうするべきか……。

「陛下!」

むっ、爺が焦っておる。なにがあった? 爺の声に反応したラザルと騎士達が余の前に庇うように立つ。

スパン ペイ ゴロゴロ ヒューン パサ

「陛下、お下がりください!」

なるほど、爺が焦ったのはこれであったか。

スパンとした音のあとに窓ガラスが外れ、そこからなにかが放り込まれた。ふむ、あれはガッリ侯爵とその一族だな。気絶しているようだが、その表情は引きつりうなされておる。かなり怖い目に遭ったようだな。あの紙束は……後始末はこっちでやれと言うことか。

「あとは国に任せるということであろう。ラザル、まずそ奴らを捕らえよ。それと、そこに落ちた紙束を持ってまいれ。悪事の証拠であろう」

「しかし、このような状況で陛下のそばを離れる訳にはまいりません」

「襲い掛かってくるのであれば、こやつらを放り込む前に攻撃してくる。これは警告といったところか? まあ危険はあるまいよ。それよりもサッサと動け」

このようなことを平気で行なう時点で、国の権威などなんとも思っておらぬな。下手に敵対すれば、冒険者ギルドの二の舞になりかねぬか。

あの精霊術師の上限は分からぬが、最低でもファイアードラゴンを一撃で倒し、宮廷魔術師でも破れぬ結界を広範囲に張ることができる。

ああ、空も飛べるのであったな……敵対したら国が亡ぶのではないか? 少なくともガッリ一族を放り込む代わりに魔術を撃ち込まれておれば……。

「爺、たしかこの部屋には結界が張ってあったな? どうなったのだ?」

「ただ切り裂かれたとしか……申し訳ありませぬ」

宮廷魔術師の長である爺でもこのありさまか。正面から敵対するのは愚策。であれば裏で手を回すのが定石なのだが、あの精霊術師は国に莫大な富をもたらしておる。成功するか分からぬ暗殺よりも、敵対せぬのが肝心であろう。

だが、このままなにもせぬという訳にもいかぬ。表面上は犯人を捜す必要があるが、精霊術師にたどり着いてはならぬ。真面目なラザルには無理であろう。

……投げ入れられた紙束をざっと見ただけでも、罰するに値する罪が満載だ。ガッリ家の者が暴露した者達に加え、こちらもラザルに任せるか。あとは、軍部もそのままにはしておけぬな。

「ラザル騎士団長。この紙を精査し、罪を犯した者共を捕らえよ。それと同時に軍部にもメスを入れる。騎士の半数を動員し、すべての罪をあぶりだすのだ。残りは城に集め、警戒させよ」

「はっ。しかし、陛下の守りを減らすのは危険ではありませぬか?」

「近衛と宮廷魔術師で身を固めるゆえ心配するな。それよりも急げ。ガッリ侯爵家の無様は広がっておるのだ。関連する証拠が破棄される前に押さえるのだ」

……これからの混乱を考えると頭が痛い。とりあえず、ここでは話せぬことを決めねばならぬ。一度奥に引っ込むか。

***

「爺、暗部に今回のことを調べる手配をしてくれ。特にガッリ家の者達が襲われた原因を重点的にな。ただし、手を出す必要はない。確実に情報を集めさせよ」

十中八九、あの精霊術師の仕業であろうが、確定作業は必要だ。

「捕らえぬのですかな?」

「爺なら捕らえられるのか?」

捕らえられるのであれば手っ取り早いのだが。

「まあ、宮廷魔術師の長としては、捕らえられぬなどと口が裂けても言えませぬな」

「ここには信頼できる者しかおらぬ。建前などいらぬぞ」

「無理ですな。陛下をお守りするための結界を、なんの衝撃も与えずにあっさりと切り裂かれました。攻撃されれば防ぎきれません。しかも、どこから攻撃されたのかも不明ではどうしようもありませぬな」

王である余を守る結界は、生半可な物ではない。ダンジョンから発見された結界の魔道具に加え、宮廷魔術師達が全力で結界を重ねておる。それが破られたことすら気づけぬほどに、あっさりと破られたのだ。地力が違いすぎるのであろう。

「ふう、やはり下手に手を出せぬ。表面上は犯人を捜す必要があるが、犯人の特定ができなかったことにするしかあるまい。それと、暗部の情報であの精霊術師が犯人だと確定したら、バロッタを使者に立てよ。なんのために余の短剣を与えたのか、しっかり説明させるのだ」

あれがあれば、余に会いにくることもできるのだから、行動を起こす前に話にきてほしい。まあ、ガッリ侯爵が余の命令を無視したのだ。信用できぬと判断したのであろうな。……胃が痛い。

***

「ね、ねえシルフィ。ガッリ侯爵達がすごい勢いで飛んでいっちゃったんだけど……」

「あら? お城と冒険者ギルドに捨てるのよね。大丈夫。ちゃんと王とグランドマスターの目の前に転がしておいたわ」

……たしかに捨ててって頼んだけど、想像していたのと違うよ。直で偉い人の前に転がしたら駄目じゃん。あっ、なんか胃が痛い気がする。あっ、殴るの忘れてた……。